バリーSIDE
バリーはレオンとルシアを見つけるため、船内を探し回る。
(これは手が掛かりそうだ)
この広い船内でどこにいるのかわからない二人を探さなければいけない。しかし、新型B.O.W.はルシアを拐ってどうするというのか。大西洋上にあるこの船に逃げ場はない。まさか、救命ボードを使って逃げるのだろうか。バリーには想像もつかないが、何らかの手が打ってあるのだろう。
ゾンビをスニーキングキルしながら、狭い通路を進んでいくと、床に穴が空いている場所を見つけた。
「あれは……?」
さっき、大男が落ちてきた穴ではない。あれは全く別の場所だ。
バリーは気になり、穴の中をライトで照らす。
穴の下には、皮のジャケットを着たアメリカ人が倒れていた。その顔には見覚えがある。
「レオンか!?」
レオン・S・ケネディ、地獄と化したラクーンシティをクリスの妹、クレアと少女シェリー・バーキンとともに脱出した男だ。シェリーがウェスカー率いるH.C.F.に拐われたときもレオンや他の戦友とともに共闘し、救出した。
「う、うう……」
バリーの声に気付いたのか、レオンは呻き、目を開く。
「あんたは……バリーか?」
朦朧とした意識の中でレオンは答えた。
「ああ。バリー・バートンだ。久しぶりだな、レオン」
バリーはリュックからロープを取り出し、壁の出っ張りに引っ掻けて穴の中に入る。
「立てるか?」
「ああ」
レオンはバリーの手を掴み、立ち上がった。
「レオンはなぜここに?」
「任務だ。新型B.O.W.の始末で来たんだが……」
レオンは服の汚れを払いながら答えた。
「バリーは?」
「俺も同じようなものだ。クリスからこの船に新型B.O.W.が潜入すると知らされてな」
バリーとレオンは互いに起きたことを話した。
「ルシアが……あのバケモノはなぜルシアを狙う?」
「分からない。ルシアが何かの鍵を握っているのかもしれないな」
レオンが見つかったのは、ただの偶然にすぎない。ルシアも偶然で見つかる可能性などほとんどないだろう。
「そういえば、リョウと会ったか?」
バリーの耳に驚くべき名前が入ってきた。
「なに!? リョウもいるのか!?」
「ああ。もう別れて随分時間が経つ」
日本人のクロセ・リョウ、ジルたち共にラクーンシティを脱出し、クレアを助けるため南極まで飛び、関東のバイオハザードに巻き込まれた少年。クリスやジルと一緒にB.O.W.を倒したり、バリーの家にも訪れたことがある。
「まさか、リョウもいるとはな……すまない、彼の所在は分からない」
どこかですれ違った可能性もある。
「リョウのことだから無事だと俺は思うね。まずはルシアを捜すことの専念しよう」
リョウの強さはバリーも把握している。
「だが、どこを捜す? この広い船の中だ」
「警備室に向かおう。あそこなら防犯カメラの映像で撮影場所が分かる。警備室に銃や弾薬が置いているのも普通のことだから、弾薬も手に入るはずだ。一石二鳥だぞ」
確かにそうだ。この船の至るところに防犯カメラが設置されているし、あの巨体の大男だ。見つけるのも簡単だろう。しかも、警備室には銃も置いてあるかもしれない。弾が不足気味のバリーたちにはいいこと尽くしだ。
バリーとレオンは、警備室にたどり着き、鍵が掛かっているドアを蹴り破って中に入る。
銃を構え、ゾンビがいつでも襲いかかっても来ていいように警戒したが、あるのは頭を撃ち抜かれた死体だけだった。
その頭を撃ち抜かれている警備員の手には拳銃が握られている。ここに籠城したのは良いが、もう助からないと思い、自殺したのだろう。
「レオン、これを見てくれ」
バリーに呼ばれ、監視カメラの映像に目を通す。映像は何十とあったが、その中からルシアを見つけ出すのは簡単だった。裸の大男なんてそうそういるもんじゃない。
大男はルシアを抱え、どこかを移動している。
「場所はどこだ?」
「サイドデッキだな」
レオンは何故バケモノがサイドデッキにいるのかが気になるが、まずは行動だ。
「行くぞ、バリー」
レオンとバリーは警備室のロッカーの中に入っているアサルトライフルとマガジンを取り出し、飛び出すように部屋を出て、サイドデッキへと向かう。
途中、邪魔になるゾンビの頭を撃ち抜きながらも走る速度は変わらない。それはバリーとて同じだ。二人は訓練を受けており、走りながらヘッドショットを決めることなど簡単である。
リョウSIDE
「うわぁ、雨が降っているな……」
俺とユーチェンは一通り中を探索したが、他に生存者を見つけることは出来なかった。
