親馬鹿な加賀さんが着任しちゃいました   作:銀色銀杏

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タイトルがそのままサブタイに成るってなんか最終回っぽくありませんか?


春イベに向けてオリョクル!………のために潜水艦を集めよう!

方法一、1-5周回

結果
「那珂ちゃんだy」カーンカーン

方法二、建造

結果
「那珂ちゃんだy」カーンカーン


オリョクル……( ;∀;)



二十一、水平線の向こうで

対峙する九隻と港湾棲姫、彼女達の回りに他の艦は居ない。恐らくであるが此方に向かっている艦隊と交戦しているのだろう、現に遥か向こうから微かにだが戦闘音が聞こえている。

対照的にここは全くと言っていいほど無音、聴こえるのは時々艤装に当たる波の音と海鳥の音。ここが戦場でなければ優雅な常夏の島を連想するであろう、しかしこの場でそれは異常な事である。

どちらも動かない、どれくらいたったのか。一分、十分、それ以上か。

 

(早く……早く動きなさい!)

 

刹那、風切り音と共に飛来する砲弾。流れ弾、幸いにも誰にも当たらないコースを辿る。

そして――――

 

バッシャァァァン!!!

 

まるで神が痺れを切らしたかのように砲弾は両者の丁度中間地点に着弾した、とてつもない水柱を上げながら。

 

「「―――!!!!」」

 

そしてそのタイミングを両者は逃さなかった、瑞鶴と港湾棲姫はほぼ同時に叫ぶ。

 

「行くわよ!」

「死ニ恥サラセェ!!!」

 

先制は港湾棲姫、普段確認されている静かで戦闘にあまり積極的ではない様子とは裏腹に、まるで何かが吹っ切れたように容赦がない。躊躇なく砲撃を始める、狙いは勿論瑞鶴。しかしその前に散開し扶桑、山城姉妹が立ちふさがって反撃を開始した。

 

「山城!」

「はい!」

 

戦艦と要塞級の戦い、並みの艦娘が当たれば即死の攻撃を続ける両者。その間に駆逐艦達と北上は港湾棲姫を囲むように展開する、しかし港湾棲姫の注意が扶桑姉妹に向いているとは言えど時折流れ弾が飛んでくるので気は抜けない。

そして瑞鶴と加賀そして赤城は少し離れた場所に陣取る、そして弓を構えた後に通信を送る

 

「扶桑さん!」

 

その一言ですべてを理解した扶桑は即座に三式弾を装填、港湾棲姫に向けて発射した。だがそれを予想してか大きな手の艤装を利用して身を守る港湾棲姫、半端ではない硬度の艤装をシールドにしてダメージを無力化したのだ。直後、空中で分散した三式弾が港湾棲姫の周りに降り注ぐ。

 

ここからの事は全てたった少しの間に起こったと言う事を最初に明記する。

 

 

 

 

まず三式弾が降り注いだことで回りに水柱が立つ、しかも断続的に撃っているので絶えることがない。そこに

 

「突撃!」

 

初霜を始めとした駆逐艦の一部が一斉に突っ込む、三式弾が降り注ぐ中でも果敢に突っ込んでいく。瞬時に距離をほぼ零まで詰められた港湾棲姫は鬱陶しそうに巨大な手で薙ぎ払う、がそこまで突っ込むほど横須賀と呉の駆逐艦は甘くない。攻撃の前動作を見切ってギリギリのタイミングで回避する、それこそ殆どすれすれに。

回避しようとするならばもっと安全に回避できる、が敢えてそうはしない。持ち前の技術と根性でまるで煽るように回避していく、そう「煽る」ように。

 

「忌々シイ雑魚ガァ……!」

「来いよ港湾棲姫…艤装なんて捨ててかかって来いよ!」

「野郎☆オブ☆クラッシャァァァァ!」

 

すると、コケにされていると「勝手に思い込む」。するとどうだろうか、確かに怒りによって攻撃はより激しく、強力になっていくが目に見えて動きが単調になってくる。

その期を逃さずにより接近していく駆逐艦、次は一斉に主砲で薙ぎ払おうかと思った港湾棲姫の視界に映り込む数本の白い筋。

 

「――――――っ!!」

バシャッ!

