バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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登場人物が多くなると、誰かが必ず影が薄くなるんですよね。あ~、難しい。


12話 分断

 ニュースで報道されたのは、市民が暴動を起こし、死者が出たとのことだ。まぁ、当然だ。本当の事を言えば、市民がパニックを起こす。しょうがないね。

 だが、幸運かどうかは知らんが、ゾンビが大量発生しているのはこの関東だけだそうだ。つまり、関東を抜け出せば安全。北海道とか九州に逃げちゃえば良いね。

 この関東だけでゾンビが発生しているのには理由があるんだろう。そう、アンブレラ・ジャパンとかね。  

「ラクーンシティ……」

 高城が口を開いた。

「ラクーンシティって、ミサイルで消滅した?」

「そう。そのラクーンシティでも〈奴ら〉が出たって噂を聞いたわ」

 それ、噂じゃないよ。事実だよ。と言いたいが、何故知っているという理由も説明しなくちゃならんので暇が出来たら話すことにしよう。

「ま、これで目的は決まったろ? 関東からの脱出だ」

 電車や飛行機は使えないだろうから、車を使うことになるが……結構掛かるな。

「いや、先に家族の安否を確かめないと」

 小室が言った。

 なるほど。小室たちには家族がいる。それを見捨てて逃げるわけにはいかないか。だが――

 俺は香月をチラッと見る。その表情は強ばっていた。

 俺と香月は今すぐにでも脱出していい人間だ。家族はいない。でも、知り合いであるコイツらをほっとくわけにもいかない。

「香月、すまん。少しの間、小室たちと一緒に行動する」

「うん」

「〈奴ら〉には気を付けて。腕力が強いわ。捕まったらひとたまりもないわ」

 コイツらは、ゾンビの事を〈奴ら〉と呼んでいるようだ。俺もこの場ではそうするか。

 まあ、どの道、俺は小室たちの元を離れるだろう。香月を脱出させた後はアンブレラ・ジャパンに行く予定だ。そこで真実を突き止める。

「では行くとするか。生き残りも出来るだけ拾っていこう」

「はい」

「駐車場には、正面玄関からが一番広いわ」

 俺たちのチームは……

 前衛 小室(バット)、毒島先輩(木刀)、宮本(箒を折って槍のようにしたやつ)、俺(ナイフ)

 後衛 平野(改造ネイルガン)、香月(ハンドガン)、鞠川先生、高城

 戦える奴は、五人だ。香月の銃は持っとくだけだしな。

 て、あれ? 一番リーチが低いのって俺じゃん。

「さぁ、行くわよ!」

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「いや~お前ら凄いな」

 テキパキと〈奴ら〉を始末し、そして生き残りまで救っちまった。

 俺なんか、殺すのにもの凄い決意が必要だったのにコイツら普通に〈奴ら〉の頭を叩き潰すんだもん。俺よりコイツらの方がヤバイな。

「で、どうする。正面玄関は〈奴ら〉で溢れかえってるぞ」

 それが問題だ。数は二十体以上だ。

 それで、俺たちは〈奴ら〉から見えないように階段の上で身を隠している。

「〈奴ら〉は音に敏感よ。見えないから隠れる必要もないのに」

 と、高城が衝撃的な事を言った。

「それ、マジ?」

「ええ。私と平野で実験したわ」

 ええー? じゃあ〈奴ら〉はt-ウイルスとは違うのか? ラクーンシティやロックフォートのゾンビは、目も鼻も耳も使えた。新種のウイルスか? いや、でも耳しか使えないなんて明らかにt-ウイルスの劣化だよな?

「何よ、気になることがあるの?」

「いいえ、ありません」

 t-ウイルスじゃないとしたら、俺も噛まれたらヤバいということだ。そのウイルスの抗体は持ってない可能性がある。前みたいに三十体を一斉に相手することが出来ない。前は、噛まれても良いという微妙な安心感があったわけだが、別のウイルスとなると、噛まれるまで分からん。噛まれて抗体を持っているかの実験もやりたくない。

