バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

107 / 117
89話 特殊部隊

「あれ、ここは……?」

 

 井上は目を開けると、見知らぬ部屋にいた。

 

「よ、目が覚めたか」

 

 小室はカップラーメンにお湯を注いで井上に渡した。

 

「小室さん、ここはどこです?」

「どこって……誰かの家?」

「ええ!?」

 

 

 

 小室は井上が気絶した後の話をした。

 避難所の学校が最早崩壊したこと。そこから逃げて民家へと忍び込んだこと。

 

「そんな……俺のいた部隊は……」

「多分……もう……」

 

 井上の目には涙が滲む。

 小室にも彼の気持ちは痛いほど分かる。仲間が死ぬなんて信じられないし信じたくない。だが、これが小室には日常だった。いつまでも経っても慣れることはない。

 

「すみません……俺、助けてもらったんですよね……」

「助けたのは僕じゃなくて黒瀬だよ。僕は大人一人を担いで〈奴ら〉の群れを突破するなんて無理だし」 

「黒瀬さんはどこに?」

「屋根の上で街の様子を見てる」

 

 小室はテレビを付けると、どのチャンネルでも神岡市の報道をしていた。

 どうやらさっきの避難所であったことが他の避難所でも起きており、多数の自衛官や警察官が犠牲になっているらしい。

 

「最悪のゴールデンウィークだな」

「本当ですね」

 

 井上はカップラーメンを取る。

 

「頂きます」

 

 井上はがっつくようにラーメンを啜る。喉に詰まったのか咳き込んだ。

 

「おいおい、急がなくてもいいよ」

 

 小室は井上に水を渡す。

 

「すみません、俺……俺……」

 

 ポロポロと井上の目から涙が溢れる。我慢の限界のようだった。

 

 

 

 

 

 

 時間は0時を過ぎていた。

 

「………………」

 

 黒瀬は民家の屋上で街の様子を見ていた。

 至るところで火事が起きていて、風向きのせいか黒瀬の方向に煙が飛んできていた。

 外にいるのは感染者しかおらず、人間の影なんてどこにもない。

 

「……世界は変わらない」 

 

 どれだけ戦ってもテロは増える一方だ。この光景も今まで何度見たことか。

 黒瀬に怒りと喪失感の両方が立ち込める。

 俺の仲間はこんな世界を創るために死んでいったんじゃない。

 そういくら思っても無駄だ。仲間は死に、世界は酷くなるだけ。

 

「うわあああああん!」

 

 まるで子供のような泣き声が下の部屋から聞こえてきた。

 近くにいたゾンビたちが声に気づき、民家の庭へと入ってくる。

 

「ちっ!」

 

 黒瀬は屋根から二階のベランダに飛び降りて部屋の中に入る。

 部屋の中で泣いている井上を小室が抱きしめてあやしていた。

 なぜ泣いているのか黒瀬には分かっていた。

 こんなことばっかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 アユムたち三人は住宅街に入っていた。

 

「どこか休めるところを探しましょう」

 

 クレアはそう言って先頭をずんずん進んでいく。

 怖くないのかな? とアユムは疑問に思う。まるでこの状況に慣れているかのようだ。

 

「待って!」 

 

 T字路でクレアが制止させた。

 

「どうしたの、クレアちゃん」

「見て」 

 

 アユムは左右を見る。

 そこには何体もの感染者が徘徊していた。

 

「どうやっても見つかってしまうわ……」

 

 道路は狭く、遮蔽物もない。感染者に見つからないようにして進むのは困難だ。

 

「どうするんですか?」

 

 アユムは恐る恐る聞いた。

 

「武器さえあれば良かったんだけど……」

(武器があればどうにかなるのか……)

 

 クレアが悲観していると、右の道路の奥に人の姿が見えた。

 

「あ、あれ!」

 

