バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

31 / 117
26話 微かな疑問

 リョウSIDE

 

「ぎゃあああ!」

 いきなりゾンビが現れ、ユーチェンが下品に叫ぶ。

「うるさい……」

 ユーチェンはどうやら怖がりのようだ。ゾンビに会うたびにこうやって叫んでいる。

 とりあえず、その諸悪の根源となっているゾンビを殴り飛ばし、頭を踏みつける。

「なんか……手慣れてるね」

 その光景を見て、ユーチェンが言った。

「俺だって手慣れたくないさ」

 俺はゾンビの相手ではなく、B.O.W.の相手がしたいんだ。ゾンビは前も言った通り、死んではいない。では、奴らは頭の中で何を思っているのだろうか。『助けてくれ』とか『殺してくれ』とか懇願しているかもしれない。それとも何の自我も残っておらず、ただ食欲のために動いているのだろうか。そんなのはゾンビになったやつしか分からないし、分かりたくもない。ただ、俺もゾンビを好きで殺している訳じゃない。

「でさ、こいつらって、映画とかで見るゾンビって奴だよね?」

「まぁ……そうだな」

 ラクーンシティや関東のように表立った事件がありながらも、本当にゾンビを信じている人は少ない。関東でのゾンビは、報道で未知のウィルス感染者と伝えられ、ウィルスに感染すると麻薬中毒者のように理性を失うようだ。そのウィルスを運んでいるのがその感染者なんだけどな。

「……ねぇ、リョウは何でこの船に?」

 ユーチェンが不意に変な質問をしてきた。

「手紙を貰ったんだよ。俺の両親の知り合いらしくて、俺と話したいって。でも――」

 俺は違和感を感じ、言葉を遮った。

「リョウ……?」

「…………」

 俺は、両親の知り合いに会いたいと伝えられ、この船に乗った。しかし、両親の知り合いは不在で、しかも船でバイオハザードが起こった。……出来すぎてないか? 

 推測できるのは、アンブレラが俺を殺そうとこの船に誘き寄せた。――いや、アンブレラなら街中でもどうどうと俺を殺せるだろう。こんなに回りくどいやり方をしなくてもすむはずだ。では何故?

「…………」

 駄目だ、分からん。ただの偶然、というにもやっぱり出来すぎだよな。それに、今まで起こった規模が大きいバイオハザードは、レオンの親友が行ったシーナ島以外のラクーンシティ、ロックフォード、南極基地、関東と全て俺が関係している場所だ。もちろん、俺が知らないところでバイオハザードが起こっているのかもしれないが……。

 やっぱりただ運が悪いだけなのか、それとも誰かに仕組まれているのか。今は分からないが、帰ってからじっくり考えるとしよう。

 ドォォォォン! 

 突如、何かが壁を突き破り、空いた穴から大男が出てきた。

「ぎゃああああ!?」

 またもやユーチェンが下品な叫び声をあげる。

「うっさい」 

 その大男は、明らかに人間とは言いにくく、腹には穴が空いて触手がたくさん出ていた。タイラント系だろうか。

「こいつが新型B.O.W.!?」

 予想ではネズミくらいの小さいやつかと思っていた。てか、何でこんなバケモノがこの船に入れたんだ? 警備が甘すぎるだろ!

「リョウ、どうするの?」

 ユーチェンの声は震えている。本当は今にも逃げ出したいのだろう。

「そうだな……どうしようか」

 ゾンビに会うたびの叫びまくっているユーチェンだ。一人にしたら絶対に死ぬから俺と行動してほしいが、こんなバケモノから足の遅いユーチェンを連れて逃げることは出来ない。リスクは伴うが、ここ狭い通路で戦った方が良さそうだ。

「ユーチェン、下がってろ」

 巨大な人型B.O.W.とのタイマンは何度もやっている。倒しきれたことはないが。

 俺はナイフを逆手にして持ち、腰を落として構える。

「来いよ、デカブツ」

 挑発されたことを悟ったのか、大男は力任せの攻撃をしてくる。あまりに単調な攻撃で見切るのも簡単だ。何回か避けたところで、腹から出ている触手の数本をナイフで叩き斬る。斬られた触手は床に落ち、バタバタと暴れる。少し時間が経てば動かなくなるだろう。