まだ探索をしていなかった外に出ると、雨がポツポツと降っており、風も少し強い。一瞬、遠くの空が黄色に光り、数秒遅れて雷音が轟いた。
「ぎゃああああ!?」
既に伝統行事と化したユーチェンの叫び声が波の音で掻き消される。ユーチェンは耳を押さえ、床にうずくまっていた。
「こりゃ、嵐が来るな……」
遠くでは空が何度も光り、微かに雷音が聞こえてくる。一時間もしないうちに嵐が来るだろう。
ユーチェンの腕を掴み、立ち上がらせる。
「さ、行くぞ。外を探索できる時間は少ないみたいだ」
それにしてもレオンはどこにいるのだろうか。すれ違ってばっかりなのかもしれない。
俺たちはしばらくデッキを歩き続ける。雨が服に染み込んで重たくなってきた。
「リョウ~、寒いよ~」
ユーチェンは体を震わせる。夏だが、服が濡れた状態でいつまでもいると風邪をひいてしまいそうだ。
タタタン、タタタタタンとすぐ近くから軽やかな銃声が響く。
俺とユーチェンは顔を見合わせる。
「「生存者!?」」
俺たちは息ぴったりに言うと、銃声がした方に走り出した。
バリー&レオンSIDE
「大丈夫か、ルシア!?」
バリーはルシアを大男から取り返し、壁に横たわらせる。
「バリー?」
ルシアはゆっくりと目を開け、バリーの顔を見る。それを見て、バリーはひと安心した。
「良かった。無事だったんだな」
ルシアの身体を見るが、どこにも怪我はない。
「バリー! 手伝ってくれ!」
レオンは一人で大男に対抗するが、それも限界に近い。
「分かった! ルシア、ここにいるんだぞ」
ルシアはコクりと頷く。それを確認したバリーは立ち上がり、アサルトライフルで大男に狙いを定め、引き金を絞る。マズルフラッシュとともに銃口から次々と出る弾丸は、空を切って大男の身体を貫いていく。
だが、大男もやられっぱなしというわけではない。レオンに突っ込み、近接戦を仕掛ける。
「クソ!」
バリーは引き金から指を下ろす。このまま撃てば、弾丸はレオンに当たることになる。
「この!」
レオンはアサルトライフルの銃口を大男の触手が出ている腹の穴に向け、連射する。大男との距離が近いため、緑の返り血がレオンの服に降り注ぐ。
「このジャケット、高いんだぞ!」
こんな時にも冗談は止めず、弾を使いきる。マガジンを交換している時間はない。レオンはアサルトライフルを投げ捨て、太股のホルスターから弾を詰めたハンドガンを取り出し、大男の頭に向けて撃つ。
バリーも何もしないわけにはいかない。ナイフを取り出し、大男の背後に回って両方の膝関節を斬った。
『グオオオオ!』
大男は膝をつく。
「うおおおおお!」
レオンたちとは違う別の方向から、誰かの雄叫びのようなものが聞こえてきた。
「なんだ?」
バリーとレオンは声のする方を向くと、タキシードを着た黒髪赤目の日本人の少年が、時速四十キロメートルもあろうかと思えるほどのスピードでこちらに向かってきていた。
「リョウか!」
リョウは止まらず、その勢いのまま膝をついている大男にタックルを浴びせた。その威力は凄まじく、大男は衝撃で吹き飛び、壁をぶち破った。大男はアメーバのように溶けてなくなる。
「よう、レオン、それにバリー」
リョウは何もなかったかのようにレオンたちに話し掛ける。
「無事だったか、まぁ、それほど心配もしていなかったがな」
レオンはさらっと本音を言った。
「リョウ、久しぶりだな」
バリーはリョウの前に立つ。
「ああ、久しぶり。モイラもポリーも元気?」
「もちろん」
互いに挨拶を済ませたところで、もう一人、レオンたちの元へ駆け寄ってくる人物がいた。
黒いドレスを着ている中国人の女性、レオンは彼女の名前を思い出す。
(確か……ユーチェン・ハンだったか)
彼女の活躍はレオンも知っており、世界で有名なピアノ演奏家だ。
「ちょっと、速すぎるよ!」
ユーチェンは息切れしており、苦しそうに胸を押さえている。運動をしたことがあまりないのだろう。
「ユーチェンが遅いんだよ」
それは違う、とレオンもバリーも思うが口には出さない。
「紹介するよ、こいつはユーチェン・ハン。演奏家だ」
「ど、どうも、ユーチェンです……」
ユーチェンはまだ息切れしている。
「バリー・バートンだ」
「レオン・S・ケネディ、合衆国のエージェントだ」
軽い自己紹介を済ませた後、バリーはルシアの方に近寄った。
「ルシア、目は覚めてるか?」
「ええ、ありがとう、バリー」
ルシアは難なく立ち上がる。先程まで気絶していたはずだが、どこにも異常はないのだろうか。
「レオン、彼女は?」
「ルシアだ、生き残りだよ」
「そうか……」
