親馬鹿な加賀さんが着任しちゃいました   作:銀色銀杏

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ま、間に合った~!!


二十二、砲撃の余韻は誰が為に

皆さんこんにちは、大和です!いま私は……

 

「御託は後だ、もう奴らは来るぞ。」

 

わかってますよ武蔵、貴女こそ兵装の換装は済んだの?

 

「無論だ、弾薬も燃料も満載だ。」

 

わかりました、ではプランBに移行。海岸線に置いてあるあれを取りに行きましょう、ついてきてください。

 

「承知した」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として現れた二つの深海棲艦の大軍勢、一方は東京湾の入り口を塞ぐように陣取っており、もう一方は鎌倉に設置された東京住民の避難地域に向けて進行していた。

 

「深海棲艦尚も進行中!予想到達時間はヒトロクマルマル、後二時間です!」

「東京湾の前に出現した軍勢も進行を開始!このままじゃ……!」

 

この二つの軍勢はそれぞれ東京と鎌倉を目指していた、鎌倉には避難民約一千三百万人が詰め込まれている。お世辞にも広大とは言えない鎌倉にいる影響で避難所はある程度内陸に位置しているがそれも気休め程度、戦艦級の砲撃は余裕で届くだろう。

一応艦娘は配備されているが僅か三艦隊のみ、それも練度は高くない。(まあ横須賀と呉が異常に高いだけだが)陸自も配備されており、そこそこの数はいるが精々一艦隊分の働きをすれば奇跡と言ったところか。

それに対して敵は二百隻、いくら特殊個体が居ないとはいえ持ちこたえきれない。たとえ駆逐級一隻でも避難区に侵入を許せばたちまち数多の死人が出る、たとえ艦娘にとっては造作もない相手でも生身の人間では十二分に脅威足りうるのだ。

東京から今すぐに全速力でいけばタッチの差で間に合うが、そこに約二倍の数の深海棲艦が立ちふさがる。しかも積極的に東京湾に侵入しようとするのだから見過ごせない、否が応でも戦う必要がある。

普段通りの彼女達ならば横須賀と呉とのコンビネーションで特殊個体の居ない軍勢など文字通り瞬殺、それから行っても十分間に合うのだが……

今の彼女たちは弾薬及び燃料を半分以上消費、加えて重度の疲労だった。それでも選り抜きの精鋭達である、倒すことなど造作もない。だが時間がかかる、それこそ普段の倍くらい。それでも稼げる時間は僅か十分ほどである、しかしそれだけあれば深海棲艦にとっては十分なのだ。

唯一間に合う可能性があるのは出現した深海棲艦のちょうど後方にいる瑞鶴たちであるが、彼女達は今さっき圧倒的に不利な戦いを終えたばかり。とてももう一戦できる状態ではない。

 

「東京湾にいる全艦隊を今出現した艦隊の防衛にあたらせろ、両方のだ。東京湾を封鎖、防衛線を構築しろ。」

「だめです!間に合いません!」

「こちらも……東京湾封鎖できません!」

 

まさに絶対絶命、そしてここで提督があり得ない発言をする。

 

「そうか……ならば現時点を持って鎌倉防衛を放棄、同地に駐留している陸自と艦娘を下がらせろ。東京湾に出現した艦隊はこちらにいる艦娘を総動員して殲滅だ。」

「!?」

「正気ですか提督!!」

「ああ、俺は至って正常だ。」

 

こんな時でも憎たらしいほどに落ち着きを見せている提督、それどころかこの状況を楽しんでさえいる。その証拠に口は三日月を描き、目は大きく見開かれている。

当然である、なぜならばここまで全てが提督の予想通りなのだから。

 

「ダメです、その指示は聞けません。」

 

毅然として言い放つ大淀、彼女もまた提督とは長い付き合いだが、だからこそ聞き入れられないという意見ある。だがそこに明石が割って入る。

 

「……わかりました、全軍に通信します。」

「明石!?」

 

驚き叫ぶ大淀、それでも尚淡々と各艦隊へと通信をしていく明石。最初は戸惑っていた大淀も次第に後には引けない状態だということを自覚、すぐさま明石の手伝いに入った。

 

「瑞鶴達にはそのまま八丈島鎮守府に行くよう伝えろ、くれぐれも見つかるんじゃないぞ。」

「了解」

「提督、日向から通信『我、戦艦棲姫ヲ見失エリ』」

「わかった、日向は一旦補給に下がらせろ。親玉を逃がしたのは痛いが、今はそんな場合じゃない。」

 

すぐさま指示を飛ばす提督、ものの数分で東京湾の防備は完全なものとなった。だがそれはあくまで東京湾、肝心の鎌倉周辺の防備は手薄、それどころか提督からの指示で艦娘と陸自が撤退してしまったので丸裸なのだ。

 

「明石、大和と通信回線を開け。傍受の恐れはあるがこの際気にするな。」

「り、了解。」

 

急いで通信を開く明石、程なくして大和と通信が繋がる。

 

