バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今回で5章最終話です


31話 末路

「先にここに来た奴がいるみたいだな」

 黒瀬は辺りを警戒する。〈奴ら〉やフロッガーが既に何者かに倒され、何体も倒れていた。しかも、ほとんどが頭を撃ち抜かれ、一発で倒されている。

「やっぱりアメリカ人か……」

 金髪のアメリカ人二人……一体どういう人物なのだろうか。

「ソフィア、件のアメリカ人はどういうやつなんだ?」

「一人がイケメンで、もう一人が軍人だなぁって人だった」 

 なるほど、分からん。だが、やはりその二人はかなりの手練れなのは分かる。〈奴ら〉の頭を正確に撃ち抜き、何回も襲われても退かない不屈の精神。今まで何度も修羅場を潜ってきたことのだろう。

「うーん、金髪でイケメンのアメリカ人ねぇ……しかもここまでB.O.W.の対処が上手いとなると……」

 黒瀬が何やら考え込んでいる。

「心当たりが?」

「心当たりはあるっちゃああるけど……」 

 黒瀬は険しい表情で答えた。危険な人物なのか?

「クロセ、コムロ、ヤバイよ」

 ソフィアの緊迫した声に気付き、周囲を確認する。小室たちはいつのまにか大量の〈奴ら〉によって囲まれていた。

「なぁ、小室。こいつら俺たちを食べたいんだって」

「そうか。悪い子にはお仕置きしないとな」

 小室は素早く引き金を引き、ショットシェルが〈奴ら〉の肉を引き裂いていく。黒瀬も動き出し、小室とは反対側で戦いはじめた。木刀による打撃と投げナイフで瞬く間に敵を倒していく。その光景にソフィアはただ口を開き、唖然とするだけだった。

「よし、終わったな」

 戦闘終了の合図。十体を優に越える化物は、二十秒もせずに男二人に倒された。

「おにーさんたちも相当な化物だね。ただの大学生と言われても信じられないよ」

 ソフィアがそう呟いた。それを聞いていた小室も納得……というわけじゃないが、普通とは違うことは理解していた。

 あの日、“友人”を手に掛けた日でさえ、小室は人間として至って普通の感情が心の中でうづめいていたが、それ以外は何ともなかった。〈奴ら〉の頭を吹き飛ばし続け、普通の生活に戻ってもPTSDも何もない。夢に時々出てくることもあるが、それはただの夢であって、怖いなぁとしか感じなかった。

 そういうことも踏まえて、小室は自分を〈異常者〉だと、別の意味で人間ではないと感じていた。

「小室、ソフィア、来てくれ」

 黒瀬が進んだところに小室たちも行くと、そこには三メートルを越える大きな鋼の門が待ち受けていた。

「開かないみたいだ。小室、来い」

 黒瀬は門のある反対側を向き、両手を重ねて腰を低くした。

 どうやらこの門を飛び越えさせるつもりらしい。

「行くよ」

 小室は黒瀬目掛けて走り、その足を黒瀬の手に乗せた。瞬間、体全体が浮遊感に襲われる。

「う、うわぁ!?」

 門の向こう側まで飛び越え、着地と同時に受け身と取った。

「大丈夫だ。行けたぞ」

 小室は門の向こう側にいる黒瀬に無事を伝えた。

「じゃあ、ソフィアを投げるぞ。キャッチしろよ」

「え? ――てぎゃあ!?」

 門を飛び越えてくるソフィアをキャッチする。

 ソフィアでも四十キログラムはあると思うが、それを三メートル上に投げるとは…… 

(あれ? でも黒瀬はどうやってここに来るんだ?)

