バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今回で4章最終話です


28話 沈没

 リョウSIDE

 

「さて……」

 船の揺れが止み、アンブレラの兵士たちが体勢を立て直す。

 後方からは、さっきの爆発の影響で黒煙が吹き上がっていた。

 息を整え、ナイフを再度構える。さっきは相手が一人だったから良いものの、今は五人に増えている。俺でも五人同時の一斉射撃など防げはしない。近くに障害物もなく、隠れる場所がない。

「リョウ~」

「…………」

 何故かユーチェンがこの場に残っていた。レオンもバリーも存在を忘れていたのだろうか。

 俺はユーチェンを抱え、B.O.W.を吹き飛ばしたときに空いた穴にユーチェンを投げ込む。

「ぎゃっ!」

 ドスン! と何とも痛そうな音がしたが、気にしない。どうせ死にはしないんだ。一番心配なのは俺だ。訓練された兵士五人を同時に相手をしたことなど今までない。しかも、不意打ちではなく、真正面だ。

 リーダーらしき人物が指で指示し、五人の中の二人がナイフを抜いて、俺に近づいてきた。

 弾をケチりたいのかは知らないが、こちらとしては好都合だ。二人も倒せるんだからな。

 アンブレラの兵士二人は、僅か二メートルほどまで近づいてきた。フルフェイスヘルメットのせいでどんな表情をしているのかは分からないが、どうせ笑っているのだろう。

 瞬間、正面にいる兵士が俺の首元目掛けてナイフを振る。表情が分からないので一瞬油断したが、ギリギリのところで身体が反応し、背中を反って避ける。避けただけでは終わらず、体勢を立て直す勢いでヘッドバッドを敵のヘルメットに喰らわせた。

「いてぇ……」

 流石はヘルメット、硬い。目から少量の涙が出てくるが、何とか堪える。

「貴様……!」

 今の光景を見ていたもう一人の兵士が俺にナイフで斬りかかるが、慣れた手つきでその腕を掴み、くるりと回して床に叩きつける。倒れた兵士の胸を踏みつけ、とどめをさした。

「構え――」

 リーダーらしき兵士が、俺を危険だと思ったのか、残りの三人で銃を向けた。流石に俺でも三人の一斉射撃は捌ききれない。倒した二人の兵士から、アンブレラのマークが入ったアサルトライフルを取り、横一列になっている左右の兵士に銃を投げ付ける。投げられた銃はくるくると回転しながら飛び、真っ直ぐ狙いをつけた目標へと向かう。

「ぎゃ!」

「くっ!」

 左の敵には当たったが、右のやつはしゃがんで避けた。だが、隊列が崩れた事には代わりはない。

 俺は全力疾走し、敵との間合いを一気に詰める。

「くそ!」 

 真ん中にいたリーダーが一人で銃を撃つ。俺は致命傷になる部分の弾をナイフで弾き、距離が三メートルになると、スライディングで距離を詰め、リーダーに足を引っ掻けて転ばす。立ち上がり、銃の投擲を避けた兵士に接近戦を仕掛ける。相手はナイフを抜く暇もないと察し、素手で襲い掛かるが俺には通用しない。裏の太ももにローキックをかまし、膝をついたところで、その顔に回し蹴りをいれた。

 振り向き、残りの二人と対峙する。リーダーは銃床で鋭く突いてくるが、それを受け止め、足を踏みつける。表情は見えないが、苦痛に歪んだ顔をしているんだなと予想がついた。リーダーは痛みのあまり、銃から手を離す。俺はその銃をリーダーの顔を目掛けてフルスイングした。リーダーは床に倒れこみ、ピクリとも動かない。

 最後の一人、投擲された銃を喰らって弱っている兵士の側面に回り、肘で首を絞めて壁に投げ飛ばした。

「よし、終わり!」

 自分としては百点満点だな。一分以内に敵を全滅させることができた。

 俺は倒した敵からアサルトライフルと手榴弾を取る。

 こいつらが何故現れたのか、どうやって現れたのかを知る必要がある。

「ユーチェン、これで身を守っといてくれ」

 ユーチェンが隠れている穴の中に銃を投げ込み、俺は走り出した。

 近くからヘリの音はしない。となると可能性は一つ。空からではなく、海から。船、または潜水艦で来たのだ。サイドデッキから海を覗くと、予想通り、潜水艦が海面に上がっていた。潜水艦の甲板にはアンブレラの兵士二人が見張っている。

 潜水艦の先から、ワイヤーがサイドデッキまで掛けられている。兵士たちはあのワイヤーでのぼってきたのだろう。

「たったの二人ね……」

 好都合だ。見張りを倒して、さっさと潜水艦を制圧するか。

 海面からここまでの高さは五十メートル以上、ワイヤーを伝って真正面から行くと蜂の巣にされるのは目に見えてるからな。

 俺は後ろに下がり、走り出した。

「うおおおおお!!」

 勢いを落とさず、船から飛び降りる。高さ五十メートルもあってか、流石に身震いしたが、もう落下は止まらない。潜水艦の甲板に着地すると同時に受け身を取り、衝撃を減らす。

