バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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38話 ガナード

「ったく、何で俺が……」

 

 黒瀬は森の中を歩きながらぼやく。時間帯的にも夜なので、森の中は真っ暗のはずだが、黒瀬は迷わず進む。

 黒瀬はB.O.W.と戦うこと事態は嫌ではない。黒瀬の夢は、バイオテロ、ウィルスの撲滅だ。しかし、これから戦う敵は、戦いなれたハンターやリッカーなどではく、未知の敵《アンノウン》。果たして今までの戦法が通用するのかは分からない。

 

 大分進むと、一つの灯りが見えた。小さいが、しっかりと造られている木の家だ。

 もしかしたら、家の人がレオンとシェリーを目撃したかもしれない。黒瀬はそう思い、木刀を背中に仕舞って、玄関の前に立つ。

 

「誰かいますかー?」

 

 返事は返ってこない。だが、黒瀬の耳には、パチパチと焚き火をする音が聞こえていた。

 

(耳が悪いのか?)

 

 仕方がないので、黒瀬は家の中に入る。

 

「お邪魔します」

 

 予想通り、中では一人の男が、暖炉の中に薪を入れ、焚き火をしていた。暖炉の隣には、斧が置かれている。その斧で薪を切ったのだろう。

 

「すみません、聞きたいことがあるのですが」

 

 男は振り向き、黒瀬を見つめた。

 

「この辺りで金髪の男女を見ませんでしたか?」

『さっさと消えろ! クソ野郎!』

 

 男は威嚇する。勝手に家の中に入ったのが駄目だったみたいだ。

 黒瀬は振り向き、玄関から外へ出ようとするが、異様な殺気を察知する。

 

「うお!?」

 

 咄嗟にしゃがむ。黒瀬の頭すれすれを斧が通過していく。

 

「おいおい、それはやりすぎだろ」

 

 不法侵入した黒瀬が悪いが、立ち去ろうとした者を斧で襲い掛かるなんて、アメリカでもやらない。

 男は再び斧を振りかざすが、黒瀬は後ろにステップして避け、男にタックルを喰らわせる。男は壁へと叩きつけられ、床へ倒れる。

 

「すまない、少しだけ眠っていてくれ」

 

 男が倒れたのを確認し、黒瀬は立ち去ろうとするが、またもや殺気が黒瀬を襲う。

 

「まだ気絶しないの……」

 

 一般人が先程のタックルを喰らい、まだ意識を保っているのはおかしい。

 

『グガアアアア!』

 

 男は素手で襲い掛かるが、単純で見極めやすい。男の腕を捕縛して肘を顎に喰らわせ、捻って倒す。

 それでもかと、男は立ち上がる。

 

「おいおい、もしかして気絶しないの?」

 

 動きは単純だが、耐久力が桁外れしている。気絶しないといえばゾンビだが、この男は言葉も道具も使う。明らかにゾンビとは違う。

 黒瀬は男の間合いに入り、胴体にラッシュを入れ、足を払うように蹴った。男は倒れるが、また立ち上がる。

 

『ウ、ウググ』

 

 何やら苦しみだし、頭を押さえた。

 

「何だ……?」

 

 突如、男の頭が破裂し、血飛沫が飛び散る。男の首からは触手のようなものが飛び出し、ぐにゃぐにゃと動き続けている。

 黒瀬は突然のことで唖然としたが、すぐに木刀を抜いた。

 

「これ、人間じゃないよね?」

 

 頭がなくても動き、首からは刃のついた触手が出ている。誰がどうみても人間ではない。

 触手は黒瀬の身体を抉ろうと凄まじい速さで襲い掛かるが、しゃがんで避け、木刀を振り上げて触手を潰した。

 男は次こそ倒れ、動かなくなる。

 無線機を取り出し、ハニガンに連絡する。

 

「ハニガン、男が化物になったんだが、これが新型か?」

『ええ。ガナードというらしいわ。知能もそれなりにあるみたいね』

(ガナード……スペイン語で『家畜』か……)

「わかった。コイツらを倒していってレオンと合流すれば良いんだな?」

『ええ。あなたが今までの戦ってきた敵とは違うわ。注意して』

「オーケー」

 

 黒瀬は無線を切り、ポケットにいれる。

 

(これが……敵か……)

 

