さてさてどうした事か。
突如として、この学校にゾンビが現れ、瞬く間に生徒や教師たちもゾンビにさせ、どんどん量産させていったわけだ。
香月が警察に電話を掛けたが、当然のように繋がらなかった。町で……いや、関東中でここと同じ事が起こっているのだ。
俺と、友人の香月は、依然として職員室に向かっているのだが、廊下は酷い有り様だった。生徒や教師の死体がそこら中にある。
「香月、怖いんなら、目を瞑ってても良いんだぜ?」
「余計に怖くなるわ」
「そりゃ失礼」
香月だけには、絶対に危害を加えさせない。香月は俺の大切な友人だ。守り抜いてみせる。
「リョウ……」
前にある死体が動き出した。
「あー、めんどくせぇ」
出来るだけゾンビとの戦闘は避けたいのだ。ラクーンシティでは、全員戦えるメンバーだった。しかし、今は違う。香月は戦えないのだ。
「アアアアア!」
ゾンビは俺に突っ込んで来るが、しゃがみ、ゾンビの足の腱を斬る。ゾンビは倒れて込み、立てなくなった。
「よ!」
俺は、ゾンビの頭をサッカーのフリーキックの如く蹴った。
「し、死んだ……?」
「ああ、殺したよ。行こう」
既に生き残りは少ないだろう。窓から外を見るが、グラウンドにもゾンビが溢れている。
「ねぇ、リョウ……」
「何だよ?」
「こいつらって、映画に出てくる〈アレ〉だよね?」
「ああ、そうだな」
「去年、嘘か本当か分からないけど、ラクーンシティでも似たようなのが出たんだって」
「本当だよ。本当の事だ」
もちろん、t-ウイルスの事も世間に知らされたが、ラクーン市民がゾンビ化された事実は、それほど広まってはいない。死体が起き上がるなんて話は、空想の中だけだ。まあ、本当は死んでいないわけだが。
「リョウってさ、去年の秋の三連休さ。アメリカに行ってたよね」
「……ああ」
「リョウが帰ってきた日ってさ。ラクーンシティはミサイルで消滅した日よね」
香月が何を言いたいのかが分かってきた。
「……そうだな」
その日は凄かった。テレビを付けても全部ラクーンシティの話だったしな。
「ねぇ、リョウ、私に何か隠してない? この銃だってどこで手に入れたの?」
香月は真剣な表情で問いただす。
「言ったろ。ここから無事に脱出したら――」
「嫌よ!!」
香月は、今までは聞いたこともないくらい声を荒げた。
「お、おい、香月?」
「私、リョウが怖い。無表情でどんどんこいつらを殺すし、何か知ってくる癖にその事を話さないし! 何かあったんでしょ!? 去年の十二月はずっと学校を無断で休むし、春休みだって観光とか言いながらヨーロッパに行ったわ。でも私にはあれが嘘だってこと分かってたわ」
そうだ……何かを隠している奴と行動するなんて俺だって無理だ。
「分かったよ。……話す。でも歩きながらだ」
俺は香月の頭を撫でる。
「行こう」
さっきの香月の声でゾンビが集まってくるはずだ。
☆
「で、分かったか?」
俺は、ラクーンシティの事や、十二月の事、春休みの事を香月に語った。だが、簡単にだ。ウェスカーの事は話してないし、十二月は、ラクーンシティを一緒に脱出した仲間を助けに行った程度の事だ。
「でも……本当にリョウが……ごめん、思い出したくないこと思い出させて……」
「いや、良いよ。それに俺は一生あの事件を忘れないさ」
俺はアンブレラを潰すと、今はなきラクーンシティで誓ったのだ。例え何年掛かろうともな。
「それで、学校から脱出したらどうする気なの?」
「出来ることなら一旦家に帰る。そして、安全な所まで行くさ。それが外国になろうともな」
