バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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バイオハザード6編の始まりです。
めりくり。


13章
98話 イドニア共和国 前編


 2012年。増加傾向にあったウィルスやBOWを用いたテロはさらに悪化の一途を辿り、世界はバイオテロによる恐怖と戦火で包まれていた。

 新型のウィルスや強力なBOWの登場により、バイオテロ専門の国連組織BSAAも悪戦苦闘していたが、バイオテロ被害者や正義感の強い人物たちがBSAAに参加し、組織は巨大なものになっていた。

 そして、今回もBSAAの大部隊による作戦が行われている。

 場所は東欧イドニア共和国。政府軍と反政府軍で内戦が起こっている国だ。BSAAには内戦が起こっている理由など関係ない。この戦いに介入する理由は一つ。反政府軍が、新型のウィルスとBOWを使用しているという情報を得たからだった。

 BSAAは即時に部隊を展開し、事態の鎮圧に動こうとしていた。

 

 

 

 

「うぅ、なんて寒さだ」

 

 BSAAの隊員である黒瀬リョウは、ヘリから降りると同時にあまりの寒さに口にした。

 雪が降りしきるこの国の気温は0度を下回る。日本育ちの黒瀬には堪える寒さだが、カムチャッカ半島で寒中水泳した時と比べると幾分かマシだ。

 

「こんな日も戦わなきゃいけないとはな……」

 

 今日の日付は12月24日。世間はクリスマスで浮ついているだろう。そんな大切な人と過ごす日でさえもBSAAには関係ない。悪いのは全てウィルスを悪用する者たちだ。もっとも、恋人のいない黒瀬にはどうでもいい日だが。

 ヘリの中で聞いた説明によると、反政府軍は『ジュアヴォ』というBOWを使用していて、変異も確認されている。この街にいるほとんどのゲリラや傭兵はジュアヴォに姿を変え、BSAAに猛威を奮っている。

 

 街のあちこちで銃声や爆発音が聞こえる。既に作戦は開始しているようだ。黒瀬が今いる作戦本部も慌ただしく、黒瀬を相手にしている暇はないだろう。

 ともかく、BSAAの目的はBOWの鎮圧だ。部隊を持たない黒瀬に出来ることはただひたすらに敵を倒すだけ。今戦っている部隊を援護しながら、なるべく広範囲で戦う方が被害も抑えられるはずだ。

 話によれば、北米支部からクリス・レッドフィールドが率いる部隊も作戦に参加しているらしい。戦っていればそのうち会うこともあるだろう。

 今はとにかく目に映る敵を倒していく他ない。

 黒瀬は銃声の聞こえる方に走り出した。

 

 

 

「遅かったか……」

 

 黒瀬が辿り着いた時には既にこの場で戦っているBSAA隊員は全員が倒れていた。

 『ジュアヴォ』と思われしき人間が、動かない隊員たちを殴りつけ、叩きつけ、ナイフで滅多刺しにしている。その光景を見て、黒瀬に怒りが湧いて来る。

 

「やめろ!!」

 

 黒瀬は一番近くにいるジュアヴォの顔面を殴りつけた。

 ほぼ全力で殴ったはずだが、ジュアヴォは平気で立ち上がる。

 遠目で見たらほぼ人間だが、ジュアヴォの顔には複眼のようなものが表れていた。

 

(銃を扱えるほどの知能と凶暴性を併せ持ったBOW。これは手強いな……)

 

 黒瀬は怒りに呑まれることなく、冷静に敵の特性を判断する。

 周りのジュアヴォたちが黒瀬に気付き、一斉に銃を向けた。

 

「やべっ!」

 

 黒瀬は近くの土嚢に飛び込んで銃撃を回避するも、状況は悪い。敵に囲まれ、援軍も見込めない。

 しかし、こんな状況に陥ることなんて黒瀬にとって日常茶飯事だ。

 黒瀬は土嚢から飛び出ると同時にダガーナイフを投擲する。ジュアヴォは少し苦しむも、刺さったナイフを引き抜いて放り捨てた。傷跡から煙を吹き出しながら再生している。

 だが、中には腕を押さえつけ、苦しんでいる者もいた。みるみると腕の形が変化し、鎌のように変異したり、上半身を被えるような盾のような形に変異している。

 

「マジかよ……!」

 

