バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

42 / 117
演奏は4章の後、B.S.A.A.新メンバーは6章の後になります


番外編2
演奏/B.S.A.A.新メンバー


 演奏

 

 演奏を終えると、ユーチェンは椅子から立ち上がり、観客席を向いた。いくつものライトがユーチェンに当たっているが、客席の一人一人の顔がよく見える。その中に、命の恩人の姿もあった。

 息切れがまだ続いているが、ユーチェンは深く、深く礼をした。歓声と拍手が良い響きとなり、ステージ溢れる。そうだ、これだからピアノは辞められない。この歓声と拍手は、紛れもなく自分で取ったものだから――――

 

 

 

 

「平野コータです! ゆ、ユーチェンさん、握手をお願いします!」

 

 ユーチェンに用意された個室で、眼鏡を掛け、小太り気味の男性が、興奮しながら手を差しのばした。その手はプルプルと震えている。

 

「ボクの演奏を聴いてくれてありがとう」

 

 ユーチェンは、その太い手を握った。少し汗で湿っていたが、それほど気にならない。それに、自分の演奏をこんなに喜んでくれるなんて、何とも嬉しい限りだ。

 

「ユーチェン、良い演奏を聴かせてもらった。招待状、ありがとな」

 

 リョウの爽やかな笑顔でユーチェンの顔はほんのり熱くなる。

 

「君は命の恩人だよ? このくらい当たり前さ」

 

 彼を喜ばせられて良かった。それだけでユーチェンは満足だ。彼には返しても返しきれない恩がある。

 

「ユーチェンさーん、そろそろ移動しますよー」

 

 外からマネージャー声が聞こえてきた。彼ら二人はユーチェンの古い友人だと伝えてあるので、何の問題もない。

 

「ごめん、リョウ、コータ君。今度はゆっくり話そう」

「はい、はいはい! ゆっくり話したいです!」

 

 コータは今にもどうにかなりそうなくらいに興奮気味だ。

 

「じゃあね、リョウ。今度会ったときは日本でオススメの場所を紹介してよ」

 

 遠回りに凄いことを言っている恥ずかしさに耐えられそうもなく、机の上にあった雑誌で顔を隠す。

 

「ああ。いつでも言ってくれ。どこへでも飛んでいくよ」

 

 これ以上ここにいると、どうにかなりそうになり、ユーチェンは飛び出るように部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、黒瀬。君が羨ましいよ」

 

 平野の声が低くなり、変なオーラを放っている。

 

「そりゃ平野も同じだろ。それにしてもユーチェンがこんなに人気だったとはな」

 

 ユーチェンの船での行動が頭を過る。叫んで転んで泣いて、そのくらいしかイメージが湧かなかったが、今回で一新された。

 

「それにしてもユーチェンさんは綺麗だなぁ……」

 

 平野は顔を綻ばせる。キモい。だが、誰もが世界的有名人会えば、こんな顔になるだろう。黒瀬はならなかったが。

 

「帰ろうぜ。ありすにお土産を買って帰ろう」

「黒瀬はいつもありすのことばっかだね」

 

 平野は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 B.S.A.A.新メンバー

 

「なんでお前らまで来るんだ!?」

 

 黒瀬は新築されたB.S.A.A.本部で叫ぶ。

 

 B.S.A.A.――製薬企業連盟の批判逃れのために創られた対バイオテロ組織。NGO団体なので、大胆な行動は制限されている。最初は11人だったのに対し、今では50人を越えているが、今日、ロビーにお客さんがやってきた。

 

 黒瀬の先輩の毒島冴子、同級生の平野コータ、宮本麗、高城沙耶、香月彩、警察の南リカ、田島、黒瀬にとって先生の鞠川静香、可愛い希里ありす。

 一体どうしてこのメンバーが集まったのか、黒瀬は予想がついていた。

 

「言っとくけど、俺は反対だからな」

 

 そもそも小室でさえ、B.S.A.A.に入るのを反対したってのに。

 

「でも私たちは良いじゃん? 大人だし、仕事辞めちゃったし」

「そうだぜ、SAT、辞めちまった」

 

 リカと田島から衝撃的な発言が出てきた。

 

「SATを辞めた!? 何で!?」

「そりゃB.S.A.A.に入りたいからに決まってるだろ。こっちも良いと聞いてるぜ」

 

