テイルズ・オブ・ザ・レディアントマイソロジー3・闇は破滅か救世か?   作:にゃはっふー

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 消えない。

 一人の少女の叫び声。

 消えない。

 背を向けた家族への罪悪感や後悔。

 消えない。

 彼らの叫び声、彼女の、あの子の顔が、消えない。

 消えないッ!!

 もういい………

 消えてくれッ!!

 俺はもう………人間じゃない方がいい………


第19章・魔竜飛翔

 黒い魔竜はユグドラシルを倒し、輝く光を睨む。

 

『その姿、まさかゲーテになったのか!? あり得ない、人の身でそこまで染まればただですまないはずだ!?』

「リュウ………」

 

 だがそれは安定している。それに手足を見ながら、それは、口を開く。

 

 笑う。

 

 ワラウ。

 

 ただ笑った。

 

『あーーーそうだよっ、なんでヒトなんてもんにならなきゃいけない!? 他人を信じず、他人を疑い続け、ばかばかしい差別で自己満足する命なんてもんに、なんで成ってなきゃいけない!! 俺は始めから命なんてもんじゃないッ、そんな綺麗なもんじゃない。ああいいよっ、別の命へ、憎み、あざ笑い、見下す。んなもんであるのなら、化け物の方がいいじゃないかッ。やっとだ、やっと忘れられるッ。やっと、忘れられるんだッ。あの家族のことが、やっと忘れられる!!!』

 

 そんな事を言いながら、翼を広げ、魔竜は飛翔する。

 

 その先はどこだろう。セレナ達は唖然になりかけたが、

 

「「まさか」」

 

 カノンノとセレナはすぐに気づく。

 

 

 

 帝国軍の船はまた一つ落ちる。

 

 聞こえてくる声は理不尽な嘆き、苦しみ、だが届かない。

 

『落ちろ落ちろ墜ちろッ。略奪される側へとッ、墜ちていけ!!』

 

 炎の中でそれは笑う。無数の魔術を尾で薙ぎ払い、ブレスを吐き、全てを火に包む。ああそうだ、これこそが自分だ。

 

『嘆き、懺悔し、後悔しながら………消えていけッ』

 

 闇が剣のように振るわれる中、竜巻が放たれるが、それを放つ男を見て、笑う。

 

「ふざけるな………フザケルナアァァァァァァァァァァァ」

 

 それにあざ笑うように、

 

 

 

『殺ス殺すコロス殺すッ』

 

 口のない口が開き、刃へと噛みつく。それを引きずるように刃を無理矢理、負の力で研ぐ魔竜。

 

 刃には、邪悪な、禍々しい力が宿る。

 

『魔竜・滅神剣ッ』

 

 

 

 全ては暗闇へと墜ちていく。

 

 

 

 セレナ達は遠くからそれを見る、海に墜ちていく帝国軍を見ながら、魔竜の笑い声を聞く。

 

 だけど、

 

「………」

 

 アドリビトムだけでなく、何故か数名、アリーシャ達は悲しそうにそれを見た。

 

「泣いてるみたい………」

 

 マルタの言葉に、誰もが何も言えず、その光景を見ている。

 

 泣きじゃくる子供のように、剣を振るい、火の粉をはき出し、暴れる魔竜。

 

 それにセレナ達は急ぎ、バンエルティア号を動かそうとするが、

 

「!? 危険だっ。いま彼は闇を吹き出しているんだ!! ただのヒトが近づくだけで倒れるぞ!!」

 

 ミクリオの言葉に、ニアタもまた頷く。だから帝国軍はほとんど動かず、倒されているんだ。

 

 だが、

 

「なら倒れなきゃいいだけだッ」

 

 ロイドの言葉に、アドリビトム達はすぐに動く。

 

「彼奴はバカだけどな、仲間なんだ」

 

「ぶっきらぼうで天の邪鬼で」

 

「だけど料理当番とか、言われたことや任されたことはちゃんとやる」

 

「誰よりも仲間のことを見てくれていて、戦う」

 

「俺達は」

 

『彼奴の仲間だ』

 

 その言葉にアリーシャ達は黙り、そしてセレナは、

 

「………そうだよ」

 

 嘆くように船を壊し、闇を纏う魔竜を見る。

 

「あの人は………私の、私達の大切な、仲間だ!!」

 

 

 

 アアウルサクナイ、ヤットシズカダ………

 

 真っ暗な世界でやっと、やっと忘れられた。

 

