1話 ラクーンシティ
「いやー、星が綺麗だなー」
アメリカの中西部にあるラクーンシティまでの一本道。そこの途中で見つけた休憩所で俺はバイクを停め、自動販売機で買ったコーヒーをすすりながら空を見る。
既に時間は夜、空にはいくつもの星が輝いている。都会じゃ観れないほど綺麗な星だ。
「……はあ」
ついため息を漏らしてしまった。今日は九月二十九日、クリスさんとの約束の射撃大会の日であったが、射撃大会にクリスさんは訪れなかった。結局俺の優勝である。
折角三連休を使ってまでアメリカに来たというのに、誘った本人が姿を現さないというのはちょっとひどい。もしかしたら、クリスさんも本気で来るとは思っていなかっただけかもしれないが。
というわけで、ラクーンシティまで行って、クリスさんに一言文句を言うのだ。それだけで俺の不満は解消されるだろう。多分。
コーヒーをすすっていると、俺が来た方からバイクが来るのが見えた。
そのバイクは俺のすぐ隣に停まった。
「あなたもラクーンシティに?」
運転手は、まだ二十歳いくかいかないかくらいのポニーテールの女性で、赤を強調とした服を着ており、左肩には鞘に入れたナイフを付けている。
「はい。知り合いの男性に文句を言おうと思ってまして」
「私もそんなところよ。兄さんを探してるの」
「そりゃごくろうさんですね。俺の名前はクロセ・リョウです」
ま、自己紹介は基本だ。
「私はクレア・レッドフィールドよ」
「…………」
レッドフィールドねぇ。まあ同じ名字の人なんかたくさんいるしな。
そう思っていると、クレアさんの肩のナイフに目がついた。
「あの、クレアさん……そのナイフ……」
俺はクレアさんのナイフに指を差す。
「ああ、これ? 護身用よ。兄さんがくれたの」
ナイフの鞘にははっきりとS.T.A.R.S.と書かれてあった。
「もしかして、探している兄さんって、クリス・レッドフィールド?」
「え!? そうだけど、兄さんの知り合い?」
やっぱりか。というか、警察の支給品をあげるなよ、クリスさん……
「はい、俺の目的もクリスさんに会うことなんですよ」
会うというか文句を言うのだが。
それにしてもまさか、妹さんとも会うとは……妙な出会いだなぁ。
よくわからんが、すっかり意気投合した俺とクレアは、バイクを走らせラクーンシティまで向かった。
ちなみに、俺は前回の反省を活かし、今回は色々と準備をしてきたのだ。
何があってもいいように、リュックの中に無線機や非常食やらのサバイバルセットが入っている。そして、上着の内側には、前回はナイフ一本だけだったが、今回は増やしに増やして八本だ。
いや、まぁ、強盗に巻き込まれるなんてそうそうない、と思うだろうが、俺はそうそうあるので、こんな準備が必要なのだ。これで強盗やらテロリストと戦う際もナイフを投げて終了である。欠点としてナイフが八本しかないので、遠距離の相手はナイフを投げても八人しか対処が出来ないところだ。まぁ、しょうがない。服がこれ以上重たくなっちゃうの嫌だもん。
ラクーンシティに入ると、意外と周りは静かだった。灯りは付いているのに、人の気配がない。不気味だ。栄えている街だと聞いていたんだが……
「そこでご飯を食べましょ」
そこにはちょうどレストラン。俺も飯を食べていなかったんだ。
クレアはバイクを停める。俺も同じようにしてバイクを停め、クレアと共にレストランの中に入る。
「こんばんはー」
店内には誰もおらず、しかも椅子やゴミが散らかっていた。元からこうなのか、それとも誰かに荒らされたのか。だが、埃が積もっていないので、店内が散らかったのはつい最近だ。
「誰かいないの?」
クレアは呼び掛け、奥の方へと行く。
俺は店内を見回すと、ちょうど真下の床に赤い液体が付着しているのに気が付いた。
「これは……」
しゃがんで、赤い液体に触れて匂いを嗅ぐ。微かに鉄の匂い。
「きゃあ!」
と、クレアの声。
「クレア!?」
俺は立ち上がり、クレアを見ると、クレアは後退りをしていた。
服が血だらけで白目を剥いており、顔が真っ青な男がクレアにゆっくりと近づいている。
「クレア! 下がれ!」
俺はクレアを後ろに下がらせ、両手を構えた。
男は呻き声をあげており、両手で掴み掛かろうとしてくる。
「何だ? 薬物中毒者か? とりあえず止まってくれ」
そう注意するが、男は止まる素振りを見せない。
しょうがない。この店の散らかりようと、この男の服の血のこともあるし、何かの事件が起こっていることは確かなようだ。気絶させて警察に突きだそう。
俺は、男の胴体を一、二と殴り、体をよろめかせる。男の爪先がほんのすこし上がったのを見計らい、足を払うように蹴る。それだけで、男の体はくるんと宙を回り、その体を床に叩きつけた。
まあ、こんなもんである。
「倒したの?」
「ああ」
俺は警察に電話しようとポケットから携帯を取り出す。
「リョウ、見て!」
なんと、先ほど倒したはずの男が立ち上がろうとしていた。
「なっ!?」
確かに殺さないように手加減はしたが、それでも気絶させるほどの威力はあったはずだ。それなのに何故?
「後ろ!」
クレアに肩を叩かれドアの方を見ると、顔を真っ青にして白目を剥いている人間が何人もドアに張り付いていた。
「ここは薬中の町か!?」
「裏口から逃げるわよ!」
前と後ろで囲まれていては分が悪い。俺は裏口のドアを思い切り開ける。
「あっ」
目の前には、銃を構えた男が立っていた。
「ま――」
「しゃがめ!」
待て、撃つなと言おうとしたが、銃を持った男の命令に従い俺とクレアはしゃがんだ。
パン! と一発の銃声。俺は立ち上がり後ろを見ると、先ほど男の頭が銃弾で貫かれていた。
銃を持った男をよく見ると、金髪で警官の格好をしており年齢も若い。
「こっちだ!」
警官の声は緊迫している。どうやらヤバいことになっているようだ。
俺たち三人は路地裏を駆ける。