バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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今回で三章最終話と言ったな。あれは嘘だ!


21話 絶望

 レオンSIDE

 

『オオオオオ!』

「おいおい、何だこいつは?」

「完全に化け物ね」

 レオンたちの前に現れたのは、黒いコートに身を包んだ大男。歯茎は剥き出しで、右目は潰れている。肩や首には、大きな触手が巻き付いている。

「撃て!!」

 レオンはハンドガンを二丁構え、化け物に向かって発砲する。リコもフィルムカメラでネメシスを撮ると、肩に掛けられているアサルトライフルで集中砲火をし始めた。

『オオオ……』

 マガジンの中に入っている弾が二人とも尽きた。化け物はそれを待っていたかのように、レオンに殴りかかった。

「クソ!」

 レオンは右にローリングして避け、その隙にハンドガンの弾をリロードする。

「敵さんこっちよ!」

 リコは腰に付けていたスタンバトンを化け物の背中に当て、電流を流し続ける。しかし、化け物には効いていないようで、振り向き際に腕が当たり、リコは壁に叩きつけられた。

「痛っ!」

「リコ!!」 

 レオンは立ち上がり、化け物の身体中にハンドガンを連射する。化け物は血飛沫をあげるが怯みもせず、レオンにゆっくりと近づく。

 カチッカチッ

 弾が両方とも切れた。残りの弾はもうない。

 レオンは溜め息をつくと、胸にあるナイフを鞘から取りだし、逆手にして構えた。

 化け物の攻撃を側面に避け、ナイフで切っていく。背中に回転蹴りを喰らわせるが、化け物はびくともしない。

「ああ、そうかい!」

 レオンはナイフを化け物の顔に向かって突き出すように投げた。ナイフは化け物の左目に刺さる。流石に効いたようで、膝をついた。

「これを使って!」

 リコがレオンに向かって小さい球体を投げる。その小さい球体は手榴弾だ。

 レオンは直ぐ様決断し、手榴弾のピンを抜いて、化け物の口の中に突っ込んだ。そして、飛び込むようにリコを自分の体で覆い隠す。

 直ぐに爆発が起こり、喉が焼けるような臭いが漂ってきた。化け物の方を見ると、上半身は吹き飛んでおり、化け物の血肉があちらこちらに散らばっていた。 

「あー!」

「どうした!?」

「サングラスが……」

 リコが頭に掛けていたサングラスは、レオンの足に潰され、レンズは粉々、フレームは変形していた。

「す、すまん」

「ハワイで買ったのにー!」

 どうやらそれなりの値段だったようだ。

 レオンはリコを立ち上がらせる。その直後、回りのランプが赤くなった。

『コードXXXが発動されました。この施設はあと十分で焼却処理されます。職員の方々は至急避難してください。繰り返します――』

 館内放送が繰り返される。

「ヤバイわね」

「全くだな……泣けるぜ」

 レオンたちは直ぐ様走り出した。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

 リョウSIDE

 

「なにこれ?」

 通路を走っていると、上の方から霧状の液体が降ってきた。

「多分エタノールだ。焼却しやすいようにな」

 走り続けると、いきなり通路が壁によって遮断された。ちょうど俺たちの間に落ちてきたこともあり、レベッカと俺は分断された。

「リョウ!?」

 俺は壁を蹴り破ろうと二度三度蹴るが、びくともしない。

「大丈夫だ。でも扉は開きそうにない。別の道を探してみる」

「分かったわ。無事に会いましょう!」

 レベッカの気配は無くなった。

「さて、俺もいかないとな」

 ただ気になることがあった。さっきまでは、エタノールが撒かれてたのに、ここは撒かれていない。

『侵入者排除システムを起動します』

 そうアナウンスが流れ、三十メートル先から、網目状の青いレーザーが出現し、真っ直ぐ俺の方に向かってきていた。

「もしかしてこれって……」

 俺は、その網目状のレーザーに木刀を投げつける。木刀は無惨にもレーザーによって消滅してしまった。

「やべぇじゃん」

 サイコロステーキになるのかと思ったが、レーザーは通路全体を遮断しておらず、下に二十センチメートルほど隙間があった。俺は勢いをつけて、スライディングでくぐり抜ける。鼻が若干熱かったが、ちゃんと感触はある。なくなってはいない。

 立ち上がり、いつでもレーザーが来てもいいように警戒しながら少し進むと、ネメシスが天井を突き破って降りてきた。

「おいおい、ちゃんと階段かエレベーターを使えよ」

 後ろからブーンと、うなるような音が聞こえてきた。振り返ると、通路の下半分から網目状のレーザーが出現し、俺に迫ってきた。ネメシスは気にせず俺に殴りかかるが、それを後ろにステップして避け、ネメシスの体を蹴って足場に使い、バク転した。俺の目の前には、青いレーザーがあった。俺の身体は反転している。俺が見ているのは床の方だ。レーザーは俺の髪を焦がす。ターゲットである俺に避けられたが、それでもレーザーは止まらずに進み、ネメシスの下半身をサイコロステーキにした。