 モウイイ、モウイイ、モウ………

 

 その時、輝く光が目に入る。身体を焼く、聖なる輝きだ。

 

 オワレル………ヤット、ヤットオワレル………

 

「終わりじゃない、始まりだよ」

 

 完全に竜と化したそれに、光は話しかけてくる。

 

 ダレダ………オレをオワラシテクレナイノナラ、壊スッ、滅ボス、殺スッ。

 

 巨大な髪の刃が振り下ろされるが、無数の矢や刃が止め、光が近づく。

 

「リュウ、貴方が何に傷付いているか分からないよ………だけど」

 

 輝きが側に来る。その側に、桜のようなピンクの髪が見えた。

 

 ヤメロ………オレハ、俺はッ

 

 闇を纏う剣を振るうが、輝く剣がそれを止めた。身体が、全身が砕け、焼けていく。滅びる。やっと終わる。ああそうだ。

 

【救エナイノナラ、助ケラレナイノナラ、守レナイノナラ】

 

 

 

 俺は滅びたい。

 

 

 

 その言葉が響いた瞬間、

 

「………やっと本音が聞けたな」

 

 ユーリがニヤリと笑い、そして、

 

「だけど、そんな願いは聞き入れないよッ、リュウ!!」

 

 クレスは剣を構え、スタンも叫び声を上げ、カイルも向かう。

 

「やっと聞けた仲間の願い、だけど俺達はッ」

 

 氷の刃を纏い、ヴェイグが迫る。

 

「届けッ、俺のスピリアッ」

 

 誰もが、魔剣を防ぎ、魔竜は吼える。だけど、一人の少女が前に出る。

 

 

 

 その瞬間、魔竜の力が弱まった。

 

 

 

 来ルナ。

 

 

 

 響く声、だけど、少女は首を振る。

 

「届いて、私の、私達の想いッ『ラヴ・ビート』ッ!!!」

 

 光の音色が魔竜の鎧を砕く、砕いた側から闇が吹き出すが、それに続くように、

 

「私達の輝き、私は救う………貴方を………『レイディアント・ブレイカー』ッ!!」

 

 光が連なり、魔竜を飲み込む。

 

 その光の中、魔竜はただ、

 

 

 

 オレハ………俺は………

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 孤児院のボランティア、孤児院と病院が関係があり、そこで清掃員のようなことをしている。

 

 多くはサボった者がいる中で、ゲーテは律儀に手伝っていると、流れるように急患が来た。

 

 近くのコンサート会場で、大規模な事故が起きた。

 

 逃げまどう観客、その中には前の人を押しのけたり、踏んででも我先へと逃げ出そうとする者達が多く、悲惨なことになっていた。

 

 だが他人の痛みなぞ、関係ないため、何も思わず、手を貸すだけだ。

 

「血が足りないっ、誰かっ、この中にO型の方はいますかっ!?」

 

 医師か看護士、看護婦? いまではもう分からない。興味もない人が叫ぶ。

 

「あっ、自分O型です」

 

 別に気にせず言うと、すぐに手を取られた。

 

「お願いしますっ、手術のために血が足りないんですっ」

「お願いしますっ、響を、娘をお願いしますっ」

 

 父親らしき人が手を掴み、懇願してくる。訳が分からない、何故そこまで赤の他人、子供に頭をそこまで下げられる?

 

 訳が分からないまま、血を提供した。

 

 

 

 それから、間をおいてはあるが、血を提供し続けた。自分にもわからないが、なんとなくだった。

 

 そして少女は目を覚ました。両親らしき人から涙を流しながら感謝された。心がわからず気持ち悪かったはずだった。

 

 だけど、

 

「よかった………よかった………」

 

 ガラス越しでこちらが見えないだろう。両親と笑い合う少女を見て、不思議と嫌な気にならなかった。

 

 いつも一人がよかった。人気のない場所ならなにも聞こえない。人がいれば聞こえるのだ、人の悪意を。

 

 だから寝るか一人になるかが自分の日常に、血を提供すると言う不思議な行動が増えて、それが終わったことに、少しだけ不思議な気分になる。

 

 初めての感覚だったから鮮明に覚えている。

 

 これはなんだ? これは………

 

 

 

 答えが得られないまま、ある日、少女に対する悪意が頭の中に流れ込む。

 

 助かった者達の中には、莫大な保険金が入ったからだ。だからこそのもの。

 