リョウは落胆したような顔をした。レオンと同じ気持ちで、あまりに生き残りが少ないのに驚いていようにも見える。だが、あれほどのゾンビの量で二人も救えたのだ。喜んではいけないが、やれるだけのことはやった。
「それで、どうするんだ? もうそろそろ嵐が来る。ヘリも呼べないし、救命ボートも使えないぞ」
それがレオンたちに襲い掛かる問題だ。レオンがHQにヘリを寄越すように頼んだが、嵐の影響で明日までは来れないらしい。つまり、レオンたちはあと何時間もこの船に中で待機しなければならない。
「船内に残るのは危険だ。さっきのバケモノは死んだとも限ら――」
バリーの言葉を遮るのように突如、前方からマズルフラッシュが見えた、と思えば何十にも及ぶ弾丸の雨が襲い掛かってくる。
考えるよりも早く、レオンは咄嗟に伏せようとするも、銃から放たれた弾丸は音速を越える。避けれるはずもない。全員、怪物を倒してもう終わりだと思って油断していた。いや、一人だけ、油断をしていない人物がいた。
流れるようなスピードでリョウはレオンの前に出た。その手にはナイフが握られている。この場にいる人間には、リョウが自身の身を盾にしてレオンを守るという行動に出たと思うのかもしれない。しかし、リョウがとった行動は誰も予想していないものだった。
リョウは手に持っているナイフを振り、弾丸を叩き落としていく。ナイフと銃弾が接触し、黄色い火花が散った後、斬られた弾丸はレオンの後方へと飛翔していく。
「なっ!?」
あまりの光景にレオンは絶句した。人間がナイフという、たかが二十センチメートルの刃渡りの武器で、残像を残しながら銃弾を斬っている。レオンは何かの映画でニンジャが銃弾を刀で斬っているのは見たことあるが、もちろんフィクションだと思っていた。だが、刀よりも短いナイフで音速の弾丸を斬るその行為は、紛れもなく現実だ。
レオンもリョウが強いことはラクーンシティのときに知っていた。あの街を力なくして抜け出すことは出来ない。その後も、シェリー救出作戦のときはハンターやH.C.F.の兵士を次々に倒していったことに唖然したし、トウキョウでもネメシスとタイマンを張っていた。それほどの力を見て、ただの子供ではないと思ってはいたが、目の前では銃弾をナイフで斬るという暴挙を見せつけられている。一体、どれほどの身体能力、集中力、反射神経を備えているのだろうか。しかも、銃弾を斬る、ということは音速の弾丸が目に見えているということだ。リョウの力は人間を越えている。
すぐに銃声が聞こえなくなった。弾が切れたのだ。レオンは、銃を撃った何者かを目を凝らして見る。フルフェイスのヘルメット、防弾チョッキ、各所にプロテクターをしている人間がそこにいた。よく見ると、その肩にはアンブレラのマークが入っている。
レオンはハンドガンを構え、その兵士のヘルメットに狙ってトリガーを絞る。銃口から放たれた三発の弾丸は、兵士のヘルメットに命中した。兵士はマガジンを交換する前にぐらつき、倒れる。
だが、状況を整理する前に奥からアンブレラの兵士が五人現れる。そして、アンブレラのマークの入ったアサルトライフルの銃口をレオンたちに向けた。
絶体絶命かと思われたとき、突如船の後方側から大爆発が起こった。
「うわぁぁ!?」
「うお!?」
船が大きく揺れ、足場がもたつく。レオンたちは倒れないようにバランスを保つ。
「次は何だよ!?」
「場所的にエンジンルームだな。このままじゃ船が沈むぞ」
「それは不味い。俺、泳げないんだよな」
レオンは合衆国エージェントとしてあるまじき発言をした。
「エージェントがそれでいいのか!?」
「泳ぎの練習はしてるぞ。多分、四年後くらいには、湖で追い掛けてくるB.O.W.からもクロールで逃げれるくらいになるな」
「えらく具体的だな」
リョウもレオンも、この場でもジョークを忘れない。
「レオンとバリーはエンジンルームに向かってくれ。あと一回爆発したらすぐこの船は沈んでしまう」
「リョウはどうするつもりだ!?」
「アンブレラの相手をするさ」
レオンは一瞬戸惑ったが、考えている時間もない。揺れが止まればアンブレラの兵士たちは再び銃を向け、すぐに弾丸の嵐が舞い起こるだろう。
「グッドラック」
「そっちこそ」
レオンとリョウは拳を合わせ、レオンとバリー、そしてルシアはこの場を後にし、船内へと戻っていった。
「ここが正念場かな?」
リョウはそう呟いて、ニヤリと不気味な笑みを見せた。
次話が4章最終話が良いなぁ。
そして、4章で初めて主人公が役に立ったよ。次回も活躍してほしいですね。