テイルズ・オブ・ザ・レディアントマイソロジー3・闇は破滅か救世か? 作:にゃはっふー
一人の少女の叫び声。
消えない。
背を向けた家族への罪悪感や後悔。
消えない。
彼らの叫び声、彼女の、あの子の顔が、消えない。
消えないッ!!
もういい………
消えてくれッ!!
俺はもう………人間じゃない方がいい………
黒い魔竜はユグドラシルを倒し、輝く光を睨む。
『その姿、まさかゲーテになったのか!? あり得ない、人の身でそこまで染まればただですまないはずだ!?』
「リュウ………」
だがそれは安定している。それに手足を見ながら、それは、口を開く。
笑う。
ワラウ。
ただ笑った。
『あーーーそうだよっ、なんでヒトなんてもんにならなきゃいけない!? 他人を信じず、他人を疑い続け、ばかばかしい差別で自己満足する命なんてもんに、なんで成ってなきゃいけない!! 俺は始めから命なんてもんじゃないッ、そんな綺麗なもんじゃない。ああいいよっ、別の命へ、憎み、あざ笑い、見下す。んなもんであるのなら、化け物の方がいいじゃないかッ。やっとだ、やっと忘れられるッ。やっと、忘れられるんだッ。あの家族のことが、やっと忘れられる!!!』
そんな事を言いながら、翼を広げ、魔竜は飛翔する。
その先はどこだろう。セレナ達は唖然になりかけたが、
「「まさか」」
カノンノとセレナはすぐに気づく。
帝国軍の船はまた一つ落ちる。
聞こえてくる声は理不尽な嘆き、苦しみ、だが届かない。
『落ちろ落ちろ墜ちろッ。略奪される側へとッ、墜ちていけ!!』
炎の中でそれは笑う。無数の魔術を尾で薙ぎ払い、ブレスを吐き、全てを火に包む。ああそうだ、これこそが自分だ。
『嘆き、懺悔し、後悔しながら………消えていけッ』
闇が剣のように振るわれる中、竜巻が放たれるが、それを放つ男を見て、笑う。
「ふざけるな………フザケルナアァァァァァァァァァァァ」
それにあざ笑うように、
『殺ス殺すコロス殺すッ』
口のない口が開き、刃へと噛みつく。それを引きずるように刃を無理矢理、負の力で研ぐ魔竜。
刃には、邪悪な、禍々しい力が宿る。
『魔竜・滅神剣ッ』
全ては暗闇へと墜ちていく。
セレナ達は遠くからそれを見る、海に墜ちていく帝国軍を見ながら、魔竜の笑い声を聞く。
だけど、
「………」
アドリビトムだけでなく、何故か数名、アリーシャ達は悲しそうにそれを見た。
「泣いてるみたい………」
マルタの言葉に、誰もが何も言えず、その光景を見ている。
泣きじゃくる子供のように、剣を振るい、火の粉をはき出し、暴れる魔竜。
それにセレナ達は急ぎ、バンエルティア号を動かそうとするが、
「!? 危険だっ。いま彼は闇を吹き出しているんだ!! ただのヒトが近づくだけで倒れるぞ!!」
ミクリオの言葉に、ニアタもまた頷く。だから帝国軍はほとんど動かず、倒されているんだ。
だが、
「なら倒れなきゃいいだけだッ」
ロイドの言葉に、アドリビトム達はすぐに動く。
「彼奴はバカだけどな、仲間なんだ」
「ぶっきらぼうで天の邪鬼で」
「だけど料理当番とか、言われたことや任されたことはちゃんとやる」
