バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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30話 放水施設

「……凄いな」

 小室は、その光景につい口をこぼす。

 川を上り、その先にはバカでかいダムが建っていた。小室はこれほど自然に囲まれた大きいダムを見たのは初めてだった。

「あれがハヴィエダム。ダムを越えればハヴィエの居城だよ」

 ソフィアはハンドガンの残弾を確かめながら言った。

「て、ソフィアも行くのか!?」

「もちろんだよ。あの村にいたのもハヴィエの居城に行くためだったのさ」

 あのとき、ソフィアがいなかったら小室は今頃カエルのお腹の中だっただろうか。

「なんで?」

「ハヴィエの財宝目当てだよ。ハヴィエは飛んでもないほどの金を持っていることで有名なんだ。宝石の十個や二十個……」

 それは情報屋ではなく、泥棒なのでは? と小室は思うが、口には出さない。

「じゃあ、一緒に行くか?」

「嫌だね。どこの軍人とも分からない人に付いてくのは危険だからね」

(軍人じゃなんだけどなぁ)

 小室たちの姿を見れば、軍人と思われても仕方がない。日本の大学生と言っても信じないだろう。約一名、明らかに装備がおかしいものもいるが。

 黒瀬はボートを岸に止めた。

「んじゃ、ありがとね。無事生きてたら空港で会いましょう。そこで五百万払ってね」

 ソフィアはそう言って、水路を駆けていった。

「黒瀬、良かったのか?」

 彼女一人では危険だ。まだ子供のようだったし。

「いちいち他の奴の面倒を見てやるわけにもいかないからな。……それより、先にここに来た奴がいるみたいだ」

「……ああ」

 小室たちが乗ってきたものとは別のボートが停められてあった。

「ソフィアが話していたアメリカ人のことか?」

 ソフィアが金髪アメリカ人二人組の事を話していた。ハヴィエの娘であるマヌエラを連れて上流まで上ったらしい。「その可能性が高い。用心しろよ。撃たれるかもな」

「嫌だな。出来れば会いたくないけど……」

 とは言っても、こちらの目的地もあちらの目的地もハヴィエの居城だろう。せめて敵では無いことを祈るだけだ。

「それにしても……でかいな」

 小室はダムの大きさに再び圧倒される。

「どうする? 中に入るか?」

「それ以外にどうやって向こう側に行くんだ?」

「ナイフを壁に刺して上る」

「…………」

 確かに黒瀬なら出来るだろうが、小室には到底そんな力はない。

「普通に中から行きましょう」

「オーケー」 

 小室たちは水路を進む。ダム、といういうこともあって、水の流れる音が聞こえてくる。

「警戒しろよ。B.O.W.が潜んでいるかもしれない」

「ああ」

 小室は頷き、気を緩めず辺りを警戒する。〈奴ら〉もB.O.W.も神出鬼没、いつどこから襲ってくるか分からない。

「来るぞ……!」

 黒瀬がダガーナイフを抜き、前方に構えた。小室もショットガンの銃口を前方に向ける。黒瀬が感じていた通り、〈奴ら〉が迫ってきていた。

 黒瀬が手に持っているダガーナイフを三本投げる。投げられた三本のダガーナイフは、真っ直ぐ飛び、最前列にいた〈奴ら〉の頭に突き刺さった。

「次は僕の番だな」

 スコープの中に〈奴ら〉を四体納め、引き金を絞る。発射された20ゲージ弾は四体を吹き飛ばした。

「小室、突破するぞ」

「おう!」

 小室たちは〈奴ら〉の中心を突破する。ショットガンを棍棒代わりにして〈奴ら〉の頭を潰し、水路を駆けていく。出会ったら殲滅、はいちいち出来ない。弾もなくなり、体力も削がれていくだけだ。

「来るぞ! フロッガーだ」

 フロッガーがピョンピョンと跳び跳ねながらこちらに向かってくる。

「蛙はお家に帰る!」

 小室は駄洒落を言ってフロッガーを吹き飛ばした。

「小室、寒かったぞ」

「悪いな!」

 恥ずかしい気持ちを晴れさせるように、もう一匹も吹き飛ばす。

「ったく、こんなにB.O.W.を買っているなんて凄い金持ちだな!」

 手を休めずにフロッガーを撃ち落としていく。

「そりゃこれほどのダムを造る奴だ。麻薬で相当稼いだんだろうな!」

 小室たちは順調にB.O.W.を倒していくが、倒していく度に数が増える。

「小室、弾は大丈夫か?」 

「まだあるけど、こんなに相手をしてたら直ぐになくなる」

 ショットガンの残弾は……二十発ほどだ。

「ナイフでも使えばどうだ?」

「カエルに接近戦をするのは黒瀬ぐらいだろ」  

 黒瀬は飛びかかってくるフロッガーを木刀で受け流し、頭を渾身の一撃で叩く。

「そうかもな」

 そう答え、木刀に着いた血を振り払った。

 小室たちは、B.O.W.の群れを駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 ダムから抜け出すと、突然小柄な人間が小室たちの方に飛んできた。

