親馬鹿な加賀さんが着任しちゃいました   作:銀色銀杏

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サイバンチョ「被告人、投稿が遅れたことに対して弁明は?」

筆者「仕方なかったんですよ!だって…!」

サイバンチョ「いくらスパロボとモンハンが同じ日に届いたからってその日にやりまくる貴方が悪い!」

筆者「同じ日に届くなんて知らなかった!」

サイバンチョ「被告人に有罪を言いわたす!」

筆者「すいませんでしたぁ!!!」

サイバンチョ「それで、楽しかったですか。」

筆者「めっちゃオモロイです!」



………はい、投稿が遅れたことに対して深く謝罪申し上げます。

それではどうぞ~


十九、二百 対 九

『ちわーす、横須賀鎮守府の宅急便でーす!』

 

そんな能天気な明石の声と共に送られて、いや落ちてきたのは丁度人一人が入れそうなくらいの大きさの黒いボックスだった。

 

『北上の生態データは既にインプット済み、その箱を触れば何時でも装着できるわよ。』

「いやーベストタイミングだよ、婆ちゃん。あんがと、じゃあ早速……」

 

そういって北上は黒いボックスに触れる、と同時に艤装を装着する時と同じ光が北上を包みこむ。そして光が収まった後にいたのは――

 

「重雷装艦北上改二、ンでもってあえて言うなら『超重雷装艤装装着型』かな?」

 

そこに立っていたのは、両手両足に魚雷管を背負った北上。北上改二にとっては代名詞とも言える魚雷をふんだんに装備している、が、今北上が装着している艤装は明らかに通常の北上改二の艤装ではない。

まず肩に空母が装着するはずの飛行甲板をもっと分厚く、幅広にしたものがついている、それも両肩に。そして背後の機関部の両側にもウイングのように魚雷管がついている、正に過剰なほどに魚雷を装備した「ロマン」がそこにはあった。

 

『これこそ一対多を究極なまでに追及した「超重雷艤装シリーズ」です!』

 

これこそ北上が必要性と若干のロマンを込めて明石に発注した局地型装備、仮称「参式雷装鎧(さんしきらいそうがい)」である。

これは言うなれば「全身に魚雷を内蔵した鎧」である、これを着けることで北上の持つ魚雷の四十門などという生易しいレベルではない。およそその七倍、つまり二百と八十の魚雷が撃てるのだ、しかも撃ち尽くせば鎧をパージして戦闘を続行できる。

しかしデメリットも大きい、先ず機動力が低いので援護無しではただの的である。そしてもし当たろうものなら全身を包む魚雷が誘爆、一気に大破まで追い込まれる。

 

「さーて、どれだけ居ようとこの数なら!」

「北上が魚雷を発射すると同時に突撃、目標は港湾棲姫よ、撃破し次第戦線を全速力で離脱。」

「「「了解!」」」

 

魚雷の有効射程は広い、だがそれ故に当てにくい。しかし今回の目標は前方から向かってきている、それに相手は二百以上、つまり―――

 

「数撃ちゃ当たるってね!」

 

二百四十門の魚雷、その凡そ半数が一斉に発射される。計百二十発の魚雷は敵集団目がけて殺到し、やがて大爆発を起こした。そして駆け出す九隻、目指すは港湾棲姫である。

ここで改めてメンバーを振り返る、まずは瑞鶴率いる艦隊のメンバーである加賀、北上、そして扶桑率いる艦隊のメンバーの赤城、山城、初霜、叢雲、夕張である。作戦としてはとにかく駆逐艦を先頭にし、軽巡、空母、戦艦の順で続く。駆逐が前方の敵を排除し、空母が両舷及び撃ち漏らした敵艦の排除、そして戦艦が後方から追ってくる敵艦を足止めもしくは排除を担当する。

港湾棲姫を中心とした輪形陣をくんだ敵艦隊は広く展開しており、到達までに時間がかかるものの、この方法ならば比較的に損害軽微のままで港湾棲姫にたどり着ける。

 

「今度こそ、私は……!」

 

瑞鶴の目は敵艦を見つめていた、だがその目は深海棲艦だけではない暗いナニかを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「提督、先行した二つの艦隊が港湾棲姫の艦隊と交戦を開始しました!」