 

それを見た港湾棲姫は駆逐艦の砲撃を防御するのも忘れて即座に退避する、直後に通り過ぎる物を見てここ迄の狙いを看破した――――つもりになった。

 

(今ノハ魚雷カ、ナルホド。攪乱シテ注意ヲ水面ニ向ケサセナイヨウニシテイタノカ。)

(気づかれた、けど!)

 

直後、港湾棲姫を中心として起こる大爆発。それは港湾棲姫が確かに回避したはずの魚雷によるもの、大きくはないがここにきて初めての目に見えたダメージを与えられた事に港湾棲姫は困惑する。

 

 

 

 

ここまで一分弱

 

 

(ナッ!?確カニ回避シタハズ!)

(かかった!)

 

港湾棲姫の回りに立ち上る水柱を見て思わず手を握る瑞鶴、ようやく効果的な一撃を加えられた。

回りを見渡す港湾棲姫、そして見つけたのは北上。瞬時に北上を脅威と認識した港湾棲姫は北上に襲いかかる。

だがこれだけで終わりにするつもりはさらさらない、まだ瑞鶴の策は尽きていない。

 

 

 

と、ここで何故魚雷が当たったのか。それは簡単、港湾棲姫が魚雷の航跡を見逃したから。これだけ聞けば、今さっきの港湾棲姫の回避行動はなんだと思うだろう。

確かに港湾棲姫は魚雷を避けた、だが避けた物で全てでは無かったのである。魚雷を発射したのは港湾棲姫を包囲していた艦隊、そのメンバーを今一度思い出して見てほしい。そして今までの行動を。

「駆逐艦達と北上」、そして「初霜を始めとした一部の駆逐艦」。恐らくもう察しの良い、もしくは艦娘に詳しい提督は気付いているだろう。これらの言葉が何を意味するか、駆逐艦と北上の自慢の装備は?突撃しなかった残りの駆逐艦は何をしたのか?

北上と駆逐艦の自慢の装備は魚雷、そして突撃しなかった残りの駆逐艦と北上は魚雷を発射したのだ。

では港湾棲姫は何を回避したのか?勿論魚雷だ、「駆逐艦」の。当たったのは「北上」の魚雷だ。ここまで来ればお分かりだろう、強いて付け加えるとすれば駆逐艦が装備しているのは「旧式」の魚雷であり北上は「酸素」魚雷を用いていることだ。

やることは簡単、まず駆逐艦が魚雷を発射しその後に北上がタイミングをずらして発射。つまり重ね撃ちである。

目立つ魚雷の航跡、しかし目立つものがあれば自然とそちらに目がいく。それ故に港湾棲姫は駆逐艦の魚雷は回避できた、しかしそれよりも航跡が薄い酸素魚雷の方には気づかなかったのだ。

 

 

 

少し長かったが閑話休題

 

 

 

 

北上に襲いかかろうとする港湾棲姫、だがその前に上空から機銃の斉射が足を止める。

 

「ッ!小癪ナァ!」

「攻撃の手を緩めないで、北上さんは早く下がってください!」

「わかってますよ~っと!」

 

赤城の発艦した航空隊が押さえている間にさっさと逃げる北上、遅れて加賀と瑞鶴の艦載機も到着する。

港湾棲姫の装甲を前に機銃程度では傷一つつかないがそれでも足を止めるのには十分、そして足さえ止めれば……

 

「急降下!」

「!!」

 

港湾棲姫が見たのは真上から落ちてくる無数の爆弾だった、そして巻き起こる爆発。それを見ながら瑞鶴達空母は艦載機の操作をオートに切り換える、その手には矢が握られている。

三人同時に放つ艦載機はアカキリー、港湾棲姫に直撃した爆弾の余波が冷めやらぬ内に距離を詰める。そして爆煙の中からでてきたのは――

 

