「で、アンブレラの研究所に行けばいいのか?」
「はい、お願いします」
俺は、ヘリのパイロットにお願いした。
俺たちはヘリに乗って、アンブレラ研究所へと向かっている。
「それにしても、何でレオンさん日本に?」
自分の意思で俺を助けにきたというわけではないだろう。訓練中の見習いエージェントだしな。
「任務だよ。お前、国連の試験に合格してんだろ? 未成年でも車の免許が取れるやつ」
「大体合ってるよ」
その試験は、世界でも百何人しか合格していない。それに合格すると未成年の俺でも、国家資格を取ることが出来る。俺が持っている国家資格は……数え切れないや。
「そんな優秀な存在を見殺しにするわけにはいかないってことで、リョウの元には俺が派遣されたんだ。知り合いだから、信用しやすいとかなんとか」
「政府は俺のことを知ってんのか?」
「ああ。ラクーンシティを脱出したことも、クレアの時にアンブレラの施設に行ったことも知ってるよ。流石はアメリカだな」
「ねえねえ。二人だけで話を進めるのは止めてよ」
記者さんが、俺の肩を叩いた。
「そうだな。自己紹介をしよう。俺はレオン・S・ケネディ、アメリカ合衆国の見習いエージェントだ」
「私はレベッカ・チェンバースよ」
「私は佐藤リコ、記者をやってましたー。というわけで一枚」
パシャッと、記者さんはレオンさんをフィルムカメラで撮った。
「使うなよ。どうしてもって言うんなら、大金を払って貰うことになるぞ」
「んもー、わかってるわよ。見習いエージェントさん♪」
レオンさん……この人はこういう性格だ……
「そろそろ着くぞ」
「で? 目的は?」
「この事件の真実。やっぱり、アンブレラが関係してんだよな?」
「さぁな。俺は聞かされていない……が、その可能性が高いな」
「電磁パルスを起こさせた理由は?」
「それも聞かされていない」
まぁ、見習いだしな。
「ほんと、それが謎よね。何のためにしたのか……検討もつかないわ」
「アンブレラが関わってるかもな」
「着いたぞ」
研究所が下に見えた。
「あれは……?」
研究所の駐車場には、他にもヘリが止まっていた。自衛隊のヘリだ。
「何故自衛隊がいるの?」
「さぁな。直ぐに分かることさ」
俺たちはヘリから降り、自衛隊のヘリの中を確認する。
「誰もいないな」
「ああ。全員研究所に入ったのか?」
「こっちにもいないわ」
止まっているヘリは全部で五台。パイロットもいない。
『ここで止まっておくからな。直ぐに戻ってこいよ。怖いから』
合衆国のヘリのパイロットは陽気そうに言った。
「じゃあ、行くとするか」
俺たちは武器を構え、既に開けられている研究所の扉へと入る。電気が使えないので、中は真っ暗だ。
「暗いな。全員これをつけろ」
レオンさんから貰ったのは、イヤーライトだった。
耳に付け、辺りを照らす。
「人の気配はないか……」
自衛隊員はどこに言ったんだ?
