プルルルルル!
資料室で資料の整理をしている最中、机の上に置かれている黒瀬のケータイに電話が掛かった。
「黒瀬くん、電話が鳴っているぞ」
同じく資料の整理をしていた毒島冴子が、着信に気付き、ケータイを取って黒瀬に渡した。
「ありがとう」
黒瀬は毒島からケータイを受け取る。画面には『ソフィア』と表示されていた。
ソフィア――ソフィア・ララインは、南米で出会った情報屋。彼女のおかげで、黒瀬と小室は救われ、麻薬王ハヴィエを倒すことが出来た。その後も彼女の情報を買い、B.O.W.の取引現場を襲撃するなど、その功績は高い。
そんな彼女が電話を掛けてくる理由は1つ、新しく入った情報を買ってほしい。それしかない。
黒瀬は応答のボタンを押した。
「もしもし? 黒瀬だ」
『あ、おにーさん? 久しぶりだね。ちょっと買ってほしい情報があるんだけど』
黒瀬の予想は当たっていた。そもそも、ソフィアがそれ以外の理由で電話を掛けてきたことなど一度もない。
「オーケー、買うよ」
『あれ? 結構素直だね』
「そりゃあな。お前だって情報屋をやってんだから、俺たちにとって有益な情報を持ってきたんだろう?」
『そうだね。すっごく有益な情報だよ。ラクーンシティの再来が起こるほどの』
それを聞いて、黒瀬はあの記憶を思い出す。t-ウィルスにより、パンデミックが発生。合衆国政府によって、地図上から消された街だ。
「詳しく聞かせろ」
『オーケー。簡単に言えば、メリア国の感染症研究所がテロリストグループに狙われている。彼らが狙う目標は、メリア国の感染症研究所で保管されているt-ウィルスとG-ウィルスよ』
「G-ウィルスまであるのか!?」
『ええ。メリア国がH.C.F.から買ったらしいの。その情報がテロリストグループにリークされ、襲撃されそうになってる。決行日は明日よ』
「明日!?」
先ほどから驚きの連続だ。G-ウィルスを保管していることもそうだが、それ以上に決行日が明日というのが、驚きだ。
『急がないと、テロリストがt-ウィルスを回収してどこかにばらまくかもしれない』
「ありがとう。金は後で払う。それじゃ!」
黒瀬は通話を切った。
「黒瀬くん? どうかしたのか?」
黒瀬の驚きようを見て、毒島は問う。
「ヤバい事件が起こりそうなんだ。詳しい話はあとでする。武装してきてくれ」
一刻を争う。はやくしなければ凶悪なウィルスが悪の手に渡ってしまう。
「おいおい、それマジかよ」
ヘリの中でカークが言った。
「ああ。時間がない。急いでくれ」
「これで限界だ」
メリア国にオブライエンを通して事情を話したが、相手にされず、次はレオンにそのことを伝えて対応してもらった。しかし、メリア国とアメリカは仲がそれほどよろしくない。メリア国も半信半疑で、警備の人間が一人二人増えるだけだろう。
「それで私たちが動くわけか」
「ああ。テロリストの数もそれなりに多いはずだ」
「でも、戦えるのはリョウとサエコだけだろ? 俺はヘリの操縦があるし……」
問題はそれだ。急遽動けるメンバーが、二人しかいなかった。だが、カークはヘリの操縦があるので、戦えるメンバーは黒瀬と毒島の二人だけとなる。
「しかも二人は近接武器だしなぁ……」
カークの言う通り、黒瀬も毒島も主な武器が木刀や刀、敵はもちろん銃を使うだろう。
「それに関しては大丈夫だ。俺も毒島先輩も銃弾くらい避けれる」
「それはそれでヤバいと思うが……」
「進め!」
テロリストグループ、装甲車で門を突破し、次々と車が現れ、ガスマスク集団総勢20人は近くにいた作業員を撃ち始める。
狙いはこの感染症研究所で保管されているt-ウィルスとG-ウイルス。この2つがあれば、例えアメリカだろうと従わせることが出来る。
