バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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6章 アンブレラ終焉
32話 コーカサス研究所


「降下するぞ」

 

 クリスの合図とともに二機のヘリから、防寒具や戦闘服に身を包んだ男たちがロープを伝い、ロシアの極寒の地へと降り立つ。

 

 降下した場所は、アンブレラロシア支部コーカサス研究所の工場のど真ん中。

 

 防寒はしっかりしているはずだが、吹雪が服の繊維を通り抜け、寒さに慣れていない肌を攻撃する。小室は思わず身震いをした。

 

 隣には黒瀬の姿があった。他の者たちと同じ戦闘服だが、装備している武器は変わっている。刀や木刀、ナイフなど、ほとんどが近接戦の武器だ。

 

 黒瀬の口にくわえられていた煙草が、いきなりの突風によって口から離れ、遥か彼方へと飛んでいってしまった。

 黒瀬はサイドパックから新しい煙草を取り出し、口にくわえる。ライターで火をつけようとするが、常に吹き荒れる吹雪でそのオレンジ色の炎を消す。火を手で隠し、風から防ごうとするが、すぐに消えてしまった。

 

 諦めたかのようにくわえていた煙草を投げ捨て、腰の木刀を抜いた。ピリピリと黒瀬から殺気が伝わってくる。それは、煙草が吸えないことに苛立ちを覚えているのだろうか、それとも、これから対峙する相手に向けているのだろうか。

 

「散開! B.O.W.共を吹き飛ばせ!」

 

 男の張りのある大声とともに、極寒の大地に降下した隊員たちが銃を構え、目の前にある工場へと小走りで進んでいく。

 

「黒瀬、僕たちも行こう」

 

 小室はポンプアクションをし、次弾を装填する。

 

「……ああ」

 

 黒瀬は短く答え、小室とツーマンセルで工場を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 二月、日本でも冬真っ盛りの時期に、黒瀬の元へとクリスから連絡があった。

 

 クリス――クリス・レッドフィールドは、ロシアの私設対バイオハザード部隊に所属しており、日々B.O.W.と戦っている。

 

 そんなクリスからの連絡の内容は、アンブレラロシア支部の工場で、新しいB.O.W.が開発されているとのことだった。黒瀬とクリスは友人――いや、戦友と呼べる人物だ。

 

 もちろん黒瀬が『アンブレラ』『B.O.W.』と聞いて黙っているはずがなかった。黒瀬はロシアへと向かう準備をし、それに気が付いた小室は、又もや無理を言って今回の作戦に同行することになった。

 

 

 

 

 

 ロシアで待っていたのは、アメリカ合衆国で設立された対バイオテロ部隊『FBC』ではなく、民間で設立された部隊だった。

 

 クリス・レッドフィールドやジル・バレンタインもそこに所属しており、二人に久しぶりに会ったという黒瀬は挨拶を済ませ、これから作戦に参加するメンバーとも顔合わせをした。

 

「よう、久しぶりだな、リョウ」

  

 誰かが黒瀬の肩を叩いた。

 

「久しぶりだな、カルロス」

 

 カルロスと呼ばれた男と黒瀬はハグをする。

 

「紹介するよ。こいつはカルロス・オリヴェイラ、俺や他のメンバーと一緒にラクーンシティを脱出したんだ」

 

 黒瀬の紹介で、小室は「ああ」と頷いた。確か、アンブレラの私設部隊『U.B.C.S.』に所属していた。だが、アンブレラにとって自分たちは、B.O.W.との戦闘データを取る捨て駒だと知り、離反。その後は黒瀬の説明した通り、ラクーンシティを脱出した。

 

「よろしく、タカシ。頼りにしてるぜ」

「よろしく」

 

 小室は、カルロスから差しのべられたたくましい手を握り、固い握手をかわした。

 

「アンタがクロセ・リョウだな」

 

 黒髪のオールバックの男性が黒瀬へと近寄る。

 

「アンタは?」

「ビリー・コーエンだ。レベッカから話は聞いている」

「俺もだ」 

 

