バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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34話 イワン

 小室と黒瀬は壁から顔を覗かせ、B.O.W.の様子を確認する。

 

「猿が五匹、リッカーが四匹、ハンターが三匹に蜘蛛が六匹か……」

 

 黒瀬は一瞬で敵の数を見極め、ダガーナイフを取り出した。ピリピリと殺気を放ち、吸っていた煙草を床に捨て、踏みつける。

 

「蜘蛛は俺がやる。小室は残りを相手にしてくれ」

「おう」

 

 小室たちは一気に全面に出る。B.O.W.は小室たちに気付き、目の色を変えて襲い掛かる。黒瀬から言われた通り、小室は蜘蛛以外の敵から注意を惹き付け、弾をぶちこむ。それを確認した黒瀬は、壁に張り付いている蜘蛛二匹にダガーナイフを投げ、落とす。ホルスターからハンドガンを抜き取り、反対側の壁に張り付いている蜘蛛四匹に向かって手榴弾を投げ、壁に手榴弾が当たったところで銃を撃ち、手榴弾に命中させる。手榴弾は爆発し、蜘蛛四匹を昇天させた。

「……!」

 

 小室は黒瀬の背後に近寄るハンターに、胸のナイフを抜いて投げる。ハンターの左肩に刺さり、怯んだ瞬間、黒瀬がその頭に鉄拳を喰らわせた。

 

「ナイフを投げるの上手くなったじゃん」

「それはどうも」  

 

 黒瀬は倒したハンターから小室のナイフを抜き、近づいてきていたハンターの眉間に刺した。

 

『キーキー!』

 

 味方が次々にやられ、怒ったように猿が鳴き出す。

 

「小室、手榴弾を喰らわせてやれ」

 

 手榴弾を腰から取り、猿が隊列を組んでいる真ん中に投げる。直後、爆発。黒瀬と小室は伏せたおかげで傷を負わなくて済んだ。 

 

「残りはリッカーだな」

 

 さっきの爆発でリッカー二匹が巻き込まれ死んだが、残り二匹が残っていた。

 

「左は俺がやる」

 

 黒瀬は抜刀しようとするが、リッカーはそうはさせまいと舌を硬化させ、黒瀬の心臓めがけて突き伸ばす。

 

「ほっ!」

 

 黒瀬は軽くかわし、目標を貫けなかったリッカーの舌を掴んで振り回し、壁へと衝突させた。その間に小室はショットガンでもう一体を倒す。

 辺りにはB.O.W.の死体合計18匹が、ぴくりとも動かず倒れていた。

 

「リッカーの攻撃を避けるなんてスゴいな」

「なあに。よく見れば小室でも避けられる」

 

 無理、そんなことが黒瀬以外で出来るのは……クリスやレオンだろうか?

 

『想像以上だ。想像以上にやってくれる』

 

 突然、スピーカーから渋い男の声が流れ始めた。

 

『よくもまぁ、アンブレラの最大の敵をここまで集めたものだ。しかも、君たちまでいるとは……クロセ君、コムロ君』

 

 どうやら、この放送は小室たちに向けられているようだ。小室は天井の隅っこを見ると、監視カメラが一台、小室たちの方を向いていた。

 

「小室、どうやらお前までアンブレラのブラックリスト入りのようだぞ」

「マジか。そんなにアンブレラに敵対することやったかなぁ?」

 

 記憶を探っても、アンブレラに直接敵対した記憶はないが、アンブレラの情報力によって、黒瀬と行動する人物として知られていたかもしれない。

 

『クリス、ジル、カルロス、ビリー、レオン、アリス、それに君たち……まさかこんなにも揃うとは思っていなかった。だが、ここで邪魔な奴等を全員始末できるというわけだ』

 

 声の主はクククと笑う。

 

『君たちにはここで死んでもらおう。イワンに殺されるのだ』 

「「イワン?」」

 

 二人が声を揃えると同時に、何かが壁を突き破り、小室たちのいる部屋へと入ってきた。

 

「なんだよ、こいつ!?」

 

 小室は、見たこともないB.O.W.に声を荒げる。B.O.W.と言ってもいいのだろうか。身長以外は、人間の格好をしており、オレンジのサングラスを付けている。

 

「タイラントだな。こいつら壁を突き破るのが好きなんだよ」

 

 黒瀬はやけに落ち着いている。

 

『ククク、君たち二人にイワンが倒せるかな?』

 

 タイラントは小室たちにゆっくりと近づいてくる

 

「黒瀬、どうする?」

「……どうしようかな」

 

 黒瀬はうーんと考え、抜刀するのを止めた

 

「小室、コンビネーションだ」

「……わかった」

 

 ……コンビネーションといってもアドリブだが。

 

 小室はタイラントの注意を惹き付けるように、その胴体に散弾をぶちこむ。だが、タイラントが着ているコートには傷ひとつついていない。どうやら、衝撃吸収コートのようだ。

 その間に黒瀬は動き、壁を蹴って跳躍する。足を真っ直ぐと伸ばし、タイラントの後頭部に直撃させ、床に着地した。

 