「アイツら……!此方の増援、それと今の戦況は!?」

「最初に襲撃を受けた簡易泊地は殲滅完了と球磨より報告が、後はここの戦艦棲姫ですが、思っていたよりも展開が早いので突破は困難、先行した二艦隊に追い付くのは……………不可能かと。」

 

苛立ちを感じる提督、コンソールを叩くようにして工廠と通信を開く。慌てふためいてきた明石が応じる、あれから鎮守府の防衛に回っている明石は疲労困憊しながらも気丈に応じる。

 

『提督!どうされました!』

「先行した二艦隊が敵艦隊と交戦中、ハッキリ言って望み薄だ。悪いが最悪の場合は………()()を使う、準備を頼む。」

『もう加賀から言われて準備完了してます、それに北上には頼まれていた物を送ったので大丈夫でしょう……多分。』

「了解したが……前に言っていた大和との通信は?」

『万全で――おっと!?では私はこれで!』

 

激しい音と共に揺れる地下、それに呼応して同じく揺れる工廠、それっきり通信はノイズを送るばかり。

工廠がやられたか…、と思う提督だが明石はそんなことでは死なないので心配はしない。それより問題なのは工廠がやられたことで鎮守府の防衛能力が下がること、だがこの際かまってられない、今は目標に集中しなければ。

と、執務室に残してきたHDを思い出して血の涙を流す提督であった。

 

 

 

 

 

舞台は戻り相模湾

当初は比較的順調に進んでいるように見えた瑞鶴達だったが次第にジリ貧になり始めた、それでも進み続けられるのは赤城の七十二機、加賀の八十六機、そして瑞鶴の七十五機のという空母による高密度の爆撃により隊列は維持されていた。

瑞鶴はその空母の中の一人であった、しかし強烈な疎外感を感じていた。理由は目の前にいる一航戦の二人だ、加賀の実力は承知していた。だが何より信じられないのが……

 

「発艦始め!」

 

ズビシッ

 

その隣のいる赤城の存在だった。赤城は空母いや「食う母」と揶揄されているほどに大食いなのだ、そのくせ出撃は殆どせず毎日麻雀にふける日々、自堕落な生活を送っている彼女を皆は歴戦の空母(笑)と言ってネタ要員として見ていたのだが……今目の前にいる彼女は本当に赤城なのか?

艦載機の数を補う為に磨かれたであろうその発着艦の作業のスピードは加賀を軽く上回る、それはまるで発艦する機体と着艦する機体が重なって見えるようだ。

 

(そんなのと比べて、私は………!)

 

そして、突入してから約三十分、港湾棲姫が含まれる艦隊との交戦が目前に迫る。幸いにも護衛艦隊とはかなり距離をつけている、このまま有利な方向へ持ち込む。

そして遂に交戦を開始した、そして瑞鶴は港湾棲姫と対峙し、自分の予想が甘かったことを思い知らされる。

病的なまでに白い肌、そして同じ色の髪の毛。一般的に見れば絶世の美女と言われるだろう、しかし額から生える一本の角と凶悪な形になっている巨大な手を間近で見れば答えは変わる。

その身体から発せられる威圧、そして見るものを深海はと導くような赤い目は正に「姫」に相応しかった。

 

(っ!落ち着きなさい……あれを倒せば私だって!)

「行きます!攻撃開始!」

「瑞鶴!?」

 

そして港湾棲姫を視界に捉え直ぐ様艦載機を発艦させる瑞鶴、先制で発艦された艦載機は狼狽える随伴艦の対空を潜り抜けて港湾棲姫に殺到し―――

 

直後

 

ドゴッ、ドガガガガッッッッ!!!

 

「―――――え?」

 

瑞鶴の発艦した艦載機が全て漏れ無く文字通りに、「凪ぎ払われた」。相手はただ対空砲を一回掃射しただけ、それも本来の実力が出せないはずの海上で。

艦隊の中では最低の練度とは言え、他の鎮守府へ行けば第一艦隊の旗艦になれる程の練度はある瑞鶴。当然、その艦載機も練度は高い、それがあの有り様である。

目の前で起こった現実を認識できずに放心状態になる瑞鶴、そしてそれを見逃すほど姫級は甘くない。

 

カチャン

 

「!!」

「瑞鶴避けなさい!」

 