「オオオオオ!」

 下半身を切断されてもネメシスは生きており、床を這いつくばりながら俺に近づく。

 だが、相手をしている暇はない。正面からは、通路全体を遮断したレーザーが接近してきていた。避ける隙間など何処にもない。

「万事休すってやつ?」

 ネメシスが俺の足を掴んだが、すぐに振りほどく。

「あっ!」

 そういえば、ネメシスは天井を突き破ってきたんだった。

 上を見ると、ポッカリと穴が空いていた。考えている時間はない。俺は壁を蹴って穴によじ登った。すぐにレーザーが通り、ネメシスはサイコロステーキになった。

「危ねぇー」

 心臓バクバクだが、休んでいる暇はない。早くここから脱出しないと。

 

 

 

                  ☆

 

 

 

 レベッカSIDE

 

 レベッカはリョウと分かれた後、元の道を見つけ出した。エレベーターまでもう少しだ。

 だが、そのもうすぐというところで、通路を遮る巨体の化け物が現れた。右腕には、自衛隊員の頭を掴んでいる。自衛隊員は生きているようで、頭から手を離そうと必死にもがいている。しかし、抵抗虚しく、その頭はネメシスの触手によって貫かれた。

「化け物……!」

 ネメシスは貫いた自衛隊員を投げ捨て、次のターゲットをレベッカに代えた。

 レベッカは、辺りにエタノールが撒かれていないことを確認し、サブマシンガンを弾ある限り連射する。弾丸はネメシスの体に食い込むが、ネメシス自体にはそれほどダメージは通っていない。

 弾は無くなり、レベッカは使えないマシンガンを捨て、背中のスナイパーライフルを取り出して構える。

 トリガーを引く前に、ネメシスがそれを察知したかのように急接近して、レベッカを殴り付けた。体重が軽いレベッカは、ネメシスに殴られたと同時に空に浮き、壁に叩きつけられた。その衝撃でライフルを離してしまう。

「う、うう……」

 痛みを堪えて立ち上がろうとするが、力が入らない。ネメシスはその気も知らず、脳にプログラミングされた命令『人間を殺す』を守るため、レベッカの頭を触手で貫こうと、頭に腕を近づける。

 絶対絶命か、そう思われたとき、上から男が降ってきた。

 

 

 

                   ☆

 

 

 

 リョウSIDE

 

 俺は通気孔から出ると、何故か目の前にはネメシスがいた。そして、後ろには倒れているレベッカがいた。

 なるほど、理解した。

 俺はレベッカの手を掴み、立ち上がらせる。

「ありがとう、リョウ」

「そんなことよりもだ」

 目の前にはネメシス、その先にエレベーター。

 上のスプリンクラーからエタノールが降ってきた。もうそろそろ限界だ。

「レベッカ、俺がネメシスの注意を惹き付ける。その隙に梯子を昇っていてくれ」

 エタノールは良く燃える。銃を使うと引火して、ここら一帯は大爆発だ。ここで今、こいつを倒すよりも、どれだけ時間を稼いで逃げるかだ。

「分かったわ」

 俺はナイフをネメシスに投げ、注意をそらす。

 思いの外、簡単にはネメシスは俺の方に寄ってきた。

「今だ!」

 レベッカはネメシスの後ろを通り抜けてエレベーターに向かった。

『施設の焼却処理まであと三分です』

 やばいな……

 俺はネメシスに向かってファイティングポーズをとった。ネメシスも俺と同じようにファインティングポーズをとる。どうやらこのネメシスには格闘技の心得があるようだ。その巨体からとは思えないほど軽やかなフットワークを披露する。

 ネメシスの鋭い右フックを左前腕で受け止める。その重いフックは、俺の身体全体を痺らせるのには充分だった。

「やるねぇ……!」

 ネメシスの側面に回り込み、腰に右手だけのジャブを打ち付ける。ネメシスの身体は石のように硬く、殴るたびに骨が軋む。だが、それでも俺の手は止まらない。

 ネメシスの反撃が来るが、壁を蹴って空に上がり回避する。空中にいる間に体を回転させ、伸ばした脚を顔面にヒットさせた。着地後、ネメシスの懐に入り、胴体に右フック、左フックを入れ、捻るように体を曲げ、蹴りを腹に決め込む。少しは効いたようで、数歩後ろに後退りした。

