「全員乗ったか!?」
「先生、出して!」
「分かったわ」
ハンヴィーに小室以外と、食料、銃を乗せ、マンションを出発した。
「前に沢山いるわ!」
「ハンヴィーなら耐えきれるはずです。そのまま行ってください!」
ハンヴィーで〈奴ら〉を次々と轢き、小室がいる場所へ向かう。流石はハンヴィー、人を轢いたぐらいじゃビクともしない。
「いました、小室です!」
小室は、女の子と、何故かワンちゃんを背負い、塀の上を歩いてきていた。
「援護するぞ!」
俺と毒島先輩はハンヴィーから飛び降り、〈奴ら〉を倒していく。
「早くしないと囲まれちゃうわ」
「小室、急げ!」
俺はナイフを二本取り出して使い、〈奴ら〉の頭を次々と刺していく。
「そろそろ限界か……」
俺はゾンビを蹴飛ばし、ハンヴィーへと戻る。
「よっ!」
小室がハンヴィーに飛び乗った。
「先生、出して!」
直ぐ様、急発進し、〈奴ら〉の群れを脱出した。
☆
「リョウ、起きて」
目を覚ますと、俺の目の前には、下着姿の香月がいた。
「ふああああ」
背筋を伸ばし、辺りを確認する。俺がいるのは、ハンヴィーのトランクの上。このハンヴィーは六人乗りなので、何人かは外に出ないと中には入りきらないのだ。
静かな水の音。今は御別川を横断中のようだ。
小室が助け出した子供は、希里 ありす。小室の話だと辿り着いたときには、お父さんは死んでいたらしい。今は元気よく、平野と歌を歌っている。
「みんな、そろそろ起きて~。川を渡りきるわよ~」
俺は武器の確認をする。
ズボンとベルトの間にサバイバルナイフ三本、アイスピック二本、学ランの内側にはダガーナイフ五本だ。
これだけあれば、〈奴ら〉に負ける事はない。と思いたいね。まぁ、銃を三つ、クロスボウを一つを手に入れたわけだから、無理に接近戦をしなくても良いんだ。
対岸に到着し、俺はハンヴィーから降りた。
「着替えるからどっか行って」
と言われ、女子の着替えを見ないようにする。
「ワン!」
犬が吠えた。小室が、女の子と一緒に連れてきた小さな犬だ。
「こいつの名前は決めたのか?」
しゃがんで犬の頭を撫でる。
「ジークだよ」
「由来はどうせ零戦のコードネームだろ?」
「良く分かったね」
「黒瀬、お前も何だかんだで凄いよな……」
「そうか?」
まぁ、自慢じゃないが、俺は頭良いし。
「あ、小室はこれを使って」
平野が小室に渡したのは、ポンプアクションのショットガン、イサカM37だ。
「黒瀬はこれを」
平野が俺に渡したのは、狩猟用のクロスボウ。ロビン・フットが使っていた奴の子孫だ。
「一応受け取っとくが、使えるかは分からんぞ」
「使い方なら教えるよ」
「いや、そうじゃなくて、俺は銃が使えないんだよ。〈奴ら〉にも人間にもな。生物には撃てない」
クロスボウも使えないと思うんだよなぁ。
☆
「静かだなぁ……」
〈奴ら〉の姿を、御別川を渡ってから見なくなった。日が昇っているからとかじゃなくて、どっかに集まっているのだろう。近くに、多くの人間が避難している場所があるはずだ。
俺たちは、ここから一番近い高城の家に向かう事になった。金持ちだとは聞いているが、一体どんな家に住んでいることやら。非常に気になる次第であります。
「リョウ……綺麗ね」
「ああ」
桜が散っていく。春もそろそろ終わりに近づいている。
「〈奴ら〉です!」
平野の声で、一気に俺たちは緊張し始めた。
「黒瀬と香月は中に入ってくれ!」
「どうも」
ハンヴィーの中に入る。小室と宮本は入りきらないので、ルーフで伏せておくしかない。
〈奴ら〉に会わないように、器用に避けていくが、正面には大量の〈奴ら〉が……
「そのまま押し退けて!」
〈奴ら〉を撥ね飛ばしていくが数は増えるばかりだ。
「何でこんなに集まってんだ!?」
さっきまで全然いなかったってのに。
「ダメ、止まって!!」
宮本が叫んだ。奥を見ると、道路を遮るようにワイヤーが張られてあった。
「ワイヤーだ!」
鞠川先生もワイヤーに気付き、車体を横のする。ハンヴィーは〈奴ら〉を押し退け、車体とワイヤーで〈奴ら〉の体を潰した。
「ブレーキが効かないわ!」
「タイヤがロックしています! ブレーキ離して、少しだけアクセル踏んで!」
ハンヴィーは急停車した。しかし、その勢いで、宮本がボンネットに体を打ち付け、道に飛ばされる。
「麗!」
小室は飛び出し、宮本に近付く〈奴ら〉をショットガンで撃ち倒してく。
「行くぞ、黒瀬君!」
「オーケー!」
俺と毒島先輩はハンヴィーから飛び降り、〈奴ら〉の相手をし始める。平野もルーフから体を出し、ライフルで〈奴ら〉の頭を撃っていく。
「平野、宮本に近付く奴を最優先頼む!」
「分かってる!」
俺は、クロスボウで〈奴ら〉の頭を狙い、引き金を引こうとするが、
「くそっ! 指が動かねぇ!」
〈奴ら〉を撃つという気はあるのに、指が固まったかのように動かない。こんな肝心な時に!!
