……一体何が起こったんだ?
ヴァーリ・ルシファーは強さを求めていた。
それは単に戦うのが好きだからというわけではない。
自分の目標であるグレートレッドを倒すと言う目的を果たすためにも彼は力を求めていた。
だからこそ彼は堕天使の総督であるアザゼルに拾われたことを自らの運命に感謝した。
──これで俺は強くなれる。
しかし、アザゼルに拾われて数週間後。
ヴァーリはアザゼルの知り合いが経営している孤児院に送られることになった。
最初は不満だった。
まだアザゼルの元で修行をし始めて数週間しか経っていない。
修行の一貫で行っていた、アザゼルへの不意をついた奇襲も一度たりとも成功していないのだ。
せめて一回ぐらい成功してからならよかったのに。
「お前の奇襲のせいで俺の仕事や趣味の神器研究が進まねぇんだよ。
堕天使の総督の癖に弱気な発言だ。
「俺程度の相手ならアザゼルなら余裕でいなせるだろうに」
「お前の奇襲段々上手くなってきてんだよ。天才ってのは今まで沢山見てきてたがお前のはその中でも別格何だ。
そうは言われてもな。
「他に比べる相手もいないから自覚なんてできるはずがないだろ」
「あー、確かにここにはお前と同年代のガキはいねぇしな。……いや、一つだけあったぞ。お前と同年代の才能のあるガキが沢山いる施設が」
何?
「その施設の名前は『復楽園』。『
「ふん……。保護とは言っているが所詮は
「まぁ言いようによってはそうなるだろうな」
そんなところに興味はない。
俺より強い者がいないならそこに俺のいる意味はない。
俺は俺より強い者を探しにいく。
「まぁ、そういう反応すると思ったよ。安心しろ。あそこにはちゃんと強者がいる」
何?誰だ?
「そいつの名前は『コカビエル』。堕天使幹部の一人にして『復楽園』の責任者だ」
コカビエル。
その名は俺も聞いたことがある。
確か、アザゼル達と同じく過去の大戦の生き残りだとか。
「あいつは強いぞ。昔は根っからの戦争狂だったからな。今でこそ何故か孤児院を経営しているが、毎晩付近の森に修行に出ていく姿が目撃されているからな。腕は鈍ってねぇ筈だぞ」
……ほう。
「それに今の奴は俺のように忙しくはねぇ。今奴に与えられている任務はよっぽどの有事でない限りは『復楽園』の管理及び防衛だ。つまり奴には
「成る程な。つまりはコカビエルが強者であり続けて貰うために俺を利用しようということか」
「そうだ。奴は実力を維持どころか向上させつつ、お前は白龍皇としての全力の能力を試せ、高められる。win-winの関係と言う訳だ。それに人は成長するためには絶対に途中で誰かと競い合わなければならねぇ。じゃねぇと井の中の蛙となりかねないからな。そのためにも同年代のガキが集まるあそこはお前の成長にはぴったりなんだよ」
……アザゼルがそう言うのならばそうなのだろうな。
それで?俺はいつそっちに行くんだ?
