「ったく、何で俺が……」
黒瀬は森の中を歩きながらぼやく。時間帯的にも夜なので、森の中は真っ暗のはずだが、黒瀬は迷わず進む。
黒瀬はB.O.W.と戦うこと事態は嫌ではない。黒瀬の夢は、バイオテロ、ウィルスの撲滅だ。しかし、これから戦う敵は、戦いなれたハンターやリッカーなどではく、未知の敵《アンノウン》。果たして今までの戦法が通用するのかは分からない。
大分進むと、一つの灯りが見えた。小さいが、しっかりと造られている木の家だ。
もしかしたら、家の人がレオンとシェリーを目撃したかもしれない。黒瀬はそう思い、木刀を背中に仕舞って、玄関の前に立つ。
「誰かいますかー?」
返事は返ってこない。だが、黒瀬の耳には、パチパチと焚き火をする音が聞こえていた。
(耳が悪いのか?)
仕方がないので、黒瀬は家の中に入る。
「お邪魔します」
予想通り、中では一人の男が、暖炉の中に薪を入れ、焚き火をしていた。暖炉の隣には、斧が置かれている。その斧で薪を切ったのだろう。
「すみません、聞きたいことがあるのですが」
男は振り向き、黒瀬を見つめた。
「この辺りで金髪の男女を見ませんでしたか?」
『さっさと消えろ! クソ野郎!』
男は威嚇する。勝手に家の中に入ったのが駄目だったみたいだ。
黒瀬は振り向き、玄関から外へ出ようとするが、異様な殺気を察知する。
「うお!?」
咄嗟にしゃがむ。黒瀬の頭すれすれを斧が通過していく。
「おいおい、それはやりすぎだろ」
不法侵入した黒瀬が悪いが、立ち去ろうとした者を斧で襲い掛かるなんて、アメリカでもやらない。
男は再び斧を振りかざすが、黒瀬は後ろにステップして避け、男にタックルを喰らわせる。男は壁へと叩きつけられ、床へ倒れる。
「すまない、少しだけ眠っていてくれ」
男が倒れたのを確認し、黒瀬は立ち去ろうとするが、またもや殺気が黒瀬を襲う。
「まだ気絶しないの……」
一般人が先程のタックルを喰らい、まだ意識を保っているのはおかしい。
『グガアアアア!』
男は素手で襲い掛かるが、単純で見極めやすい。男の腕を捕縛して肘を顎に喰らわせ、捻って倒す。
それでもかと、男は立ち上がる。
「おいおい、もしかして気絶しないの?」
動きは単純だが、耐久力が桁外れしている。気絶しないといえばゾンビだが、この男は言葉も道具も使う。明らかにゾンビとは違う。
黒瀬は男の間合いに入り、胴体にラッシュを入れ、足を払うように蹴った。男は倒れるが、また立ち上がる。
『ウ、ウググ』
何やら苦しみだし、頭を押さえた。
「何だ……?」
突如、男の頭が破裂し、血飛沫が飛び散る。男の首からは触手のようなものが飛び出し、ぐにゃぐにゃと動き続けている。
黒瀬は突然のことで唖然としたが、すぐに木刀を抜いた。
「これ、人間じゃないよね?」
頭がなくても動き、首からは刃のついた触手が出ている。誰がどうみても人間ではない。
触手は黒瀬の身体を抉ろうと凄まじい速さで襲い掛かるが、しゃがんで避け、木刀を振り上げて触手を潰した。
男は次こそ倒れ、動かなくなる。
無線機を取り出し、ハニガンに連絡する。
「ハニガン、男が化物になったんだが、これが新型か?」
『ええ。ガナードというらしいわ。知能もそれなりにあるみたいね』
(ガナード……スペイン語で『家畜』か……)
「わかった。コイツらを倒していってレオンと合流すれば良いんだな?」
『ええ。あなたが今までの戦ってきた敵とは違うわ。注意して』
「オーケー」
黒瀬は無線を切り、ポケットにいれる。
(これが……敵か……)
言葉も道具も使うが、人間の形をしていて人間ではない。確かにウェスカーやアリスのように、ウィルスで強化された人物もいるが、彼らは特殊だ。その特殊さが、ただの人間にも広がっている。正直、テロリスト相手でも時々手加減しているが、こういう敵はやりずらい。ゾンビとは違い、言葉を話すのが原因になっているのだろう。
「でも、やるしかないよな」
彼らを人間には戻せないだろう。ほっとけば、他の者を襲うかもしれない。
黒瀬は家から出て、周囲を警戒する。
敵は今のところいないが、いつ現れてもおかしくない。レオンとはやく合流しておきたいが……
黒瀬は森の中をしばらく進んだ。
雨が降って地面がぬかるんでいるため、足元に気を付けながら歩く。
パンパン、パン!