ゆったりと、しかししっかりとした動作で構えられる砲塔。その砲塔の向く先は勿論瑞鶴、あの主砲が直撃すればまず間違いなく消し飛ぶ。

避けろ、と必死に理性が訴えかける。だが身体が動かない、まるで港湾棲姫に包容されているように。

そして動かない瑞鶴を狙い砲塔は―火を吹いた。

直撃コース、もう間に合わない。そう悟った瑞鶴は意識を手放した、そして。

 

ドゴッ

 

鳴り響く轟音、しかしまだ感覚があることに違和感を感じた瑞鶴はまぶたを開ける。

そして見たものは――

 

「え………………」

 

目の前で佇んでいる赤城の姿、瑞鶴が庇われたという事実に気付くと同時に赤城は倒れた。

 

「赤城さん!!!」

 

その声を発していたのが誰なのかそれは解らない、だがそんなことなど目の前の光景によって吹き飛ぶ。

無慈悲にも引き裂かれた左半身、飛行甲板を盾にして庇ったのであろうがそんなことなど無力。直撃した砲弾により左腕、左足、そして脇腹が抉れていた。

言うまでもなく即死、つまり轟沈。瑞鶴が何かを喋る前に赤城は沈んでいく、そして少しも掛からずに沈んだ。

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す」

 

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロコロコロコロコロコココココココ」

 

狂ったスピーカーのような声を上げる瑞鶴、その目からはハイライトが消え失せ、口角が上がり終始笑っぱなし。

そして肌は病的なまでに白くなり始め、髪の毛の色も薄くなり始める。

 

そう、「深海棲艦」のように

 

それを見た加賀は叫ぶ

 

「止めなさい瑞鶴!魂を飲み込まれるわ!」

「殺すコロスコロス――――!!!」

 

艦娘、それは在りし日の艦の魂を持つ女性。しかし彼女らと共にある艦の魂は艤装に宿る、そしてその魂と如何に同調できるかが強さの秘訣である。そしてその同調率こそが「艤装同調率」である。

だが、この同調率が急激に上昇したり下降したりすることがある。これは極めて艦娘の精神状態が不安定な状態にあり、通常よりも圧倒的な性能を発揮するが敵味方を見境なく襲う。これは俗に「暴走」呼ばれる。

これは最悪の場合、艦娘の魂が艤装に飲み込まれて植物状態になったり、深海棲艦と似たような姿になり自ら轟沈していくという事例が報告されている。

 

「っ!不味いねこりゃ!」

「加賀さん、私達が敵艦隊を押さえます。今のうちに瑞鶴さんを!」

「ありがとう山城、それより………」

 

加賀は赤城が沈んだ方向を見て言い放つ。

 

「その辺で演技は止めたら?確かに人様の娘をあんな風にしたのに責任を感じて出るに出られないのは解るけど、このままって言うのは無いんじゃないかしら?」

 

「赤城さん」

 

ザバッ

 

という音と共に片手が出てくる、ホラーだ。前に垂れた髪が水に濡れて顔に張り付いている顔が出てくる、そして上半身がズズズ……という音と共に出てくる。

 

「きっと来る~きっと来る~♪」

「潜水カ級ですかそうですか、なら沈め。」

「スミマセン加賀さん赤城です。」

OTL

 

と歌いながら出てきて加賀にキレられて土下座してるのは赤城、あの沈んだはずの赤城である。あの時におった深い傷も再生しており、五体満足だった。

何故生きているのか、理由は少しばかり前の文章まで遡ってほしい。こう書いてあるはずだ、「赤城の七十二機」と。赤城の登載数は八十二機、十機分つまり丁度一スロット分空いている。

さてここで艦これに親しむ読者諸兄に問題、一スロットを消費して轟沈を回避し尚且つ全回復させる装備、いやアイテムと言えば?答えは簡単、

 

 

「応急修理女神」

 

である。

実は横須賀鎮守府、ある程度の練度に達すると提督から応急修理女神を支給されるのだ。そして支給された艦娘はそれを装備するのが通例となっている、勿論義務は無いが装備するに越したことはない。

そしてそれを装備していた為に赤城は轟沈を免れ、見事復活を果たしたのだ、これを装備していなければ瑞鶴ごと突き飛ばしていた。

 

「いや~応急修理女神始めて使いましたけど、キモいですね。何てったってなくなった筈の腕や脚がニョキニョキ生えてくるんですから、正直言ってかなりグロいです。」

 