「一応は数日中の間だ。取り敢えず今日顔合わせとして奴を呼んでおいた。……そう言えばあいつおせぇな。何かあったのか?」
「……できればそういうことは前日に言って貰いたかったな。まぁアザゼルだから仕方がないか。アザゼルだからな」
「おい。何で今俺の名前を繰り返して言った。場合によっては容赦しねぇぞ」
「喜んで受けてやろう!」
「あー、そうだよな。お前はそういう奴だよな。めんどくせぇ。パスだパス」
ちっ。
そんな話をしていると後ろの扉がノックされた。
「開いてるぞ」
「失礼する」
そう言って入ってきたのはウェーブのかかった長い黒髪の黒いローブのようなものを着用している男が入ってきた。
その身に纏うオーラからかなりの実力者だと判断できる。
「おう。ようやく来たかコカビエル」
「少し可愛いアリーに泣きつかれてな。泣き止ますのに時間がかかったんだ。許せ」
話を聞く限りどうやらこの男が噂のコカビエルらしい。
確かにアザゼルと同等位の実力はありそうだ。
「ほー。あの嬢ちゃんが泣いたのか?お前が泣かせたんじゃないのかよ?」
「……まぁ間違ってないな。俺の配慮が足りなかった。今は反省しているよ。どこぞの総督殿のように信頼を失って嫁達に見捨てられたくないからな」
「がはっ!?」
アザゼルが血を吐いた。
どうやらアザゼルの扱いは慣れてるみたいだな。からかおうとしたアザゼルに鋭いクロスカウンターを叩き込むとは。
「それで?俺を呼び出した理由はなんだ?」
「あー、それなんだがよ。お前に預かってほしいガキがいるんだがな?」
「いいだろう。引き受けよう」
「って決断早ぇな。もう少し考える素振りがあってもいいんじゃねぇか?」
確かに。一瞬たりとも迷わず引き受けたぞ。
「お前が直接俺に言う時点で断れないことは覚悟している。そもそも俺自身子供を預かることは決して嫌ではない。寧ろ歓迎してやりたいぐらいさ」
「……そうかよ。じゃあ紹介してやる。ほれ。ヴァーリ、自己紹介しろ」
おっと。どうやら出番のようだな。
俺はコカビエルによく見えるように一歩前に出る。
俺を見たコカビエルが一瞬、訝しげな顔をしたような気がしたが、まぁそれはいいだろう。
今は目の前の新たな目標に自己紹介しなければな。
「俺の名前はヴァーリ・
アザゼルが驚いた顔をした。
俺が初対面の相手にいきなりルシファー姓を名乗ったことに驚いたのだろう。
だが、これからは俺の修行相手兼保護者となる相手だ。
知っておいても損はないだろう。
さて、コカビエルの反応は……?
「おい。アザゼル」
「ん?何だ?」
「こいつ白目剥いて気絶してるんだが?」
「なんだとぉ!!?」
何故俺が自己紹介したぐらいで気絶するんだ。
本当にこいつの元に行ってもいいのか小一時間ぐらい悩んだ。
俺がコカビエルの元に預けられてから早二週間。
今日も俺は
「がはっ!?」
勢いよく血を吐いた。
この出血量を見る限りどうやら内蔵のいくつかがいかれたようだな。
これは不味いかもしれないな。
「どうした、ヴァーリ?その程度か?」
俺を吹き飛ばした相手がそう言いながら此方に歩いてくる。
その身に纏うオーラは以前さらしたような目の前で白目を剥いて気絶してるような情けない男の物ではない。
幾千もの死闘を乗り越えた強者のオーラその物だった。
「フッ。まだ俺はやれるさ。……ゴフッ!」
「……やれやれ、大人しく気絶してくれればそこまで痛め付ける事は無いのだがな」
呆れたようにコカビエルは言う。
それにしても「気絶してくれれば」、か。
「よく言うな。お前は俺を気絶させる気は無いんだろ?」
「……」
「お前は俺を
今でこそ、白龍皇の光翼の能力である『半減』の効果で生き延びてはいるが、それでも致命傷を受けこのざまだ。
『ヴァーリ!ここは一度退け!この男と殺り合うには今のお前では実力が足りないと何度言わせる気だ!ここで死ぬ気か!?』
白龍皇の光翼に封じられているドラゴン『アルビオン』が俺に警告をする。
確かにこの修行を続けていてはいずれ俺は死ぬだろうな。
だけども……
「悪いがここで退くわけにはいかない」
『なっ!?』
「確かに今の俺では奴には敵わないだろう。だが、しかし、この勝負には普通の修行ではまず味わうことのできない、『死の恐怖』を味わうことができる。俺はそれをしっかりと体感をしておきたい」
アザゼルや他のグリゴリの堕天使の模擬戦でも確かに実力差があり、ぼこぼこにされたさ。
だがしかし、あそこでは模擬戦を受けてくれた相手は毎回手加減をしていた。
だが、それでは意味がない。
何故なら自分の目標の相手は、今目の前にいるコカビエルよりも確実に、それこそ比べられない位に強い相手なのだから。
『……分かった。お前の考えには納得はできないが理解はした。死なないように全力で、常に気を張り、死力を尽くせ。少しの油断が死を招くぞ!』
「ああ。分かっている。行くぞ!コカビエル!!」
俺はコカビエルに残り少ない気力とオーラを纏い殴りかかった。
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もう嫌だぁぁぁぁぁ!お家帰るぅぅぅぅぅぅぅ!!
ヴァーリを引き取ってから早二週間。俺は何度目か分からない命懸けの模擬戦を内心絶叫しながら行っていた。
何故だ!どうしてこうなった!?
