俺たち四人は、その娘さんとやらがいる場所へ向かっている。学校のどこか、それしかわからないようだ。
「本当に信じていいのか?」
「今はそれしかないわ。私が知っているヘリも使えるかどうかわからないし」
「おいおい、それよりストーカーのお出ましだぞ」
カルロスさんが前方に銃を向けた。
「あれは……」
人間よりも大きく、歯茎が剥き出し、眼は潰れ、黒いコートを着ている。そして、その腕にはガトリングガン。
「あら、あなたのストーカーだったの? てっきり私のストーカーかと」
とアリスさん。
「あなたもあいつにストーカーされてたの?」
そう言っていると、後ろからズシズシと重たい足音が聞こえてきた。
見ると、さっきのやつと同じだが、黒いコートは着ておらず、右腕は触手で覆われている。
「おいおい、どういうことだよ」
「ストーカーは二体いた?」
「あっちの新品っぽいのが私のストーカーさんね」
「スターズ……」
ボロボロの方は低い声で言った。
「二体同時は流石に無理ね。分かれて逃げて、学校で落ち合いましょう」
「オーケー」
「じゃあ俺はアリスさんと行くとするか」
「え? 一人で十分よ」
「アリス、今はそんなこと行っている場合じゃないぜ」
二体がゆっくりと近づいてくる。
「じゃあ学校で!」
チームは、俺とアリスさん、ジルさんとカルロスさんに分かれ、別方向の道を走る。
「来たわ」
化け物がガトリングガンを持ったまま、走ってきた。重たそうなのによく頑張るな。
「リョウは隠れてて、あいつは私が相手をするわ」
「え? このまま逃げた方が良いんじゃ?」
「あいつは私を追っている。ここではどこにいても狙われるわ。あなたじゃ足手まといなる」
ひどいな。
「まあ、確かにあいつのガトリングガンは避けれないけど、タイマンだったら勝てるぐらいの力はあるね」
「そう、なら頼りにするとしましょう。私が引き付けるから後ろから攻撃して。はいこれ」
アリスさんがマシンガンを渡してきた。
「使うかわからないけどもらっておきます」
「来るわ」
アリスさんがそう言うと、すぐ隣をガトリングの弾が流れていった。
俺はすぐさま車の陰に隠れる。
アリスさんはそれに応戦。
俺は物陰を伝いながら化け物に近付き、ついには後ろに回った。
懐からナイフを二本取り出し、化け物の背中の刺す。
「オオオ……」
刺したナイフを蹴ってさらにダメージを与える。
化け物は振り向き、ガトリングガンで殴りかかるが、俺はそれを避け、マシンガンをガトリングガンに連射する。
化け物はガトリングガンが壊れて使えないとわかったのか、腕から外し、タイマンを仕掛けてきた。
「せいっヤ!」
化け物の胸に上段蹴り、化け物は少し後ろによろめく。俺は体勢を整えてジャンプし、両足で化け物を蹴る。ドロップキックだ。
それでも化け物はよろめくだけ。倒れそうにはない。
「はあ!」
アリスさんも参入し化け物を殴る。
俺とアリスさんは連携で格闘を仕掛け、化け物を追い詰めていく。
「リョウ、マシンガン!」
俺はアリスさんにマシンガンを渡し、受け取ったアリスさんは化け物に向かって至近距離で連射した。
「オオ……」
化け物は相当なダメージを喰らい、膝をつく。
「終わりね」
アリスさんは化け物の頭に銃口を突き付ける。引き金を引こうとしたその瞬間、アリスさんの腕が何かに貫かれた。
「何だ!? こいつら!」
俺たちはいつの間にか脳や皮膚が剥き出しの四足歩行の化け物に囲まれていた。
一匹が飛び掛かってきたが、受け流し、ナイフを首元に刺す。
「いっ!?」
横腹が何かに貫通された。見ると、それは化け物の舌で、舌を硬くして突き刺しているようだ。
「うっ、う……」
今まで喰らったことのない痛みで、今にも倒れそうな勢いだが、まだ死ぬわけにはいかない。
「リョウ、行くわよ」
アリスさんは腕が貫通されたのにも関わらず、銃で正確に化け物の頭を撃ち抜いていく。
視界がぐらついた。死んじゃうかも。
俺の体は地面へと倒れた。
☆
「ん?」
目が覚め、俺は身体を起こす。
「痛っ!?」
腹に激痛が襲う。服を捲ると、包帯が巻かれてあった。
俺は車の中にいた。外を見てみると、学校が見える。ここが女の子がいる学校だろうか。
車の窓ガラスには、紙が貼られてあった。『すぐに戻る』と一言だけ書かれている。アリスさんが書いたのだろう。
車のドアを開け、外に出ると学校の中から微かに銃声が聞こえてきた。
「いてて」
腹が痛い。でもここでじっとしとくわけにもいかない。
「グルルルル……」
俺の足元に犬が駆け寄ってきた。犬は大怪我をしていて、肋骨が見えている。
うん、もうこれワンちゃんじゃないね。
「グワッ!」
犬が飛び掛かってきたが、何とか避ける。
「いてーな」
やっぱ急に動くと傷が痛いな。
ゾンビ犬はまたもや飛び掛かってきたが、それを左に避け、ゾンビ犬の顔にフックを決める。
「グルル……」
それでもゾンビ犬はすぐに立ち上がり、唸り声をあげる。
「もう諦めてくれよ」
ハンターやさっきの化け物は、殺そうという感情はあるが、犬や人間がゾンビになったものは、何故か殺せなくなる。
もう奴らが人間に戻れないことは見ていてわかるが、俺の手が抵抗してしまう。ゾンビになったからって、そう簡単に割り切れない。いや、俺が甘いだけだ。俺は自分の手を汚したくないと思っているだけ。
「グルルルル……」
「……わかったよ」
殺さないと俺が殺される。俺が取り逃がした奴が他の人間を喰うかもしれない。
アリスさんもジルさんもカルロスさんもそれをわかっているはずだ。殺し楽しむためではなく、生きるために戦っている。
「ふう」
俺は心を落ち着かせ、服からナイフを取り出した。ナイフはいつの間にか残り三本になっていた。
「ワン!」
ゾンビ犬は飛びかかってきたが、犬の口の中にナイフを刺し込む。
ゾンビ犬は声をあげず、倒れた。
「アンブレラ……」
アリスさんが言っていた。こんな事態になったのはアンブレラのせいだと。
ジルさんが言っていた。アンブレラのせいで仲間がたくさん死んだと。
ラクーンシティの人口は十万人ほどだ。その中で何人生き残っているだろうか。ほとんどゾンビになってしまったのだろか。
「アアア……」
ゾンビが一匹、近付いてきた。顔は歪み、右腕がない。
こいつは家庭を持っていたかもしれない。良い職に就いていたかもしれない。明日の予定も来週の予定もあっただろう。
「ごめんな……」
俺を掴み掛かろうとしてくるゾンビの首を刺した。ゾンビは膝をつき、ゆっくりと倒れた。
「アンブレラさえいなければ……」
アンブレラさえいなければこいつらは……。
首に刺さっているナイフを抜いた。
「仇は取る。だから眠れ……」
俺は子供だ。一人じゃ何も出来ない。でも、ラクーンシティの惨劇を知る者は他にもいるはずだ。他にも仲間がいる。アリスさんもジルさんもカルロスさんもレオンさんもクレアもクリスさんも。
「俺はアンブレラを討つ」
俺は一つの決意を固めた。