「な、なんだ、貴様!?」

 アンブレラの兵士もいきなり落ちてきた俺にはびっくりしている様子だ。

「さよならだ!」

 俺は銃を兵士に向かって投げる。それと同時に走り出し、ピンを抜いていない手榴弾をもう一人に向けて投げた。

「う、うわぁぁ!」

 兵士はあまりに驚き、海に飛び込んだ。

「ええ~?」

 作戦ではびっくりしているところで殴りかかるつもりだったんだけど、まぁ、いいか。

 俺は投擲を喰らって怯んでいる敵の胴体を二発殴り、さらにぐらついたところで足を払うように蹴った。敵はくるりと半回転し、頭を硬い甲板にぶつけた。

 さて、この調子で制圧しますか。

 

 

 

 

 

 難なく潜水艦を制圧することに成功し、俺は潜水艦の艦長を椅子に縛っていた。

「何から聞こうかな?」

 うーん、と考え込む。一番重要なのはやっぱり……

「なんでこの船に来た?」

 あの新型B.O.W.の回収が目的なのだろうか。

「誰がガキにそんなことを教えるか。拷問でもしてみればいい」

 艦長は強気で言った。どうやらガキだと思って俺を舐めてるらしい。

「じゃ、拷問しま~す」 

 俺は腰からサバイバルナイフを取り出した。

「分かった! 言う! 止めてくれ!」

「……………」

 つまんな。

「新型B.O.W.の回収だよ! 見ただろ、あの娘を!」

「娘……?」

 ルシアの事か?

「娘の回収のために来たんだよ!」

「新型B.O.W.はあの大男じゃないのか?」

 あいつはどう見ても新型のバケモノだ。

「あいつも新型B.O.W.であることに間違いないが、あの娘が我々の狙いである新型B.O.W.なのだよ」

 なるほど、つまりはルシアを回収するためにあの大男をこの船に送り込んだってわけか。

 だが、まだ謎が残る。

「大男はどうやってあの船に乗った? あれじゃ直ぐバレるだろ」

 どう考えてもあの姿のままじゃ乗り込めない。

「言っただろう。奴も新型B.O.W.だ。t-ウィルスとG-ウィルスを何度も投与した結果、偶然にもあのような怪物が生まれたのだ。Gは質量保存を無視することが出来るほど強力なウィルスなのだよ。あの怪物は人間に変身することも出来る」

 うぇ、嫌だなそれ。あんなバケモノが人間みたいになるなんて。

「じゃあ、なぜルシアが新型B.O.W.なんだ? ルシアからは何の敵意も感じなかった」  

「今はな。娘の体内には貴様が見たB.O.W.の胚が植え付けられているのさ。あと十日もあれば彼女の身体を食い破り、新たな生物が生まれる。そのB.O.W.を教育すれば、我々の命令を何でも従う最強のB.O.W.になるのだよ。君には分からんだろうがね」

 うん、分からん。

「それを止める方法は?」

「誰が言うものか」

 ここまで言ったんだから良くない? 

 俺は再びナイフを向けた。

「あのアタッシュケースの中にワクチンが入ってます」

 机の上のアタッシュケースを開ける。中には、書類と一本の注射器が入っていた。注射器には『DEVIL』と書かれてある。

『この注射器は、万が一『ルシア』から生まれるB.O.W.が暴走してしまった場合に使用を許可する。だが、このワクチンを使うのはあくまでも最終手段である。可能な限り、捕獲されたし』

 と書類には書かれてあった。

 これをルシアに打てば、B.O.W.の胚を殺せるかもしれない。

「じゃ、艦長、また来るわ」 

 俺は注射器をポケットに入れ、その場を後にする。

 潜水艦から出る途中に、ある武器を見つけた。

「…………」

 ロケットランチャーだ。こりゃ、持ってくしかないな。

 

 

 

 

 

 

 レオン&バリーSIDE

 

「……泣けるぜ」

「サイアクだな」

 エンジンルーム周辺は火の海になっており、凄まじい熱気と熱風が吹き荒れる。

 レオンとバリーは設置されている消火器を取り、すぐに消火し始めた。

 辺りの火を消すと奥に進む。

 動力部は無惨に壊され、この船を動かせそうにない。

 レオンは、奥から何かの気配を感じた。ルシアを隠れさせ、バリーにハンドサインを送り、一気に突っ込む。

「なっ!?」

 レオンとバリーが銃を向けた人物は、予想とは全く違っていた。黒髪赤目の少年、クロセ・リョウだ。

「リョウ、先回りしてたのか。驚いたぞ」

 リョウは何も答えず、レオンたちに近づく。

「リョウ……?」

 レオンはリョウから伝わる違和感に疑問を持つが、さほど気にしない。

「ダメよ! そいつから離れて!」

 ルシアが出てきて、必死の表情でレオンたちに訴える。

「? どうしたんだ、ルシア。確かにこいつはおかしいところもあるけど、人間だぜ?」

 次の瞬間、レオンの背中は車にはねられたような衝撃に襲われ、数メートル吹き飛んだ。

(言い過ぎたか?)

