バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今回から7章バイオハザード4の話です。
バイオハザード4のストーリーを理解していないと、とても分かりにくいです


7章
37話 墜落


「リョウ、お客さんですよ」 

 

 クエントの呼び掛けにより、黒瀬のデスク作業が中断される。 

 

「客? そんな話は聞いてないぞ」

 

 黒瀬は記憶を探るが、今日客が来るという話はなかった。

 

「それが、オブライエンも一緒に立ち会うらしいです。サングラスを付けてスーツを着た屈強な身体のボディーガードが二人いましたよ」

 

 黒瀬はその光景を想像する。映画とかで言えば、その客はどこかの政府高官だ。だが、B.S.A.A.というNGO団体にそんな人が来るはずもない。

 

「ったく、こっちは先日のテラグラジア・パニックの書類で忙しいってのに」

 

 黒瀬はぼやき、客室に向かう。

 

 クエントの言っていた通り、客室のドアの前には屈強そうなボディーガードが二人、部屋には誰も入らせないように、後ろに手を組み、正面を見つめていた。

 黒瀬は男たちの前に立つ。

 

「黒瀬リョウだ」

 

 ボディーガードの一人が胸ポケットから一枚の写真を取り出し、黒瀬の姿を確認してドアを開けた。

 

(徹底している……)

 

 政府高官はないと思っていたが、その説も浮上してきた。一体どんな人物が待ち受けているのだろうか。

 黒瀬は部屋の中に入る。すぐにドアが閉じられ、逃げ場を失う。部屋中を見渡すと、オブライエンと客らしき人物がソファーに座っていた。

 

「リョウ、やっときたか。大統領、紹介します。この男がクロセ・リョウです」

「…………」

 

 黒瀬は息をのむ。オブライエンが客の前でふざけるわけがない。オブライエンが言った通り、この男が何処かの国の大統領であることは確かだ。

 大統領は黒瀬へと顔を向ける。黒瀬の目には、今まで何度もテレビで見た男の姿が映っていた。

 

「ぐ、グラハム大統領?」

 

 その男は、アメリカ合衆国大統領グラハムだった。

 

「初めまして、クロセ君」

 

 大統領は立ち上がって、黒瀬へと手を差し出した。

 

「初めまして、クロセ・リョウです」

 

 まさかの合衆国大統領の登場で動揺しているが、その手を掴んで握手をかわす。 

 

「時間がない。早速話をしよう」

 

 黒瀬と大統領はソファーに座る。

 

「この話は極秘で頼む。……実は、私の娘が拐われてしまったのだ」

 

 黒瀬はまたもや仰天した。オブライエンも驚いた様子だ。

 

「誰に拐われたのかは?」

 

 驚きながらもオブライエンは話を進める。

 

「ロス・イルミナドスという宗教団体のようだ。拐った目的は身代金目的だそうだ。電話は掛かってきてないがね」

 

 今のところ、話が全く見えてこない。

 

「そのロス・イルミナドスは、B.O.W.の所持を?」

「それに類似したものだ。ガナードというらしい。他の生物もケネディ君に目撃されている」

 

 黒瀬の耳に、何度も聞いた名前が飛び込んできた。

 

「ケネディって、レオン・S・ケネディ?」

「そうだ。君はケネディ君の友人なのだろう? 頼みがある」 

 

 レオンが大統領の娘のボディーガードをすることは知っていた。黒瀬は頷く。

 

「私の娘のアシュリーと、ケネディ君のサポート、そして危険者集団、ロス・イルミナドスの壊滅だ」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 黒瀬は大きなため息をつく。

 今回の事件、規模が相当大きく、解決には骨が折れそうだ。

 

「オイオイ、ため息をすると、運が逃げてくって言うぜ?」

 

 合衆国のヘリパイロットが言った。

 

「もう運は逃げてるよ。この事件につくこと自体不幸だろ」

「それもそうか」

 

 パイロットは笑う。だが、黒瀬は笑う気にはなれなかった。黒瀬を選んだ理由は、レオンや政府高官のアダムから活躍を聞いたからだそうだ。

 

 無線がかかり、ポケットから無線機を取り出す。

 

『あなたがリョウね』

 

 無線機の画面には、眼鏡をかけた若い女性が映っていた。

 

「思ったよりも若いな。クロセ・リョウだ。よろしく」

『イングリッド・ハニガンよ。あなたのサポートをするわ』

 

 正直サポートはいらないが、一人寂しく敵を倒すことよりかはマシだ。

 

『リョウの任務を確認するわね。まず、アシュリーとレオンの待機地点までヘリで向かい、二人を回収した後、ロス・イルミナドスの壊滅作戦に移ってもらうわ』

 

 ハニガンは淡々と語る。

 

(ほんと、ひどい作戦だな……)

 

 黒瀬はまたため息を漏らす。敵陣のど真ん中に置き去りにし、しかも、敵を壊滅させる。一人で。

 

「何でFBCに任せないんだ? B.S.A.A.の俺よりもFBCの人間を雇った方がアメリカ的には良いだろ?」

 

 黒瀬は大統領本人から聞けなかったことをハニガンに問う。

 

『意図も簡単にアシュリーが拐われたわ。もちろん警護がついてたけど、ボディーガードは殺されたわ。配置も何もかも知られていた』

「ようは、政府に裏切り者がいると?」

『そう考えるのが妥当のようね。でも、あなたは合衆国政府の人間ではない。そもそもそのヘリに乗っていること自体トップシークレットよ』

「そりゃ嬉しいね」

「ロケット弾だ!」

 パイロットの怒号。

 と、突如、黒瀬に激しい痛みが襲う。

 黒瀬の目には何故か、先ほどまで乗っていたヘリが黒煙をあげながら墜落していく様子が映っていた。

 

「あ……れ?」

 

 突然のことすぎて戸惑うが、空中では身体の自由がきかない。

 

「なぁ、ハニガン、こういうときはどうすればいいんだ?」

 

 しかし、黒瀬の手には無線機が握られていなかった。吹き飛んだときに手を話してしまったようだ。 

 黒瀬はしっかりと地面を見据え、受け身をとって着地する。

 

「…………さて」

 

 森の中に置き去りにされた黒瀬はちょっと寂しいが、さっきまで一緒だったパイロットの冥福を祈った。

 

 すぐ近くで無線を見つけ、ハニガンに掛ける。

 

「よお、ハニガン、久しぶりだな」

 

 まだ五分も経っていないが、どうでもいいジョークを吐いた。

 

『良かった、無事ね。今回で確信したわ。やはりこちら側にスパイがいるようね』

「そうみたいだな。ヘリを偶然見つけた可能性もあるが、ハニガンの言う通り、ヘリのルートを知られていた可能性がある」

『リョウ、これから新しい任務を出すわ。ヘリ到着までレオンと一緒にアシュリーを守るのよ』

「オーケーオーケー。レオンとアシュリーはどこに?」

『そこから北に行ったところよ。詳しい場所まではわからないわ。気をつけて』 

 

 黒瀬は無線を切り、腰から木刀を抜いた。

 

「ったく、今日はツイてないな」

 

 またしても大きなため息をもらした。

 

 

 

 

 


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