アリスSIDE
「ここにもアンデッドね……」
アリスは無言のまま、ホルスターからマグナムを取り出し、口を大きく開けてアリスを食わんとするアンデッドの口に銃口を突っ込む。アンデッドは口をパクパクさせるが、残念ながらそれは肉ではない。鉄だ。
トリガーを引き、アンデッドの頭を吹き飛ばす。肉片は飛び散り、いくらかアリスにも掛かるが、血などとっくに慣れていた。これまで何度もアンデッドやアンブレラ兵を殺してきた。アリスにとって、アンデッドを殺すことなどハエを叩くのと同じだ。
「アリス、右から四体!」
リョウの呼び掛けにより、アリスは近づいてくる敵に素早く気付くことができた。向かってくる敵はリッカー二体とキメラ二体。両方とも動きは素早い上にその攻撃のダメージは大きい。だが、そんな事はアリスにはどうでもいい。向かってくる敵はただ殺すだけ、リッカーもキメラもアリスにとって、雑魚以外の何者でもない。
天井に張り付いて移動するキメラを撃ち落とし、飛び掛かってきたリッカーに超反応でビンタを喰らわせた。仕留めきれなかった敵をリョウが仕留める。
「あの頃よりも強くなったわね」
ラクーンシティでのリョウを思い出す。まだあの時のリョウはアンデッドやB.O.W.を殺すことに躊躇していた。
「いつの話をしてるんだ? もう五年も前の話だろ」
五年で人は変わるものなのだなとアリスは実感する。五年前は敬語を使っていたような気もするが、今では言葉が雑になっていることも一種の成長だろうか。
『アリス、久しぶりね』
突如、スピーカーから少女の声が流れる。その声には何の感情も現れていない。
「あら、私はもう会いたくなかったわ」
本心だ。アリスは声の主と話すだけでも虫酸が走る。彼女のせいで仲間が多く死んだ。
「アリス、こいつは?」
『レッドクイーンよ』
アリスが答えるよりも早くレッドクイーンが名乗った。
『クロセ・リョウ、アンブレラの要注意人物の一人。ラクーンシティから脱出した後もロックフォード、南極基地、トウキョウ地下研究所で暴れ、ルシア捕獲の阻止や南米ではエージェントと協力し、ハヴィエを倒した』
レッドクイーンは淡々と語る。まさかリョウがそんなにもアンブレラと戦っていたとは驚きだ。彼もアンブレラに囚われているのだろうか。
「そのレッドクイーンさんが、俺たちに何のようだ? アリスの様子を見る限り、敵ってことは分かるけど」
『ひどいわね。そう決めつけるのはよした方が良いわ。でも、今回は当たっているみたい』
通路の奥から大量のハンターが現れる。レッドクイーンが居場所を知らせたのだろう。
アリスはマグナムを撃ち、リョウはナイフを投げる。いくらハンターといえど、この狭い通路では本領を発揮できない。アリスたちの連携により、素早くハンターを殲滅する。
『あなたたちの強さは知っているわ。リョウ、もちろんあなたもね。似た者同士、精々頑張ると良いわ』
似た者同士、という言葉が気になったが、レッドクイーンはそれ以上話さなくなった。
「レッドクイーンってのは何者なんだ? 子供の声だったけど」
「AIよ。ラクーンシティの地下でシャットダウンしたはずなんだけど、回収されてたみたいね」
レッドクイーンは必ず消さなければならない。アリスはあんな化物を放っておくことなど出来ない。
「あれは?」
リョウが何かに気付いた。
「どうしたの?」
「今、人影が見えた。誰かが走って移動したんだよ。ハンターでリッカーでもなく、紛れもない人が」
「それは突き止めないといけないわね」
レオンたちの可能性は低い。アリスたちのように飛び降りれば、とっくに地下に来ているだろうが、そんな真似はしないだろう。エレベーターが上に到着するのにも時間が掛かる。クリスやジルという可能性もあるが、彼らならもっと奥に進んでいるはずだ。つまり、アリスたち以外にも侵入者がいるということになる。
「行くわよ」
アリスとリョウは、人影が見えた方向に走り出した。
小室SIDE
「エレベーター遅いな」
レオンが愚痴を漏らす。呼び出して十分は経つが、エレベーターはまだ到着しない。小室も苛立ちを覚えていた。黒瀬もアリスも今頃地下を探索しているはずだ。早く行って力になってやりたいが、これだとあと何分掛かることやら。
「でも地下にはクリスたちも行ってんだろ? それなら充分じゃないか?」
合流したビリーが言った。
「そうだぜ、地下に行った四人は俺たちよりも強いからな。俺たちは地上の敵を殲滅した方がいい」
カルロスもそう答える。
「でも俺の目的はアンブレラのデータ回収だ。地下にある可能性が高い」
「それはアリスは知ってるんだろ? それなら任せておけばいい」
『そうよ、アリスに任せておけばいいわ。そして、あなたたちは死ぬの』
近くにあったモニターに真紅の少女が映し出された。幼い顔には何の感情も浮かんでいない。
「レッドクイーンか?」
レオンが言った。