 スライディングで大男の股の間を潜り抜け、すぐに立ってナイフを背中に突き刺し、背中に刺さっているナイフの柄を蹴る。そしてすぐに引き抜き、ダメージを与える。大男の背中から緑の血が溢れ出てきた。

「うへぇ、気持ち悪!」

 緊張感の欠片もないことを言いながら、飾られている高級そうな花瓶のふちを掴み、壁を蹴って跳躍して大男の頭にその花瓶を叩き付けた。花瓶はバラバラに割れ、床に落ちていく。

「よし!」

 小さなガッツポーズを作りながら床に着地し、大男が怯んでいる間に足の腱をナイフで斬る。立てなくなった大男が膝をつき、その顔面の回り蹴りを喰らわせ、吹っ飛ばす。

「行くぞ、ユーチェン」

「え? でもまだ生きてるよ?」

 ユーチェンの言う通り、大男は死んではいない。

「俺じゃ倒せない。今のうちに逃げよう」

 俺とユーチェンは、大男が動けない間にその場を後にしようと後ろを向くと、大男のいた方から大きな音がした。

「なんだ?」

 振り向くと、そこには大男の姿はなく、代わりに床に大きな穴が空いていた。

 

 

 

 

 

 

 バリーSIDE

 

「ここは……レストランか」

 ゾンビの姿は見えないが、ここもひどい惨状で真っ白いテーブルクロスが血で汚れ、この場には清潔感の一文字もない。

「そういえば、ルシアの両親か保護者は?」 

 バリーは、ルシアが一人でいる、という時点で嫌な感じはしていたが、もしものことがあるので躊躇をしたが、聞いてみた。

「両親は死んだわ。研究者だったんだけど、何かの事故で死んじゃったの。親戚に預けられたんだけど、わたしのこと気味悪いって。それでヨーロッパにいる友人の家に預けたいからわたしをこの船に乗せたの」

「そうだったのか。悪かったな、嫌なこと聞いて」

「ううん、良いの」

 しかし、子供を一人でこの船に乗せるとは……その親戚は一体何を考えているんだ? バリーの心の中で激しい怒りが舞い上がるが、今はそんなことに気を使っている場合ではない。早くレオンを見つけ出さなければいけないのだ。

「バリー、奴が来るわ」

 ルシアがバリーの服を掴み、歩くのを中断させる。

「『奴』……?」

 『奴』となんだろうか。バリーは引き金から手を離さず辺りを警戒する。

「バリーがさっき倒したバケモノよ。生きていたんだわ」

 ルシアは真剣な表情と声でそう言った。

「なんだと!?」

 あの大男はアメーバのように溶けてなくなったはずだ。まだ生きているというのか。至るところに目を通すが、あの大男の姿はない。

「ルシア、何故その大男が来ると?」

 バリーは疑問を口にする。

「わたしには分かるの。もう近くよ!」 

 ドォォン! と上の方から大きな音がし、空けられた天井の穴から大男が降ってきた。

「なに!?」

 大男に狙いをつけようとハンドガンを向ける。しかし、引き金を引く前に大男のその大きな腕が横にスイングされ、反応しきれなかったバリーの背中に直撃する。その威力は凄まじく、大柄であるバリーの体は吹き飛ばされ、壁にぶつかった。

「ぐはっ!?」

 肺の空気を全部吐き出し、痛みが全身を襲う。あの直撃を喰らったのだ。骨の一本や二本、折れていてもおかしくない。

「きゃー!」

 大男はバリーを無視し、ルシアに近づく。

「させるか……」

 さっきの衝撃でハンドガンはどこか飛んでいったようで、バリーは愛用のマグナムを取り出す。だが、その時には大男はルシア共々姿を消していた。

「クソ! やられた!」

 自分の情けなさを抑えるように床を素手で殴る。

 あの大男はアメーバのようになっても生きていた。不死身、ということなのか?

 だが、それ以上にルシアに関する疑問があった。何故、大男が来るのが分かったのだろうか。大男が天井から降ってくるまで、バリーには何も聞こえなかったし、何の気配も感じなかった。ルシアには特別な能力が……いや、ルシアが情報にあった新型B.O.W.なのか?

(バカか、俺は……)

 確かに、ルシアの能力や大男がルシアを殺さず、連れ去った理由も気になるが、それは後で聞けばいい。今はレオン、そしてルシアを捜しだし、あの大男から助け出さなければいけないのだ。 

 

 

 

 

 




……とんでもなく強いB.O.W.を出したい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。