ちょこちょこ更新していければと思います。
黒瀬は目を開ける。
頭痛が酷く、身体が鉛のように重い。最悪の目覚めだった。
黒瀬が寝ていたのは民家の和室で、そこに布団が敷かれていた。
黒瀬は隣に目をやると、どこにでもいそうな高校生ほどの男が寝ていた。
「起きたか、黒瀬」
小室が部屋に入ってきて、スープの入ったコップを手渡した。
黒瀬はそれを受け取って一口、口に含んだ。
「あれからどうなった? 彩は?」
「分からない。どこかに消えてしまったよ。周りは火事だし、黒瀬も倒れたから、追う暇なんかなかった」
「そうか……」
彩の目的はなんだったのか。黒瀬は考える。試作品がどうのと言っていたが。
黒瀬はふと窓を見ると、日は完全に上がっていた。腕時計を確認すると、とっくに昼の十二時を過ぎている。
(十二時間も寝てたのか……)
これほど寝たのは何ヵ月振りだろうか。そもそも最近は睡眠自体していなかった。
「リョウ、起きたのね!」
「リョウくん、心配したのよ!」
部屋にクレアや静香、井上が入ってくる。
「すまない」
黒瀬は立ち上がろうとするが、よろめいて膝をつく。
「大丈夫か、黒瀬?」
「……ああ」
おかしい。身体が重いという以前に、いつもと感覚が違う。
「あれ? 黒瀬……目が……」
「目?」
目がどうかしたのか。
静香が鞄から手鏡を取って黒瀬に渡す。
「……え?」
鏡で自分の目を見た黒瀬は驚く。
紅い瞳が、黒色になっていたからだ。
「なんでだ……?」
考えられる理由は一つしかない。彩から打たれた注射だった。
黒瀬は自分の手を強くつねる。小さい傷口から血か滲むも、治る気配はなかった。
「もしかして……」
そのもしかしてだった。黒瀬のR-ウィルスの能力は、彩に打たれた注射のせいで失われてしまっていた。
「ん……ふわぁ……」
アユムは目を覚まして大きな欠伸をかいた。
目をこすりながら隣を見ると、全員が険悪な表情をしている。
(どういう状況だ!?)
アユムは起きたばかりの脳をフル回転させて今の状況を整理する。
確かゾンビが現れて、逃げて、二人の女性に会って、また逃げてたら自衛隊と誰かが戦っていて、何か火事になって、そこから皆で逃げて、この家に入ったら寝ちゃったんだ!
アユムは大雑把に状況を振り返ったが、何故皆が険悪な表情になっているかは分からなかった。
(そもそも皆の名前自体知らないし、どこの誰!?)
アユムは彼らに名乗っていないし、彼らもアユムに名乗っていなかった。そんな余裕などなかったからだ。
「あら、起きたのね……」
クレアもアユムの名前を聞いていないことを思い出した。
「えぇと、どういう状況です?」
アユムは今までの状況を整理して、静香から借りた携帯電話で両親に連絡をした。
しかし、両親も携帯電話をなくしたか、充電が切れているかで、電話を取ることはなかった。
「家族はきっと無事だよ」
井上は項垂れているアユムの肩をポンと叩く。
「ええ、オレもそう信じています。親父もお袋も妹のアカリも無事なはずです……」
そうは言っても何の根拠もない。両親とアカリがいたホテルもゾンビだらけのはずだ。そんな中、彼らが無事でいる可能性は低い。だから、今は無事を祈るしかない。
幸い、今一緒にいるのは、バイオテロ専門の部隊BSAAとNGO団体のテラセイブだ。名前くらいしか知らなかったが、彼らがいるのは心強い。それと若い自衛隊の人。
「井上さん、オレ、家族を早く助けに行きたいです……」
無茶を言っていることは分かっている。彼らも他にやることがあるはずだ。でも、彼らの力がないと一人で家族を助け出すことは不可能だ。
「うん、分かっている。でも少しだけ待ってくれ。黒瀬さんたちが二階で話し合ってるから」
「……はい」
R-ウィルス。黒瀬にとって憎むべき存在であるが、それと同時に感謝すべき存在でもあった。
R-ウィルスが存在しなければ黒瀬は生まれず、生まれたから救えた命も多くあった。これまでにどれほどこのウィルスに救われたか、数えきれない。
そんなウィルスが失われた今、黒瀬はただ項垂れるだけだった。
「リョウ、話したいことは山ほどあるわ。でもいつまでそんな状態でいるの?」
そうクレアは強めに言った。
「クレアちゃん。リョウくんの気持ちも考えてあげてよ」
「ええ、考えて言っているわ。リョウ、立ちなさい。あなたはBSAAでしょ? そんなあなたがいつまでもここにいていいの? 外では助けを求めている人だっているかもしれないのに」
「無理だ、クレア。俺が外に出ても何も出来ないよ。なんだってR-ウィルスの力が使えないからな……」
黒瀬の目に光は灯っていなかった。完全に諦めているかのような表情だ。
「さっきから聞いていれば……!」
痺れを切らした小室が黒瀬の襟首を掴み、壁に叩き付ける。