「誰よりも仲間のことを見てくれていて、戦う」
「俺達は」
『彼奴の仲間だ』
その言葉にアリーシャ達は黙り、そしてセレナは、
「………そうだよ」
嘆くように船を壊し、闇を纏う魔竜を見る。
「あの人は………私の、私達の大切な、仲間だ!!」
アアウルサクナイ、ヤットシズカダ………
真っ暗な世界でやっと、やっと忘れられた。
モウイイ、モウイイ、モウ………
その時、輝く光が目に入る。身体を焼く、聖なる輝きだ。
オワレル………ヤット、ヤットオワレル………
「終わりじゃない、始まりだよ」
完全に竜と化したそれに、光は話しかけてくる。
ダレダ………オレをオワラシテクレナイノナラ、壊スッ、滅ボス、殺スッ。
巨大な髪の刃が振り下ろされるが、無数の矢や刃が止め、光が近づく。
「リュウ、貴方が何に傷付いているか分からないよ………だけど」
輝きが側に来る。その側に、桜のようなピンクの髪が見えた。
ヤメロ………オレハ、俺はッ
闇を纏う剣を振るうが、輝く剣がそれを止めた。身体が、全身が砕け、焼けていく。滅びる。やっと終わる。ああそうだ。
【救エナイノナラ、助ケラレナイノナラ、守レナイノナラ】
俺は滅びたい。
その言葉が響いた瞬間、
「………やっと本音が聞けたな」
ユーリがニヤリと笑い、そして、
「だけど、そんな願いは聞き入れないよッ、リュウ!!」
クレスは剣を構え、スタンも叫び声を上げ、カイルも向かう。
「やっと聞けた仲間の願い、だけど俺達はッ」
氷の刃を纏い、ヴェイグが迫る。
「届けッ、俺のスピリアッ」
誰もが、魔剣を防ぎ、魔竜は吼える。だけど、一人の少女が前に出る。
その瞬間、魔竜の力が弱まった。
来ルナ。
響く声、だけど、少女は首を振る。
「届いて、私の、私達の想いッ『ラヴ・ビート』ッ!!!」
光の音色が魔竜の鎧を砕く、砕いた側から闇が吹き出すが、それに続くように、
「私達の輝き、私は救う………貴方を………『レイディアント・ブレイカー』ッ!!」
光が連なり、魔竜を飲み込む。
その光の中、魔竜はただ、
オレハ………俺は………
―――――――――――――――――
孤児院のボランティア、孤児院と病院が関係があり、そこで清掃員のようなことをしている。
多くはサボった者がいる中で、ゲーテは律儀に手伝っていると、流れるように急患が来た。
近くのコンサート会場で、大規模な事故が起きた。
逃げまどう観客、その中には前の人を押しのけたり、踏んででも我先へと逃げ出そうとする者達が多く、悲惨なことになっていた。
だが他人の痛みなぞ、関係ないため、何も思わず、手を貸すだけだ。
「血が足りないっ、誰かっ、この中にO型の方はいますかっ!?」
医師か看護士、看護婦? いまではもう分からない。興味もない人が叫ぶ。
「あっ、自分O型です」
別に気にせず言うと、すぐに手を取られた。
「お願いしますっ、手術のために血が足りないんですっ」
「お願いしますっ、響を、娘をお願いしますっ」
父親らしき人が手を掴み、懇願してくる。訳が分からない、何故そこまで赤の他人、子供に頭をそこまで下げられる?
