バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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15話 油断

「全員乗ったか!?」

「先生、出して!」

「分かったわ」

 ハンヴィーに小室以外と、食料、銃を乗せ、マンションを出発した。

「前に沢山いるわ!」

「ハンヴィーなら耐えきれるはずです。そのまま行ってください!」

 ハンヴィーで〈奴ら〉を次々と轢き、小室がいる場所へ向かう。流石はハンヴィー、人を轢いたぐらいじゃビクともしない。

「いました、小室です!」

 小室は、女の子と、何故かワンちゃんを背負い、塀の上を歩いてきていた。

「援護するぞ!」

 俺と毒島先輩はハンヴィーから飛び降り、〈奴ら〉を倒していく。

「早くしないと囲まれちゃうわ」

「小室、急げ!」

 俺はナイフを二本取り出して使い、〈奴ら〉の頭を次々と刺していく。

「そろそろ限界か……」

 俺はゾンビを蹴飛ばし、ハンヴィーへと戻る。

「よっ!」

 小室がハンヴィーに飛び乗った。

「先生、出して!」

 直ぐ様、急発進し、〈奴ら〉の群れを脱出した。

 

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「リョウ、起きて」

 目を覚ますと、俺の目の前には、下着姿の香月がいた。

「ふああああ」

 背筋を伸ばし、辺りを確認する。俺がいるのは、ハンヴィーのトランクの上。このハンヴィーは六人乗りなので、何人かは外に出ないと中には入りきらないのだ。

 静かな水の音。今は御別川を横断中のようだ。

 小室が助け出した子供は、希里 ありす。小室の話だと辿り着いたときには、お父さんは死んでいたらしい。今は元気よく、平野と歌を歌っている。

「みんな、そろそろ起きて~。川を渡りきるわよ~」

 俺は武器の確認をする。

 ズボンとベルトの間にサバイバルナイフ三本、アイスピック二本、学ランの内側にはダガーナイフ五本だ。

 これだけあれば、〈奴ら〉に負ける事はない。と思いたいね。まぁ、銃を三つ、クロスボウを一つを手に入れたわけだから、無理に接近戦をしなくても良いんだ。

 対岸に到着し、俺はハンヴィーから降りた。

「着替えるからどっか行って」

 と言われ、女子の着替えを見ないようにする。

「ワン!」

 犬が吠えた。小室が、女の子と一緒に連れてきた小さな犬だ。

「こいつの名前は決めたのか?」

 しゃがんで犬の頭を撫でる。

「ジークだよ」

「由来はどうせ零戦のコードネームだろ?」

「良く分かったね」

「黒瀬、お前も何だかんだで凄いよな……」

「そうか?」

 まぁ、自慢じゃないが、俺は頭良いし。

「あ、小室はこれを使って」

 平野が小室に渡したのは、ポンプアクションのショットガン、イサカM37だ。

「黒瀬はこれを」

 平野が俺に渡したのは、狩猟用のクロスボウ。ロビン・フットが使っていた奴の子孫だ。

「一応受け取っとくが、使えるかは分からんぞ」

「使い方なら教えるよ」

「いや、そうじゃなくて、俺は銃が使えないんだよ。〈奴ら〉にも人間にもな。生物には撃てない」

 クロスボウも使えないと思うんだよなぁ。

 

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「静かだなぁ……」

 〈奴ら〉の姿を、御別川を渡ってから見なくなった。日が昇っているからとかじゃなくて、どっかに集まっているのだろう。近くに、多くの人間が避難している場所があるはずだ。

 俺たちは、ここから一番近い高城の家に向かう事になった。金持ちだとは聞いているが、一体どんな家に住んでいることやら。非常に気になる次第であります。

「リョウ……綺麗ね」

「ああ」

 桜が散っていく。春もそろそろ終わりに近づいている。

「〈奴ら〉です!」

 平野の声で、一気に俺たちは緊張し始めた。 

「黒瀬と香月は中に入ってくれ!」

「どうも」

 ハンヴィーの中に入る。小室と宮本は入りきらないので、ルーフで伏せておくしかない。

 〈奴ら〉に会わないように、器用に避けていくが、正面には大量の〈奴ら〉が…… 

「そのまま押し退けて!」

 〈奴ら〉を撥ね飛ばしていくが数は増えるばかりだ。

「何でこんなに集まってんだ!?」

 さっきまで全然いなかったってのに。

「ダメ、止まって!!」

 宮本が叫んだ。奥を見ると、道路を遮るようにワイヤーが張られてあった。

「ワイヤーだ!」

 鞠川先生もワイヤーに気付き、車体を横のする。ハンヴィーは〈奴ら〉を押し退け、車体とワイヤーで〈奴ら〉の体を潰した。

「ブレーキが効かないわ!」

「タイヤがロックしています! ブレーキ離して、少しだけアクセル踏んで!」

 ハンヴィーは急停車した。しかし、その勢いで、宮本がボンネットに体を打ち付け、道に飛ばされる。

「麗!」

 小室は飛び出し、宮本に近付く〈奴ら〉をショットガンで撃ち倒してく。

「行くぞ、黒瀬君!」

「オーケー!」

 俺と毒島先輩はハンヴィーから飛び降り、〈奴ら〉の相手をし始める。平野もルーフから体を出し、ライフルで〈奴ら〉の頭を撃っていく。

「平野、宮本に近付く奴を最優先頼む!」

「分かってる!」

 俺は、クロスボウで〈奴ら〉の頭を狙い、引き金を引こうとするが、

「くそっ! 指が動かねぇ!」

 〈奴ら〉を撃つという気はあるのに、指が固まったかのように動かない。こんな肝心な時に!!