「アアアアア」
「ちっ!」
俺は、クロスボウから矢を取り出し、近付いてきたゾンビの頭に刺した。
「平野、すまん。中に入れといてくれ!」
俺は平野にクロスボウを投げ、腰からナイフを取り出した。
「喰らえよ!」
ナイフをゾンビの喉に刺し、胸を蹴る。ゾンビは他の〈奴ら〉も巻き込みながら吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ勢いでナイフは抜けた。ナイフをもう一本出し、体を回転させながら〈奴ら〉の首を削いでいくが、一向に数は減らない。
「数が多すぎる。先生、車は!?」
「ダメ! エンジンがかからないわ!」
逃げ道は、後ろのワイヤーの向こう。しかし、宮本は体を打ち付けたせいで、身動きが取れそうにない。
「あっ、ぐ!?」
足に激痛が襲い掛かる。見ると、倒れていたゾンビが俺の足を掴み、噛んでいた。すぐに振りほどき、頭を踏み潰す。
「クソ!」
正面ばかりに気をとられていた。一生の不覚だな。
「黒瀬君!」
「黒瀬!」
先輩が、俺の回りの〈奴ら〉を倒していく。
「ここまでか……」
〈奴ら〉は、t-ウイルスとは違う症状だ。別物のウイルスである可能性が高い。そして、俺がそのウイルスの抗体を持っていない可能性も……
「クソ!」
ダガーナイフを出し、全本投げる。命中し、五人を倒すことに成功した。
「リョウ!」
香月が車から飛び降り、俺に駆け寄ってきた。
「危ないから中に入ってろ!」
「嫌よ!」
「俺は噛まれた。〈奴ら〉になるかも……」
皆を逃がしたら俺も去るとするか。心名残はあるが。
「俺は最後まで戦うよ。俺が〈奴ら〉になったときは誰か介錯を頼む!」
「黒瀬君……その仕事、私が引き受けた」
先輩は戦いながら言った。
「すみません、俺のドジのせいで」
今まで運が良かったんだ。普通ならもっと早く死んでるよ。
「ッ!」
香月に近付くゾンビに肘を喰らわせ、アイスピックを出して、目に刺し込む。
「頼む。車の中に乗ってくれ。お前を死なせたくない」
「リョウ……」
「頼むから!」
香月の目には涙が潤い、歯を食いしばってハンヴィーの中に戻った。
「さぁ、最期の戦いだ」
噛まれたせいで、走れない。近づいてきた奴を倒していくしかない。
近づいてきた〈奴ら〉を合気道で転倒させ、頭を踏み潰していく。最期の戦いならもっと派手にやりたかったな。
「黒瀬君、後ろだ!」
「なっ!?」
またもや油断していた。背後には一匹、俺に組み付こうとするが、
「死なせないわ!」
ハンヴィーから降りてきた高城が、ショットガンを使い、背後のゾンビを撃ってくれた。
「礼は言うけど、少しでもズレてたら俺も巻き添え喰らってたよね!?」
「私は天才よ。そんなことはしないわ」
うーん、妙な説得感。
「じゃあ背後は任せた!」
「任されたわ!」
☆
あれから何分が経過しただろうか。俺は、〈奴ら〉を何体倒しただろうか。そんなことが分からなくなるくらい、無我夢中で戦った。だが、〈奴ら〉の数は増えるばかりだ。絶体絶命か……
「ちょ、小室、何をする気なのよ!」
小室は、高城が使っていたショットガンを取った。
「〈奴ら〉を引き付ける!」
小室は走り出し、ショットガンをバット代わりにして〈奴ら〉の頭を潰しながら、俺たちから離れていく。
「小室君、私も付き合おう」
先輩も小室と共に走り、大きな音を出しながら俺たちから離れていく。音で〈奴ら〉を惹き付けるようだ。
「だが……」
小室たちに大半は惹き付けられたが、まだ五十体は俺たちの方へ向かってきている。
「はぁ……」
死ぬんならせめて皆を救って死にたかったな。人生そう上手くもいかないか。
「全員伏せろ!!」
誰かの怒号の声を聞き、俺は反射的にその場に伏せた。〈奴ら〉が吹き飛んでいく様子が見え、ワイヤーの向こう側を見ると、消防服を着た人間が何人もいた。その手には、暴動鎮圧用のインパル消火システムの放水砲が装備されている。
「今のうちにこっちへ!」
「黒瀬、肩を……」
高城は俺に近付く。
「いや、いかないよ。俺を助けても特はない。もうじき〈奴ら〉になるはずだ」
「ダメよ! アンタが死のうが生きようが連れていくことには代わりはないわ。アンタが〈奴ら〉になったら、その頭を吹き飛ばしてやるんだから」
「そりゃ、ありがたいね」
俺は高城の肩を借り、ワイヤーの向こう側へと行った。
「沙耶、無事で良かったわ」
消防士のような格好をした人の一人がヘルメットを脱いだ。女の人のようで、誰かに面影があるような……
「ママ!!」
高城が、女の人に抱きついた。なるほど、高城のお母さんのようだ。
小室たちの方を見ると、一安心した様子だった。しかし、戻ってこれそうにはない。
小室たちは、走って去っていった。迂回するのだろう。
「待ってるから! 私の家で待ってるからー!!」
小室たちが帰る頃には俺は……もう……
主人公はゾンビ化してしてしまうのか!? 次回に期待!!
明日も投稿予定