情熱は幻想に   作:椿三十郎

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隙間とスタンド

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。霊夢。

貴女を巻き込んでしまって....場所を変えるような余裕はなかった。

 

紫は心の中で霊夢に謝罪した。

 

 

「紫、あんたはもっと頭が良いと思ってたけどねぇ...」

 

 

「........」

 

 

霊夢の辛辣な言葉が刺さった。紫は言う言葉が見つからない。

 

 

言ってくれれば良かったのに、と霊夢は小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来て、僕らが何かするとでも? そう疑っているんですよね?」

 

 

「そうね...」

 

 

「貴女と僕らの間には誤解が多い、それを一つ一つ解いて行きましょう」

 

 

気に食わない態度の紫は、いつになく神経を尖らせる。

 

フーゴを人質に取るのは大きな賭けだったが、得たものは大きい。しかし、仲間が窮地に立たされた状況で、捨て身覚悟の攻撃を仕掛けてこないとも限らない。紫は依然、緊張を解くことはない。

 

 

「それだけ疑うってことは、何か根拠があるんですよね?」

 

 

彼女にとって、人間の口を割ることなど簡単なことだった。

勿論、彼女自身もそう思っていた。だからこそ、今の用心深い彼女を作っている。

 

 

「今の幻想郷と、外の世界。どれほどの相違があるか、貴方には分からないでしょうね」

 

 

「と言うと?」

 

 

「時間軸を切り離すのに、私達は半年掛かった。」

 

 

時間を分かつ程の結界は、まさに無縫天衣。それは強固なものだった。

幻想郷の管理者である紫でさえ、充分な準備を行わない限り、外の世界とこことを行き来することはできない。

そして、外の世界から幻想郷に入るためには、念入りな準備の他に、幻想郷内での協力者が必要不可欠であった。

 

 

「管理者である私でさえ、結界を自由には通れない」

 

 

なるほど、とジョルノは口に出す。しかし、彼が心からそう思っているようには見えない。

 

 

「では、僕らが意図的にこの地に来たと?」

 

 

ジョルノは続ける。

 

 

「来る術もないのに?」

 

 

紫はジョルノを睨む。

 

 

「そう言い切れるのは貴方達だけ。こっちは"あんなもの"を見せられているのよ?」

 

 

「僕の能力は貴女の思っているほど万能じゃない。貴女の力よりもずっと単純だ」

 

 

ジョルノの声が強まる。

 

じゃあ偶然? そんな筈がない。

外の世界で忘れられようと、境界を操ろうとも、神が望もうとも、超えることはできない厚い壁。それが今の結界。

偶然入ったで片付けられることではない。

 

 

「その"単純な能力"。説明して貰えるかしら?」

 

 

「体感した通りですよ。貴女程の人なら検討はついているはずだ」

 

 

貴女は妖怪でしたね、と付け加えた。

 

 

「.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

今日は何故だか分からないけれど、違和感があった。

 

心の底を擽られるような、もどかしく不愉快な感覚。こんな気分になったのは、いつぶりだろう。もしかしたら、初めて感じる本当の意味での、不安というものなのかもしれない。

 

それらを抑えるために、私は座った。

 

視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚を閉じてみる。私が隙間妖怪である存在理由を今ここで見極めるほどの心持ちで、私は俗に言う、精神統一をした。

 

一物の不安でも、睡眠時には邪魔されたくない。ただそれだけの気まぐれ。

 

 

 

再び私の五感が働きを取り戻した時、自分の脳が何倍も膨れ上がるような気がした。そう思ったのも束の間。膨れたような感覚は徐々に収まっていった。それと同時に、自身を取り巻く環境が鮮明になっていく。

 

漠然とした霧のような不安は、収縮して形を作る。

違和感が明確な異常に変わった。

 

 

博麗神社に外来の男が二人。霊夢もいる。

 

完全に閉鎖されたこの幻想郷では、この事実は明らかな異常。

私は結界を過信したことを悔やむ。しかし、それは過信しても良い程の出来だったはず。

 

それほどのアブノーマル。

現れた二人の男は只者ではない。

 

目的は?