 言葉も道具も使うが、人間の形をしていて人間ではない。確かにウェスカーやアリスのように、ウィルスで強化された人物もいるが、彼らは特殊だ。その特殊さが、ただの人間にも広がっている。正直、テロリスト相手でも時々手加減しているが、こういう敵はやりずらい。ゾンビとは違い、言葉を話すのが原因になっているのだろう。

 

「でも、やるしかないよな」

 

 彼らを人間には戻せないだろう。ほっとけば、他の者を襲うかもしれない。

 黒瀬は家から出て、周囲を警戒する。

 敵は今のところいないが、いつ現れてもおかしくない。レオンとはやく合流しておきたいが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒瀬は森の中をしばらく進んだ。

 雨が降って地面がぬかるんでいるため、足元に気を付けながら歩く。

 パンパン、パン!

 雨の音と共に、ハンドガンの銃声が黒瀬の耳に届く。

 

(レオンか?)

 

 敵か味方かはわからないが、銃声が聞こえるということは、誰かが何者かと戦っているということだ。レオンの可能性も大いにある。

 黒瀬は銃声がしている方に走り出し、手入れをされた道に出る。

 

「クソ!」 

 

 男が、複数の村人と戦っていた。後ろ姿でもわかるが、レオンではない。だが、人間がガナードに襲われていることにかわりはない。

 

「おい、そこの奴! 伏せろ!」

 

 黒瀬は腰の手榴弾を取り、村人に投げる。男も黒瀬が敵ではないと判断したのか、その場に伏せ、爆風を回避する。村人たちは手榴弾の爆発にやられていた。

 

「大丈夫か?」

 

 黒瀬は男に近づき、手を差し伸べる。

 

「手荒だな」

 

 男は黒瀬の手を掴んで立ち上がる。男はラテン系のようだ。

 

「すまないが、サンプルはまだ入手出来てないんだ」

「サンプル?」

 

 誰かと勘違いしているのか、黒瀬には通じない。

 

「アンタ、あの組織の遣いじゃないのか?」

「何のことだ? 俺はある男女を探しているだけだ」

 

 男が人間であることに間違いないが、味方かはどうかは不明なので、二人の名前は伏せておいた。

 

「へぇ、もしかしてレオンと大統領の娘さんか?」

 

 男の口から驚くべき発言が飛び出した。

 

「知っているのか!?」

 

 黒瀬は男に掴みかかる。

 

「ああ。さっきまで一緒に戦ってた。俺は忘れ物を取りに行くために別れたけどな。今から戻るぜ」

 

 それなら好都合だ。黒瀬と男の目的は同じということになる。

 

「じゃあ俺も行くよ。俺の目的は二人との合流だからな」

「良いぜ。ルイス・セラだ。ヨロシク」

「クロセ・リョウ、よろしく」

 

 二人は握手をかわす。

 

「ところで……煙草を持ってないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイスの日記

 

 俺はあの籠城戦をした小屋から、レオンとおっぱいのでかいお嬢ちゃんと別れた後、再び村に戻った。

 レオンとお嬢ちゃんは、プラーガの卵を投与されている。時間が経てば、プラーガは孵化し二人ともサドラーの従僕になってしまうだろう。

 俺が作っておいた抑制剤を回収し、来た道を戻っている最中、村人に襲われた。

 俺のせいで、俺の研究のせいで村人が化物になった。もちろん罪悪感があるが、一々気を取られていたら俺が死んでしまう。数も多く、手こずっていたが、男が現れた。

 手荒な方法で助けてくれたが、恩人ということには変わりはない。

 男は日本人で、それなりに若い。

 話を聞くに、レオンとお嬢ちゃんの仲間のようだ。

 

 クロセ──クロセ・リョウははっきり言って変人だ。現代の戦闘服を着ている癖に使う武器は刀。いや、木刀か。

 

 日本の漫画で刀で戦う奴が何人もいたが、あれはどうやらノンフィクションだったようだ。

 一番驚いたのが、リョウは大人ということだった。最初は子供と思い、ふざけて煙草を持っているかと聞いたが、彼がポーチから出してきたときはビックリした。まだ高校生くらいかと思っていたら、まさかの二十一歳だ。どうやらB.S.A.A.というNGO団体に所属していて、教団をぶっ潰す任務でこの辺境まで来たようだ。

 それは俺にとっても、『組織』にとっても好都合だ。俺も出来る限り助力しよう。

 ああ、クソ! 村人たちがまた来やがった! 城につくにはまだかかりそうだ。

 

 

 

 


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