バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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40話 チャイナドレスの女性

「うーん、やっぱり駄目か……」

 

 レオンの無線に繋げて連絡を取ろうとしても繋がらない。ノイズが発生しているだけだ。やはりレオンの無線機は、何者かに乗っ取られたと考えるべきだろう。

 

「それにしても広いなぁ」 

 

 レオンの痕跡をたどっているおかげで迷わないですんでいるが、もし、一人で乗り込んでいたら十中八九、迷っていただろう。それほどこの城は広い。何故、今までニュースにならなかったのが不思議なくらいだ。

 色々と疑問があるが、まずはレオンとの合流が最優先だ。もし、失敗して大統領の娘アシュリー・グラハムが死ぬことになったら、CIAとかに殺されてしまうかもしれない。

 

(暗殺とかは嫌だな)

 

 今まで、アンブレラやテロリストの邪魔ばっかりしてきたが、未だにアンブレラが雇った殺し屋とかに殺されないですんでいる。遠くから狙撃されたら、銃弾を切れる人間でもイチコロだ。

 

(ま、その方が良いんだけどね)

 

 二十二歳という若さで死ぬのは御免だ。やり残したこと……ではないが、やらなければいけないことがある。それは、ウィルス、そしてバイオテロの撲滅だ。当初は、アンブレラの壊滅だけを夢見て戦ってきた黒瀬だが、仲間たちやアメリカ政府の力もあり、一応アンブレラという会社は潰れ、夢は叶った。しかし、アンブレラの社員が世界各地に散らばったことで、各地でウィルスやB.O.W.の研究が続けられ、バイオテロが増え続けている。

 バイオテロは、黒瀬にとって切っても切れない存在なのだろう。今まで幾多のバイオテロに関わってきた黒瀬は、どこかで起きているバイオテロを見過ごすことなど出来ない体になってしまった。

 時々、あの時ラクーンシティに行ってなかったら、今頃どういう人生を送っていたのかが、気になる。カントウ事件に巻き込まれ、何も知らないままカントウを脱出し──

 

「リョウ!」 

 

 想い出に耽っていると、ルイスが黒瀬の進行方向からやって来た。

 

「お、ルイス」

 

 数十分ぶりだ。だが、その数十分は何時間にも思えた。

 

「小さい瓶を見なかったか? 中にカプセル剤が入っている……」

「いや、見なかったな。大事な物なのか?」

「ああ。レオンとお嬢ちゃんのプラーガの活動を抑える薬だ」

 

 黒瀬は困惑した。話が分からない。

 

「どういうことだ?」

「二人はプラーガの卵を植え付けられてる。あと一日も経たない内にプラーガが二人の身体を乗っ取り、村人や邪教徒みたいに化物のなっちまうのさ」

「それはヤバイな」

 

 二人の首から寄生体が……考えただけでも恐ろしい。

 

「俺は落とした薬を探しに行く。リョウは先に進んでレオンたちと合流してくれ」

「分かった。気を付けてな」

「そっちこそ」 

 

 ルイスはそう言うと、走り去っていった。

 

「プラーガね……」

 

 村人や邪教徒が化物になったのは、プラーガという寄生生物に寄生されたから。

 ロス・イルミナドス教団は、相当頭のイカれた集団だ。

 

「よし、レオンたちと合流するぞ!」

 

 プラーガに寄生されているなら、何か出来るわけでもないが、早急に合流した方がいいだろう。

 しかし、行く手を阻むように邪教徒が現れる。

 

「おいおい、今は急いでるんだ。相手は後続の部隊がやってくれるからさ」

 

 走って近づいてくる邪教徒の足にナイフを投げ、転倒させる。盾持ちの足にナイフを投げ、膝をついた瞬間、回し蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。

 黒瀬は次々に現れる邪教徒を蹴散らしながら進む。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、くそ。大分進んだぞ」

 

 もうかれこれ一時間以上は城の中をさ迷っているが、レオンたちの姿を捉えることが出来ない。邪教徒の死体を追っていけば……と思っていたが、もちろん死体が途絶えている場所もあるわけで、結局迷う羽目になってしまった。

 

「いや、それにしても本当にスゴいよな」

 