「やはり……硬い!」

「加賀さん、コントロール渡します!」

 

頭上で手を交差して、ダメージを防いでいた港湾棲姫であった。手の艤装は艦娘を貫く矛であると同時に、身を守る盾でもあるのだ。

顔を憤怒の表情に歪めた港湾棲姫は標的を空母達に変更する、しかしそれを阻むのは扶桑姉妹の砲撃と駆逐艦の撹乱戦法。

遅々として進まない敵の排除に痺れを切らしたのか港湾棲姫は遂にその全武装を展開、一気に攻勢に出てきた。

狙われた艦載機が次々に撃墜されていく中、今まで直接的にコントロールされていたアカキリーだけが残る。

当然、港湾棲姫は最後に残ったアカキリーを落とそうと躍起になる。そして、それを待っていた。

 

「加賀さん!扶桑さん!北上!」

「「「応!」」」

 

 

 

ここまで三分

 

 

 

 

合図に答えた扶桑姉妹は再び砲撃を開始する、駆逐艦達は離れているので今度はより広範囲に。そして生じた水柱の間を縫うようにして港湾棲姫に向かうのは、砲弾に当たらないように神がかった精度で角度調整された魚雷群。それらの一斉攻撃が襲いかかる。

しかし分厚く、当たっても損傷が起きない所に当たれば只の無駄弾。そしてそうなるように港湾棲姫は上手く立ち回っていた、それこそその巨体からは考えられない速度で。

それ故に意識は自然と攻撃に集中される、そして疎かになった所を狙うのが――

 

「加賀機、瑞鶴機、突撃!」

「赤城機援護します、そのまま突っ込んで!」

 

漸く此方に気付く港湾棲姫、だが遅い。手を交差して胴体を守ろうとする、しかし本当の狙いは底ではない、そうアカキリーの狙う場所は――――

 

ガション!!!

 

「ナッ!?グッ……離レロォ!!」

「全発射口展開、至近距離で喰らいなさい!!」

 

その自慢の手、そこにバトロイドに変型したアカキリーが二機同時に取りついた。そして各部のハッチを開く、そこから見えたのは無数の円筒。

これは明石に言わせれば「必殺技」である、MM(マイクロミサイル)。そのサイズによって機体の各所に設置されたミサイルは圧倒的な物量を有しながらも小型とは名ばかりの爆発量を持つ、ただ発射するために燃料を多量に使用する。よって当たれば文字通り必殺、しかし一発限りの切り札なのである。

それがほぼ零距離で全弾撃ち込まれる、そしてそれらはただ一点を狙って放たれる。手の艤装ではなく、その胴体を。

 

「ナッ!?」

「追撃!」

「………押さえる!」

 

赤城のアカキリーが突っ込んでくる、全く見当違いのほうを狙われたことで放心しかけている今が好機。しかし本能からか咄嗟に手を交差させようとする港湾棲姫、加賀はそれを止める為に同時操作している自機と瑞鶴機を使って両腕を押さえ込む。

 

(防御不可能カ、ダガソレガドウシタ。)

 

迫る赤城機を前に押さえ込まれているにも拘わらず動揺を全く見せない港湾棲姫、それだけ装甲には自信があった。

 

ズダダダダダン!!

 

全弾命中、そして立ち上る煙。その中で港湾棲姫の装甲には……傷一つ付いていなかった、この三連撃がもしも顔面などの装甲が薄い箇所を狙ったならばダメージは入っただろうがそれでも、彼女を仕留めることは出来なかっただろう。

 

