43話 テラグリジア・パニック 前編
この事件を語るには、まず一年前に遡らなくちゃな。言っておくが、この事件は俺一人だけで解決できたわけじゃない。クリスやジル、オブライエンたちの力もあったからこそだ。だから、俺の話だけじゃ事件の全貌も分かりにくいよ? 記事にするには、クリスたちの話も聴かないと意味はないとな。…………じゃあ、語ろうか……あれは一年前、今はなき海上都市テラグリジアで始まったんだ。
「クソ、敵が多すぎる!」
「どうした、カルロス。へこたれたのか?」
「バカ言え」
飛び掛かってきたハンターを黒瀬はカウンターで殴り飛ばし、頭を踏みつけた。
B.O.W.との戦闘訓練を受けていない兵士なら、今のハンターの攻撃をかわしきれずに首をポッカリ持っていかれてるが、黒瀬は違う。六年前のラクーン事件の頃からB.O.W.と戦い続けているのだ。ハンターはゾンビよりも知能や攻撃力があり厄介な敵だが、今の黒瀬には如何なる手も通用しない。しかし、油断も禁物だ。油断した人物から、ハンターに殺されていく。この現状がそうだ。
黒瀬はまた飛びかかってくるハンターを蹴り飛ばした。
NGO団体B.S.A.A.の仕事は、バイオテロ現場でのオブサーバーが多い。しかし、今日は違う。
地中海にある人口海上都市テラグリジアで大規模なバイオテロが起こった。テラグリジアはレギア・ソリスといった人工衛星で、太陽光エネルギーそ供給する環境にも配慮された島として、宣伝されていた。だが、それに異を唱えるものもいた。
ヴェルトロと呼ばれる活動団体は、テラグリジアの開発に反対し、デモを起こしていた。それだけならまだしも、デモは徐々に過激になり、テロ行為まで行うようになった。そして、今回の事件は新型のウィルスと大量のハンターがテラグリジア内に送り込まれるという大規模なバイオテロだった。
事態を重く見たB.S.A.A.代表クライヴ・R・オブライエンは、数名のB.S.A.A.のメンバーを連れ、テラグリジアへと向かった。しかし、予想以上にバイオテロが深刻な状況だったことにより、オブサーバーとして準備していたB.S.A.A.のメンバーも戦闘に参加させられることになった。
「それにしても、ここまでハンターが来るとは……。前線のFBCの連中は全滅か!?」
今の状況に狼狽えているのは、黒瀬と同じB.S.A.A.のメンバー、カルロス・オリヴェイラ。彼とは六年前のラクーン事件の際にラクーンシティを共に脱出した。
「そうかもな。FBCの連中でもこの数はキツいだろう」
FBCのメンバーが弱いとは言ってない。黒瀬たちも危うい状況なのだ。
黒瀬たちの後ろに控えるのは、何千人も避難している避難所だ。更にその後方には、市民を脱出させるための船が泊まっている。前線はFBCが食い止め、“もしも”ハンターに突破されれば、黒瀬たちの出番だったが、現状の通り大量のハンターに突破され、その相手を黒瀬たちが行っている。ここをハンターに通せば、避難している市民が犠牲になってしまう。
「ヴェルトロの奴ら、よくこんなにハンターを用意できたな」
「もしかしたら、バックにお金持ちがいるのかもな」
ハンターの数は予想以上。その数は優に百を超え、各地点でFBCとB.S.A.A.のメンバーが戦闘を行っている。しかし、それが持つのも時間の問題だろう。
十体以上が橋を渡って黒瀬たちのもとへ地向かってくるが、そのハンターたちは瞬く間に倒れていった。
「平野、無事に狙撃地点まで着けたようだな」
『毒島先輩とリカさんのおかげだよ』
黒瀬は直線上にあるビルの屋上を見ると、スコープの反射光が二つ見えた。一つは平野、もう一つは南リカのライフルだろう。
ハンターは次々と撃ち倒され、黒瀬たちの仕事は奪われてしまう。
「お前ら、俺たちの仕事を取りすぎ!」
『東の方で田島さんと小室が戦ってくるからそっちに行けば?』
「遠いわ! こっちは西だぞ!」
そんなこんな話していると、上空からFBCと書かれたヘリが現れ、九人が降下してきた。
「リョウか!?」
「レオン!?」
その九人の中に一人だけFBCじゃない人物が紛れ込んでいた。
レオン・S・ケネディ、アメリカ合衆国のエージェントで、ラクーンシティの生き残りの一人だ。
「何でテラグリジアに? 大統領の娘を護衛をするって話じゃなかったか?」
「それはあと数週間後の話さ。合衆国のお偉いさんがビルの中に閉じ込められて、俺がB.O.W.との戦闘に慣れているからわざわざヨーロッパまで来させられた」
「そりゃ不運だな」
それにしても、よく会うなぁと黒瀬は思う。
お互い別の組織に所属しているにも関わらず、バイオテロ現場で遭遇するのはこれで何回目だろうか。もしかしたらこれからも会うのかもしれない。
「B.S.A.A.の二人、ここを食い止めてくれてありがとう。後は我々に任せてくれたまえ」
数秒時間を置いて黒瀬は「ああ」と答えた。八人では心配だが、B.S.A.A.がFBCに口答えする事は出来ない。主導権は彼らにあるのだ。
「レオン、その役人さんはどこいるんだ? 俺とカルロスが援護するぜ」
「分かった。付いてきてくれ」
黒瀬たち三人はビル街を走っている途中、無線がかかる。
『こちら毒島だ。十四番区のビルで負傷者を発見した。誰か援護にきてくれないか』
毒島は平野と南と分かれ、一人行動のはずだ。
「カルロスだ。俺が向かう」
『すまない、では待機する』
カルロスはアサルトライフルのマガジンを入れ換えた。
「じゃあな、リョウ、レオン。無事で」
「そっちこそ」
「グッドラック」
カルロスは毒島の援護をしに別行動、レオンと黒瀬が二人で行動することになった。
「そう言えばテラセイブも来ているんだってな」
レオンが唐突に話す。
「それが何だよ?」
「クレアも来てるかもな」
「……かもな」
黒瀬は、最近バイオテロが多くなったことにより、クレアにあまり会っていない。クレアだけではない。クレアと同じテラセイブに所属している香月や鞠川、日本で暮らしているありすとも久しく会っていない。大人になり働くと自然に会わなくなるのだろうか。黒瀬は自分が大人ということをあまり実感していない。
(そういえば、成人式にも参加しなかったな……)
大学の友人たちは元気だろうか。黒瀬は友人に何も言わずに大学を辞めてB.S.A.A.に入ったが、連絡の一つくらい入れておけばよかったと後悔している。
「リョウ、来るぞ!」
ハンターが黒瀬たちの行く手を阻むように現れた。
「やりますか……」
木刀を抜く。ハンターを撲りすぎた所為で木刀は茶色から血の赤色へと染まっていた。そろそろ折れてしまうかもしれないが、五千円の安物だから別にいいだろう。
黒瀬はハンターに飛び掛かった。
今後の予定は、
8章を5話程度で終わらせる
9章ディジェネレーション編
10章オリジナルストーリー
11章オリジナルストーリーorバイオハザード5編
12章?バイオハザード5編
となります。