 城内のいたる所にある仕掛けもそうだが、B.O.W.のバリエーションも幅広い。目が見えない鉤爪野郎や透明な虫、背中から寄生体が出ている犬や、やたら武器を売ろうとしてくるガナード。全部を倒すのに手間が掛かった。

 いつまで迷えばいいのか。もしかしたら、追い付く頃にはレオンが全て解決しているかもしれない。

 

(家に帰りてぇ……)

 

 これほど無性に嫌になるミッションは初めてだ。そもそも一人行動という時点でやる気が出ない。それにただただ人の痕跡を追って進む。何とも惨めで寂しい。

 黒瀬はそんな感じで油断していると、背中に何がか当てられた。

 

「手をあげて」

 

 ただそれだけの一言。女の声。

 黒瀬は一瞬戸惑った。油断していたのもそうだが、この感じは明らかにガナードではない。村人や邪教徒は言葉を話せるが、それは英語ではなくスペイン語だ。英語が話せるガナードだとしても、何故直ぐに殺さないのか。奴等は凶暴で人間を見た途端襲い掛かるのに。

 黒瀬は頭の疑問を振り払う。確信しているのは、この女がすぐに黒瀬を殺さないということだ。でなくては、わざわざ拳銃を突き付け、ホールドアップをする理由がない。しかし、正体不明の女にこのまま屈服するわけにもいかない。

 黒瀬は肘で女の溝うちを攻撃する。怯んだところで振り向き、銃を握っている手に掌低を喰らわせる。銃は女の手から離れ、後ろに飛んでいくが、女も反応し後ろにバク転。

 

(──やらせるか!)

 

 黒瀬は胸のナイフを抜き、一気に女との距離を縮める。女が拳銃をキャッチした瞬間、その首にナイフを当てた。

 

「接近戦ではナイフの方が速い。覚えておけ」

「それ、さっきも聞いたわ」

 どうやら先着がいたようである。

 彼女は真紅のチャイナドレスにハイヒールという黒瀬にとって信じられない格好をしている。彼女からの殺気が全くないことに気付き、ナイフを首から離した。

 

「アンタ、名前は?」

「エイダ・ウォンよ。あなたのことは知っているわ。クロセ・リョウ」 

 

 エイダ・ウォン、はじめて聞く名前だ。

 

「何故俺の名前を?」

「あなたは有名人なのよ。ラクーンシティの生き残りでアンブレラの基地や研究所を幾つも壊滅させた男」

「へぇ、そりゃ嬉しいね」 

 

 エイダがどこの回し者かは知らないが、名前を知られていて嫌な気分ではない。

 

「で、俺に何の用?」

 

 わざわざホールドアップしようとしたんだ。聞き出したいことでもあったのだろう。

 

「そうね。本当は暗殺命令が出ているんだけど」

「それって合衆国政府?」

 

 この場に誘き出して暗殺するという回りくどい方法を?

 

「違うわ。あなたがよく知っている人よ」

「分からんな。こんなことをするやつなんてウェスカーくらいか?」

「正解」

 

 適当に答えたが、正解してしまったようだ。

 

「で、なんでエイダは俺を暗殺しないんだ? それが命令なんだろ?」

 

 一体何を考えているのだろうか。

 

「殺すのに気が引けちゃったのよ。同じラクーンシティの生き残りとして」

「アンタもか!?」

「話はここまで。また会いましょう」

 

 エイダは何かを思い出したのか、颯爽と去っていった。

 

「ラクーンシティの生き残りって、結構凄い人物なんだな」 

 

 アリスやカルロス、アンジーにジル、レオンやクレア、アシュリーと、知っている人物だけでもヤバイやつらが集まっている。エイダの他にもラクーンシティの生存者でヤバイ連中はまだまだいそうだ。

 エイダ・ウォン、一体何が目的かは知らないがウェスカーと関係がある以上、良い人、ではないだろう。

 無線が鳴り、黒瀬は取る。

 

『リョウ、まだレオンたちと合流できないの?』

「厳しい言葉をありがとう。まだ合流できていません」

『そう。何か気づいたこととかあった?』

「あったぜ。どうやら俺たちとは別で侵入している輩がいるようだ」

 

 エイダが敵という確信がないので、曖昧にしておいた。

 

『こちらで調べておくわ。他に気づいたことがあったら連絡するのよ』

「オーケー」

 

 そう言って無線を切った。

 

 

 

 

 

 

 


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