 

支配? 好奇心? それとも殺戮?

 

結論を急ぎ過ぎるのはまずい。

今、藍には別の件で動いてもらっている。既にてんてこ舞いの状態にある彼女に、更なる重荷は酷というもの。

 

結局、私が彼らに直接聞くのが手っ取り早い。

 

そうなれば、まずは捕らえるのが先。互いの手の内が分からない状況で、私の隙間で先手を取るに越したことは無い。

 

 

 

紫は虚空を見る。

 

そこに深い黒色の線が音もなく現れる。

 

 

 

私は空間に境界線を引く。

その線の隙間から、他の空間を繋げる。

 

幾度と繰り返した所作であるはずなのに、ひとつひとつを無駄に意識してしまう。

精神統一で研ぎ澄まされたのは能力と感覚だけではない。重要なのは根底にある精神。

 

 

私は隙間から神社へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日暮れ博麗神社は、いつもと変わらぬ様子で座していた。縁側のそばに立っている例の男二人を除けば。

空中から様子を見るに、二人は何か話しているようだった。

 

 

 

「やっぱり彼女のことを信じてるのかい?」

 

一人の男が言った。

 

 

「どちらでもない。どっちであろうと関係ない。審議はミスタに任せましょう」

 

ミスタとは一体、仲間がまだいる?

彼らの言う、彼女とは霊夢のことだろうか。だとするならば、既に接触済みということになる。

肝心の霊夢自身は神社の中にいる。無事のようだ。

 

肝心の目的が見えない。

が、ここまで来てまで考えるのは、ナンセンスというもの。

 

 

 

 

早いところ捕らえて吐かせるとしましょうか。

 

まずは背中を見せている、手前の"巻き髪"から...

 

 

 

 

 

 

 

 

紫の動作は恐ろしく速かった。

 

手前の"巻き髪"、ジョルノの奥にいたフーゴは、その瞬間、彼から目を離してはいない"はずだった"。

 

フーゴが瞬きをしたところで、その動作は行われた。

 

彼が再び瞼を上げた時、既にジョルノの上半身は隙間の中に飲み込まれていた。

フーゴは当然理解が追いつかず、ジョルノの上半身から上が吹き飛んだのかと錯覚した。

 

そう解釈した時にはもう遅く。隙間の中から覗く彼の足に、彼の名前を叫ぶことしかできなかった。

 

 

「ジョジョォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

彼の空しい咆哮は続く。

 

 

 

ォーーーーーーーーーー!

 

 

 

まだも続く。

 

 

 

ォーーー〜〜〜〜〜

 

 

 

鬱陶しい。早いところもう一人も....

 

 

 

ーーーーーーーーーォォォォォオィジョィジッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の奇声が全ての合図となった。

 

 

枯れ落ちた葉が地面からふわりと浮き上がり、近くの古木の枝へと張り付く。

そして空には、尾を進行方向として飛ぶ、物理法則を完全に無視した鳥の群れ。

 

 

紫は自らの手で、先程捕らえたジョルノを開放した。

 

 

!??

 

 

 

 

 

 

 

紫は置かれた状況を整理する。

 

 

 

今、身体の自由が効かないでいる。

身体は私の意志に反して、先程までの動作の軌跡を逆から辿っている。

手前の"巻き髪"を捕らえた間の時間を、まるでビデオテープを巻き戻すかの如く逆再生が、はっきりとした現実で起こっている。

 

 

時間が巻き戻っている。

 

吸血鬼のメイドと同じもの? しかし、前後の記憶ははっきりしている。只の時間の逆行ではない。この男の力なのか、それとも第三者によるものなのか。

 

 

 

何処からともなく声が聞こえる。

 

 

 

 

『真実』ニ到達スルコトハ決シテナイ。途切レタ"運命ノ糸"ハ、再ビ新シク紡ギ始メル....