事の始まりはヴァーリを引き取った晩の事。
俺が日課にしていた空を飛ぶ練習を行いに森に言った時だ。
どこからやっていたのか分からないがヴァーリが俺の後をストーキングしてきた。
……いやなんで、俺の後をストーキングしてんのさ?
そういうのは好きな女の子ができたときにやりなさい。
振られる可能性は上がるけど。
って言うか良い子は眠る時間だぞー。
……悪魔だから良い子ではない?あ、そうすか。
で?俺をストーキングしてきた理由はなんだよ?と尋ねたんだよ。
どうやら話を聞く限り、俺が夜中に森に練習をしている事をアザゼルが漏らしたらしく、ついてきたらしい。
止めろよ
こっち来んなし。
……え?特訓に付き合ってくれる?嘘?マジで?
そりゃ助かる。独学じゃあどうしても限界があってねぇ。
アザゼル達に聞くのは不審に思われそうだったから、聞こうにも聞けなかったけど一緒に練習してくれるなら練習に付き合ってあげている体がとれて助かる。
……ん?何で神器展開してんの?何で膨大な魔力纏ってんの?何でいきなり襲いかかってくんのぉぉぉぉ!?
おい馬鹿!止めろ!危ない!危ないから!?
あっ!?今かすった!かすったから!?
ええい!この戦闘狂が!大人しくしやがれーー!!
バキバキボキボキ!!
……今ヴァーリの体蹴ったら物凄い音がしたんだが?
うわ!変な角度に体中が曲がっている!?
やべぇ!?息してねぇ!!
衛生兵!衛生兵ぃぃぃぃ!!
あの後、俺の必死な叫びを聞いた嫁達が慌てて駆けつけてヴァーリを治療してくれた。
幸い孤児院にはアザゼルが奮発して用意してくれていた『不死鳥の涙』があったのでヴァーリに使うことで何とか一命をとりとめた。
俺はと言うとまだ幼いヴァーリに致命傷を与えてしまったということで絶賛嫁達による説教の最中である。
流石に理不尽だと思うんだ。
怪我をさせないように手加減はできなかったのか?
ふっ。良いことを教えてやろう。
俺は特訓によりコカビエルの力を扱うことができるようにはなったが、制御することはできないんだ。
て言うか、する必要性を感じてなかったんだ。
だって、俺の目標は来るべく死亡フラグをへし折り嫁達とハーレムを築いて平凡に幸せに暮らすことだ。
その為には障害は全力で排除するのが一番なんだ。
文字通りたった今
あれは事故だ。良いね?
まぁ取り敢えずそんなわけで力の制御の事は全く考えていなかった訳なのだが、これは少し考えなければいけないな。
格下相手にオーバーキルを繰り返していたら再び俺の名に「鬼!悪魔!コカビエル!!」みたいな悪評がついてしまうかもしれない。
よしこれからは力の制御を覚えよう!!
何て甘い考えを抱いていた自分がいました。
あれから二週間。未だに手加減を覚えれていない俺はまたしても今日ヴァーリを殺しかけました。
って言うかヴァーリが文字通り死に物狂いで突っ込んでくるから焦って手加減の練習が全くできないんだ。
高速で殺意MAXで近づいてくる相手にどう手加減しろと?
しかも一戦一戦戦う度に強くなる相手に。
今日もやりすぎて嫁に怒られた。
わざとじゃないのに。グスン。
翌日。
今日はアザゼルに呼び出されてグリゴリ本部にヴァーリは帰っている。
つまりは今日一日は平和な一日を過ごせると言うことだ。
……よっしゃああああああああああ!!
久々の休日だ!!あの戦闘狂がいない平和な一日だ!!
今日は一日ゆっくりと嫁達とイチャイチャとエッチなことをしながら過ごしたい。
そう思いながらルンルン気分で部屋を出て、偶々会ったアリーと一緒に近くの森に朝の散歩に出た時の事だった。
傷付いた黒猫を見つけたのは。
……あれ?もしかしなくても
忘れていた次回予告!!
「ニャー」(猫になって居候)
「猫さん可愛い」ナデナデ
「ニャーー」ゴロゴロ
「(家にいるなら将来のために)
「ニャーー!?」(いろんなところをまさぐられ悶絶)
だいたいこんな感じ。