雨の音と共に、ハンドガンの銃声が黒瀬の耳に届く。
(レオンか?)
敵か味方かはわからないが、銃声が聞こえるということは、誰かが何者かと戦っているということだ。レオンの可能性も大いにある。
黒瀬は銃声がしている方に走り出し、手入れをされた道に出る。
「クソ!」
男が、複数の村人と戦っていた。後ろ姿でもわかるが、レオンではない。だが、人間がガナードに襲われていることにかわりはない。
「おい、そこの奴! 伏せろ!」
黒瀬は腰の手榴弾を取り、村人に投げる。男も黒瀬が敵ではないと判断したのか、その場に伏せ、爆風を回避する。村人たちは手榴弾の爆発にやられていた。
「大丈夫か?」
黒瀬は男に近づき、手を差し伸べる。
「手荒だな」
男は黒瀬の手を掴んで立ち上がる。男はラテン系のようだ。
「すまないが、サンプルはまだ入手出来てないんだ」
「サンプル?」
誰かと勘違いしているのか、黒瀬には通じない。
「アンタ、あの組織の遣いじゃないのか?」
「何のことだ? 俺はある男女を探しているだけだ」
男が人間であることに間違いないが、味方かはどうかは不明なので、二人の名前は伏せておいた。
「へぇ、もしかしてレオンと大統領の娘さんか?」
男の口から驚くべき発言が飛び出した。
「知っているのか!?」
黒瀬は男に掴みかかる。
「ああ。さっきまで一緒に戦ってた。俺は忘れ物を取りに行くために別れたけどな。今から戻るぜ」
それなら好都合だ。黒瀬と男の目的は同じということになる。
「じゃあ俺も行くよ。俺の目的は二人との合流だからな」
「良いぜ。ルイス・セラだ。ヨロシク」
「クロセ・リョウ、よろしく」
二人は握手をかわす。
「ところで……煙草を持ってないか?」
ルイスの日記
俺はあの籠城戦をした小屋から、レオンとおっぱいのでかいお嬢ちゃんと別れた後、再び村に戻った。
レオンとお嬢ちゃんは、プラーガの卵を投与されている。時間が経てば、プラーガは孵化し二人ともサドラーの従僕になってしまうだろう。
俺が作っておいた抑制剤を回収し、来た道を戻っている最中、村人に襲われた。
俺のせいで、俺の研究のせいで村人が化物になった。もちろん罪悪感があるが、一々気を取られていたら俺が死んでしまう。数も多く、手こずっていたが、男が現れた。
手荒な方法で助けてくれたが、恩人ということには変わりはない。
男は日本人で、それなりに若い。
話を聞くに、レオンとお嬢ちゃんの仲間のようだ。
クロセ──クロセ・リョウははっきり言って変人だ。現代の戦闘服を着ている癖に使う武器は刀。いや、木刀か。
日本の漫画で刀で戦う奴が何人もいたが、あれはどうやらノンフィクションだったようだ。
一番驚いたのが、リョウは大人ということだった。最初は子供と思い、ふざけて煙草を持っているかと聞いたが、彼がポーチから出してきたときはビックリした。まだ高校生くらいかと思っていたら、まさかの二十一歳だ。どうやらB.S.A.A.というNGO団体に所属していて、教団をぶっ潰す任務でこの辺境まで来たようだ。
それは俺にとっても、『組織』にとっても好都合だ。俺も出来る限り助力しよう。
ああ、クソ! 村人たちがまた来やがった! 城につくにはまだかかりそうだ。