「一年前の事を思い出すわ」
「洋館事件?」
「ええ。その前にもトラウマがあるのよ。元軍人さんと一緒に乗り越えたけどね」
進んで行くと、二つの分かれ道があった。
「さて、チーム分けをするか」
話し合った結果、俺とレベッカ、レオンさんと記者さんで分かれることになった。
「じゃ、幸運を」
「そっちも」
俺とレベッカは右へと進む。
「ねえ、リョウ。レオンとはどういう関係なの?」
「ラクーン事件の時の命の恩人?みたいなもの。直ぐに離ればなれになったけどな」
「レオンもリコも大丈夫かしら?」
「ラクーンシティを脱出したレオンさんだ。記者さんのこともバッチリ守ってくれるよ」
進み続けると、床に無線機が落ちていた。俺はそれを拾う。
〈誰か誰かいないのか!? 助けてくれ!! 誰か!! あ、ああ、ギャアアアア!!〉
「おい、大丈夫か!? どこにいる!?」
通信は途絶えてしまった。
「ヤバそうね」
「非常にな」
進み続けると、開いているドアがあった。俺はその中に入る。
「あれ?」
入ってすぐ、足場がないことに気が付いた。
「う、うわあああああ!?」
俺は下へ落ちていく。よく考えてみれば、エレベーターのドアだったじゃないか! 何てまぬけなんだ。
俺は壁を蹴り、梯子へとしがみついた。
「ふう……」
九死に一生を得た。マジで怖かった~。
「リョウ!? 大丈夫!?」
「な、なんとか。地下に続いているようだ。レベッカも来てくれ」
俺は梯子を降りていく。無線機が落ちていたということは、こっちに誰か来たのはまちがいないはずだ。電磁パルスせいで、エレベーターが使えないのでドアをこじ開けて、下に降りていったのだろう。
☆
「はぁ……はぁ……」
何分経過しただろうか。梯子を降りても降りてもゴールが見えない。一体地下何階まであるんだ?
それでも降り続けると、やっとゴールが見えてきた。
「やっとね」
「……ああ」
やっぱりここのエレベーターのドアもこじ開けられていた。
「腕も足も痛いわ」
「俺もだ」
自衛隊員もここを降りてきたのか。帰るのもめんどくさそうだ。いや、絶対めんどくさい。
それにしても、ここは何故か電気が点いている。地下深くだから、電磁パルスを避けられたのだろうか。
「う、うぅ……」
誰かの呻き声が聞こえてきた。俺たちは走る。
その先には、自衛隊員が何人も倒れていた。
「おい、大丈夫か!?」
俺は生きている隊員に駆け寄る。酷い出血量だ。長くはもたないだろう。
「君たちは……?」
「俺の事はいい。ここで何があった!?」
「爬虫類のような緑の化け物が……」
爬虫類のような緑の化け物? ハンターの事か。
「う、…………」
隊員は、息を引き取った。
「レベッカ、他は?」
「ダメ、全員死んでるわ」
「そうか……」
ハンターがいるということは、この研究所でB.O.W.の研究をしていたことは間違いなさそうだ。
「ハンターがいるかも。気を付けて」
「シャアアア!」
「言った矢先かよ!!」
ハンターが二体、飛び出してきた。
「右は私が!」
「オーケー!」
俺は、ハンターの突きだし攻撃を避け、その腕を掴んで、肘を足に落とす。肘の骨が折れ、俺はその折れた腕を振り回して壁に叩きつける。そして、とどめに顔面にナイフを刺した。
「流石ね。クリスが誉めていただけことはあるわ」
「レベッカもな」
レベッカも既にハンターを倒していた。
進んで行くと、ハンターが何体も出てくるが、俺たちにはハンターは通用しない。出ては殺られ、出ては殺られの繰り返しだった。
しばらく進むと、円形の白いホール出た。
「ここは?」
がしゃんと、俺たちが入ってきたドアが閉められた。
『只今より、B.O.W.の戦闘実験を開始します』
アナウンスが流れる。
「戦闘実験って、ここでするの!?」
「そうみたいだな」
奥の扉から、ハンターが三十体以上出てくる。
「キツくなりそうね」
レベッカは、ハンターの群れに銃を向ける。
「全くだ」
俺は、ダガーナイフを出し、投げる。
「シャアアア!!」
何体かに刺さるが、致命傷というほどではない。
「レベッカ! 援護を頼む!」
「分かった!」
俺は木刀を二本だし、構える。
次々と襲い掛かるハンターの体を、木刀で破壊していく。レベッカは、行動不能になったハンターの頭をマシンガンで撃ち抜く。
俺にもレベッカにも、ハンター程度今さらなんだというぐらいに、簡単に倒していく。
残り十体ほどなると、俺は腰から手榴弾を取り出し、ピンを抜いてハンターの群れの真ん中に投げつけた。
「レベッカ、伏せろ!」
床に這いつくばり、手榴弾の爆風に耐える。起き上がり辺りを見回すと、ハンターは肉片となって全滅していた。
「やったな、レベッカ」
「ええ」
B.O.W.の実験は終わったよ。早くこの部屋から出してもらいたいところだが……
『驚いたよ』
スピーカーから、男の声がした。
「リョウ、あそこ!」
レベッカが指を差したところを見ると、上に長方形の鏡があった。マジックミラーになっているのだろう。声の主の顔は分からない。
『自衛隊十人でも、倒せたのは五体だ。それなのに、君たちは二人で三十五体も倒した。流石は元S.T.A.R.S.のメンバーに、ラクーンシティを脱出した者だけのことはある』
この男は俺たちの事を知っている。アンブレラの幹部なのだろうか。
「アンタは何者だ?」
『ディルク・ミラー、と言っても分からんだろうな。君たちに因縁深い人物の部下だよ』
俺達に因縁深いといえば……
「「アルバート・ウェスカー!!」」
これは、ウェスカーの目的なのか?
