「ほらー、走れー」
訓練所にて、黒瀬は、息を切らして立ち止まっている高城に注意する。
「――なんでこんなに訓練がキツいのよ!」
黒瀬は何故か逆ギレされ、睨み付けられる。
「でも戦闘班を選んだのは高城じゃん。今からでも開発班に異動できるぜ」
「いやよ! 私だって戦えることを証明するわ」
高城は汗を散らしながら、ランニングを再開する。ここまで体力がないのはびっくりだが、これから良くしていけばいい。高城は頭が良いので、戦闘の技術もすぐに覚えるだろう。
『リョウ、いますか?』
天井のスピーカーから、B.S.A.A.メンバー、クエント・ケッチャムの声が響く。
「いるぜ」
『バイオテロが起きました。メンバーを選んでカークのヘリで事件現場まで行ってください。FBCも来るようです』
「分かった。今行く。カークにさっさとヘリの準備をしとけと伝えといてくれ」
バイオテロ……か。その数は年々増えている。アンブレラが潰れてもなお、いや、潰れたからこそ、バイオテロの件数が多くなった。だが、それは決してアンブレラを潰したのがいけなかったわけではない。
「すまん、高城。今から出動するわ」
メンバーの選択はどうしようか。
小室やクリスたちの黒瀬以外のオリジナルイレブンは、アメリカのバイオテロの事件に出動している。アリスは一応B.S.A.A.に籍を置いているが、ふらりと現れ、また去っていく。彼女のことだから、一人でアンブレラの残党やバイオテロと戦っているのだろう。平野や毒島たちも山で訓練中だ。仕方無いので、話したことがないメンバーと行かなければならない。いつもなら小室とツーマンセルで行くが……
「私も行くわ」
高城は息切れしながら言う。
「えー? でもなぁ」
高城の射撃能力は評価するが、運動神経がこれといって駄目だ。B.O.W.と戦うには、身体能力が第一である。
「実戦も大切な訓練よ」
確かにそうだが……いや、高城にバイオテロの怖さを知ってもらうのに良い機会かもしれない。そして、バイオテロの怖さを知った高城はB.S.A.A.を辞めるかも。そしてそして、高城がいなくなったことにより、平野も辞めるかもしれない。
「よし、行くか。クエント! キースも呼び出しといてくれ! 俺と高城とキース、カークの4人で行く!」
『了解しました! グラインダー、任務です。準備してください!』
FBCも来るならカークも含めて4人で充分だ。
「高城、急ぐぞ!」
黒瀬は高城を抱き抱え、武器庫へと急いだ。
「で、状況は?」
黒瀬たちは事件現場のショッピングモールの駐車場に到着し、急遽建てられた無数のテントの中の本部へと入る。そして黒瀬はFBCのメンバーに聞く。
「B.S.A.A.か。こちらも人手が足りなかったところだ」
男はイタリア人で、けっこう図体が大きい。
「B.S.A.A.のクロセ・リョウだ」
「FBCのパーカー・ルチアーニだ。それで……それはなんだ?」
パーカーは黒瀬の腰の刀と木刀を指差した。
「これか? 俺の得物だ」
パーカーはそれを聞いて納得したように頷いた。
「そうか。噂は聞いている。B.S.A.A.には刀を使う日本人がいると」
黒瀬をB.S.A.A.で知らない人物はいない。只でさえB.S.A.A.には日本人が少ないのに、刀使いであり、オリジナルイレブンでもある。もっとも、主力の武器は木刀だが。
「状況報告! 2階のエレベーターと3階の事務室、4階の倉庫に従業員と客が取り残されています。数は不明!」
FBCの隊員がテントに入り、声を張り上げる。
「了解した。チームを5人1組で4つに分ける。リョウ、俺はB.S.A.A.のチームに入る」
「宜しく、パーカー」
すぐに突入メンバー20人が本部テントに集合した。
諜報員がショッピングモールの地図を使いながら説明し出した。
「現在分かっている情報では、2階のエレベーター、3階の事務室、4階の倉庫に従業員と客が取り残されています。屋上の駐車場からはブレーカーが落ちてシャッターが降りているため、侵入できません。ハンターや大蜘蛛、ケルベロスのB.O.W.を確認。未確認ですが、『感染者』が徘徊しているとの情報も入っています。アルファチームは一階の捜索、B.O.W.の排除、ブラボーチームからB.S.A.A.を含めたデルタチームは各階の生存者の救助、道中のB.O.W.の排除になります」
屋上から侵入できないのは、結構キツイ。黒瀬たちデルタチームは1階から突入しなければならない。
黒瀬たちは武器の用意をし、目標が一番遠いデルタチームから侵入することになった。
「ライトを付けろ」
パーカーの呼び掛けにより、全員が銃のライトや胸のライトを付ける。ショッピングモールはブレーカーが落ちているため暗く、B.O.W.には格好の獲物だ。
「ちょっと、黒瀬。私はどうすればいいの?」
困ったように高城が聞いてきた。
「辺りの警戒。敵を見つけたらすぐに伝えろ」
高城がどれだけ頭がよくても、戦闘面に関しては下の部類だ。一人で行動させるわけにはいかない。
パーカーは黒瀬たちにハンドサインを送り、黒瀬たちは一気にショッピングモールに入る。互いの背中を守りながら辺りをライトで照らすが、今のところ敵は確認できない。
「ところで、サヤちゃん、仕事が終わったらバーで飲まない?」
「お断りさせてもらうわ。好みじゃないもの」
キースのナンパは、2秒も持たず終了してしまった。
「こちらデルタ、敵は今のところ確認できない。階段を上る」
『了解した。周囲の警戒を怠るな』
パーカーは無線を切り、黒瀬たちの方を向く。
「言っておくが、今回の事件はFBCの管轄だ。俺の指示に従ってもらう」
「へーい」
そもそもB.S.A.A.はNGO団体だ。FBCのような実権はなく、バイオテロの事件が起こってもオブサーバーでしか関われない。こうしてFBCと共に行動できるのは、パーカーの気前が良かったからだろう。
「行くぞ」
黒瀬たちは、暗い暗い階段を上る。
番外編では、色々なキャラを出したいと思っています