「アアアアア」

「ちっ!」

 俺は、クロスボウから矢を取り出し、近付いてきたゾンビの頭に刺した。

「平野、すまん。中に入れといてくれ!」

 俺は平野にクロスボウを投げ、腰からナイフを取り出した。

「喰らえよ!」

 ナイフをゾンビの喉に刺し、胸を蹴る。ゾンビは他の〈奴ら〉も巻き込みながら吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ勢いでナイフは抜けた。ナイフをもう一本出し、体を回転させながら〈奴ら〉の首を削いでいくが、一向に数は減らない。

「数が多すぎる。先生、車は!?」

「ダメ! エンジンがかからないわ!」

 逃げ道は、後ろのワイヤーの向こう。しかし、宮本は体を打ち付けたせいで、身動きが取れそうにない。

「あっ、ぐ!?」 

 足に激痛が襲い掛かる。見ると、倒れていたゾンビが俺の足を掴み、噛んでいた。すぐに振りほどき、頭を踏み潰す。

「クソ!」

 正面ばかりに気をとられていた。一生の不覚だな。

「黒瀬君!」

「黒瀬!」

 先輩が、俺の回りの〈奴ら〉を倒していく。

「ここまでか……」

 〈奴ら〉は、t-ウイルスとは違う症状だ。別物のウイルスである可能性が高い。そして、俺がそのウイルスの抗体を持っていない可能性も……

「クソ!」

 ダガーナイフを出し、全本投げる。命中し、五人を倒すことに成功した。

「リョウ!」

 香月が車から飛び降り、俺に駆け寄ってきた。

「危ないから中に入ってろ!」

「嫌よ!」

「俺は噛まれた。〈奴ら〉になるかも……」

 皆を逃がしたら俺も去るとするか。心名残はあるが。

「俺は最後まで戦うよ。俺が〈奴ら〉になったときは誰か介錯を頼む!」

「黒瀬君……その仕事、私が引き受けた」

 先輩は戦いながら言った。

「すみません、俺のドジのせいで」

 今まで運が良かったんだ。普通ならもっと早く死んでるよ。

「ッ!」

 香月に近付くゾンビに肘を喰らわせ、アイスピックを出して、目に刺し込む。

「頼む。車の中に乗ってくれ。お前を死なせたくない」

「リョウ……」

「頼むから!」

 香月の目には涙が潤い、歯を食いしばってハンヴィーの中に戻った。

「さぁ、最期の戦いだ」

 噛まれたせいで、走れない。近づいてきた奴を倒していくしかない。

 近づいてきた〈奴ら〉を合気道で転倒させ、頭を踏み潰していく。最期の戦いならもっと派手にやりたかったな。

「黒瀬君、後ろだ!」

「なっ!?」

 またもや油断していた。背後には一匹、俺に組み付こうとするが、

「死なせないわ!」

 ハンヴィーから降りてきた高城が、ショットガンを使い、背後のゾンビを撃ってくれた。

「礼は言うけど、少しでもズレてたら俺も巻き添え喰らってたよね!?」

「私は天才よ。そんなことはしないわ」

 うーん、妙な説得感。 

「じゃあ背後は任せた!」

「任されたわ!」

 

 

 

                    ☆

 

 

 

 あれから何分が経過しただろうか。俺は、〈奴ら〉を何体倒しただろうか。そんなことが分からなくなるくらい、無我夢中で戦った。だが、〈奴ら〉の数は増えるばかりだ。絶体絶命か……

「ちょ、小室、何をする気なのよ!」

 小室は、高城が使っていたショットガンを取った。

「〈奴ら〉を引き付ける!」

 小室は走り出し、ショットガンをバット代わりにして〈奴ら〉の頭を潰しながら、俺たちから離れていく。

「小室君、私も付き合おう」

 先輩も小室と共に走り、大きな音を出しながら俺たちから離れていく。音で〈奴ら〉を惹き付けるようだ。

「だが……」

 小室たちに大半は惹き付けられたが、まだ五十体は俺たちの方へ向かってきている。

「はぁ……」

 死ぬんならせめて皆を救って死にたかったな。人生そう上手くもいかないか。

「全員伏せろ!!」

 誰かの怒号の声を聞き、俺は反射的にその場に伏せた。〈奴ら〉が吹き飛んでいく様子が見え、ワイヤーの向こう側を見ると、消防服を着た人間が何人もいた。その手には、暴動鎮圧用のインパル消火システムの放水砲が装備されている。

「今のうちにこっちへ!」

「黒瀬、肩を……」

 高城は俺に近付く。

「いや、いかないよ。俺を助けても特はない。もうじき〈奴ら〉になるはずだ」

「ダメよ! アンタが死のうが生きようが連れていくことには代わりはないわ。アンタが〈奴ら〉になったら、その頭を吹き飛ばしてやるんだから」

「そりゃ、ありがたいね」 

 俺は高城の肩を借り、ワイヤーの向こう側へと行った。

「沙耶、無事で良かったわ」

 消防士のような格好をした人の一人がヘルメットを脱いだ。女の人のようで、誰かに面影があるような…… 

「ママ!!」

 高城が、女の人に抱きついた。なるほど、高城のお母さんのようだ。

 小室たちの方を見ると、一安心した様子だった。しかし、戻ってこれそうにはない。

 小室たちは、走って去っていった。迂回するのだろう。

「待ってるから! 私の家で待ってるからー!!」

 小室たちが帰る頃には俺は……もう……

 

 

 




主人公はゾンビ化してしてしまうのか!? 次回に期待!!

明日も投稿予定

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