 アユムは指差し、クレアと静香は凝視した。

 迷彩服に、銃を抱えた部隊だった。顔は黒い覆面を被っていてよく見えない。

 

「あれ自衛隊ですよ! 助けてもらいましょう!」

「ちょっと待って、何か様子がおかしいわ」

 

 クレアが何かの違和感に気付き、二人を止める。

 

「おかしいって……何が?」

 

 自衛隊の部隊は、背後から感染者をナイフで突き刺して、前へと進んでいく。先頭が進むと、後ろから続々と隊員が進んでいった。その数はおよそ三十人。そして最後方には装甲車がいる。

 アユムは彼らを見て、何もおかしいとは思わない。

 

「彼らの目的は救助活動じゃないわ。どこかへ向かっているの?」

 

 クレアの言う通り、彼らの目的は救助活動ではないように思えた。

 救助活動をしているのではなく、どこかへ隠密に行動しているように見える。

 

「とにかく距離をとって、後ろから着いていきましょう。邪魔なのは全部倒してくれるはずだから」

 

 今はクレアに従うしかない。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 黒瀬は何かに気づいたかのように立ち上がる。

 

「どうした黒瀬?」

「何か音が……近づいてきている」

 

 黒瀬はそう言って窓から外を確認しようとしたその時、ドン! とどこかでライフルの銃声がして、黒瀬が倒れる。

 

「黒瀬!」

「黒瀬さん!?」

 

 小室と井上が黒瀬に駆け寄る。

 

「かすっただけだ……」

 

 黒瀬の頬にかすり傷が付いていた。それはどこかから放たれたライフル弾によるものだった。

 

「気を付けろ、狙われてる」

 

 小室と井上は窓から顔を出さないよう、身を低くした。

 

「狙われてるって、誰からです!?」

「知るかよ」

 

 黒瀬は窓からそっと顔を出す。と、同時に手榴弾が部屋の中に投げ込まれた。

 

「殺しに来てるな」 

 

 黒瀬は怯みもせず、手榴弾を掴んで外へ投げる。手榴弾は空中で爆発した。

 

「な、何が起こってるんですか!」

「迷彩服を着た奴らだ。囲まれてる」 

 

 黒瀬は一瞬見ただけで外の様子を把握していた。

 

「迷彩服!? 自衛隊か?」

「多分な。覆面集団だ。そうとう手慣れてるぞ」

「覆面の自衛隊って、特殊部隊かも……!?」

 

 他の自衛隊とは違い、明らかに戦い慣れている。どうやら人に向けて銃を撃つのは初めてじゃない奴ららしい。

 

「なるほどな。どうりで攻撃されるまで気付かなかったわけだ」 

 

 黒瀬はニヤリと笑った。

 

「なんでそんな奴らが俺たちを狙うとかこの際関係ない。俺が引き付けるから、その内に逃げろ」

 

 黒瀬は窓から飛び出そうとするが、井上に腕を掴まれて引き留められる。

 

「関係ないとかの問題じゃないですよ! 彼らは何か勘違いをしているだけです! ちゃんと話せば分かってくれます!」

「警告もなしに頭を吹き飛ばされるところだったんだぞ」 

「それは……」

 

 井上は反論出来なくなった。黒瀬は溜め息をつく。

 

「一応言ってみる……」

 

 黒瀬は両手を上に上げて窓から身体を出した。

 

「BSAAの黒瀬だ! お前ら、狙う相手を間違えてるぞ」

 

 黒瀬は下にいる隊員と向かいの窓にいる狙撃手に聞こえるように言った。

 

「撃て!」

 

 一人の合図で黒瀬に一斉射撃が襲い掛かる。すぐに身を伏せた。

 

「どうやら最初から僕たちが狙いのようだな」

「何で!?」

「知るか。お前、自衛隊で問題児だったんじゃないの。このさいだから殺しに来たとか」

「そんなんで特殊部隊が動くわけないでしょ!」

 

