バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

103 / 117
11章最終話です


85話 もう戻れない

 アンブレラ・プライムのすぐそばの氷海の上で、戦闘は繰り広げられいた。

 

 アリスを救出したレオンたち。その追っ手であるジルとレインのクローン。

 

 アリスはジルと、レオンと他のメンバーはレインと戦っていた。

 

 彼女らはラス・プラガス寄生虫を投与しており、銃が効かない身体になっている。

 

 氷点下の中での戦闘はレオンたちには無理があった。いくら動いても身体は温まらず、逆に冷えてく。それに比べ、ジルとレインは圧倒的な動きでレオンたちを苦戦させていた。

 

 このままじゃなぶり殺しにされる。だが、何も策はない。ここで死ぬのか。

 

 その時、地面が揺れた。正確には、レオンたちが立っている氷が、だ。

 

「な、なんだ?」

 

 氷にヒビが入り、そしてついには砕け、穴が開いた。その穴から手が飛び出した。

 

 その様子にその場の全員は動きを止めた。

 

 穴から這い上がってきたのは、一人の男だった。ボロボロの服を着ているが、その肩にはBSAAのマークが施されている。

 

 黒瀬はこの氷点下の海を泳いで地上まで上がってきたのだ。

 

「リョウ……なのか?」

 

 レオンは思わず聞いてしまった。どう見ても黒瀬だったが、彼の雰囲気が今までとは違う。負のオーラが彼を纏っていた。

 

 黒瀬はジルとレインを見た。

 

 敵だ。黒瀬は一瞬で判断し、レインの頭を素手で砕いた。それを見たジルはアリスを無視して、黒瀬へと向かうが、彼女がクローンだと気づいた黒瀬は、レインと同じように頭を粉砕した。

 

 レオンたちは一瞬の出来事を見ているだけだった。あれほど手こずっていた敵が十秒もかからず葬られたのだ。だが、レオンはやはり黒瀬に違和感を抱いた。

 

 今までの黒瀬ならば、ジルのクローンを戸惑いもせずに殺せるのだろうか。何か違う。いや、変わったのか? この数時間の間で。

 

 レオンはBSAAの二人がいないことに気付いた。

 

 

 

 

「良かった。レオン、アリス。無事に脱出出来たみたいだな」

 

 黒瀬は海を泳いでいる間、施設の崩壊に巻き込まれていないかが心配だった。だが、それよりも前に脱出出来た様子だ。

 

「リョウ、他の二人はどうしたんだ?」

 

 レオンが聞く。レオンは黒瀬の様子を見て、既に察している。

 

「死んだよ。彩に殺された」

「アヤに!?」

 

 レオンもアリスも彩とは交友関係がある。彩の裏切りと田島とリカの死は二人にもショックを与えた。

 

 バラバラとヘリの音が近づいてくる。空を見上げると、アンブレラのロゴのヘリが着陸しようとしていた。

 

「クソ、アンブレラからまた追っ手か!?」

 

 レオンは銃を構えたが、黒瀬が制す。

 

「違う。あれは────」

 

 窓からユウトとマミが手を振っていた。

 

「あれは……クローンか?」

 

 レオンはユウトとマミの姿を見て、戸惑いながら聞いた。

 

「ああ」

 

 ヘリが着陸し、ドアからユウトとマミが飛び出して黒瀬に飛び付く。

 

「おい、止めろ。濡れてるから冷たいぞ」

 

 黒瀬の注意も聞かず、二人は抱きついたままだ。

 

「良かった、リョウさん。もう会えないかと思ってました……!」

「わたしたち、リョウさんまで死んだらどうすればいいのかって……」

 

 二人は黒瀬の生還を心から喜んでいた。

 

「……死んだ方が良かったかもな」 

 

 黒瀬はボソリと呟いた。 

 

 ヘリのドアからリカと田島の遺体が見えた。

 

 夢じゃない。この出来事は。

 黒瀬の瞳からは涙が溢れる。

 

「リョウ……さん?」

「……すまん」 

 

 黒瀬は涙を拭うも、涙が止まらない。

 

 仲間を失いすぎた。リコ、カーク、ソフィア、田島、リカ。

 