『此方大和、どうされましたか提督?』

「もうすぐそちらに敵さんがわんさか来る、準備は出来ているのかと思ってな。」

 

その言葉を言われたとき、大和は頬をぷくーっと膨らませた。

 

『心外ですよ提督!準備は全て滞りなく完了しました。』

「そうか……なら合図と共に発射、武蔵も同様だ。」

 

了解、と返答した大和の全身が映った時に明石の顔が強張る。

 

「な、なんで……!」

「?どうしたの明石?」

 

声を震わせて言う明石、そしてプルプルと話し始める。その視線の先には大和の大きな艤装……に取り付けられた大きな砲身だった。

その砲身の長さは大和の身長の1.5倍はあろうかという長さで、それは某宇宙戦艦のような形をしていた。

そのまま構えるとちょうど大和の腰辺りにくるその砲の後方からは長いケーブルが繋がれており、その先は沿岸に続いていた。

 

「あれは私が提督に頼まれて開発していた……波動砲(予算殺し砲)!?」

「…………何それ?」

「かなり前に提督に『大規模作戦用の決戦兵器』というコンセプトで開発を依頼されたんだけど……色々と問題が重なって作成中だったけど放棄してたのよ。」

「それを少しばかり流用させてもらった。」

 

正式名称「明石工廠製12㎜口径プラズマ粒子波動増幅発射熱線砲改三式」、通称「波動砲」。

前述の通り明石が作成中で放棄したものを提督が密かに工廠で妖精と共に完成させていた物、本来では明石が完成させるつもりだったのだ。

勿論、単に彼女の技術力不足ではない。寧ろそんな物を完成させるのは造作もない、だがそれでも数々の問題を抱えているのだ。

まずはその性質、大規模作戦用に開発されたとだけあってその破壊力は桁違い。だが艤装の上から装着する為、各々の艤装とリンクを確立させないと機能しないのだ。当然一人ずつそんな作業をさせるほど暇じゃない、それにそもそも艤装に合う合わないもあったのだ。

またそれだけに留まらない、他には2つほどあるのだが……

 

「確かに、これなら殲滅できるかもしれません。」

「だろ?」

 

感心した様子の明石に満足気に答える提督、しかしそこで明石は一旦言葉を切る。

 

「ですが、駄目です。知ってるじゃないですか、私達があれの配備を諦めた最大の理由。」

「ああ、あれか。勿論把握済みだ、元々これ一発で十分だしな。」

「ならいいです…………提督、全深海棲艦の座標をスキャン完了。」

 

提督は頷き、大和に指示した。

 

「チャージ開放、開始しろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャージ開放、開始しろ』

 

背には鎌倉、目の前に広がるは海。普段ならば絶景として人気の観光名所になるここ一帯は異様な雰囲気を醸し出していた、人っ子一人居ないどころか海鳥は消え魚は姿を現さない。

それもこれも全ては彼等のせい、目の前に迫る黒い異形達。

そんな海に立っている人影が二人、日本を代表する戦艦にして今現在適正者が一人ずつしか居ない艦娘。

名を「大和」、「武蔵」という。

 

「大和」

「ええ、わかっているわ。」

 

背に背負っていた砲身を腰だめに構える大和、彼女の艤装の中では妖精さんが上へ下へと大忙し。

対する武蔵も通常の艤装に加え、全身に箱の様な物を取り付けている。

やがて大和の右目にス○ウターの様な物が装着される、そこに標示されたデータを確認して準備が完了したことを知る大和。

 

「提督、準備完了」

『発射と同時に45度だけ取り舵を取れ、それで深海棲艦は纏めてお陀仏だ。』

『大和さん!提督がどうにか実戦に耐えうるように改修したからと言っても、その熱量に砲身が耐えられるのは十五秒です、その間に切り離しを。』

「わかったわ。」

 

これが提督と明石がこの兵装の使用を断念した残り二つの理由の内一つ、即ち「耐久性」だ。

この兵装は莫大な威力を誇るが自身が発する熱量に砲身や兵装そのものが耐えられないのだ、そのため使い続ければ爆発して大ダメージ、寸前で砲身をパージしてももう使えなくなる。

要は「消耗品」になってしまったのだ、一本を作るだけでも大型戦艦艤装を作るのとほぼ同じ資材を消費するのだ。とても量産などできない、できて一本か二本だ。

 

「此方武蔵、同じく準備完了した。」

『そちらも終わった後は兵装をパージ、通常砲撃に移行しろ。』

「「了解」」

 

着々と進んでいく発射準備、迫る黒い異形達を前にそれはまるでそう、獲物に食らいつくのを待ちきれんばかりとする猛獣の口。

いや、今からその異形達を食らいつくすその兵装に其の表現は正鵠を射ているのだろう。

 

「全艤装の動力を波動砲に、総員対衝撃、ショック閃光防御。」

 

故にその猛獣はアギトを開く

 

「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ、明度25(フタゴー)。」

 

そのアギトは只のアギトに有らず

 

