情熱は幻想に 作:椿三十郎
かなり長い階段だ。
面倒なんで、飛び降りようかと何回か考えた。
が、マジにそんなことをしたら、大怪我は間違いなしだ。
仕方なく、一段一段石階段を下りる。
もう、日が沈む。やけに時間が経つのが速く感じる。歳は取りたくない。
あの女の話じゃ、夜には妖怪が活発に活動するらしい。ぜひとも拝んでみたいもんだ。
もし、キメラやケルベロスなんかが居たら写真を撮って、トリッシュにでも見せてやろうかな、とか考えたりして。
呆れ顔の彼女が目に浮かんだ。
まぁ、デタラメならそれで良し。
本当ならそれも良し。
何にせよ、こういう時、行動を起こさなくちゃならないのは俺だ。
フーゴも上辺はあんなのだったが、内心かなり疑い深かったはずだ。
あの女は嘘をつくヤツには見えなかった。
経験から解る。邪悪な野郎は臭う。
最後の一段を下り、長かった階段も終わりを告げた。
さて、どちらに行こうかと考えたが、周りは森に囲まれていて、とりあえず道なりに進むことにした。道とは言っても、舗装なんかされてない。車なんか通る訳がないから、当然だ。
それにしてもフーゴが言ったとおり、まるで見覚えのない地形に変わっている。
二十分は経っただろう。
道は紆余曲折を経て、今は西へと向かって伸びている。夕陽に向かって歩いているのが良い証拠だ。眩しくとも見ていたいほど、それは綺麗に赤く輝いている。
そして、名残惜しさを残しつつも、夕陽は地平線に溶けていった。
後ろ、つまり東を見やると、既に星が瞬いていた。
遠くに神社が見える。結構な距離歩いたな、と妙な達成感があったが、帰るのには骨が折れそうだ。
そろそろ寝床を確保する必要がある。あと、メシもどうするか。あんまり待たせるとピストルズが拗ねちまう。
で、俺を隠れて見てるヤツは何者だ?
意識しなくとも、相手の突き刺すような視線がひしひしと肌に伝わってくる。よっぽど俺が興味深いらしい。
しかし、殺意や敵意は感じられない。
相手の具体的な位置は掴めない。そこらの茂みに隠れているのか。
ひょっとしたら、振り返った瞬間ソイツと目が合っちまうかも。
息を小さく飲み、小さく吐いた。
銃はいつもの場所にある。
指に吸い付く金属の感触が心地いい。
ゆっくりと、自然に、振り返る。
そこに人影はない。
だが、まだ見られている。
こそこそと、焦れったい。
「誰だ。出てこいよ、なぁ?」
しいんとした空気が続く。
白を切ろうとしているらしい。
そういうつもりなら、探し出す必要はない。
俺は再び歩を進める。
一歩、二歩、三歩と。
四歩目に踏み出した足が地に着いた。
「ひゃぁ!?」
"ソイツ"がマヌケな声を上げたのと、俺が振り返ったのは同時だった。
コスプレみてーなふざけた格好をした、"ソイツ"は、かなり怯えていた。
とても臨戦態勢には見えない。
が、"ソイツ"の背後には人影。とは言っても、影の主は人ではなかった。
『スタンド』だ。
暗くてよく見えないが、全身にヒレのようなものが付いている。そして、頭には"ソイツ"と似たような?いや、ないな、二つの妙な突起がある。
スタンドを既に出している。つまり、既に攻撃を受けたか。或いは、これから攻撃するということ。
周りに違和感はない。
"ソイツ"は依然、怯えている様子だった。油断を誘うつもりか?
俺は銃を突きつける。血みてーに紅い瞳の間に、照準を合わせて。
この程度で、スタンドが引っ込む様子はない。
近距離パワー型か?
それとも、防御に特化したタイプか?
どっちにしろ、ハジキなんざ訳ねぇ、つーことか。
いきなり"ソイツ"は口を開いた。
「みっ...み、見えるの!?」
一体何の話だ....
「何がだよ」
"ソイツ"は、自分のスタンドを恐ろしげに指差した。
「"この人"...」
.....まさか、まだ自分以外のスタンド使いに出会ったことがないのか?
「ず〜っと!憑きまとってくるのよ!なんなの、コイツ!」
なんとなく話が見えてきた。
おそらく、スタンドが発現したてで、自分のスタンドが、悪霊か何かだと思ってるってとこか。
「さあな。俺は知らねーし、そんなものは見えねー。おまえ頭イカレてんのか?」
「なっ!?」
「に...人間なのにいい度胸ね」
おまえも人間だろーが、と口に出しそうになる。
まるで"自分が人間ではない"ような物言いだ。思ってたのと大分違うが、これは、もしかすると、もしかするかもだ。
「は?」
「俺が、人間?...冗談はよせよ」
「えっ?もしかして、あなた妖怪だったの?」
「人間が日暮れにこんなとこ歩くかよ」
「...それもそうね、間違えて悪かったわ。見ない顔だったから」
やっぱり本当にいるのか妖怪は。
コイツも妖怪なのか?外見は見るからに普通の人間だ。奇抜な服装を除けばな。しかし、そう思うと、心なしか、頭の派手な付け耳が「マジ」に見える。
「で、あなた名前は?」
「私は、『鈴仙・優曇華院・イナバ』よ。というか、聞いたことない?」
俺がキッパリと、ない、と断言すると、レイスウェン・ウルデンバーノ?の付け耳が、独りでに、へなへなと垂れた。
レイスウェンは、腰まで伸びた薄紫の髪に、日本の女学生の制服を着ていた。コスプレに見えたのは、日本らしい制服に、東洋人離れした髪、そして一番は、頭のウサギの付け耳のせいだろう。
もう普通にコスプレではないのか。まぁ、別に、他人の趣向にとやかく言うつもりは無い。
「ミスタ、...グイード・ミスタ」
「...そう、よろしくね、ミスタ」
「ああ、レイスウェン」
鈴仙!と、彼女は強く言った。
と思うと、鈴仙はハッとした顔になる。
そして、
慌てて、瞬時に、振り返る。
「コイツはいった...ーーー!?」
そこに人影はなかった。
ディアボロとうどんの髪型って、ほんのちょっぴりだけ似てるかもなーなんて思いました。
でもボスのうさ耳はキツイっす。