 誰も黒瀬を手助けできる者はいない。流石の黒瀬でも三メートルジャンプすることなど――

「落ちてくるよー」

 そんな気の抜けた声と共に黒瀬が真上から落ちてきた。

「どぅわ!?」

 小室は咄嗟に避ける。

 黒瀬は立ち上がり、服を叩いて砂を落とす。

「あの……黒瀬さん? 本当に三メートルジャンプしてきたのですか?」

 小室は恐る恐る聞いてみた。

「そんなわけないじゃん。門を垂直に走ったんだよ」

 それでも凄いんですけど……。小室はまだまだ黒瀬に驚かされる。

「うぃ~、気持ち悪い……」

 ソフィアはぐらぐらと揺れだす。黒瀬に無理やり投げられ、気分を悪くしたみたいだ。

「大丈夫か?」

 修羅場を潜ってきたソフィアにも、人の手によっげ三メートル上空に投げられたことはないだろう。

「大丈夫、大丈夫。すぐに治るよ」

 ソフィアは深呼吸をし、酔いをおさめる。

「よし、さっさとハヴィエの元に向かうとするか」

「……そうだな」

 それにしてもハヴィエは何故B.O.W.をこんなに…… 

 ハヴィエの娘、マヌエラが関係しているようだが、実際に聞いてみないと分からない。

 小室はショットガン、ソフィアはハンドガン、黒瀬は右手に木刀、左手にダガーナイフを構えて進む。敵の本拠地と言っても過言ではない。

 ソフィアは、自分の目的を果たすために途中で別れた。

 地下まで行くと、誰かの歌声が聞こえてきた。

「歌……?」

 その声は美しく心を安らかにさせる。アカペラ……ということは誰かが近くで歌っているということだ。

「黒瀬!」

「行くぞ」

 小室たちは走り出し、歌声のする方に向かう。

 広い部屋に入ると、そこには二足歩行の大型のB.O.W.と二人のアメリカ人、そして歌う女の子。

「誰だ!?」

 アメリカ人の一人、金髪のオールバックの男が小室たちに銃を向ける。

「リョウか!?」

「レオン!」

 黒瀬とレオンと呼ばれたアメリカ人は互いに駆け寄り、抱きついた。

「ったく、何で俺たちはこんなに会うんだよ」

「さぁな。それよりも……」

 大型B.O.W.は、純白のワンピースを着た女性の歌を聞いているかのように静まり返っていた。

「どういうことだ、レオン?」

「分からない。だが、さっきまで暴れていたはずなのに、マヌエラの歌を聞いたとたんああなった」

 マヌエラ……確かソフィアが言っていた。ハヴィエ・ヒダルゴの娘、マヌエラ・ヒダルゴ。

 マヌエラのワンピースは血で汚れ、右腕には包帯を巻いていた。その歌声に聞き惚れていると、マヌエラは気を失ったかのようにパタリと倒れた。

『オオオオオオ!』

 怪物は暴れ出し、側面から伸びている触手で小室たちを攻撃してくる。

「リョウ、話は後だ。化物を倒すぞ」

「分かった。小室も頼む」

 黒瀬はダガーナイフを投げ出した。

「お、おう!」

 小室はビビり気味な返事をし、ショットガンで怪物の身体を抉っていく。

 レオンともう一人のアメリカ人も応戦し始めた。黒瀬は触手攻撃をさせないように刀を抜き、その跳躍力で怪物に飛び乗って触手を斬り始める。

「レオン、あの日本人は何者だ!?」

「B.O.W.ハンターと言った所だ。彼もラクーンシティの生き残りだ」

 小室は、自分の身体を貫こうとする触手を避け、ありったけの弾丸を怪物に喰らわせる。怪物は痛そうに悲鳴をあげるが、それでも小室の引き金を引くのを止めない。

 しばらくすると、その巨体が床に倒れ、ずずーん、と重たそうな音をあげた。

「やったか!?」

 怪物は動かない。小室は安心したせいで、全身の力が抜けそうになったが、まだ肝心のハヴィエを見つけていないことを思い出し、頬を叩いた。

 小室たちとアメリカ人二人、意識を取り戻したマヌエラが一ヶ所に集まった。

「リョウ、何故こんなところに?」

 レオンがホルスターに拳銃を納めながら言った。 

「俺と小室はB.O.W.の手懸かりを探しにここまで来たんだ。レオンは?」

 黒瀬も刀を鞘に納める。

「俺とクラウザーは、ハヴィエの確保をしに来たんだ。アンブレラと接触した情報が入ったからな」

 どちらも似たような動機で、最終目的は同じだった。

 

 

 レオンは、小室たちに今までのことを詳しく話した。

 ハヴィエの娘、マヌエラは死亡率百パーセントの風土病にかかり、ハヴィエはそれを治すためにアンブレラと接触、マヌエラを唯一治せるであろう『t-Veronicaウィルス』をマヌエラに投与した。しかし、その『t-Veronicaウィルス』は普通なら暴走するはずだが、マヌエラと同じ年齢の少女を拐い、その少女の臓器をマヌエラに移植したおかげで、風土病で死ぬことなく、怪物にもならないでいる。