「セーフティ解除、目標距離7500(ナナゴーマルマル)。」

 

今鎌首をもたげ、その閃光の先は黒き異形を捉える

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「なぁ明石、一ついいか?」

「はい?」

 

画面越しに迸る閃光が大きくなっていく中でふと、提督はたずねた。

 

「あれ、頓挫して放棄されていた……筈なんだが。わざと途中で放棄されている用に見えてな、実際あんな問題はお前ならすぐにでも解決出来たはずだが?」

「………………」

 

目を伏せ、少し黙り混む明石。暫しの間を経て、ポツリポツリと話始める。

 

「あれはまだ、ヒトには過ぎた『神の火』です。ふと、思ったんですよ。私はまた、同じ過ちを犯してしまうのかな、と。」

「それが始まりを作った者の思い、か。――もし、俺があれを量産しろと言ったら?」

「……提督と言えども、その命令は聞けません。精々抵抗させてもらいますよ。」

 

キッパリと答える明石、それを半ば予想していた提督はフッと笑みを漏らす。

 

「そう言うと思って、あれの資料は全部破棄してきた。なに、横須賀鎮守府が壊滅したんだ、資料の一つや二つほど無くなるのは当たり前だ。」

「提督…………ありがとうございます。」

「礼はいい。それより始まるぞ、その波動砲の最初で最後の発射が。」

 

そう言って、提督は視線をモニターに戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

相模湾

 

「上下角誤差修正、25(フタゴー)。」

 

同時に背後からアンカーが射出され、直ぐ様海底に突き刺さる。これにより体勢を維持できるようになり、大和は目を細くする。

 

「エネルギー充填100……120……150……180」

 

迸る閃光はもう臨界を当に越え、砲身は赤く染まり悲鳴を挙げている。

 

「発射十秒前、圧縮弁開放、艦内妖精は安全区画に退避。」

 

その閃光は最早目標である深海棲艦からも視認でき、それを見た彼らが困惑の意を示す。

 

「五…四…三…二…一…!」

 

 

 

 

そしてアギトは開かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

『波動砲、発射!!』

「てぇーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

余談ではあるが、この波動砲を時折提督は「予算殺し」と呼称する。

それはこれの量産が見送られた最後の理由、即ち「消費する資材」である。

現在の技術レベルではこのような兵装を開発することは不可能である、明石と言えどもそう易々と覆せるものではない。ならば、どうするか。

明石は現在の技術では不可能な所に艦娘の技術を応用したのだ、これにより波動砲が完成した。

だが艦娘の技術を利用したが故にその兵装は艦娘と同じ資源を使うのだ、問題はその量。

 

その数、一秒に凡そ燃料を一万。

同じく、弾薬を同じ秒で一万。

 

砲身の限界時間まで発射したならば、およそ一五万。両方あわせて三十万である、提督諸兄にはお分かりいただけただろう、これがどれだけ化け物か。

瞬く間に敵だけでなく資源をも食いつくすその姿は正に、予算殺しである。

 

閑話休題

 

 

 

そして、燃料一万分の兵装は発射される。

それは呆気になく敵陣に届くと、射程線上にいた敵艦を文字通り「消し飛ばした」。

圧倒的な熱量により爆発する間もなく蒸発した深海棲艦、大和はそれを確認すると腰を踏ん張り砲身を動かし始める。

 

「ううっ!くぅぅ……!」

 

先端部をたった45度動かしただけ、それだけでも射程は大幅にぶれる。

結果、まるで光の剣のように振り払われたことにより全ての海上の深海棲艦が消え失せる。すると……

 

「キシャァァァァ!?!?!?」

 

苦悶の声を上げながら出てきたのは潜水艦、敵艦最後の生き残りである。

海上に浮上していなかった為に直撃は免れたが、急激な海水温度の上昇によって驚き浮上してきたのだ。

 

「待っていたぞ……そこか!」

 

待ち構えていたように武蔵の艤装に追加された箱の様な物が一斉に開く、中からでてきたのはマイクロミサイル。

それが一斉に潜水艦に殺到する、急速潜航しようとしているが時すでに遅し。

 

「クキャァァァ……」

「状況終了」

 

断末魔の雄叫びを聞きながら提督に報告する大和、僅か五分の作戦であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「これで幕切れか、呆気ないものだな。」

「「………………」」

 

明石と大淀は同じポカンとした顔をしている、それほど迄に信じられない光景だったのだ。

本来ならば大規模艦隊を投入すべき艦隊をたった二隻でそれも五分で殲滅してみせたのだ、これを驚異的と言わずしてなんと言おうか?

 

「…………少し行ってくる、明石、暗号電文『鹵獲艇第105号』発令しろ。」

「り、了解!」

 

それだけ言うと、提督は何処へとさっていった。

 

 

 

 

どうやらこの戦い、まだ終わってないらしい。

 

 

 

 

 




「勝って兜の緒を締めよ、か。」

次回
エピローグ「フェイク・ユートピア」

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