「オラッ!」
バキッと、ゾンビの顔面にグーパンチを叩き込む。
「アーアア……」
ゾンビは何事もなかったかのように立ち上がり、腕を前に伸ばしてゆっくりと近づいてくる。
これで三回目だ。どうやらゾンビは気絶しないみたいだ。映画のように本当に死んでいるわけじゃないから、何度も殴れば気絶すると思ったが。
『アアアアー』
そうこうしている内に、ゾンビが何体も近寄ってきた。
俺はそいつらを無視し、走る。
警察署から離れて、二時間ほどが経った。
無線や声で呼び掛けるが、人間の反応は一切ない。この街の住民は、全員ゾンビになったのだろうか?
「キャー」
曲がり角の先から、女性の悲鳴が聞こえた。
俺はダッシュで角を曲がる。
「アアアア」
「オオオオオ」
ゾンビが十体ほど何かに群がっていた。隙間から女性の体が貪り喰われているのが見え、俺は数歩後退する。
「オオオ」
後ろからゾンビの声が聞こえ、振り向くと、ゾンビが後ろからも十体ほど現れた。
「くそ! いきなり出てきやがって!」
ゾンビは、動きも鈍いし単調だ。一対一なら負ける要素がない。しかし、それを補うためか、こうやって大群で現れる。
「うらァ!!」
ゾンビを掴んでは投げ、掴んでは投げる。投げられたゾンビは周囲のゾンビを巻き込み、ドミノ倒しのように連鎖して倒れていく。
しかし、どこからともなくゾンビはわらわらと出てくる。
「くそ!」
ゾンビに囲まれてしまった。それでも俺は抵抗を止めず、殴り、そして蹴る。ここで死ぬわけにはいかない。明後日には学校に行かないと駄目なんだ!
おっさんゾンビに回し蹴り。吹っ飛び、三体のゾンビを巻き込んで倒れるが、次から次へとゾンビが。
「諦めるわけにはいかないんだよ!!」
そう言った次の瞬間、いくつもの銃声と共にゾンビたちがバタバタと倒れていった。
「なっ!?」
前方のゾンビは瞬く間に一掃された。
「こっちよ!」
三人の人間が立っていた。
後ろを見ると、ゾンビが近寄ってきていた。迷っている場合じゃなさそうだ。
俺は前の三人とともに走る。
「あなた、クロセ・リョウ!?」
「ジルさん!?」
雰囲気が変わって気が付かなかったが、S.T.R.A.S.のメンバー、ジル・バレンタインさんも一緒だった。
「ジル、知り合いか?」
武装した若い男が言った。背中にはU.B.C.S.とアンブレラ社の傘のマークが書かれてある。アンブレラ社の私設部隊だろうか。
「その話は後にした方が良さそうね」
金髪でウェーブのかかった女性が言った。
正面には、人間と爬虫類の間のような全身緑色の生物が三体、ゆっくりと近づいてきていた。爪は発達し、頭から肩にかけて肉腫で覆われている。
「何だ!? あの化け物は!?」
と若い男。
あんな生物まで出るとは……。
「ハンターね。前に私が見たのとはちょっと違うけど」
「ハンターβよ。初期とは違って色々と改良されているわ」
ハンターは、同時にジャンプし俺たちを爪で切り裂こうとしてくる。
「喰らいやがれ!!」
若い男は、アサルトライフルをハンターに向かって連射するが、かわされる。
「なんて俊敏性だ!」
それでも男は撃ち続けるが、ハンターは四方八方に飛び回る。
「私に任せて!」
女性はハンドガンを二丁取りだし、左のハンドガンでハンターを狙い、一発撃った。それも避けられるが、彼女は、右手で持っているハンドガンでハンターが避けた先を撃ってハンターの頭に命中させた。
すごいテクニックだ。どこかのエージェントか?