とあっけらかんに言って、瑞鶴の方を見て目を見開く。

 

「なんじゃありゃ!?………って言っても私のせいですよね。」

「ええ、どうにかできないかしら?」

「あの状態になってしまったら後は拳で語りあうのみです、瑞鶴さんの精神を信じましょう。」

「それは、貴女の経験からかしら?」

 

それを聞いた赤城の目は一瞬伏せられる、そして開かれたその目には少しばかりの後悔と懺悔の念が込められているような気がした。

 

「……………ええ、強さばかりを求めれば何かを失う。そんな事にも気づけない愚か者は強さだけが全てじゃない、そんな簡単なことにも気づけないんです。」

 

赤城は自嘲するように加賀に呟く、それを聞いた加賀はただ一言「そう」と返しただけだった。と、横から声が響く。

 

「お二人さん!思い出に浸るのはいいけど制空権がヤバイから速く艦載機お願いします!」

「瑞鶴はあのままでいいのかしら加賀さん?」

 

と焦りを含んだ初霜の声と少し皮肉を含んだ叢雲の声、それに対して加賀は答えた。

 

「今の瑞鶴に話しかけても反撃を喰らうだけ、この囲まれた状態でそれを受ければほぼ詰みよ。艦載機を今から飛ばすわ、先ずは回りを片付ける。」

 

言うと共に艦載機を発艦させまくる加賀、それに続く赤城。これにより制空権を奪還、再び押し返しはじめた。

 

「よっしゃー!残りの雑魚を一掃するよ、私の後ろに!」

 

北上の号令を聞いた一同が後方に下がる、それと同時に打ち出されたのは補給、予備の分を含めた全魚雷の多段発射。その数圧巻の二百!

 

ズドドドドドドォォォォォォォォォンンンン

 

そして驚異の全弾命中、宣言通りに回りの護衛艦隊を一掃した北上。そして丸裸になった艦隊に向かって進んでいく加賀達、加賀は自分の娘を信じ、その名を呼ぶ。

 

「瑞鶴!」

 

しかしその言葉は戦闘音によって掻き消される、自分達の目の前では正気を失った瑞鶴と港湾棲姫による激戦が繰り広げられていた。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――!!!!!」

「殺意ニコウモ容易ク飲ミ込マレルトハ………ヤハリ人間トハ何ト愚カナノ?」

 

表情一つ変えずに言う港湾棲姫、瑞鶴は耳を貸さずに艦載機を放つ。放たれた艦載機は狂気に囚われたかのように港湾棲姫の対空砲撃をものともせずに進んでいく、そしてその動きは瑞鶴によって直接コントロールされている。

狂気に囚われながらも正確なその動きはまるで「狂戦士(バーサーカー)」、瑞鶴の練度からはあり得ない動きだった。

 

「フフフ……可愛イワァ、連レテイキタイ。」

「殺す殺す殺す殺す殺す――――!!!!!」

 

瑞鶴の並外れた動きに追い詰められつつある筈の港湾棲姫、しかし全く余裕の表情を崩さない。それが正気を失った瑞鶴の癪にさわったのかより一層激しさを増す爆撃、そして艦爆から切り離された爆弾が複数直撃し立ち上る煙。さしもの姫級も無傷ではいられまい―――そう思った直後だった。

 

「イイワァ、実ニイイ!モット、モット堕チナサイ!」

「!!!!!!――――シャァー!」

 

煙の中から表れたのは無傷の港湾棲姫、あれだけの攻撃を受けたのにも拘わらずむしろ瑞鶴が堕ちていくことに喜びを感じている。またも逆上して獣のように飛びかかろうとする瑞鶴、しかしそこに割ってはいる声。

 

「駄目よ、自分をしっかり持ちなさい!」

「!!!」

「アラァ……?」

 

凛とした声で呼び掛けるは加賀、とたんに瑞鶴なの動きが止まる。そして楽しみを邪魔された港湾棲姫は不愉快そうに声の主の方を向く、尚も声は続く。

 

「今貴女の命は貴女だけの命じゃない、球磨が日向が伊勢が、貴女を信じて託した命よ!せめて貴女が責任を感じているのなら、正気に戻りなさい!」

「瑞鶴さん、加賀さんの言うとおりです。そして謝罪します、いつかあの時に言った『貴女の理想は綺麗すぎる』という言葉。貴女はそれから悩んでいたのでしょう?」

 