 再び先程のコンビネーションを決め込もうとするが、二度目は通じず、左フックのときに腕を掴まれた。

 凄まじい腕力で、俺を右、左と壁に叩きつける。常人なら、痛みで悶絶してそうなところだが、不思議と痛みは感じなかった。

 腰からサバイバルナイフを出し、ネメシスの腕を斬る。ネメシスはパッと手を離し、俺は直ぐに距離を取った。

「アアアアアア!」 

 ガブッと、何かが俺の右肩を咬んだ。振りほどき、見ると、顔の半分が何かに貫通されたかのように穴が空いている自衛隊員だった。顔は真っ青になっており、ゾンビ化している。

 後ろからも殺気を感じ、前に飛び退いた。ズドン!! と重い音が狭い通路に響く。先程まで俺がいた場所には、ネメシスの鉄拳が降っていた。同位地にいた自衛隊ゾンビの頭は、ネメシスの鉄拳によって潰されていたのだった。

『爆発まであと二分です』

 耳のどこかでそう聞こえた気がした。だが、それに気づかないほど、俺は全神経をネメシスへと集中していた。

「うおおおお!!」

 咆哮をあげながら、ネメシスの懐を潜り抜け、渾身のタックルを叩き込む。ネメシスは後ろによろめくが、直ぐに体勢を立て直そうと足を踏ん張る。俺も負けじと助走なしのタックルを繰り返す。あとちょっとでネメシスが倒れるというところで、両腕で体を掴まれ、天井に投げられた。背中が硬い金属の天井に激突し、ミシミシと嫌な音を立てる。俺の体は自由落下で、床へと真っ逆さまだが、着地と同時に後転し、足への衝撃を減らす。それでも痛みは多少あるはずだが、まるで何も感じない。

 ネメシスに向かって、パンチとキックを降り注がせる。まるで脳と身体が一体になったかのように、軽やかに腕や足が動いた。ネメシスも反撃として、俺に重いパンチを繰り返す。俺もネメシスも防御は一切しない。殴り殴られ、蹴り蹴られ……それの繰り返しだ。途中で俺の呼吸が止まっていることに気づいたが、今の俺にはどうでも良かった。負けるわけにはいかない。ただ、それだけで俺の身体は動いていた。

『爆発まであと一分です』

 ボロボロになった拳を握り締め、ネメシスのその顎に強烈なアッパーを喰らわせた。数秒、数十分間にも思えるほど、俺たちは停止した。ゆっくりとネメシスは後ろにドスンと倒れこんだ。

 それを見て俺は、何も考えずにエレベーターに向かい、梯子を昇り始めた。深く息を吸ったところで、凄まじい熱気を感じた。下は炎が吹き荒れている。だが、扉で遮断されたのか炎は俺のところまで昇ってこなかった。

「痛ッ!?」

 安心したところで、痛覚が戻ったのか酷い痛みが全身を襲った。危うく梯子から手を離そうとしたところだ。

 それは動きたくないほどの痛みだったが、梯子にずっとしがみついとくわけにもいかない。歯を食い縛りながら少しずつ梯子を昇っていく。

 

 

 

                   ☆

 

 

 

 気がつくと、外だった。痛みを堪え、何も考えない内に外に出ていたのだ。

「リョウ!」

「リョウくん!」

 レオンさん、記者さん、レベッカが駆け寄ってくる。いつの間にか夕暮れになっていた。

 俺は安堵のあまり、倒れそうになるが、レオンさんに受け止められた。

「良くやった!」

 仲間の声を聞くだけで気絶しそうだった。

『さっさと乗れ。戻ってみんなで酒でも飲もうぜ』

 ヘリのパイロットも逃げずに待っていたようだ。

 俺、未成年なんですけど。

 俺はレベッカとレオンさんに肩を貸してもらい、ゆっくりとヘリに進む。直後、俺の真上を何かが通過していった。

「え?」

 ズドォォォォンと、俺たちを乗せるはずだったヘリは、パイロットごと爆発した。

「伏せて!!」

 記者さんの怒号の声がすると同時に、目の前にはコンクリートがあった。瞬時に激しい轟音と金属音。駐車場に止めてあった自衛隊のヘリが、ガトリングガンによって粉々にされている。

 ガトリングのカラカラ音が止み、俺たちは頭を上げる。

『オオオオオ』

 倒し損ねていたのか。ネメシスは、黒いコートが破け、筋肉が肥大化している。その右腕にはガトリングガン、左腕はロケットランチャーが担がれていた。そして、その後ろ、研究所からは三十体を越えるハンターがぞろぞろと姿を現した。研究所で飼われていたハンターが逃げ出したのだ。

「……泣けるぜ」 

 レオンさんたちは銃を持っていない。

 絶対絶命という言葉があるが、今の俺たちには相応しいと心底思った。

 

 

 




次回は必ず三章最終話です

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