 だが自分には分かる。これは悲しみなどではない。現実を受け入れられない者達の、間違った認識でもない。

 

 

 

 ただの命の醜い心だ。

 

 

 

 まだ大切な人達を失った人達を心を弄び、理解もせず、考えもせず、当事者全ての人々の思いなぞ考えもしない、ただの醜いものだ。

 

 そんな思いの所為で、彼ら失った者達は、失わなかった者達に憎悪した。

 

 世界はそれを、面白がった。ああそうだ、面白がった。

 

 流れ込むそんな声は、悲しみのあまり彼らに当たる彼らすら飲み込むほどの声が、世界に溢れていった。

 

 だが、俺は分かる。あの子は自分のために、他人を犠牲にしていない。

 

 頭が壊れそうになる、おかしくなる。違う、世界がおかしいのだ。人が、命が、そのもの全てがおかしい。

 

 そう考えていたら、声の中に彼女の住所の言葉があった。

 

 気になって見に行ったら、最悪だった。

 

『ごめんな響………』

 

 あの父親が娘達を置いて出ていった。

 

 はあ? あんたは娘が助かった泣いて喜んでいたじゃねぇかよ。

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

 少女の嘆きが頭を叩く。

 

 本当はこんなことをしたくない、弱い自分を罵る父親。

 

 娘や残された家族の叫びが、俺の中に刻まれた。

 

【これがお前だ】

 

「………」

 

 暗闇の中に、左右の目の色が違う自分が言う。

 

【こうなるのなら見捨てればよかった。助けられないのなら、救えられないのなら、守れないのなら、何もしなければ良かった】

 

「………全くだ………」

 

【もう嫌だ、聞きたくないんだ。死ねよッ、死んでくれよッ。もう嫌だ、もう思い出したくないッ、聞きたくないッ。俺は、俺はもう終わりたい!!】

 

 剣を持つ俺を見ながら、何も思わない。

 

 ゲーテと言われ、災厄だのと言われるが、ヒトが、命が、世界が醜い。

 

 そこで生きるくらいなら、あり続けるぐらいなら、それであると言うのなら、

 

「消えた方が、生まれくることの方が」

 

 そう思ったときだった。

 

 光が横切った。

 

 救世の光でも、桜色の髪の光でも無い。

 

 あの病室で見た光。

 

【終われッ、これで俺は】

 

 振り下ろされた剣は、

 

 甲高い音と共に防がれた。

 

【!?】

 

「………ははっ」

 

【何がおかしい!?】

 

「そうか………俺は………救われたかったのか」

 

 そうかと言いながら、剣を振るい、はじき返す。

 

「………ばかばかしい」

 

 何してるんだろうか? 本当は何がしたい? ああ………

 

「本当は俺は救いたかった、守りたかった、助けたかった………」

 

 あの子を、あの家族を。

 

【俺がそんなことできないッ、だからあの家族は】

 

「………違う」

 

 流れ込むのは、馬鹿馬鹿しいギルドの面々。もしもあの時の彼らがあの場にいれば、きっと、

 

「きっと父親の手を掴んでいた、きっと諦めるなと言って、つなぎ合わそうとした。俺が、俺ができないことを、きっとしていた」

 

 俺にはできない。誰かを救うこと、守ること、助けること。きっと、彼奴らなら、

 

「なあ俺、彼奴と過ごしてて楽しいか?」

 

【そんな訳あるか、彼奴らは、誰かを救う存在だッ】

 

「ああそうだ………俺がいれば、きっと彼奴らをここに引きずり込むだろう」

 

 何もない暗闇、命の醜い声が響く世界。ここが俺のいる世界。

 

「だけど………」

 

 魔竜と化した俺に向かっていったバカ達を思い出して、微かに笑って、目の色を変える。

 

「それを決めるのは彼奴らだろ?」

 

【お前………巻き込む気か!? 彼奴らを、ふざけるなアァァァァァ】

 

 向かってくる俺は、静かに、

 

「ふざけてる? ふざけてるのはテメェだろ。お前は結局、彼奴らを助けたい俺なんだよ」

 

 そう言って突き刺した。闇が膨れあがり、泥のような黒が流れる。

 

【や、やめ………】

「お前は俺だ、いまだに、誰かを救いたいと願う俺だ」

【………】

 

 息を飲む俺に、俺は、

 

「俺は誰も救わない、助けない、守らない………」

 

 だけど、

 

