二、三章したらまた番外編をやる予定(バイオキャラ多め?)
正月
『明けましておめでとう!!』
0時00分、年が明けた。俺たちは高城の家でどんちゃん騒ぎで飲んで食う。ありすは寝てしまっているが、他の全員起きており、暴れたり誘惑したり何が何だか。
「それにしてもギリギリだったな」
「ほんとよ!」
俺は昨日まで、ヨーロッパの方でB.O.W.の駆除をやっていたのだ。何とか間に合ってよかった。
「黒瀬く~ん♪」
半裸になった鞠川先生が、胸を揺らしながら近づいてくるが、
「ダメです! 小室君の方に行ってください!」
香月に食い止められてしまう。
「え~? でも小室くんの所はもう足りてるし~」
見ると、小室の左右には毒島先輩と宮本が張り付いていた。
「じゃあ、平野君!」
平野は鼻血を出して倒れていた。
「あ~もう、なんでこんなに男性陣が少ないのよ!」
んーまぁ、香月の言う通り、俺たち男の人数に比べて女の人数が圧倒的に多いんだよな。えーと、男が俺、平野、小室で、女が香月、宮本、高城、毒島先輩、鞠川先生、ありす、リカさん、記者さん、3:8とその差は歴然だ。
「ま、別に良いんじゃねぇの? 女が多くても楽しいじゃん」
「そういうことじゃなーい!」
なら、どういうことなのか。分からん。
「黒瀬君、ダーツで勝負しない?」
小麦色の肌の女性が話しかけてきた。その人物は、射撃では警察官トップ5を誇る凄腕の女性、南リカさんだ。
彼女は鞠川先生の友人で、少しだけ休憩させてもらったメゾットのマンションの持ち主だった。床主国際洋上空港でゾンビを殲滅した後、小室たちと合流して、最後に研究所の戦いで空から援護してくれた。
「良いぜ。ダーツは得意なんだ」
バーで良く金持ちのおっさんたちと勝負してたからな。
俺とリカさんの白熱した試合は続いたが、15ラウンドしても決着がつかなかったため、ドローとなった。
一月一日の正午、俺たちは巡ヶ丘市のとある神社に来ていた。大人組は仕事なので、俺の運転で。
「凄い人の多さだなぁ」
「そりゃ正月だし」
人が賑わい過ぎてよう分からん。正月に神社に来る人ってたくさんいるんだなぁ。
とりあえず五円玉を賽銭箱にぶちこみ、二礼、二拍手、一礼の後、心の中で願い事をする。
(……死にませんように)
これ以上の願い事なんかないな。とりあえず死ななければOK
「黒瀬は何を願った?」
小室が聞いてきた。
「死なないように、だな」
「なんだそれ?」
小室は鼻で笑う。これ以上の願い事なんてあるか?
「小室は?」
「僕は冴子が受験に受かりますように、ってお願いしたよ」
あ、そういえば、毒島先輩は大学の受験を受けるんだったな。もうそろそろか。
「全く小室君、そんなことを願わんでも私は大丈夫だよ」
「念には念を、だろ?」
小室と毒島先輩は慎ましく笑っている。なるほど、こいつらが噂に聞くリア充というやつか。
「ありすちゃんは何をお願いしたの?」
「ありすはね、皆といつまでも一緒にいられますようにって、お願いしたんだ!」
ありすは良い子だなぁ。俺もいつまでもありすと居たいよ。
俺たちは次におみくじを引いた。
「やった、大吉だ!」
「僕は吉だな」
「ありすも大吉!」
よし、俺も大吉だな。俺はこう見えて中々運が良いんだぞ?
おみくじを捲り、中身を見る。
「…………」
「黒瀬はどうだった?」
平野が聞いてくる。俺は皆におみくじを見せた。
「マジか……」
まさかの大凶だった。そもそもおみくじに大凶なんてあったんだね。
「なになに? 『今年の夏ごろに死にかけるでしょう』『あなたは死ぬまで不幸が続くでしょう』『親しい友人が死にまくるかもしれません』……悲惨すぎるだろ」
夏ごろに死にかけて、俺が死ぬまで不幸が続いて、親友が死にまくる? どういうこったよ。俺ってこれからそんなに不幸な目に遭うの?