 つまり、正面玄関にいる二十体の相手をすることが出来ない。しかもこっちには戦えない人間がいるわけだし。途中救った生徒もそれほど力にならないだろう。

「僕がそれを試してみるよ」

 小室が立候補した。

「じゃ、俺も行くとするかね」

 俺は立ち上がる。

「黒瀬、良いのか?」

「もちろん、一人より二人だ」

 襲われたときにはカバーに入れるしな。今は、戦える人物を死なせたくない。

「平野、カバーを頼む」

「了解!」  

「リョウ、気をつけて……」

「……ああ」

 俺と小室は足音を立てないようにゆっくりと階段を下りる。正面玄関前まで着くと、辺りに〈奴ら〉が大量にいるが、こちらには目もくれない。

 高城の言った事は本当のようだ。

 床に、誰かのシューズが落ちていた。俺は小室に目配せを送る。

 小室は了解し、シューズを奥にあるロッカーに投げつけた。

 〈奴ら〉は、音に釣られ、ロッカーへと向かう。

 俺と小室は、玄関扉を開けて後から来た皆を外に出させる。

 カァァァン! と不意に金属同士が触れ合う音が響いた。

 さっき助けた生徒の刺又が、手すりに当たったのだった。

「走れ!!」

 小室は大声を出して皆を急がせる。

「何で声を出したのよ!? 近くにいるのを倒すだけで済んだじゃない!」

「ッ!」

 俺は、高城に襲い掛かる化け物の首にナイフを刺す。

「きゃ!?」 

「さっさと逃げろ。〈奴ら〉が集まってくるぞ」

 俺はナイフを抜き、走り出す。香月が俺の傍に近付いてきた。

「りょ、リョウ……」

「今は喋るな。息があがる」

 俺は、行く手を阻む〈奴ら〉を、蹴って倒していく。 

「くそ、数が多すぎる!」

 全校生徒の半分、いや、ほとんどと言っていいほど、大量の〈奴ら〉が集まってきている。 

「黒瀬、危ない!」

 平野が、俺の背後にいた〈奴ら〉を撃ってくれた。

「サンキュー、平野。しゃがめ!!」

 俺はサバイバルナイフを平野に刺す勢いで投げた。

「うわぁぁ!?」

 平野はギリギリでしゃがみ、ナイフは、平野の後ろにいた一体の頭に刺さった。

「ちょ、死ぬかと思ったよ!?」

「死んでないだけマシだな」

 俺はナイフを抜き取り、再び走り出す。

「リョウ、他の生徒が……」

 香月の呼び掛けで気付いたが、途中で救った生徒は、いなくなっていた。〈奴ら〉に捕まったのだ。

「行こう……もう救えない」

 マイクロバスがもう目前に見えてきた。

「香月、平野、先の乗ってくれ。平野は俺と小室の援護を頼む」

「イエッサー!」

 俺の近くにいる〈奴ら〉は五体。毒島先輩と小室も他を相手しているから、俺だけで相手をしなくちゃいけないようだ。

「だあああ!」

 俺は、目の前にいた一体に飛び蹴りを喰らわせ、すぐに立ち上がり、頭を踏みつける。ダガーナイフを二本出し、二体に投擲。もちろん頭に命中だ。

 残りは二体だが、バスに乗った平野がネイルガンで援護し、すぐに倒してもらった。

 ダガーナイフを回収し、バスに入る。

「全員乗ったね。出すわよ!」

「待ってください。まだ人が来ます!」

 小室の言う通り、生徒と教師が、こちらに走ってきていた。

「あいつ誰?」

「三年A組の紫藤だな」

 知らん。学年違うからそりゃそうだけど。

「前にもいっぱい集まって来てるわ!」

「この車じゃ何人も轢いたら横倒しになるわ!」

「黒瀬、行くぞ」

「ああ!」

 俺と小室はバスから飛び出そうとするが、

「ダメよ!」

 宮本から止められる。

「何でだよ!?」

「あんな奴、死んじゃえば良いのよ!!」

 宮本の顔は、嫌悪の表情でいっぱいだった。前に紫藤に何かされたのだろうか?