 黒瀬の驚きを畳み掛けるようにジュアヴォはこことぞなく、その力を見せつけた。

 凶暴性と再生能力、そして体が武器のように変異する力。BSAAが苦戦するのも納得だった。

 一斉に襲いかかるジュアヴォたち。黒瀬は走りながらダガーナイフを投げるもすぐに底をつきた。なんせ、生物の弱点であるはずの心臓や頭に刺さろうとも傷が再生するからだ。

 近くに身を隠す場所がなく、仕方なく黒瀬は腰の日本刀を抜いた。ジュアヴォの銃撃を刀でいなしながら、回転切りで首を両断する。流石のジュアヴォも再生することなく、塵となって消滅した。

 仲間が死んでも怯むことなく、敵は襲い掛かってくる。黒瀬の俊敏な動きに弾丸は一発も当たらず、ジュアヴォたちの弾倉は空になった。ジュアヴォはリロードしている暇はないと判断したのか、ナイフやスタンバトンを抜いて黒瀬に向かってくる。

 近接戦を仕掛けて来るなら、それは黒瀬にとって好都合だ。

 鎌のような腕を振り回すジュアヴォの身体を切り伏せる。そして瞬く間に後ろの三人の頭を斬った。

 バタバタと敵を倒す黒瀬の背後をジュアヴォはスナイパーライフルで狙う。だが、撃つよりもはやく黒瀬は殺気に気付き、手に持っている刀をぶん投げた。口を貫通し、後ろの壁に突き刺さる。

 武器を手放した黒瀬に、ジュアヴォがナイフで切り付けようとする。黒瀬はその腕を掴み、鼻先に肘でカウンターを入れた。怯んだ敵に全力の右ストレートを喰らわせ、吹き飛ばす。そして最後に残った敵に右フック、左フックと、胸と脇腹を殴りつけて顎に回し蹴りを喰らわせた。

 

 あらかたの敵は片付き、黒瀬は壁に刺さっている刀を引き抜いて血振りをして鞘に納めた。

 倒れている隊員は全員既に息はなかった。

 黒瀬はやりきれない気持ちになった。

 今までこんなことは何回もあった。仲間の死を見る度に、何度BSAAを辞めようとしたことか。

 だが、結果として黒瀬はBSAAを辞めることはなかった。

 二年前、黒瀬は仲間の死を見るのが嫌で、意図的に仲間を避けていた時があった。仲間である小室やクレアたちによる励ましで立ち直ることが出来たが、それがなければ今頃どうなっていたのか想像もつかない。

 

 ────お前たちの分も俺が戦う。

 

 黒瀬は倒れている仲間に誓い、次の戦場へと走り出した。

 

 

 

 

 

 何体の敵を倒しただろうか。いくら倒してもキリがないと思えるほど、ジュアヴォは次々に襲いかかって来る。

 それほど反政府軍の規模が大きかったのだろう。彼らがどんな信念を持って政府を打倒しようとしていたのか今になっては分からないが、BSAAにとっては迷惑な話だ。BOWさえ使わなければ、BSAAはこの戦いに介入することはなかったのに。

 そう思ってももう始まってしまったものは仕方ない。黒瀬は余計なことを考えないように街中を駆ける。

 

 そして、巨大な人型BOWに坊主の男と金髪の女が追い掛けている様子が黒瀬の目に写った。

 二人はBSAAには見えなかったが、ジュアヴォにも見えない。それに女の方に黒瀬は見覚えがあった。

 まさかと思い、後を追った。

 倉庫のような場所に辿り着き、二人を見かけて思わず声をかけた。

 

「シェリー!」

 

 黒瀬の声に反応し、声をかけられた女性は驚いた顔で駆け寄ってきた。

 

「リョウ!?」 

 

 突然の再会に黒瀬とシェリーはハグをした。

 彼女の名はシェリー・バーキン。黒瀬と同じラクーン事件の生き残りであり、事件後はアメリカ政府に軟禁されている状態だった。

 

「どうしてシェリーがここに?」

「えっと……任務で彼を保護しに来たの。彼はジェイク。保護した理由は言えないんだけど……」 

 

 シェリーはバツの悪そうな顔で言った。

 

「そうか……エージェントになったとは聞いていたが……」

 

 黒瀬とシェリーは最近会ってはいなかったが、彼女とよく会うクレアからその話を聞いていた。クレアはラクーン事件の後、度々シェリーに会いに行っており、シェリーにとってクレアは姉のような存在だろう。

 

「おい、いいのか? BSAAとは関わらない方がいいんだろ?」

 