 そうこう話している内に、ヘリのプロペラ音が近づいてくる。

 絶対に味方のヘリじゃない。しかも装甲車の重々しいタイヤの音まで聞こえてきた。

 

「理由は分からないが、敵は部隊を動かしてる。多分、俺が目的だ」

「何で黒瀬さんを?」

 

 井上は黒瀬の力を知らないため、分からない。

 

「俺は化物なんだよ。俺一人でもこの部隊を全滅させられるほどのな」

「え?」

 

 黒瀬は立ち上がる。

 

「小室、井上は任せた」

 

 そう言う黒瀬の顔はヒーローのように眩しかった。

 

「ああ!」 

 

 

 

 

 黒瀬は窓から外へ飛び降りる。

 道路に確認出来る敵は5人。最低でも近くに十人はいる。

 飛び降りる黒瀬を隊員は一斉射撃する。

 黒瀬は頭を守る。ほとんどの弾は黒瀬の腕や足に当たった。

 

「……ッ!」

 

 何度経験しても慣れない痛み。昔の自分なら痛みで悶絶していただろうが、今は違う。

 黒瀬は地面に着地した。

 全身の傷から血が吹き出すが、そんなこと関係なしに一番近い敵に走り出す。

 

「ば、化物か……!」

 

 敵は黒瀬を撃つ。黒瀬は全て俊足で避け、間合いに入った。

 敵はライフルを使った銃剣術を繰り出してくる。対応が早い。流石はエリート部隊。そこらのテロリストとは違う。

 だが、それも黒瀬にとって関係ない。 

 敵が銃剣を刺す前よりも速く、股間蹴り上げた。

 流石のエリートでも股間の痛みは耐えきれないようで、銃から手を離してうずくまる。

 

「ほら、死ねよ」

 

 黒瀬は敵から奪ったライフルの銃剣を抜き取り、うずくまっている敵の首に深々と突き刺した。

 きっとこいつらは悪い奴じゃない。ただ上からの命令に従っているだけだ。だが、殺してくる奴らには容赦はしない。

 

「一人やられた!」「やられたぞ!」

 

 周りに潜んでいた敵が続々と出てくる。黒瀬には探す手間が省けて好都合だった。

 

「お前ら、逃げるなら今のうちだぞ」

 

 黒瀬はそう言って、出てきた敵に銃剣を構えながら走り出す。

 敵は撃つが、黒瀬は撃たれても全く怯まないで走り、敵の胸に銃剣を突き刺した。

 死んだ敵の腰から手榴弾を取る。

 すぐさまピンを抜いて集団に向かって投げる。

 

「グレネード!」

 

 手榴弾を投げられたことに気づいた兵士たちが回避行動に出るが、道路は塀に囲まれ、隠れる場所がない。咄嗟に伏せたのはいいが、爆風に巻き込まれ、何人かは吹き飛んだ。

 黒瀬は走り出し、巧く回避出来た兵士が立ち上がる前にその頭を蹴り挙げた。

 

 バキャッ!と軽快な音とともに首の骨が折れ、そのまま兵士は絶命する。

 

「く、くそおおおおお!」

 

 自棄になった兵士が黒瀬に向かって撃つ。が、それよりも速く間合いに入り、下から敵の顎を突き抜けるように殴った。

 その威力は兵士の身体が1メートル浮き上がる程のものだった。

 黒瀬は倒した兵士の身体を掴み、盾にしながら次のターゲットに向けて放り投げる。

 死体は兵士に覆い被さって倒れた。すぐに立ち上がろうとする兵士の頭を黒瀬はヘルメットごとぐしゃりと踏み潰した。

 

 きっと奴らもこうなるとは思っていなかっただろう。BSAAの二人を何十人もの部隊で殺すだけのミッション。何故殺すのか理由も分からない彼らは罪悪感がある者もいたはずだ。

 