訳が分からないまま、血を提供した。
それから、間をおいてはあるが、血を提供し続けた。自分にもわからないが、なんとなくだった。
そして少女は目を覚ました。両親らしき人から涙を流しながら感謝された。心がわからず気持ち悪かったはずだった。
だけど、
「よかった………よかった………」
ガラス越しでこちらが見えないだろう。両親と笑い合う少女を見て、不思議と嫌な気にならなかった。
いつも一人がよかった。人気のない場所ならなにも聞こえない。人がいれば聞こえるのだ、人の悪意を。
だから寝るか一人になるかが自分の日常に、血を提供すると言う不思議な行動が増えて、それが終わったことに、少しだけ不思議な気分になる。
初めての感覚だったから鮮明に覚えている。
これはなんだ? これは………
答えが得られないまま、ある日、少女に対する悪意が頭の中に流れ込む。
助かった者達の中には、莫大な保険金が入ったからだ。だからこそのもの。
だが自分には分かる。これは悲しみなどではない。現実を受け入れられない者達の、間違った認識でもない。
ただの命の醜い心だ。
まだ大切な人達を失った人達を心を弄び、理解もせず、考えもせず、当事者全ての人々の思いなぞ考えもしない、ただの醜いものだ。
そんな思いの所為で、彼ら失った者達は、失わなかった者達に憎悪した。
世界はそれを、面白がった。ああそうだ、面白がった。
流れ込むそんな声は、悲しみのあまり彼らに当たる彼らすら飲み込むほどの声が、世界に溢れていった。
だが、俺は分かる。あの子は自分のために、他人を犠牲にしていない。
頭が壊れそうになる、おかしくなる。違う、世界がおかしいのだ。人が、命が、そのもの全てがおかしい。
そう考えていたら、声の中に彼女の住所の言葉があった。
気になって見に行ったら、最悪だった。
『ごめんな響………』
あの父親が娘達を置いて出ていった。
はあ? あんたは娘が助かった泣いて喜んでいたじゃねぇかよ。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
少女の嘆きが頭を叩く。
本当はこんなことをしたくない、弱い自分を罵る父親。
娘や残された家族の叫びが、俺の中に刻まれた。
【これがお前だ】
「………」
暗闇の中に、左右の目の色が違う自分が言う。
【こうなるのなら見捨てればよかった。助けられないのなら、救えられないのなら、守れないのなら、何もしなければ良かった】
「………全くだ………」
【もう嫌だ、聞きたくないんだ。死ねよッ、死んでくれよッ。もう嫌だ、もう思い出したくないッ、聞きたくないッ。俺は、俺はもう終わりたい!!】
剣を持つ俺を見ながら、何も思わない。
ゲーテと言われ、災厄だのと言われるが、ヒトが、命が、世界が醜い。
そこで生きるくらいなら、あり続けるぐらいなら、それであると言うのなら、
「消えた方が、生まれくることの方が」
そう思ったときだった。
光が横切った。
救世の光でも、桜色の髪の光でも無い。
あの病室で見た光。
【終われッ、これで俺は】
振り下ろされた剣は、
甲高い音と共に防がれた。
【!?】
「………ははっ」
【何がおかしい!?】
「そうか………俺は………救われたかったのか」
そうかと言いながら、剣を振るい、はじき返す。
「………ばかばかしい」
何してるんだろうか? 本当は何がしたい? ああ………
「本当は俺は救いたかった、守りたかった、助けたかった………」
あの子を、あの家族を。
【俺がそんなことできないッ、だからあの家族は】
「………違う」
流れ込むのは、馬鹿馬鹿しいギルドの面々。もしもあの時の彼らがあの場にいれば、きっと、
「きっと父親の手を掴んでいた、きっと諦めるなと言って、つなぎ合わそうとした。俺が、俺ができないことを、きっとしていた」
俺にはできない。誰かを救うこと、守ること、助けること。きっと、彼奴らなら、
「なあ俺、彼奴と過ごしてて楽しいか?」
【そんな訳あるか、彼奴らは、誰かを救う存在だッ】
「ああそうだ………俺がいれば、きっと彼奴らをここに引きずり込むだろう」
何もない暗闇、命の醜い声が響く世界。ここが俺のいる世界。
「だけど………」
魔竜と化した俺に向かっていったバカ達を思い出して、微かに笑って、目の色を変える。
「それを決めるのは彼奴らだろ?」