 

 

 

 

 

『真実』、『運命』。

この声はどこから...?

 

姿は見えないが、解る。見えずとも巨大な存在が。空気がまるで違う。

 

私は目を凝らすよりも先に、"可視"と"不可視"の境界を弄った。

 

 

 

時間の逆行は終わり、静止した時間の中で"それ"はいた。"巻き髪"の隣で、寄り添うように浮いている。

 

黄金の身体と、華のように開いた頭部。

光に満ちた眼差しの上にある、鏃の形をした額の紋。

一生命体とは思えない程の、エネルギーの横溢。

 

 

 

私は"絶対"の体現を見た。

 

 

 

 

 

 

程なくして、それは"巻き髪"と重なり合い、一つとなった。

なれば、第三者の存在という仮説は、無いと言っていい。

 

 

そして、時は再び刻み始めた。

 

空中から二人を見る私は、最初から"何もしていなかった"。

 

行動前に戻されている。

 

もう一度試そうという気は起きなかった。自身の自尊心を尊重する気はない。まず、幻想郷の管理者たる自覚が、行動を律した。

 

"巻き髪"が時間の逆行を自覚している様子はない。私に対する意識は些かもない。何事も無かったかのように、二人が神社の中へ入っていく。

 

今までに感じたことのない焦燥感が、胸を逆撫でる。"こいつ"が外の人間であることを考えると、得も言われぬものがある。

 

彼らが何を成そうとしているのか。知らねばならない。知らねば、まずい。

 

 

 

 

紫は、二人の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「真実には到達しない、そう言っていたわね」

 

 

霊夢はそれを聞くや否や、声を上げた。

 

 

「はぁ? 意味解んない。それがこの人の力だって言うの? そもそも言ってたって、どういうこと....」

 

 

言葉切って、うぅと唸り頭を抱える。

 

 

「やはり見たんですね。僕の"スタンド"を」

 

 

彼の言う"スタンド"とは、彼らの扱う超能力の総称。当然、一人一人能力は違うはず。

となると、このフーゴという男の能力は、ジョルノとは違い、防衛に秀でている訳ではないことになる。今彼を人質に取れているのが良い証拠。たとえ彼がどんな能力を持とうと、これほどの距離ならいつでも殺れる。

 

 

「見たわ。美しい西洋彫刻のようだった」

 

 

ジョルノは、思ってもいない発言に冷や汗をかいていた。

 

紫が述べたのは、能力のことではなく、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムのスタンドヴィジョンについてだったからだ。

 

ジョルノは紫の隙間の全貌を知らない。

 

スタンドはスタンド使いにしか見ることはできない。一部例外はあるが、スタンド使いの中での常識だ。

 

彼女はスタンド使いなのか、否か。

はたまた、これが妖怪の力?

 

 

「私は、その"スタンド"とやらは持ってないわよ」

 

 

紫は扇子を弄びながら言った。

 

汗が背中を伝う感覚を、ジョルノは重く感じる。

思考を読まれて、いい気分はしない。

 

 

「なぜ見えるのか、聞いても?」

 

 

「生憎、教える道理を持ち合わせてないわ」

 

 

掌を見せ、戯けてみせる。

 

それを前に、態度を崩す様子のないジョルノは、あっさりと言い放った。

 

 

「僕の全てを話しましょう」

 

 

紫を一瞥して、捕らえられたフーゴに目を向ける。

 

 

「フーゴ、あなたもだ」

 

 

フーゴは無言で小さく二回頷く。

 

紫も黙って話すよう促した。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作を東方に変更しました。
それと、いつかの"幽符"ってすでに幽々子が持ってましたね...
緋想天とかやってないんで!(吹っ切れ)

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