「あと二体よ!」
ハンターの一体が俺の目の前に降りてきて、腕を突き伸ばす。
「よっ」
それを難なくかわし、ハンターが伸ばした腕を両手で掴んで地面に投げる。
「離れて!」
俺はバックステップでハンターから離れ、ジルさんがハンドガンでハンターに弾丸を喰らわせる。
「お前やるな」
若い男から肩をポンと叩かれた。
「俺だってただの子供じゃないですよ」
俺はナイフを一本出す。若い男の攻撃をかわしたハンターにナイフを投げる。ナイフはくるくると回転し、ハンターの頭に突き刺さった。
「終わったようね」
俺はピクピク痙攣するハンターに近付き、頭に刺さったナイフを引き抜く。使い捨てなんてもったいない。
「歩きながら話しましょ」
俺たちは、はや歩きで進む。
「私はアリスよ。あなたは?」
「クロセ・リョウだ」
「カルロス・オリヴェイラだ。ま、宜しくな」
「知っているとは思うけど、ジル・バレンタインよ」
なんか、すごいメンバーだな。全員強そうだ。
「この街は一体どうなっているんですか?」
「アンブレラのせいよ」
アリスさんが答える。
「アンブレラがウイルスの研究をしていたのよ。それが漏れちゃってこんな事態」
「マジか……」
簡単に言われたけど、結構衝撃的な話だ。
だってあのアンブレラだよ? 世界で知らない人はいないくらいの製薬会社だ。俺だってアンブレラの製品を何度も使ったことがある。
「残念ながら事実よ。アンブレラのせいでS.T.R.A.S.のメンバーもほとんど死んだわ」
またもや衝撃的なことをジルさんが言った。
「え? じゃあ、クリスさんは!?」
「彼なら大丈夫。アンブレラの調査をしにヨーロッパまで行っているわ」
それなら、一安心だ。俺もクレアも無事に脱出出来たら教えてあげないと。レオンさんとクレア、無事だよな?
「今からは何をするんですか?」
「もちろんラクーンシティからの脱出よ。一番はヘリを見つけられればいいんだけど……」
「あのストーカーがいなければ私とカルロスは今頃……」
ストーカー?
「昨日、俺とジルは、ヘリを呼んで脱出するつもりだったんだが、化け物に落とされたのさ」
昨日もゾンビがいたのかよ。何も知らなかったんですけど。ラクーンシティ封鎖しとけよ。
「じゃあ、後は自力でヘリを見つけるか、ラクーンシティの入り口を正面突破か」
とアリスさん。
「ヘリに賛成だね。正面突破出来るほどの弾は残ってない」
カルロスさんはマガジンの残量を見て言った。
「私もよ。この四人でも正面突破をすれば誰かが犠牲になるわ」
ジルさんがそう言うと、みんなが俺の方を見た。
「俺は着いてくだけ。一人じゃ何も出来ないからね」
一人で行動して、さっきは死にかけたんだ。もう一人なんて嫌だね。
「決定ね。ヘリを探しましょう。少しかかるけど、ヘリがある場所なら知ってるわ」
とアリスさん。
よし! そこにたどり着いてさっさと脱出!
俺たちの目的が決まってその場所へ向かおうとすると、プルルルル! と公衆電話が鳴った。公衆電話が鳴るなんて初めて見た。
「行くわよ。すぐに奴等が来るわ」
俺たちは無視して進む。
しかし、少し進んだ先の公衆電話が鳴った。誰かが狙って掛けてきているとしか思えない。
「もしもし?」
アリスさんもそれに気付き、電話を取った。
アリスさんと電話を掛けてきた人物がしばらく話し、アリスさんは電話を切った。
「誰?」
「チャールズ・アシュフォード。アネット・バーキンたちと共にt-ウイルスを開発した人物よ」
「そんな奴が俺たちに何て言ってるんだ?」
「娘を助けて欲しいそうよ。ヘリもあるみたい。私たち用じゃないみたいだけどね」
俺たち用じゃないとしても、
「奪うまでだろ」