「関東でバイオテロを起こしたのもウェスカーか!?」
『いいや、ウェスカーでも私でもない。アンブレラ・ジャパンの人間だよ。間接的には私たちが起こしたとも言えるがね』
「何でそんなことを……?」
『ラクーン事件、あれは致死性のウイルスがラクーン全体に広まったことにより、アメリカの手によって滅菌作戦が行われた。世間にはそう報道された。もちろん事実は違う。君たちが知っている通りだ。だが、ラクーンの生存者が、いくら世間に真実を伝えようとしても、ほとんどは信じない。死者が動き出すなんて、ファンタジーの世界だ。実際には死んではいないが』
「それで? アンタは何が言いたいんだ?」
『これほどのバイオテロを起こすとどうなるかね? ラクーンの生き残りは少なかったが、ここは日本の関東だ。四千万人が全員死ぬことなどありえない。そして、生還したものは世間に真実を語る。ラクーンのときよりも桁違いの数の人間がな。そうするとどうなる?』
「ウイルスによって、ゾンビを作れるようになる。その事を知ったテロリストや反政府軍が、そのウイルスを購入する」
『そうだ。要は、t-ウイルスのプレゼンテーションなのだよ。大規模のね』
「イカれてるわ」
「俺もそう思うね」
t-ウイルスを売り出すために、こんなに人を殺したっていうのか……。
『生物兵器の効果は絶大だからな。テロリスト共がこぞって欲しがるだろう。しかも、そのウイルスに感染したものは、動き出すという特典つきだ』
確かに、致死性のある細菌兵器をばらまくのと、t-ウイルスをばらまくのとでは、威力が全然違う。なんたって、感染者は動き出すんだからな。あれ? でも……
「〈奴ら〉は、t-ウイルスとは違う症状だぞ? 視覚も嗅覚もない」
〈奴ら〉が反応するのは音だけだ。
『まぁ、それは私も驚いたよ。日本人や中国人がt-ウイルスに感染すると、そうなるようだな。しかも、感染率が百パーセントだ』
何だよ、新種のウイルスかと思ってたよ。て、それだと……
「俺も噛まれたんですけど……」
噛まれたのにゾンビになっていないんですけど。日本人は感染率百パーセントじゃないの?
「…………」
『…………』
いや、テメーまで黙んなよ。
『君、日本人じゃないんじゃない?』
「俺は純日本人だ。……多分だが」
目が赤色ってこと以外は日本人だよな? 祖父母も曽祖父母も知らないから、何とも言えないんだけど。でも、両親は日本人だったしな。目は赤くなかったけど。
『……時間を使いすぎたな。では、この辺でお別れだ。最後にささやかなプレゼントあげよう』
扉が開いた。
「おいおい、マジかよ……」
「あんな化け物が……」
扉から出てきたのは、三体のネメシスだった。
雑ゥ!!
あとちょっとで三章終わります