 だが、小室はドアを閉めない。小室も生き残りを見捨てるような真似はしたくないのだ。そして、生き残りが乗り込んでくる。

「先生、出して!」

「うん!」

 最終的に、バスに後から乗ったのは八人。教師が一人に生徒が七人。

 バスは校門へと向かい、閉じられていた門を突き破って学校から脱出した。

「リョウ、やったのね」

「そうだな……」

 だが……俺たちの戦いはこれからだと言っておこう。町には〈奴ら〉が――

「助かりました。リーダーは毒島さんですか?」

 紫藤が、毒島先輩の傍に寄る。

「そんなものはいない。生き残るために協力しただけだ」

「それはいけませんねぇ。生き残るにはリーダーが必要です。全てを担うリーダーが……」 

 あーあ。今さらだけど、こいつ助けない方が良かったわ。めちゃくちゃ嫌だな。

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「だからよぉ! このまま進んでも危険なだけだってば!」

 コンビニを過ぎた辺りから、先ほど助けた不良が何やら吠え出した。

「大体よぉ。何で俺らまで小室たちに付き合わなきゃならねぇんだよ。お前ら勝手に町に戻るって決めただけじゃねぇか。学校で安全な場所を探せば良かったんじゃねぇのか!?」

 ……お前、何故バスに乗った?

「そ、そうだよ。どこかに立て籠るとか、ほら、さっきのコンビニとか」

 他の奴も反論する。

 当然、俺たちサイドはイライラだ。

「ならば君はどうしたいのだ?」

 毒島先輩は不良に問いただす。

「ッ! こいつとこいつが気に入らねぇ!」

 不良は、俺と小室に指を差した。

「俺も?」

 何かしたっけ? そもそもお前の顔を見るのも初めてなんだけど。

「んだよ。僕がいつお前に何かしたよ」

 小室は立ち上がる。いいぞ、小室。言ってやれ。

「て、テメェ!!」

 と、びっくり行動。不良は小室に殴りかかろうとした。が、宮本に棒で殴られ、その行動は阻止された。

 不良は床に倒れ、咳き込む。

「いや~、お見事です。小室君、宮本さん」  

 紫藤が、拍手をしながら俺たちに近付く。

「が、こういうことが起こるのは、私の意見の証明にもなってますねぇ。やはりリーダーが必要なのですよ、リーダーが!」

「で、立候補は一人っきりてわけ?」

「私は教師ですよ? 高城さん、あなたたちは生徒だ。私なら、問題がないように手が打てますよ。どうですか皆さん?」

 うへぇ、それなら鞠川先生の方がよっぽどマシだ。てか、リーダーっていらなくない? 俺だって今までリーダー不在のまま、脱出出来たぞ。てか、リーダー自体、自然に決まるもんだろ。

 そんな思いも束の間、後から乗ってきた生徒たちの賛成よって、リーダーは紫藤に決まった。

「リョウ、私、あの人嫌い」

「俺も」

 後悔してるよ。何でこんな奴を乗せたのかを。

「私、降りるわ!」

 宮本が、バスのドアを開け、バスから降りた。

「待てよ、麗!」

「そんな奴と何かと一緒にいたくない!」

 俺もそうだが……やはり宮本には、過去に何か紫藤にされたのだろうか。

「おやおや、行動が共に出来ないと言うなら仕方ありませんねぇ」

「何言ってんだ、アンタ!」

 宮本はトンネルの中に入ろうとするが、小室もバスを出て、宮本を止める。

「鞠川校医!」 

 右を見ると、時速八十キロメートルは出ているバスが、トンネルの方に突っ込んでいく。

 バスの中には大量の〈奴ら〉が溜まっていた。

「小室、宮本!」

 バスは止まっていた車に当たり、横転する。

「逃げろ!」

 小室と宮本はトンネルの中に走り、横転したバスはトンネルの入り口を防ぐ形で止まった。

 バスは燃え盛り、小室たちは戻ってこれそうにない。

 ……こういう展開、ラクーンシティでもあったんですけど。

 俺と毒島先輩は、外に出て、トンネルの側に駆け寄る。

「小室君!」

「警察で、東署で落ち合いましょう」

 トンネルから、小室の声だけが聞こえる。

 てか、また警察署かよ。

 あの時はすぐに警察署に辿り着けたが、一時間もしないで出ていくことになったな。俺だけ。

「時間は!?」

「今日の午後七時で、今日が無理なら明日のその時間で!」

 バスの中からは、炎に包まれた〈奴ら〉が出てくるが、何もせずにバタバタと倒れる。

「毒島先輩、行きましょう。ここは危険です」

 バスが爆発する可能性がある。

 俺と毒島先輩はバスに乗った。

「先生、出してくれ」

 バスは進み出す。

「小室は何て?」

「今日の七時に東署だ」

 だが、今日は距離的に無理だ。

 小室、宮本、無事でいてくれ……

 

 

 




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