何故なら彼女の装甲は衝撃に対しては無類の防御を発揮する、砲弾は基本的に衝撃によるダメージなのだ。

勿論、どれかに特化すれば何かに弱くなる。これは港湾棲姫も例外ではない、徹甲榴弾が良い例だろうか。

あれは貫くことで装甲を突破し、内部から爆発させることでダメージを与えている。

しかし彼女の装甲の真の弱点は「斬撃」だ、彼女は砲弾に耐えうる為に衝撃耐性に特化し、尚且つ徹甲榴弾にも耐性をつけるためにある程度の「貫」に対する耐性を得た。

これにより港湾棲姫は要塞と同等かそれ以上の防御を誇るようになった、彼女は正に生きる要塞なのだ。

だがしかし、ただでさえ斬撃に弱い装甲をさらに「貫」にも対応させた為に益々斬撃に対する耐性は下がった。それこそ切られればそのまま内部器官に致命傷を負ってしまうほどに。

無論、港湾棲姫も考えていないわけではない。いくら艦娘との戦いの殆どが砲雷撃戦とは言え、龍田や天龍に日向や伊勢など斬撃の得物を持つ艦娘も多いのだ。

だがそれは接近されたらの話、元々陸上で泊地を纏める彼女からすれば、まず陸にいる此方にその得物が届く距離までこられる訳がないのだ。

実際、艦娘が陸に上がっても常人とはかけ離れた力を有するとは言えども、それではただの的だ。そんなことは海上であって初めてできることなのだ。

 

かなり長くなったが閑話休題

 

(サアテ、邪魔ナ艦載機を落トスカ。)

 

そう言って艦載機を振り払おうとしたとき、急に艦載機が港湾棲姫の腕を左右に引っ張りだす。

 

「無駄ナマネヲ……少シ狼狽エタノガ馬鹿ミタイダ。」

 

そう言って左右に大きく開かれた腕を戻そうとする――――その時だった。

 

フウッ………

 

「ナン――ダニィ!?」

「これを……待っていた!!!」

 

そう言って煙の中から出てきたのは瑞鶴、いつの間にか迫ってきたのか。そんな状況、だがそれでも港湾棲姫は動じない。

 

(距離ヲツメテモ無駄ダ!貴様二近接戦闘用ノ武装ハナイ!)

 

そしてその思いは瑞鶴が懐から取り出した物によってすぐに壊れる、懐から取り出したのは伊勢からもらった「お守り」すなわち―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀」である

 

(これを待っていた……!)

 

そう瑞鶴は思う、瑞鶴が思いついた作戦は至ってシンプル。ただ「接近してぶった切る」、それだけである。先程話した装甲の弱点などの事は瑞鶴達は知る由もない、つまり推測の域をでない「懸け」なのだ。

そして接近する為にはいかに意識を集中させないかが重要だ、その為に瑞鶴が考え出したのは姫、鬼級にのみ見られる特徴である「人間並みの知性」を逆手に取った作戦。

人間とは元は感情的な生き物だ、それを理性によってコントロールすることで他者との関りが保たれる。そのため人間は感情に流され難くなるのだ、しかしそれは社会という手本があってこそ。その手本がない深海棲艦達に感情を抑えるほどの社会性があるのか、いや、ないだろう。

瑞鶴はそれを利用した、北上の魚雷二段撃ちや駆逐艦の攪乱戦法により港湾棲姫を煽り、冷静な判断能力を無くす。

そして艦載機を操作して胴体をがら空きにした後、ミサイルの煙に紛れて接近する。全てはこの瞬間の為に用意された前座にすぎないのだ。

そしてその展開の速さ、いくら高練度の艦娘が集まっているといえどここまで五分もたっていない。その短い時間でタイミングを逃さずに、それでいて最短のルートでここまで運んでみせた瑞鶴はやはり天賦の才を持つのかもしれない。

 

「クソォォォォッ!!」

「はぁ!!」

 

ズバシャッ!

 

伊勢や日向の様に剣術の訓練など瑞鶴はしていない、だがこの場においてはそのような技術は必要ない。必要なのはただ刀を降りおろす力のみ、それだけあれば――

 

「グ、ギ、ガァァァァァ!!??」

 

左肩から袈裟懸けに切られた箇所から青い体液が勢いよく吹き出す、刀身とその身を蒼く濡らしながらも瑞鶴は更に横に凪ぎ払おうとし――――

 

バスッ……ガシッ

 

「!?」

「ヤ、ラセル、カァ……!」

(まずっ…!抜けない!)