【お前………巻き込む気か!? 彼奴らを、ふざけるなアァァァァァ】
向かってくる俺は、静かに、
「ふざけてる? ふざけてるのはテメェだろ。お前は結局、彼奴らを助けたい俺なんだよ」
そう言って突き刺した。闇が膨れあがり、泥のような黒が流れる。
【や、やめ………】
「お前は俺だ、いまだに、誰かを救いたいと願う俺だ」
【………】
息を飲む俺に、俺は、
「俺は誰も救わない、助けない、守らない………」
だけど、
「彼奴らの側にいることぐらい、いいだろ………」
俺なんか救いたい、仲間と言うバカ達だ。
「後悔するならさせてやろうぜ………しないだろうがな」
それまで俺は、
「………戻れはしない、だけど、今度は………」
泥の中に消える俺を見ながら、ただ静かに、呟いた………
――――――――――――――
「………医務室か」
「「………」」
何故か眠っている二人。カノンノとセレナを見ながら、よく見れば、
「………ヒト多い」
そう、医務室だというのに、それ以外もいる。本当に馬鹿馬鹿しいと思いながら、出ていく。
アニーすら眠っていて、静かに出ていく。
夜の甲板、星空の下、キバと世界樹を見る。
「………!」
気配がした方を見る。そこにいるのは、
「ラザリス」
「おはよう、リュウ」
微笑みながら、静かに近づくラザリス。そして、
「君が目覚めるのを待っていた、あの力、ヒトが生んだ醜い力………酷いよね、自分達が生んだのに、君を否定して」
「………」
「ねえリュウ、僕の、ジルディアのディセンダーになって」
そう言って抱きついてくるラザリス。
「君なら分かるはずだッ、世界の醜さ、ずっと、ずっとずっと苦しんだ君なら分かるはずだッ。僕の世界ならそんなものは無い!! この世界、どの世界より素晴らしい世界を創り出す!! だから」
離れて手を差し出すラザリス。その様子を見ながら、
「………くだらない」
そう言い、逆に手を差し出す。
「? なにを」
「お前の言うとおりだ、ここに来た頃の俺なら迷わず手を取ってたよ。もう疲れた、ヒトの心、命の声なんて………」
「ならッ」
「けどな………」
僅かに笑い、闇を纏う。それは鎧、魔竜ゲーテの姿。
『こんなんでも仲間と言うバカがいるんでね、付いてこられても困るからな。悪いが断る、逆に言おう。テメェがこっちに来いラザリス』
それに酷く狼狽するラザリス。何度も首を振りながら、こちらを見る。
「あり得ない。あり得ないッ」
『もういいさ、期待せず一緒にいる。後悔するのはこいつらだ、なら、それまでいるだけさ』
「君はいいって言うのか!? また傷付くのにッ、なのに」
『構わないさ、俺は誰も救わない、守らない、助けない。なら』
自分も救わない、守らない、助けない。
『このまま永遠を、暗闇の中で狂い笑いながら生きるさ』
壊れてるなと自分で思いながら、ラザリスは黙り込み。
「それでも………僕は諦めない、君は、君は僕のディセンダーだッ!!」
叫び声を上げて消えていった。それと共に闇を解き、馬鹿馬鹿しいと空を見る。
「俺に救いを求めている時点で、お前は俺と同じ………救われたいんだろ? ラザリス………」
ならやることは分かった。
「俺はお前を救わないが、ここの奴らなら、お前を救うさ。腰巾着並みに、俺はいるよ………ここにな」
朝日が昇る。憎々しい光と共に、
「「リュウっ」」
憎々しいほど、自分を心配する二人が現れ、呆れる。
「………おはよう」
変わらず返答したが、二人は何故か頬を赤くした。
「どした」
「「う、ううん、なんでもないっ」」
そう言って、アンジュから迷惑料としてよけい働けと言われ、セレナはレイディアントを手に入れ、世界を救うための仕事が始まり出した………
甲板で一人たたずむ彼がいた。
彼女と共に向かい出向く際、ラザリスが彼を誘う。
だけど彼は笑いながら断った。
彼は笑う、苦しいのに、辛いのに、彼は笑って、彼女に手を差し伸べる。
彼女は消えた。だけど彼は私達を、みんなを信じる。
だけど私達も信じる、そんな彼も、その中にいると信じて、彼の下に出向く。
「………おはよう」
そう微笑んで言ってくれたとき、私………私達の心が弾んだ。
ああそうか………
私は、本当は誰かを助けたいと願い、それでもできないことに苦しんでる。
だけど諦めない、諦めても、まだ可能性を信じる。不器用な彼が………
大好きなんだ………