 ハヴィエは、一人の娘を助けるために大勢の人間を犠牲にした。気持ちは分からないくもない。だが、ハヴィエのいけないところは、ウィルスに頼ってしまったところだ。

「ハヴィエを確保しよう。それで全てが終わる」

 小室たちが部屋から出ようとすると、怪物が最後の力を振り絞り、トゲをジャック・クラウザーへと飛ばした。

「うぐっ!?」

 クラウザーの左腕にトゲは突き刺さり、一瞬呻き声をあげたが、その手にしているハンドガンで怪物を撃ち続けた。

怪物は倒れ、その最後に涙を流したように見えた。

「お母……さん?」

 マヌエラは静かに怪物に近寄った。

「母親だったのか……」

 レオンの話によると、マヌエラの母も風土病にかかり、死んだらしい。実際には怪物にして生かしていたのか。

 ずうううん、と小室たちがいる部屋が揺れだした。

「なんだ!?」

 いや、ここだけではなく、辺り全体が揺れている。

「中にいると危険だ。外に出るぞ」

 クラウザーはトゲを腕から抜き、簡単な止血を行う。

「行くぞ」

 五人は地下道を駆け抜け、外に出る。そこは、小室たちが飛び越えた門の近くだった。

「なんだよ……あれ」

 小室はあまりの光景に絶句した。

 全長二十メートルを越え、蜘蛛のような脚に、胴体の先には恐竜の顔の骨のようなものが出ている。

「なんてデカさだ!」

 化物はその巨大な脚を振り、攻撃してくる。

「全員伏せろ!」

 咄嗟にしゃがみ、攻撃を回避する。

『素晴らしい!』

 化物から人間の声が響く。

「お父さま!?」

「こいつが!?」

 マヌエラの父、ハヴィエ・ヒダルゴはこんなにも変わり果ててしまった。

『ウィルスの力がこれほどとは……マヌエラ、おいで。苦しみを取り除いてあげよう』

(ウィルスに取り憑かれた者の姿……)

 ハヴィエは、脚や触手を使い、小室たちを追い詰めていく。

「くそ、でかすぎるぞ!」

 避けるのに集中し過ぎて肝心の攻撃が出来ない。何か妥協策があればいいが。

「これ以上、他人を犠牲にしてまで生きるのは嫌……」

 マヌエラはそう呟き、今まさに振り下ろさんとするハヴィエの脚の下へと向かっていった。

「不味い!」

 小室は止めようとするが、それよりも早くレオンが動き、マヌエラを掴んでギリギリでかわす。だが、その避けた先にも脚が振り下ろされようしとしている。

「レオン!」

 レオンとマヌエラの身体を踏み潰そうとする瞬間、マヌエラの包帯に巻かれた腕から炎が巻き上がり、脚を受け止め、弾き返した。

「なんだ!?」

「ベロニカ・ウィルスの感染者の血は酸化すると燃えるんだ。だが、人間の姿を保っていられるとなると……」

 レオンとマヌエラは体勢を立て直す。

「脚の関節を狙え!」

 その言葉を聞き、小室は残弾五発を撃ち始めた。五発で脚一本を破壊できたが、残りはまだまだある。弾がないショットガンを捨て、ホルスターから二丁のハンドガンを取り出し、脚の関節に撃ち続けた。

「私もやるわ!」

 マヌエラは腕から血を放つ。血はすぐに燃え始め、ハヴィエの身体を燃やしていく。

「よせ! 血を使いすぎるな!」

 マヌエラはレオンの制止を拒み、血を放ち続ける。その顔は苦しそうだ。

『グオオオオ!? ダメだ! 私を殺してくれぇぇ!!』

 ハヴィエはウィルスを制御できなくなったのか、呻き声をあげる。

「おにーさんたち、これを使う?」

 今まで行方を眩ましていたソフィアが、黒瀬に向かってロケットランチャーを投げる。黒瀬はロケットランチャーをキャッチすると、三十メートル先で戦っているレオンに投げた。

「レオン、使え!」

 レオンはロケットランチャーを受け止め、構える。ハヴィエの頭を狙い、放つ。爆炎とともにハヴィエは倒れ、直後にその身体は発火し始めた。

「終わったのか……?」

「これがウィルスに頼った奴の末路か……」

 黒瀬は苦い表情をして、刀を納めた。

 

 

 小室たちは、レオンたちを回収に来たヘリに乗せてもらい、その場を後にした。

 

 

「死ぬべきだったわ、父と一緒に……」

 ヘリの中でマヌエラが言った。

「死ぬべき人間など一人もいない」

 レオンは続ける。

「それに君には生きる義務がある。体の中の少女たちのためにも……」

 マヌエラは静かに頷いた。

 

 

 

「じゃ、約束の五百万」

 後日、黒瀬はソフィアとの約束を守り、空港の駐車場でお金を渡した。

「はぁ、儲けはこれだけか……」

 ソフィアは大きな溜め息をついた。それもそのはず。ハヴィエの屋敷で大量の宝石を盗んだのはいいが、最後に小室たちとともに軍のヘリに乗ってしまったことにより、基地送りにされ、宝石は証拠品として没収された。

「良いじゃんか。五百万もあるんだから」

「仕方ないか」

 ソフィアはバックに五百万を入れた。

「黒瀬、そろそろ時間だぞ」

「ああ」

「じゃ、いつかまた会えるといいね」

 ソフィアと別れ、小室たちは飛行機に乗った。

 

 

 

 ウィルスは増殖を続ける……形を変え、強さを増しながら……

 根絶されるその日まで、人の体の中で、人の心の中で……

 

 

 

「黒瀬、マヌエラはどうなったんだ?」

「さぁな。もう臓器の移植は必要ないらしいが、どう扱われるかは合衆国政府次第だ」

 マヌエラはアメリカ合衆国政府の監視下に置かれた。これからマヌエラはどう暮らしてくのだろうか。一生監禁生活なのだろうか。小室には分からない。

 

 

 だが、もしまた会えたなら、あの歌を聞かせてほしい、そう思った。  

 

  

 

 




次回は、6章第一部完結編となります。
1章以降登場していなかったキャラやバイオ0のあの人も登場予定。

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