「お前らは悪くない。運が悪かっただけだ」

 

 この世界は運がない奴から死んでいく。 

 

 

 

 

 

 

「こちらアルファ5。アルファ6と共に敵の拠点に突入する」

『了解した。敵もプロだ。気を付けてかかれ』

 

 アルファ5は小室と井上がいる民家に入り込む。

 銃を構えながら、物音を立てないように二階の階段を昇る。

 二階の部屋の前について、もう一人の隊員に待てと合図を出した。

 敵はまだこの部屋にいるはず。

 部隊の目的はBSAAの二人を抹殺することだ。

 一人は手強いと聞いているが、もう一人はそれほどでもないらしい。今まで厳しい訓練を受けてきた俺らには敵わないだろう。

 

 深呼吸して部屋のドアをそっと開け、閃光手榴弾を放り込んだ。

 すぐに炸裂し、強烈な光と音が部屋中を包み込む。

 

「突入!」

 

 アルファ5はドアを蹴り破り、アルファ6と共に部屋に飛び込んだ。

 

「……なに?」

 

 部屋には敵の姿はない。

 もう別の場所に移動したのか? アルファ5はそう思ったが、ここに来るまで誰の気配も感じなかった。

 

「このおおおおお」

 

 突如として、一人の男がクローゼットから飛び出した。

 肩にはBSAAのマークがある。ターゲットの一人だ。

 小室はアルファ6に組み付き、壁にぶつける。

 

「ま、待て。撃つな!」

「アルファ6、ターゲットから離れろ!」

 

 アルファ5は銃を構える。だが、小室がアルファ6から離れない。このまま撃てばアルファ6まで巻き込んでしまう。

 どうやらこれが敵の作戦のようだが、それは時間の問題だ。

 アルファ5は銃のストックで男の背中を殴打する。小室は呻くが、アルファ6から手を離そうとしない。アルファ6も引き剥がそうとするが、簡単には離れない。

 

「小室さああああん!」 

 

 押し入れからまた誰かが飛び出し、手に持っていたハサミをアルファ5の肩に突き刺した。

 

「な!?」

 

 二人は完全に油断していた。敵は二人だと聞いていたが、まさかもう一人いるとは。

 アルファ5は銃を振って、飛び出してきた男を吹き飛ばした。

 その男は自衛官だった。

 アルファ5は何故この自衛官が二人と共に行動しているのかは分からない。仲間を殺したくはないが、姿を見た者は全員殺せとの上からの命令だ。

 

「悪いが死んでもらう!」

「嫌だ!」 

 

 井上は、アルファ5の脛を蹴る。少し怯むが、そのまま撃つ。しかし、肩の痛みで銃がぶれてしまい、盛大に外す。

 井上はそれをチャンスだと判断してアルファ5に飛び付いた。

 アルファ5は引き剥がそうとするが、井上がアルファ5の肩に刺さっているハサミを掴んでグリグリと回す。

 

「ぐあぁああぁぁ!!」

 

 アルファ5は経験したことない痛みに悶絶する。肘で井上の顔を殴るが、それでも止めない。

 

「井上、ハサミを貸してくれ!」 

「はい!」

 

 井上はアルファ5の肩からナイフを抜き、小室へと投げる。

 小室はそれを受け取って、組みついているアルファ6に頭突きを喰らわせ、怯んだ瞬間を狙って首元に刺す。そのままアルファ6を床に倒して、アルファ5の顔を全力で蹴り挙げた。

 

 小室と井上は倒れこむ。

 

「流石に強いな……」

「そら自衛隊の精鋭ですからね……」

 

 小室は疲れを癒したかったが、そんな暇はない。

 すぐに立ち上がって、銃を奪う。

 

「黒瀬がまだ戦ってる。援護してやらないと」

 

 小室は井上を家の中に残し、外に飛び出していった。

 外には信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




特殊部隊は噛ませにになりがち。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。