 田島は指で『マネー』のマークをつくった。

 

「いや、確かにそうだけど……」

 

 NGO団体といっても、スポンサーは、あの製薬企業連盟だ。日本のサラリーマンよりかは給料が高い。

 

「でも、ありすとか先生とかも入るのか?」

 

 ありすはまだ子供だし、静香は戦えそうのない。それは香月にも高城にも言える。

 

「私たちは入らないわ~、様子を見に来ただけよ」

「そ、そうか」

 

 黒瀬はひと安心した。ありすや香月が戦っているところなど見たら、心臓が止まってしまいそうだからだ。というか、意地でも入らせないが。

 

「じゃあ、毒島先輩と宮本と平野とリカさんと田島さんは入るってこと?」

「私もよ」

 

 高城が名乗りをあげる。

 

「マジか……」

「何? この私が入っちゃダメと?」 

「いえ、良いです」

 

 確かに高城の冷静な判断力は力になるが……戦えそうにない。

 

「訓練もやってるんでしょ? もちろん参加するわ。私が入ってあげるの!」

(訓練官は俺なんだけどなぁ……)

 

 メンバーの増強はB.S.A.A.としても了解したいが、それでも友人が『こちら側』に来るのは反対だった。

 

「死ぬかもしれないんだぞ?」

「心得ているよ」

 

 皆は真剣な表情だ。遊びなどではなく、本気でバイオテロと戦いたいと思っている。

 

「分かった、受付に言ってその事を話してくれ」

 

 B.S.A.A.に入りたいメンバーは受付へと向かっていった。

 

「リョウ……」

 

 B.S.A.A.に入らないと決めた香月、その顔は曇っていた。

 

「私もね、バイオテロと戦いたいと思ってるの。皆にみたいに銃を取らない方法で」

「じゃあ……」

「ええ、『テラセイブ』に入るわ」

 

 テラセイブ――FBCやB.S.A.A.のように直接バイオテロと戦うのでなく、バイオテロ被害者の救済、バイオテロの糾弾や監視が目的で設立されたNGO団体。

 

「私も入るわ」

 

 いつもポワワンとしている静香も今日は真剣な表情だ。

 

「私たちは地獄を知ってしまった。あの惨状を見て、何もしないなんて自分が許せないの」

 

 バイオテロに囚われている。それは黒瀬にもクリスにもレオンにも言えることだ。

 

「先生と香月の覚悟はよく分かった。そこに所属している友人がいるんだ。あとで紹介するよ」

 

 本心では、まだ認めていなかった。

 

 

 

 

 

「おい、リョウ、見たか!? 日本のカワイコちゃん」

 

 仕事に戻った黒瀬に話し掛けてきたのは、B.S.A.A.メンバー、キース・ラムレイ。どこかの特殊部隊からB.S.A.A.に移籍したそうだ。体の至るところから刺青が見える。

 

「言っとくけど、あれは俺の友人だ。手を出したらぶん殴るぞ」

 

 キースは女遊びで有名だ。一部のメンバーは「グラインダー(女たらし)」と呼んでいる。

 

「えー!? マジかよ。羨ましいぜ」

「どこがだ」

 

 憂鬱な気分だ。いっそのこと全員面接落ちてくれと思う。いや、落とそう。黒瀬はB.S.A.A.の面接官としても働いている。

 

「おーう、皆、新メンバーを紹介するぞ」

 

 B.S.A.A.代表、クライヴ・R・オブライエンは皆の前に出てきた。

 

(新メンバー? 聞いてないな……)

 

 いつもなら面接には黒瀬が参加しているが、今回はそれを行っていない。特別なメンバーだろうか?

 

「入ってきてくれ」

 

 オブライエンに言われ、ドアから新メンバーが入ってくる。

 

「…………」

 

 黒瀬は驚きのあまり無言になった。

 ドアから入ってきたのは、毒島、平野、高城、リカ、田島だった。

 

(早すぎない?)

 

 別れてから一時間も経っていないのに、もう面接が通り、合格したようだ。小室が仕事から帰ってきたらさぞ驚くことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




田島に関しては、原作通り死亡した設定にしていましたが、やっぱり復活させます。
勝手ですみません

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。