 痛みを堪えながら立ち上がり、リョウの方を向く。

「どうやら偽者だったようだな」

 バリーは冷静に判断し、アサルトライフルをリョウに向けた。リョウの身体は次第に大きくなり、あの大男へと変身した。

「……なるほどね、人間に化けてこの船に乗り込んだってわけか」

 確かにリョウがジョークの一つも言わないなんておかしい。

「戻るぞ。ここでの戦闘は危険だ。爆発するかもしれない」

 ここでは跳弾や弾がエンジンに当たり爆発する可能性がある。

 バリーはルシアを抱え、三人で来た道を戻る。大男もレオンたちを逃がしまいと追い掛ける。

「は、バケモノさん、これでも喰らいな!」

 レオンは手に持っているアサルトライフルを大男の腹の穴に投げ込んだ。武器を失いはするが、今追い付かれるわけにはいかない。案の定、大男は怯む。

「今のうちだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 リョウSIDE

 

 俺はロケットランチャーを肩に抱え、船まで戻ってきた。

「ユーチェン、いるか!?」

 呼び掛けると、ユーチェンは俺が投げ込んだ穴から出てきた。

「本当に痛かったんだよ!?」

 ユーチェンは顔を真っ赤にして言った。

「悪い、悪い。てなわけで急ぐぞ」

 俺はユーチェンを連れて走る。

「レオンさんとバリーさんのところ?」

「ああ。あの怪物はまだ生きてる。このロケットランチャーで吹き飛ばしてやるんだよ」

 船の中に入ろうとすると、扉からレオンたちが飛び出してきた。

「次は本物だよな?」

「何のことだ? 見習いエージェント」

「よし、本物だな」

 何のことが全然分からんが、この様子だと逃げてきたみたいだな。

「すぐそこよ!」

 ルシアがそう言うと、大男は床を突き破って出てきた。

「「「それほんと好きだな!」」」

 俺とレオン、バリーが口を揃えて言った。

「レオン、これを使え!」

 俺は肩に抱えていたロケットランチャーをレオンに渡す。

「よし、華麗に吹き飛ばすか!」

「頼むぜ」

 レオンはロケットランチャーを構え、大男に向けて発射した。弾は大男の胸に命中し大爆発を起こす。

 煙が消えると、そこには大男の姿はなく、跡形なく吹き飛んでいた。

「……やったか?」

 決まり文句を言ったが、復活……みたなことは起きない。

 ドォォォォォン!! と後方から激しい爆発音。船が大きく傾き、揺れる。

「まずい、沈むぞ!」

「アンブレラの潜水艦に乗ろう。すぐそこだ」

 俺は道中気絶していた兵士を叩き起こす。

「逃げるぞ!」

「ほんと、優しいな!」 

 全員で船と潜水艦を繋ぐワイヤーを伝って降り、潜水艦の甲板に着地した。

「スターライト号が……」

 スターライト号はタイタニックのように沈んでいく。それは一生に一度も見れないほどの光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、再びアンブレラの兵士を気絶させ、ルシアに『DEVIL』を打った。あの潜水艦とアンブレラの兵士は合衆国政府の手土産となり、ルシアは合衆国政府で検査を受けることになった。その後、どうなったのかは分からないが、シェリーと同じく監禁状態にあっているのだろう。可哀想だと思うが、完全に治ったと言えないルシアを俺たちにはどうすることも出来なかった。

「黒瀬宛に手紙が来てたよ」

 同じ部屋の平野が一通の洒落た封筒を持ってきた。

 封筒を受け取り、中を見る。ユーチェンからの手紙だった。

「そういえば知ってる? あの世界的に有名なピアノ演奏家のユーチェン・ハンが日本に来るんだって。チケット高いんだろうな」

「そうだな……」

 あの後、ユーチェンは合衆国政府の計らいによって、スターライト号にはいなかったことになった。政府の発表では、スターライト号は謎のエンジントラブルによって沈没したことになった。

 手紙を読み終わると一枚のチケットが封筒から落ちた。

「ん? なにそれ」

 平野が拾う。

「ユーチェン・ハンの公演のチケット!? なんで!? どうして!?」

「返せ! オマエにはやらんぞ!」

「どういうことなの!?」

 

 

 

 結局、俺にスターライト号のチケットを送った人物の正体も掴めず、謎が残ってしまったが、こうやって楽しい日々を送ってます。 

 

 

 

 




5章はレオンとクラウザーが南米に行く奴です。オリ主と小室が主人公になる予定。

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