「知ってるのか?」
「ああ。ラクーンシティの地下研究所に行ったときに、資料を読んだ。AIらしいが」
『それで合っているわ、レオン。その時は私は回収されていなかったけど』
「それで? そのAIさんが何のようなんだ?」
カルロスは挑発気味に話す。
『言ったわ。あなたたちは死ぬの、これからね』
モニターは消え、残るのは数秒の静寂だけ。
「おい、ヤバイぞ」
数秒の静寂はすぐに打ち切られた。いつにまにか、小室たちは敵に囲まれていた。
〈奴ら〉やリッカー、キメラ、ハンター、猿、ケルベロス、それらが何十体も集まり、小室たちに向かってくる。
「……泣けるぜ」
「全くだ」
小室たちは散開する
「面倒くさいよ!」
小室はショットガンを飛び掛かってきたケルベロスの頭に撃った。脳みそと骨が吹き飛び、命を失った身体は床へと倒れた。
すぐにポンプアクション。舌を今にも突きださんとするリッカーに散弾を浴びせる。その間に近づいてきた〈奴ら〉は小室の首もと目掛けて噛みつこうとするが、左腕を突きだし、〈奴ら〉に噛ませる。防寒具は厚く、〈奴ら〉の歯を通さないが、多用は危険だ。銃口を腹部に押し付け、放つ。貫かれた腹からは内臓がぶちまけられ、小室から離れた。
「敵が多い!」
敵が集中しているところに散弾を何発も撃ち込む。こういうときは便利だが……
「弾切れか……!」
ポケットから弾を取り出そうとするが、そうはさせまいと〈奴ら〉が複数襲い掛かる。ナイフを取り出し、至近距離にいた敵の顎にナイフを突き刺す。手を離し、ショットガンを棍棒代わりにして〈奴ら〉の頭を叩き潰していった。
「タカシ、大丈夫か!?」
レオンが走りながらハンドガンを撃つ。流石はエージェント、全ての弾は〈奴ら〉の額に命中し、数を減らす。
「レオンさん、ありがとうございます」
「別に良い。今は殲滅することを考えろ」
レオンは次々とヘッドショットを浴びせる。小室もホルスターからハンドガンを取り出し、敵に撃つ。黒瀬たちが帰ってくる前に敵を殲滅してやる。
アリスSIDE
アリスとリョウは広い空間に着いた。その部屋の中心には見覚えのある機械が設置されている。
「レッドクイーン……」
やはりレッドクイーンは回収されていた。
「またシャットダウンしてあげましょうか?」
アリスはレッドクイーンを挑発するもレッドクイーンは何の反応もしない。
「アリス、これを見てくれ」
モニターを見ると、NO DATEと表示されていた。まさか、レッドクイーンが何の反応もしないには……
「消されたのか」
リョウはパソコンを弄るが、何一つデータは残っていない。
「レッドクイーンまで……」
彼女が消されたことに関してはアリスも嬉しい限りだが、問題は誰が消したかだ。リョウが見た人影かもしれない。もしくは、この研究所の幹部かもしれない。
「行くわよ。ここにいても何の成果もあげられないわ」
レッドクイーン、出来れば自分の手で消したかったが、今はB.O.W.の排除が優先だ。
エレベーターで上まであがると、タカシ、レオン、ビリー、カルロスがB.O.W.の死体に囲まれて寝ていた。
「何やってんだ?」
「見ての通り、寝てるんだよ。マジで疲れた」
B.O.W.の死体は百を越える。相当頑張ったのだろう。
〈B.O.W.の殲滅を確認した。隊員は外に集まってくれ〉
終わった。長い戦いだった。これほどのB.O.W.製造所だ。アンブレラも大きなダメージを負ったはず。それでもアリスの戦いは終わらない。アンブレラが生きている限り、B.O.W.が存在している限り。
私の名前はアリス。これは私の物語。終わりの見えない物語。
長い長い戦いが終わった。部隊には死傷者も出たが、それでも少ないメンバーで研究所を制圧したことは誇っても良いことだった。
アンブレラと合衆国政府の裁判。これも決着した。レオンはアンブレラのデータを回収することは失敗に終わったが、謎の人物によってアンブレラの悪事を裁判に提出した。その証拠により、アンブレラは倒産、事実上消滅した。
だが、それでも終わらなかった。アンブレラの元社員は世界各地に散らばり、バイオテロの件数は多くなり、それにより被害者の数も増えていった。
アンブレラの悪行により、他の製薬会社も疑われるようになったが、製薬企業連盟は批判逃れのため、共同で資金を出しあって、B.S.A.A.(Bioterrorism Security Assessment Alliance)を結成した。メンバーは私設対バイオハザード部隊のメンバーが集められた。
アンブレラが滅びても俺の戦いはまだ終わらない。
終わった。雑だけど終わった。
これにて第一部アンブレラ編は終了です。
B.S.A.A.がやっと結成されました。いえーい。
名前があるメンバー(オリジナルイレブン)は、黒瀬、小室、クリス、ジル、カルロス、ビリー、アリス、オブライエンになります。
次回は番外編!