仲間が研究所内にガス弾を撃ち込み、所員を次々と殺していく。
「ふ、生ぬるい」
警察やら軍やらが駆け付けようと、ウィルスを手に入れれば最早勝ちだ。脱出も簡単になる。
「ヘリだ!」
仲間の一人が気づく。ヘリがこちらに猛スピードで飛んできていた。
「パトロールのヘリか!?」
だが、ヘリは止まることなく、感染症研究所を通り過ぎる。が、そのヘリから飛び降りてきたものがいた。ロープなしで。
「がっ!?」
「ぐえ!?」
飛び降りてきた二人は着地し、近くにいた傭兵たちを木刀を叩きつけ、倒していく。
「けっ! アメコミか?」
男はそう言葉を吐いた。
「うおおおおお!」
黒瀬は咆哮をあげながらガスマスクの傭兵へと突っ込み、その頭に木刀を叩きつけた。毒島も負けじと応戦し、日本刀で敵を斬り捨てていく。
敵が装甲車の陰に隠れるが、装甲車ごと蹴って敵を吹き飛ばす。
「毒島先輩、左を頼む!」
「承知した!」
黒瀬は飛んでくる弾丸を避けながらナイフを投げる。敵は多い。はやく倒さなければ。
研究所入り口に警備員が倒れていた。既に敵は中に侵入している。
「死にやがれ!!」
傭兵がマシンガンを撃ってくるが、近くにあった装甲車のドアを開け、それを盾にする。
カンカンカッカンと銃弾が跳ね返され、窓ガラスさえ割れない。流石は装甲車だ。
黒瀬はナイフを取り出し、車のドアの接合部分を切る。そしてドアを持ちながら傭兵に向かって走り出した。
「て、テメェ!」
驚いた様子だが、もう遅い。黒瀬は傭兵の残弾がなくなったのを確認し、ドアを傭兵に向かってフリスビーのように投げ、傭兵を倒す。
「ここは私に任せて、黒瀬くんは中へ!」
「頼んだ!」
黒瀬は正面にいた敵を突き飛ばし、車のボンネットを蹴って二階まで跳躍する。顔を腕で守り、窓ガラスを割って侵入した。
室内の敵は5人、研究所の職員らしき人物が何人も倒れていた。それもそのはず、今、室内は紫の煙に包まれている。黒瀬の予想が当たっているのなら、この煙は毒ガスだ。ガスマスクをしていない黒瀬は、普通なら死んでしまうが、超人的な回復力により、毒を無効化している。
傭兵の一人が黒瀬の侵入に気づくが、銃を向ける前に間合いに入り、流れるように側面に回って投げ、壁に叩きつける。その音に他の敵も気づくが、既に時遅し。黒瀬は敵に接近する。不意を突かれた傭兵はフレンドリーファイアを恐れて拳で殴りかかるが、その腕をひょいと掴み、くるりと回して転倒させる。転倒させた傭兵の足を掴み、近くにいた敵に投げる。
近くに味方がいなくなったからか、敵が黒瀬に向かって撃ち始めるが、柱に隠れ、ナイフを取り出して投擲した。
『黒瀬くん、こっちの敵は殲滅した』
「こっちはあと少し!」
残りは二人、というところで、奥から三人の傭兵が現れた。
その手には、二つの試験管が握られている。
「これを落とすぞ。良いのか?」
ガスマスク越しのこもった声で言った。それを言われれば、為す術はない。普通なら。
――そう、黒瀬は普通ではない。
黒瀬は微笑を浮かべた。そして、ゆっくりとウィルスを持っている男に近づく。
五人は、何も出来なかった。黒瀬の笑みを見た瞬間、身体が震え、その場から動くことが出来なかったのだ。
黒瀬は男の手からウィルスを取り、ポーチの中に入れる。
「これ、プレゼント」
黒瀬はその場にピンを抜いた手榴弾を落とし、すぐに立ち去った。
「冴子! 良かった、無事で」
色々と事情聴取を受けた後、B.S.A.A.本部に帰った。ロビーには小室が待っていた。
「小室くん、心配をかけてすまなかったな。見ての通り無事だ」
二人は抱き合い、顔を見合わせた。
(これで付き合ってもないとか……)
黒瀬はやれやれと、二人の邪魔をしないようにオブライエンへの報告に向かった。
……どっかで見た。