「小室、キャッチだ!」 

「うおおお!?」

 小室に飛んできた人間を両手でキャッチする。小柄なだけあって、予想よりも軽かった。

「ソフィア!」

 両手で抱えた女の子は途中で別れた情報屋、ソフィアだった。

「あいつ、……強い」

 ソフィアが指を差したそこには、簡単に言うと、カマキリ人間がいた。ヤゴとカマキリを合わせたような人型の怪物。腕はカマキリのように鎌状になっている。

「あいつは……プレイグクローラーだな。利用価値はそれほどないから、全部廃棄されたかと思ってたんだが」

 黒瀬は冷静に答え、溜め息をついた。

「厄介な事に変わりはない。気を付けろ」

 小室は頷き、抱えていたソフィアを横たわせた。

「俺が接近して攻撃する。小室はハンドガンで援護を頼む」

 黒瀬は木刀を右手で持ちながらカマキリ人間の側面に接近する。注意をこちらに惹き付けようと、ホルスターから『グロック19』を抜き、カマキリ人間に撃つ。カマキリ人間は腕の鎌で攻撃を防ぎ、それほどダメージは通っていないように見える。だが、注意を惹き付けることに成功した。

 黒瀬は難なくカマキリ人間に近づき、回り込むように一回転、遠心力を活かした一撃をカマキリ人間の背中に叩きつけた。

『――――!!?』 

 カマキリ人間は痛みに悶絶しているかのように暴れだした。鎌を振り続け、接近させるのを許さない。

「オーケー、それなら……」

 黒瀬は木刀を腰に直し、カタナ――日本刀を鞘から抜いた。一呼吸おき、カマキリ人間の動きを見極めたかのように

刀を二回、カマキリ人間の両肩に振った。カマキリ人間の両腕はボトリと落ち、そして本体も地面に崩れ、動かなくなった。

 ビューティホー、それだけの言葉で充分だった。

 黒瀬は刀を斜めに振り、血を振り払ってから鞘に刀を納めた。

「いや~、強かった」

 体を伸ばしながらをしながら黒瀬は言った。

(二十秒もかかっていないんですけど……)

 多分、一撃で倒せなかったのが強かった理由だろう。それでも三撃で倒したわけだが。

 

 

 

 

 

 

「う……ん」

 ソフィアは目を覚ます。静かに身体が揺れ、暖かく感じた。意識がハッキリすると、目の前には男の背中があった。おんぶされているのだ。

「起きた?」  

 ソフィアをおんぶしている男が話し掛けてきた。

(何でおんぶされてるんだ……?)  

 ソフィアは記憶を辿り、その理由を探る。

(そうだ。あのカマキリ人間にやられたんだ)

 B.O.W.やゾンビを退け、逃げるようにダムから出て、ひと安心したところにあのカマキリ人間が襲いかかってきたのだ。そこから記憶がない。気絶したところをこの男たちに助けられた……といったところか。

 隣を見ると、腰に木刀とカタナを帯刀している男も歩いていた。見るからに変な奴だが、ソフィアの情報では、現代でも日本人は戦闘にカタナを使うと聞いている。何とも非効率だと思うが。

「おにーさんたちって何者なの?」

 そんな質問をしてみる。もちろんちゃんとした返事が返ってこないことぐらい予想している。

「ただの日本人大学生だよ」

 ソフィアをおんぶしている日本人が答えた。

「大学生ねぇ……」

 二人とも顔は若く、大学生でも通じるだろうが、ソフィアは今までこんな大学生を見たことがない。

「本当の事だよ。信じられないだろうけどね」

「…………」

 ソフィアは無言で男の背中から降りた。

「もう大丈夫なのか?」

「ええ。おにーさんたちの名前は?」

 そういえば聞いていないことを思い出した。

「クロセ・リョウだ」

「コムロ・タカシ、よろしく」

 二人は簡単に自己紹介を済ませた。

「――見えたぞ」

 クロセがストップの合図を出す。

 クロセが言うように、ここからハヴィエの居城が見えていた。

「あそこもB.O.W.の巣窟か?」

 コムロは双眼鏡で確認する。

「多分な。ソフィアも付いてくるか?」

「もちろん。アタシの目的はハヴィエのお宝だからね」

「じゃ、行くぞ」 

 クロセは木刀を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 




あと1、2話で5章終了。
6章も小室くんとオリ主が主人公になる予定です。

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