 

あろうことか港湾棲姫は艦載機に押さえられていた手の艤装をパージ、そのまま素手で刀を掴んだのだ。真剣白刃取りのような物ではない、腕には刃が食い込み絶えず体液を流し続けている。

流石に手の艤装が外れるということは考えていなかった瑞鶴、刀を手放して後退しようとするがそれを許すほど港湾棲姫は甘くない。

 

「ユルサン、ゾォ……!!」

(間に合わない!)

 

左肩から深く切られ、人間の内臓のような物が少し見えている状態にも拘わらず、瞳に憤怒の炎を灯した港湾棲姫は砲台を全て瑞鶴に向ける。

無駄だとわかっていても飛行甲板に盾にしようとする瑞鶴、怒りのままに撃たれようとする砲撃の衝撃に備えて身構える。

 

「シネェェェ!!」

「っ!!」

 

と、その時。

 

 

ビュン――――――スパコーン!

 

 

「ナニ…………グッ!?」

 

 

そんな音が聞こえてきそうな程に綺麗に矢が飛んできて、見事に胸の位置を、つまり心臓を貫いた。

その矢は港湾棲姫の目の前に立っていた瑞鶴の真横を髪の毛数本と共に通り抜け、正確に寸分の違いもなく貫いていた。

一歩間違えれば瑞鶴の耳が持ってかれたかもしれない危険なコースを易々と、かつ咄嗟に選び成功させたのは――勿論加賀である。

 

「ガッ……ゴッ、ボッ……」

「…………」

 

最初は何がおこったが解らず、不思議そうに自身の胸を見ていた港湾棲姫。しかし漸く状況が飲み込め、叫ぼうとした口から出てきたのは声でなはなく、青い体液。

そのまま自身の胸を掻き毟る様にさわっていた彼女は、やがて大量の青い体液を海に溶かしながら膝をつき、そのまま倒れるとゆっくり沈んでいった。

 

「………………」

 

誰も喋らなかった、聞こえるのは瑞鶴達の荒い息づかいのみ。やがて扶桑がポツリと言った。

 

「……状況終了」

「…………やっ、た?」

 

 

「やったぁぁぁぁ!!」

 

港湾棲姫、撃沈――それは瑞鶴が接敵してから二時間のことであり。港湾棲姫と対峙してから僅か十分足らずのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下、司令部

 

「港湾棲姫を中心とした別動隊の反応、消失しました!」

「球磨が戦艦レ級を鹵獲しました!これにより、鎮守府襲撃部隊の全滅を確認!」

 

大淀と工厰から避難してきた明石から次々に上がるのは終息していく戦いの報告、提督は予想しながらも改めて安堵の息を漏らす。

と、明石と大淀が雑談を始める。本来ならば叱るべきだが、殆ど勝利確定の状態なのでなにも言わない。

 

「球磨が勝手にレ級を捕獲したのにも驚きましたが……まさか深海棲艦がこんな搦手を使って来るなんて。」

「奴らだってアホじゃないですよ、ちゃんとした目的があって行動を…………」

 

と、ここまで言って明石は不意に言葉を止める。そして顎に手を当てて考える仕草、それを見た提督は大淀に一言。

 

「大淀、第零簡易泊地に連絡。大和に繋げ。」

「第零って、あそこですか?…………いいですけど、いまだに何であそこに簡易泊地を作ったのか私わからないんですよ。」

 

少々訝しみながらも通信を繋ぐ大淀、間もなく「繋がりました」という声と共にピコン、という可愛らしい音。そして正面モニタに写ったのは大和の姿だった。

 

「提督、全ての準備が完了しました」

「ご苦労様、そのまま指示があるまで待機」

「了解」

 

短いやり取りで会話を終えた提督は通信を切る、はたしてこれだけのために通信する必要はあったのか?という大淀の疑念を余所に明石が声を上げる。

 

「やっぱりおかしい……」

「どうしたの明石?」

「扶桑さんも言っていたんですが、この戦いなんか妙です。」

 

妙とは、どういうことだろうか。大淀が明石に呼び掛けようとし――――

 

 

 

 

ファンファンファン!!!