 小室は黒瀬たちの話が分からず戸惑っているが、カルロスもビリーも雰囲気から修羅場を駆け抜けてきたことが分かった。

 

 クリス、ジル、カルロス、ビリー、これだけのメンバーが揃い、これからアンブレラの工場を潰そうとしている。そして、その作戦に小室と黒瀬も参加するのだ。小室は胸の高鳴りが抑えられない。

 

「今からブリーフィングを始める」

 

 小室たちも含めて二十人にも及ぶ決して多くないメンバーが集められ、作戦の内容が明らかにされた。

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!」

 

 黒瀬のピンと張り詰めた声で、小室の全身に緊張が走る。

 正面からは、〈奴ら〉が何体も腕を伸ばしながら近づいてきていた。作業服や戦闘服、裸など格好は様々だ。

 

〈B.O.W.と遭遇した! ハンターだ!〉

〈こちらも遭遇! 相当な数がいるぞ!〉

 

 胸に付けられている無線から隊員たちの声と銃声が重なりながら聞こえる。

 

「情報は当たってたか……」

 

 匿名からの情報だったこともあり、信憑性も低かったが、確かにB.O.W.の姿を確認できた。

 

 小室はショットガンを構え、それと同時に木刀を構えた黒瀬が側面から回り込む。小室はショットガンで前列の化物を吹き飛ばし、後方では黒瀬が木刀で〈奴ら〉の頭を叩き潰す。

 そうして連携もあって、近くにいる〈奴ら〉はすぐに殲滅することが出来た。

 

「ここでもバイオハザードか……」

 

 〈奴ら〉やB.O.W.が外に出ているということは、この工場も何らかのトラブルがあってバイオハザードが起こり、B.O.W.を管理する人間がいなくなったことで、檻から逃げ出し、外に放たれたのだろう。

 

「まだ来るぞ!」

 

 正面からは、ハンター五体、ケルベロス三体が小室たちに向かって走ってきた。

 

「喰らえ!」

 

 小室はハンターを狙って撃つが、軽々と避けられてしまう。避けられた焦りからか、標的から一瞬目を離してしまった。

 

「小室!! 避けろ!」

 

 黒瀬の怒号。小室は我に帰り、咄嗟に仰け反った。ハンターの爪が首を掠り、通り過ぎていく。あと少し避けるのが遅かったら、ハンターによって首を刈られていた、という恐怖心がさ迷うが、死にたくないという心で、銃口をハンターの胸に押しあて、トリガーを引く。ゼロ距離で発射された弾丸は、ハンターの胸を貫き、飛び散った散弾は後方にいたケルベロスとハンターの肉を切り裂いた。

 

 ハンターの返り血が小室に飛び、目を瞑ったところを狙ったかのように、ケルベロスが小室の喉元目掛けて飛び付こうとする。寸前、黒瀬がケルベロスの横顔を左手で殴り、頭蓋骨を砕く。

 

「びびってんのか?」

「へっ、まさか。ちょっと油断しただけだ」

 

 そうは言うも、小室の声はうわずっていた。

 

 小室は挽回するように、ケルベロスの身体をバラバラに吹き飛ばし、腰からナイフを取り出してハンターの頭に突き刺す。黒瀬はハンターの動きを見切って、くるりと後ろに回転してハンターの頭を割った。

 

 黒瀬の戦いを見て、やはり凄いなと小室は思った。小室も相当強くなったが、ハンターの至近距離の攻撃を避けることなど到底出来そうにない。黒瀬の動体視力と反射神経は常軌を逸している。

 

〈こちらビリー、施設内への扉を発見した〉

 

 胸の無線が流れる。

 

〈アルファ1からアルファ8までは施設内の探索、及び敵の掃討。それ以外は外のB.O.W.の掃討を続けろ〉

 

 淡々と指令が下る。小室はアルファ8 黒瀬はアルファ7だ。クリス、ジル、カルロス、ビリーもアルファ1から8までに入る。

 

「さて、指令が下りましたよ、小室さん」

「じゃあ、行きましょうか、黒瀬さん」

 

 小室たちはビリーがいる場所まで走り出した。

 

 

 

 

 

   

 

 


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