凛とした加賀の声の後に続くのは静かながらも芯の通った声、赤城であった。

 

「あの時私は新しい目標を見つけろ、と言いました。しかし焦る必要はないんです、貴女には時間があります。だからこそ、ゆっくりと着実に仲間と強くなって行く途中で目標を見つければいいのです。…………今ならまだ間に合います、帰ってきてください!」

 

そして加賀は叫んだ

 

「だから………戻ってきなさい!瑞鶴(すいか)!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、痙攣するように震えていた瑞鶴の身体がその震えを静めていく。そしてゆっくりと此方を振り向いた。

 

「瑞鶴……………!」

 

戻ってきたのだ、その事実に感極まる加賀。そして皆も瑞鶴の方へ集まろうとし―――隙が生まれた。

 

「随分ナコトヲヤッテクレルジャナイ……!」

 

そう恨みがましく言う港湾棲姫の主砲が静かに加賀にむけられる、しかし誰も気づかない。そして何の前触れもなく、発射された。

 

ドムッ

 

「!」

 

反応が遅れた、回避はできない、せめて少しでも耐えて見せる。―――まだ死ねるか!!

先刻の赤城のように飛行甲板を盾にする加賀、しかしそこに割って入る影が一つ。

 

「何をするの!?瑞鶴!」

 

割って入った影―――瑞鶴は加賀を守るように前に立ち加賀にだけ聞こえる声でいった。

 

「今の私にはこれくらいしかできないから。」

「!!ずいか――――」

 

ドムッ

 

直後、直撃の衝撃が加賀を襲う。目を開けることはさえできない、そして恐る恐る目を開けると―――

最悪の光景が広がっていた。

ボロ布のように焦げて変色した肌、艤装どころか服も殆ど消し飛んでいる。そのまま崩れ落ちる瑞鶴、彼女には応急修理女神は登載されていない。

最悪の予感が頭をよぎる、そこへ鬼のような形相で走ってきたのは意外にも北上だった。

 

「もう私の前では誰も、誰も死なせない!」

「何を――」

「アタシこれでも防衛医大卒だ、応急処置の心得ぐらいはある!」

「北上、港湾棲姫は私達で押さえる、その間に。いくわよ山城!」

 

そう言って応急処置を始める北上とそれを守るために前にでる扶桑達、しかし瑞鶴の身体は沈み始める。諦めずに処置を続ける北上と瑞鶴の手を握る加賀、しかし――

 

「クッソォ!戻って!戻って!戻れ!」

「北上……」

 

それでも沈んでいく瑞鶴の身体、そして加賀が握っている手も徐々に引っ張られ始める。必死に手を繋ぐ加賀、しかし次第に重く、強くなっていくその力はまるで何かが瑞鶴を深海へ連れていこうとしているかのようだった。

そして――――

 

「あっ…………」

 

遂に加賀の手から離れる瑞鶴の手、瑞鶴の身体は完全に海に沈んでいった。

 

「嘘……でしょ……」

スック

「加賀さん?」

 

実の娘を失い、平静を崩しても可笑しくないはずの加賀はむしろ普段よりも冷静になっていた。その目はただ港湾棲姫のみを捉えている、その射抜くような眼光に北上は身震いする。

 

「加賀さん、瑞鶴が……」

「まだ、戦いは終わっていないわよ。」

 

そして何処から出てくるのか解らない自信で言う。

 

「それに、私の娘がそんな簡単にくたばるわけない。」

 

その目に絶望はなく、ただただ希望のみを写していた。

 

 




希望、それは絶望の裏返し。
そして嘘と真がごっちゃになった物。
まるで最高のスパイスだ。
それだけを見て現実逃避してしまえばその後の人生は(から)く、(つら)くなるだろう。ましてやそれが偽の希望であれば尚更。
だがまわりの真実を見て尚、希望を捨てずにいるのならば――その人生はスパイスの効いたおもしろい物になるだろう。
たとえそれが苦難の人生だとしても、そしてそんな状況でも変わらないものこそが真実の希望だろう。
その希望は人それぞれ、金の場合もあれば物の場合もある。
それは勿論――――――家族の場合も。


次回 「少女と戦艦」

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