 

 

 

「「!!!」」

 

鳴り響く警報、これは深海棲艦が確認された時の警報だ。

しかし、確認された深海棲艦の艦隊は全て把握している。この警報がなるのは新手が来たときだ、ならば来たのだろう「新手」が。

流石にこのままいかないと予想されていたので、敵の出現自体は余り驚くべきことではない。

が――――

 

「て、提督!」

「何だ?」

「敵艦隊出現です!」

「こ、こちらもです!」

「狼狽えるな、場所は?」

 

慌てる二人をよそに、落ち着いている提督。しかし二人は同時に叫ぶ。

 

「場所は……三浦半島沖三十キロです!」

「此方はそちらから三十キロ東に出現!」

「数は?」

 

突如として現れた増援の位置に衝撃を受ける二人、そして更に艦種と数を確認する。

 

「両方とも特殊個体はなし、駆逐艦と巡洋艦のみ。」

「数は……うそ!?に、二百と四百、先程の港湾棲姫の艦隊とほぼ同規模とそれ以上です!」

 

ここまできて、二人はほぼ同時に結論にいたる。

 

「ねぇ明石、これって……!」

「ええ、やっと扶桑さんが言っていた『違和感』の正体がわかりましたよ……!奴等の真の目的、それは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京からの避難民を皆殺しにすることです……!」

 

深海棲艦は基本的に知能を持たない、しかし異常に力を持った個体は例外的に知能を持つ。それにも優劣があり、幼稚園児並の知能しか持たない個体から、天才的な作戦を建てる策士もいる。

しかしそんな時でも深海棲艦には変わらぬ行動原理がある、それこそが深海棲艦の存在理由にして最大の目的、即ち――――

 

「人類の抹殺」である。

 

 

 

 

 

相模湾

 

「やられた……!だから、だから……!」

「まんまとやられたね……!」

「ど、どういうことですか北上さん!?」

「私達はまんまと嵌められたってことよ、瑞鶴。」

 

そう、今までの作戦行動は全てブラフ。思えば妙だったのだ、人類を一人でも多く殺すことが目的の深海棲艦が今は人っ子一人居ない東京を襲う意味など無かったのだ。

それこそが違和感の正体、扶桑が通常の深海棲艦との行動パターンとの間に見えたズレである。

 

 

 

 

横須賀鎮守府周辺

 

「フフフ……今更キヅイテも遅イワ、モウ貴女達ニハトメラレナイ!」

「…………」

 

日向との戦闘と周辺艦の援護によりもはや轟沈も時間の問題となっている戦艦棲姫、それでも彼女は余裕な表情を崩さなかった。

そして後方からオドロオドロしい叫び声が幾重にも重なって聞こえたとき、彼女の笑みは頂点に達した。

 

「キャハハハハ!!!コレデ人間ハ全テ皆殺シ!」

「…………なるほど。」

 

ひたすら笑い続ける戦艦棲姫を日向は冷静に見つめて、一言だけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでアイツに勝ったつもりか?」

 

 

 

ほぼ同時に、横須賀鎮守府の地下で提督は獰猛に笑って言った。まるでそう、何処かの新世界の神(笑)のように。

 

 

 

「…………計画通り、か。」

 

 




ただ今、応答者が不在のため、自動プログラムが対応しま――――

「ちょっと待った!」

ガタッ

「やっと、やっと、正体が明かせる……!」

思えば初登場からずっと後書きで大和と絡ませられ、正体も明かせてもらえない日々。
それもやっと次回で終わる、これで……!
その前に、

次回 「砲撃の余韻は誰が為に」

やっと私の正体が――――











ガチャ

「行くわよ、武蔵。」

……………………………………………………………大和ォォォォ!!!




プツッ

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