 今まで共に戦ってきた人間が二日で五人も死んだ。そしてその内三人は、黒瀬の目の前で死んだ。

 

「……俺のせいだ」

 

 黒瀬ははっきりと言った。

 

「ソフィアと約束したのに……強くなるって! でも結局俺は……弱いままだ」

 

 黒瀬は哀しみと憎悪で心が膨れ上がっていた。

 

「何で……良い奴らから死んでいくんだよ! 皆、それぞれ世界のために戦ってきた。この世界をどうにかしようと、命を懸けて戦ってきたんだ! なのに……こんな最期を迎えるのかよ……!」

 

 これ以上堪えきれない。心が痛い。

 彼らとの記憶を思い出すほど後悔しか残らない。どれだけ願っても記憶の中のあの頃には戻れないのだ。

 

「リョウ……」

 

 レオンもアリスも黒瀬に掛ける言葉がなかった。哀しいのは彼らも同じだが、目の前で喪った黒瀬は比にならないほど悔しいはずだ。心のどこかで、救えたのではないか、死んだのは自分のせいだ。そう思い込んでトラウマとなって甦る。レオンもアリスも何度も経験したことだ。

 

 黒瀬はその状態になっていた。だからこそ、掛ける言葉がない。否定するのは逆効果だ。

 

「俺は……もう油断も手加減もしない。敵は全員殺す! 仲間より先に殺せば仲間は死ななくてすむ」

 

 自分の心配なんてしない。

 

『リョウ、生きていたのね』 

 

 ヘリの通信機からレッドクイーンの声がした。

 

「レッドクイーン、彩は、“敵”はどこにいる?」

『あたしにも分からない。分かっているのはアンブレラ最大の研究所であり、あなたが生まれた場所よ』

「俺が生まれた場所……」

 

 黒瀬の記憶には場所を知る手掛かりはない。黒瀬は自分が生まれた研究所がどこにあるのか知らなかった。

 

「そこに奴らがいるんだな……」

『ええ』

「彩……お前は俺の手で殺す。絶対に……」

 

 

 

 

 

 

 

 ユウトとマミは、身分を詐称して外国の片田舎で暮らすことになった。

 黒瀬から提供された家に二人は過ごしている。

 

 しばらくは黒瀬から振り込まれる大金に頼っていたが、いつまでも世話にはなってはいられないという考えで、ユウトは建設会社に入社した。

 

 仕事はかなりきついはずだが、ユウトの体内にある少量のR-ウィルスのお陰でそれほど疲れを感じなかった。

 

(リョウさん、今はどこにいるのかな……)

 

 帰宅のために自家用車を走らせながら、ユウトは考えた。

 BSAAの本部で別れた後、彼らは会っていない。

 

 

 

 

 あの時、ユウトはBSAAに入って黒瀬と共にアンブレラと戦う気であったが、きっぱりと拒否されてしまっていた。

『ユウト、マミ、俺たちのようにはなるな……』

 

 それが黒瀬が二人に言った最後の言葉だった。

 

 あの時の黒瀬は、少し触れただけで崩れてしまいそうな様子だった。ユウトはそんな黒瀬をどうにかしたかったが、自分じゃどうにも出来ないことは分かっていた。

 きっと断らなかったら、といつか後悔するかもしれない。だが、あの黒瀬の泣きそうな顔を思い出すと、断るなんて選択肢はなかった。

 

 

 

 

 家が近づいてきた。

 街まで二十分ほどの森の中にある二階建ての木造の家。家の裏には川があり、休日には釣りをしたり寛いだりと、かなり良い物件だった。

 

 駐車場に車を停めて降りると、家の中から料理の良い匂いが漂ってきた。

 

 玄関のドアを開ける。

 

「ただいまー」

 

 ユウトの声を聞いて、キッチンから女性が駆け寄ってきた。

 

 女性のお腹は少し膨らんでいる。彼女は妊娠していた。

 

「おかえり、ユウト」

 

 彼女は満面の笑みでユウトの帰宅を喜んでいた。

 

 きっと、これがリョウさんがおれたちに託した“叶えられなかった”ものなのだろう。

 

「ただいま、マミ」

 

 ユウトは今の幸せを噛み締めながら、玄関を上がった。

 

 

 

 

 

 




12章は日本が舞台になります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。