「今のどうだった?」

「百点だった」

 

 素直な感想を述べ、再び銃を構える。

 タイラントはビクともしておらず、元気そうに小室を殴った。

 

「痛っ!?」

 

 小室はタイラントを図体だけでかく、鈍いやつだと思って油断していた。壁に背中をぶつけ、肺全部の空気を吐く。

 

「油断すんな~」

 

 それほど心配していない緩い声。確かに動けないほどのダメージではないが、ひどい。

 黒瀬はタイラントをストレートを二歩、三歩とバックステップで回避し、そこから助走をつけてタックルを浴びせた。タイラントは仰け反る。続けて、銃撃のようなラッシュでタイラントの胴体を打ちのめす。

 

「タイラントを殴った感想は?」

「やっぱ手が痛いね」

 

 黒瀬は痛そうに手をヒラヒラした。それはそうだ。硬いコートを何十発も殴っているのだから。手袋をしているので見えないが、手は真っ赤になっていることだろう。

 その一瞬の内に、タイラントは黒瀬を払うように殴る。体重が軽い黒瀬はボールのように飛び、壁に背中をぶつけた。

 

「あー、油断した」

 

 黒瀬の口から血が流れている。それを袖で拭うと、腰の刀に手を掛けた。

 今のを喰らい、平然と立ち上がるのは誰がどう見てもおかしいが、黒瀬だからで「ああ、そうか」と思ってしまう。

 

「…………」

 

 黒瀬は無言のまま、抜刀の構えを取る。辺りの空間はピリピリと張り詰め、小室の背筋が凍る。

 

(本気だ……!)

 

 黒瀬の本気の抜刀術、それが今、観れるというのか。ごくりと唾を飲み込み、黒瀬とタイラント、両方の行動を注意深く観察する。

 

「――――!」

 

 黒瀬は目を見開き、床を蹴ってタイラントに駆け出す。

 

「まずい!」

 

 タイラントはそれを見切っていたように腕を大きく振り上げた。しかし、黒瀬は止まらない。いや、止められない。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 黒瀬の叫びはもはや咆哮だった。タイラントが腕を振りかざす前にさらに加速し、その距離をぐっと縮める。黒瀬の抜刀術が速いか、タイラントの攻撃が速いか。そして――抜刀。

 その時、小室には何が起こったのか分からなかった。そもそも、抜刀したかさえ分からない。抜刀するか、というところで、黒瀬は動かなくなった。そして、タイラントも。

 黒瀬は腰の刀から手を離し、振り返る。そして、その刹那――タイラントの右腰から左肩まで一筋の線、そこから、赤い血が霧のように噴き出した。タイラントは無言のまま冷たい床へと倒れ、血が広がる。

 

 小室は開いた口が塞がらない。その凄さにただ圧倒されただけだった。黒瀬は目にもとまらぬ速さでタイラントを斬り、刀を鞘に納めたのだ。

 

「はは、凄いよ……」

 

 つい、そんな言葉が口から漏れる。

 

「何点ですか?」

「百二十点だよ」

 

 ――いや、それ以上だ……

 黒瀬は日々強くなっている。それは小室も同じだが、黒瀬は予想以上に強くなっていた。

 

『まさかイワンを刀で倒すとはな……ククク、だが、本当に倒したのかな?』

 

 その言葉の意味は小室にはよく分からなかった。と、一瞬の浮遊感。黒瀬は小室の身体を掴み、その場から飛び退いた。その直後、ズドオオオオオン!! 部屋中に重たい音が響き渡る。

 

「なんだ!?」

「仕留め損ねたか……」

 

 小室たちがいた場所に大穴が空いていた。その近くに、白いコートが外れ、筋肉が異常に肥大化したタイラント。

「なんだよ、アレ……」

「スーパータイラント化したんだよ。一定以上のダメージが蓄積されるとパワーアップする」

「そんな……」

 

 あんなのに勝てるわけがない。一発でも殴られれば、床のように穴が空いてしまう。そんな奴と相手をしなければいけないなんて……

 

「小室!」

 

 黒瀬の怒号で気付く。目の前には、タイラントが迫ってきていた。恐怖心で気付くのが遅れてしまった。

 ドンと誰かに突き飛ばされる。小室の目には、しっかり黒瀬の姿が捉えられていた。小室を庇った黒瀬は、タイラントの攻撃を避けることなく、そのふとましい腕で払われるように腹を殴られる。メキメキと、骨が軋む音が小室にも聞こえ、高く吹き飛ばされた。壁に背中を衝突させ、落下。黒瀬がぶつかった壁には、亀裂が何本も入っていた。

 

「黒瀬……」

 

 黒瀬はピクリとも動かない。ただ、真っ赤な血が床に広がるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今後の予定

6章を5話くらいで終わらせる

番外編5話くらい?

7章レオンが村に行くやつ
 
多分こうなります。 

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