「ちょ……孝くん!?」
静香は小室を止めようとするが、クレアに制される。
「お前は……今までの黒瀬はどこに行ったんだよ! 昔のお前はそんなんじゃなかった。昔のお前は例えそんな力がなくても誰かを助けようとしたはずだ、足掻こうとしたはずだ、諦めなかったはずだ! なのに、なんでこんな姿になっちまったんだ!?」
「ああ、そうだな。確かに昔の俺はそうだったかもしれない」
「じゃあ何で今言ってくれないんだよ! はやく助けを求めてる人を助けに行こうって! 力を失っても黒瀬は黒瀬だろ!?」
「違う!!」
黒瀬は小室の腕を振りほどいた。
「俺は……俺は『あの事件』までこの力があれば何でも出来ると思ってた。大事な人も救えるって思ってた! でも違ったんだよ。ソフィアもリカさんも田島さんもリコさんも…………俺は誰も救えなかった! 救えなかったんだ! 力があっても、誰も…………。それなのに、力がない俺が外に出ても誰も助けられない。ただ失うだけだ」
「黒瀬……」
仲間を失うのは辛い。それはこの場にいる誰でも経験したことだ。それに死んだ四人は長い付き合いの、大事な仲間だった。それを目の前で喪った黒瀬の気持ちは、黒瀬だけにしか分からない。
「リョウ、何で今まで私たちを避けていたの?」
「俺は……皆に顔向け出来なかったんだ。仲間を四人も喪って、葬式で泣いている皆の姿を見て……。死んだ皆、きっと俺を恨んでるだろうなって。俺がいなければ……俺が生まれなければ、あの事件も起こらなかった!」
黒瀬が言い切った直後、彼の頬にビンタが飛んできた。黒瀬はよろめく。
黒瀬を叩いたのは、クレアでも小室でもなく、静香だった。
「せん…せ…い……」
静香の頬には涙が流れていた。
「これだけは言えるわ! あの四人はあなたを恨んだりしてない。リカは……リカはね……いつもあなたのことを心配してた。弟のように思ってた。最初、リカが死んだってことを聞いたとき、夢だって思ったわ。ああ、なんて酷い夢なんだろう、親友が死ぬ夢なんて最低だなって。でもそれは現実だった。あの夜はずっと泣いていたわ。でもね、あなたが生きてるって聞いたとき、嬉しかったの。他の皆もきっとそうよ。誰のせいでとか、なんであなたが、とか思わないわ。だって私たちは家族でしょう? カントウ事件で……全てを失ったあの日から……」
「俺も……家族だって……思ってます。でも、皆……死ぬかもしれない……」
「ええ、そうね。それでもこの仕事を選んだのは、リョウくん自身でしょ? ウィルスで不幸になっている人を助けるために。この歪んだ世界をどうにかするために……」
彼女の言う通りだ。自分でこの仕事を選んだはずだ。ラクーン事件からアンブレラを恨み、ウィルスを悪用する者を憎んだ。そして見てるだけじゃなく、自ら戦う道を選んだ。その過程で仲間が死ぬことも分かっていたはずだった。
「私たちは外に出るわ。生存者を、アユムくんの家族を助けないといけない。リョウくんはどうするの? ここにいるならそれでいいわ。全部終わったら、また迎えに来る」
いつもならほんわかしている静香も、かっこよく見えた。
「いや……行きます。ここで逃げたら……ウィルスの力がないからって逃げたら、俺に託してくれたリカさんたちの想いを断ち切ることになってしまう。それだけは絶対に嫌です……」
死んでいった仲間たちも、この世界をどうにかするために戦ってきたはずだ。その彼らの想いを引き継いで戦う責任がある。
「ありがとう、静香先生、クレア、小室。俺が今何をすべきか思い出すことが出来た。でも正直に言うと、まだリカさんたちの死は乗り越えられてない」
「乗り越えなくてもいいんじゃないの?」
「え?」
「リョウくんはね、色々と一人で背負いすぎなのよ。だからね、その背中にあるものを私たちにも分けてほしいの。仲間の死んだこと、も、リョウくんの過去も……皆で背負いたいの」
「……ありがとうございます」
黒瀬の瞳から一滴の涙が出てくる。それで腕で拭い、決心する。
泣いている暇はない。
俺は戦わなければならないんだ。死んだ仲間のためにも……“皆”で。
久々に書くのでストーリーを理解するのと矛盾点がないか全話読み返してみたのですが、最初の主人公の性格と今の性格が違いすぎて笑いましたw
やっぱ書いていく内に色々変わっちゃうものなんですね。
今後の予定としては
12章 10話以内に終わらせる
13章 バイオハザード6の話
14章 バイオハザードザファイナルの話
15章 11章で出てきた敵組織と決着をつける話 今までのキャラが出てきて総力戦
最終章 がっこうぐらし!の話 多分今までの章で一番長くなる
になると思います。
ヴェンデッタやバイオハザード7、8の話は今のところ考えていませんが、キャラは出すかも…