 ジェイク、と紹介された男が言った。彼の上着の肩にはこの国の反政府軍のマークが着けられているのを見ると、彼も傭兵のようだが、ジュアヴォには変異していない。

 

「彼は別よ。私の兄のような存在なの」

「あ、兄っ!?」

 

 黒瀬はシェリーの言葉に感動を覚える。昔はクレアに付き合わされてよくシェリーの遊び相手になっていたが、まさかそう思われているとは。

 

「このアジア人が?」

 

 ジェイクは黒瀬を睨み付ける。どうやら黒瀬を気に入らないようだ。

 

「ところで、さっきBOWに追われてたろ? あいつはなんなんだ?」

「それが────」

 

 シェリーが答えようとしたその時、天井を突き破って先ほどのBOWが現れた。

 

「チッ、しつこい野郎だぜ!」

 

 ジェイクとシェリーはハンドガンを構え、黒瀬は刀を抜いた。

 ジェイクは黒瀬の刀を見て鼻で笑う。

 

「まさか、ジャパニーズサムライってやつか?」

「まあな。これが俺の戦闘スタイルだ」

「BSAAってのはおもしろ集団みたいだな」

「二人とも、おしゃべりはそこまで! 来るわよ!」

 

 BOWはタックルで仕掛けてきた。三人は左右に避ける。

 巨大な人型BOW──ウスタナクは、タイラントと同じくらいの身長だが、筋肉は肥大しており、右手には相手を拘束することの出来るアームを付けていた。奴の攻撃を喰らえばひとたまりもない。

 二人がハンドガンを撃つも、ウスタナクにはまるで効いていない。黒瀬は背後に回り込んで背中を斬りつけるも、薄皮一つ剥けた程度だった。

 ウスタナクは左腕を振り回して黒瀬を吹き飛ばす。黒瀬は壁に叩きつけられ、肺の中の空気を吐き出すようにして倒れた。

 

 ──油断した。

 

 あの巨体だが、動きは中々に素早い。黒瀬は立ち上がり、刀を納める。あの皮膚には刃物や銃弾も効きにくい。それならやることは一つだ。

 シェリーがガソリンの入ったドラム缶を撃ち、爆発が起こる。流石のウスタナクも少しは怯み、黒瀬はその瞬間を見逃さなかった。

 黒瀬は突進する勢いで膝蹴りと右ストレートを繰り出す。後ろによろめいたウスタナクにジェイクが掌底を喰らわせた。

 

「サムライスタイルはもうおしまいか?」

「サムライも臨機応変に対応しなきゃいけないんでな」

 

 ウスタナクに黒瀬とジェイクのラッシュが襲い掛かる。黒瀬のパワーと、ジェイクの格闘術によるコンビネーションにウスタナクはなすすべがない。

 

「お前、なかなかやるな。ところで、どこかであった?」

 

 黒瀬はジェイクと初めて会った気はしなかった。こんな男、会っていたらしっかり覚えているはずだが──。

 

「アジア人は見分けつかねえよ」

 

 ジェイクは煽るも、当の本人は全く気にしていなかった。

 仲が良いのか悪いのか、それとも同じような戦闘スタイルの二人だからか。息ぴったり、同時にウスタナクにタックルを喰らわせる。

 後ろによろめいたウスタナクは柱に激突し、それによって柱が崩壊する。崩壊した柱が床に落ち、足場が崩れ去った。

 黒瀬は間一髪で避けたが、シェリーとジェイクは崩落に巻き込まれる。

 

「おい、二人とも大丈夫か!?」

 

 黒瀬は穴を覗き込む。

 

「ええ、無事よ!」

 

 かなり下まで落ちたジェイクとシェリーだったが、たいした怪我はないようだった。

 

「こっちから進めるみたい。心配しないで!」

 

 シェリーが無事で一安心した黒瀬。ふと、先ほどまでウスタナクが膝をついていた所を見ると、既に姿は消えていた。

 目的はジェイクのようであったが、倒すまでには至らなくてもかなりのダメージは負わせただろう。しばらくは襲ってこないはずだ。

 

「市庁舎へ向かうんだ! クリスがそこにいるはずだ。俺も後で向かう!」

 

 クリスの率いるアルファチームは、市庁舎の制圧と調査を指示されている。彼になら二人を任せても安心出来る。

 

「クリスが? オーケイ、そこへ向かうわ」

 

 そう言ってシェリーとジェイクは走り出した。

 黒瀬も倉庫から出て、市庁舎に向かい出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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