「彼奴らの側にいることぐらい、いいだろ………」

 

 俺なんか救いたい、仲間と言うバカ達だ。

 

「後悔するならさせてやろうぜ………しないだろうがな」

 

 それまで俺は、

 

「………戻れはしない、だけど、今度は………」

 

 泥の中に消える俺を見ながら、ただ静かに、呟いた………

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

「………医務室か」

「「………」」

 

 何故か眠っている二人。カノンノとセレナを見ながら、よく見れば、

 

「………ヒト多い」

 

 そう、医務室だというのに、それ以外もいる。本当に馬鹿馬鹿しいと思いながら、出ていく。

 

 アニーすら眠っていて、静かに出ていく。

 

 夜の甲板、星空の下、キバと世界樹を見る。

 

「………!」

 

 気配がした方を見る。そこにいるのは、

 

「ラザリス」

 

「おはよう、リュウ」

 

 微笑みながら、静かに近づくラザリス。そして、

 

「君が目覚めるのを待っていた、あの力、ヒトが生んだ醜い力………酷いよね、自分達が生んだのに、君を否定して」

 

「………」

 

「ねえリュウ、僕の、ジルディアのディセンダーになって」

 

 そう言って抱きついてくるラザリス。

 

「君なら分かるはずだッ、世界の醜さ、ずっと、ずっとずっと苦しんだ君なら分かるはずだッ。僕の世界ならそんなものは無い!! この世界、どの世界より素晴らしい世界を創り出す!! だから」

 

 離れて手を差し出すラザリス。その様子を見ながら、

 

 

 

「………くだらない」

 

 

 

 そう言い、逆に手を差し出す。

 

「? なにを」

 

「お前の言うとおりだ、ここに来た頃の俺なら迷わず手を取ってたよ。もう疲れた、ヒトの心、命の声なんて………」

 

「ならッ」

 

「けどな………」

 

 僅かに笑い、闇を纏う。それは鎧、魔竜ゲーテの姿。

 

『こんなんでも仲間と言うバカがいるんでね、付いてこられても困るからな。悪いが断る、逆に言おう。テメェがこっちに来いラザリス』

 

 それに酷く狼狽するラザリス。何度も首を振りながら、こちらを見る。

 

「あり得ない。あり得ないッ」

 

『もういいさ、期待せず一緒にいる。後悔するのはこいつらだ、なら、それまでいるだけさ』

 

「君はいいって言うのか!? また傷付くのにッ、なのに」

 

『構わないさ、俺は誰も救わない、守らない、助けない。なら』

 

 

 

 自分も救わない、守らない、助けない。

 

 

 

『このまま永遠を、暗闇の中で狂い笑いながら生きるさ』

 

 壊れてるなと自分で思いながら、ラザリスは黙り込み。

 

「それでも………僕は諦めない、君は、君は僕のディセンダーだッ!!」

 

 叫び声を上げて消えていった。それと共に闇を解き、馬鹿馬鹿しいと空を見る。

 

「俺に救いを求めている時点で、お前は俺と同じ………救われたいんだろ? ラザリス………」

 

 ならやることは分かった。

 

「俺はお前を救わないが、ここの奴らなら、お前を救うさ。腰巾着並みに、俺はいるよ………ここにな」

 

 朝日が昇る。憎々しい光と共に、

 

「「リュウっ」」

 

 憎々しいほど、自分を心配する二人が現れ、呆れる。

 

「………おはよう」

 

 変わらず返答したが、二人は何故か頬を赤くした。

 

「どした」

「「う、ううん、なんでもないっ」」

 

 そう言って、アンジュから迷惑料としてよけい働けと言われ、セレナはレイディアントを手に入れ、世界を救うための仕事が始まり出した………




甲板で一人たたずむ彼がいた。

彼女と共に向かい出向く際、ラザリスが彼を誘う。

だけど彼は笑いながら断った。

彼は笑う、苦しいのに、辛いのに、彼は笑って、彼女に手を差し伸べる。

彼女は消えた。だけど彼は私達を、みんなを信じる。

だけど私達も信じる、そんな彼も、その中にいると信じて、彼の下に出向く。

「………おはよう」

そう微笑んで言ってくれたとき、私………私達の心が弾んだ。

ああそうか………

私は、本当は誰かを助けたいと願い、それでもできないことに苦しんでる。

だけど諦めない、諦めても、まだ可能性を信じる。不器用な彼が………

大好きなんだ………

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