家には、一通りの武器は揃っている。ここにはハンドガンとナイフしかないが、家に帰れば、アンブレラの監視者から大量に奪った銃がタンスの中で眠っている。それに幸いな事に香月の母は外国に一ヶ月の間、出張中だ。父は離婚して今はどこにいるか分からない。俺の両親はとっくに死んでいるしな。つまり、ヘリさえ捕まえれば、今すぐにこの町から脱出出来るのだ。
俺と香月は進み続ける。ゾンビも極力相手にしないようにして。ゾンビは音に敏感なんだ。
職員室の前の廊下に着くと、床には複数のゾンビの死体があった。
「う、動き出さないわよね?」
「ああ。全員頭をカチ割られてる」
これをやった奴がいるわけだ。
俺は職員室のドアに近付き、ドアに耳を当てる。
「…………」
中から男女の話し声が聞こえてきた。
「誰かいるの?」
「ああ、でも味方とも限らない」
相手は、ゾンビと戦える男女だ。当然武器を持っている。ゾンビの中には、頭を釘で刺されて倒された奴もいる。改造したネイルガンを持っているはずだ。まあ、釘くらい銃弾に比べれば簡単に避けれる。
中にいる奴らが友好的ではなかったら、気絶させて車の鍵を持っていくだけだ。
俺はそっとドアに手を掛ける。しかし、当然ながら鍵が掛けられていた。
「香月、銃を。下がってろ」
「う、うん」
香月に銃を受け取り、スーハーと深呼吸。
「すみません、開けてくれませんか?」
と、優しめな声で呼び掛ける。
「僕が行こう」
「ちょ、気を付けなさいよ。外に〈奴ら〉を引き付けてるかもしれないわ」
……聞いた事がある声だ。
ガラガラとドアが開き、男の姿が見える。
「小室か!」
「黒瀬!? それに香月も!」
「ど、どうも、小室くん」
この目つきが悪い男は、小室 孝。同級生であり、友人に近い人物だ。
「〈奴ら〉はいないみたいだな。入ってくれ」
「じゃまーす」
「失礼します」
俺と香月は職員室に入る。
中にいた他の人間は、全員知っている人物だった。
「な!? アンタ生き残ってたの!?」
「よう、学年二位」
「誰が学年二位よ!」
このやけに噛み付いてくるツインテールは、高城 沙耶。自称天才でお金持ち。テストではいつも俺に一位を取られて悔しがっている女だ。いつもと違い、眼鏡を掛けている。イメチェンでもしたのか?
「君たちは黒瀬君に香月さんだな?」
「へぇ、良く知ってますね」
ロングヘアで、その手に木刀を持っている彼女は、毒島 冴子。学年は俺より一つ上の三年生で、剣道部の主将だ。去年、全国大会で優勝し、その名前を学校中に広ませた。
「君たちは有名だからな。君も剣道で全国優勝しているじゃないか」
ありゃ知ってましたか。
「そうなのか、黒瀬!?」
「まあな」
それ以外にも色々と優勝しているが。
「き、君のその手にあるのはグロック19かぁー!?」
眼鏡を掛けた肥満体質の男の目が輝く。名前は平野 コータ。軍オタだ。なるほど、あの釘は、こいつがネイルガンを改造した物だったのか。
「そうだ。ほれ」
俺は平野に銃を投げた。
「うおおおお!! 本物だぁ! グロック19は警察のSATでも使われている銃だ!」
ほう、知らんかった。
「どこでこれを!?」
「……買ったんだよ。闇市場でな」
もちろん違法です。国連の最難関の試験の合格したこの俺でも銃の所持は国連からは許されていません。
「あらあら、彩ちゃんにリョウくん」
この無駄に胸の大きい金髪ロングヘアは、鞠川 静香。この学校の校医だ。大学病院から臨時に派遣されている。俺が良く保健室にサボりに行っているので、名前を知られてしまった。香月はそのついでだな。保健室に行った俺の様子を毎回見に来るのだ。
「みんな、これを見て……」
声を震わせる茶髪ロングの女は、宮本 麗。小室の告白を振った人物だ。話したことはない。
「なんだ?」
俺たちはテレビに近付く。
ニュースキャスターが今回の事件について語っていた。
明日も投稿予定