「リョウちゃん、撫で撫でしてあげようか?」
「お願いします」
「ナデナデ」
俺はありすから撫で撫でしてもらうのだった。
リッカーさんの不運
「あ~面倒くさかった」
「全くだ」
小室と黒瀬は、巡ヶ丘市にある大型の病院で検査を受け終わり、帰ろうとしていた。
小室たちは一ヶ月に一回、精神科に行くことを政府から義務付けられている。政府の人間は小室たちがどうやってあの地獄を切り抜けたのか知っているのだろう。人間の形をしたものを何度も殴り、何度も撃ったのだ。そんな人間を野放しにしておくわけにはいかない。
今日は黒瀬以外は用事があり、二人で来ていたのだ。
「小室、このあとゲームセンター行かないか?」
「やだよ。黒瀬がいたら、僕まで出禁にされてしまう」
黒瀬はゲームが得意で、よくゲームセンターで遊んでいる。フィギュアやぬいぐるみなどをゴッソリと取っていくので、店から出禁にされることもしばしば。取ったフィギュアやぬいぐるみは、中古店に売ってお金にしているらしい。
「じゃあ、新しく出来た喫茶店ならどうだ?」
「それなら良いね。帰りにありすにお土産を買っていこう」
小室はありすへのお土産は何が良いのかを考える。先日、黒瀬が一メートル以上のクマのぬいぐるみを渡していたので、お菓子が良いだろうか?
そんなことを考えながら、一階へ繋がる階段を降りようとする。
「ギャアアアアアアア!!」
三階の方から、この世のものとは思えないほどの絶叫が轟いた。
「黒瀬!」
「ああ」
小室と黒瀬は頷き合い、三階への階段を一気に昇った。
階段を駆け抜けた先の左側の通路には、見たくもない光景が広がっていた。人間の皮が剥がれたように全身の筋肉と脳が剥き出しの生物が、鋭い牙と爪で血だらけで倒れている男性を引き裂き、その肉を貪り食っていた。
「なんなんだよ……」
あまりに突然な事で、小室は唖然としていた。左にいる黒瀬の顔は至って冷静だ。まるで慣れているのかのようだ。いや、実際に慣れているのだろう。黒瀬は何度も外国に渡り、B.O.W.を倒しているのだ。
「小室」
黒瀬が口を開いた。
「なんだよ……?」
小室の声は震えていた。怖い。当たり前だ。目の前で人間が人間であった何かに食われているのだから。
「あいつの名前はリッカー。ゾンビの進化系だな。そんなやつがなんでこの病院にいるのかなんて知らんが、バイオテロの可能性が高い。お前は逃げろ」
「嫌だと言ったら?」
バイオテロ、その言葉は何度も聞いた。最近、アメリカやロシアの公共施設に化物が送り込まれ、何十人にも及ぶ命が亡くなっている。だからこそ、小室は逃げたくなかった。逃げたとしても、黒瀬は一人で化物と戦うだろう。あの時からリーダーを任されている小室にとって、仲間を見捨てることなど出来なかった。
「んじゃ仕方ないね。手伝ってもらおうか」
予想とは違い、良い返事が戻ってきた。
小室と黒瀬は身構える。辺りに他の化物は見当たらないが、たがが一体だけ、ということはないだろう。
リッカーは小室たちに気付き、栄養補給を中断する。
「気を付けろ。抗体を持ってないお前には、攻撃を喰らうのは許されないぞ」
「へ、へぇ?」
t-ウィルスの抗体、黒瀬の話によると、日本人の場合は抗体を持ってない割合が多いらしい。黒瀬はリッカーから攻撃されても大丈夫だが、小室はそうもいかない。運良く抗体を持っていた、という可能性など0に等しい。
「来るぞ!」
リッカーは、凄まじい跳躍力で小室に飛び付いてくる。
「うっ!?」
あまりの速さに驚いたが、黒瀬の特訓のおかげである程度は認識出来ていた。リッカーが小室の身体を攻撃する手前、拳を作り、鍛えられた反射神経を存分に発揮して、リッカーの顎にアッパーを喰らわせた。
リッカーは目の前で倒れ、黒瀬は追い討ちをかけるように頭を踏みつけた。
「大丈夫か?」
「ああ」
手にヌメリとした感触が残り、少々の痛みを感じる。だが、外部損傷は一切ない。
「じゃ、次行くぞ」
下の階からいくつもの悲鳴が聞こえる。まだまだ化物は放たれているようだ。本当は心臓が破裂しそうなほどの勢いで鳴っているが、そうも言ってられない。
「さっさとかたずけて喫茶店に行こう」
「こりゃ、誰がやったんだ?」
警察の一人がポツリと言った。
「分かりません。我々が突入した時は既に……」
病院を封鎖し、何十人もの警察が調査をしているが、其処ら中に、頭の潰れた化物の死骸が広がっていた。
「福岡にも化物がいたもんだな」
テロリストによって投入された化物十体は、全て頭を潰され殺されていたのだった。
次回は四章です。豪華客船にレオンさんとバリーさんが乗り込むアレ。