やはり一色いろははあざとい。   作:ざきりん

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お気に入りの数が増えていてとても嬉しいです。
更新は遅く、その上投稿をし損ねるような駄作者で本当に申し訳ありません。


第9話

今日は土曜日なので先輩の家に行って晩御飯を一緒に食べる日!

いつもなら駅から先輩の部屋までのこの道をふわふわした気持ちで満たされながら歩くんだけど…、歩くんだけど…、

…遊園地に遊びに行った後から先輩が少しそっけない…気がするんだよね…。

前まではご飯作った後とかに頭を撫でてくれて、突然ハッと気づいたように「すまん、無意識にお兄ちゃんスキルが…」なんて言って笑い合っていたのに、最近は頭を撫でるどころか、あんまり目も合わない。今度こそ本当に嫌われちゃった…?

でもそんな先輩に嫌われるようなことした覚えはないし…。

先輩は結構口では嫌だとかめんどくさいとか言うけど、実際本当にそう思ってることは少なくて、もう一回頼んだらちゃんと折れてくれるし。本当に嫌な場合はしっかり拒絶するし。

唯一ジェットコースターだけが苦手そうだったけど、ジェットコースター終わった後も結構笑ってたりしてたから、それが原因じゃないと思うし。

 

「うーん、ほんとになんでだろう…。」

 

歩いていると、無意識に顔がうつむいて下を向いてしまう。

人の歩く音がやけに耳につく。

そんな暗い気持ちに追い打ちをかけるように今日は雨が降っている。

ザーザーと私の耳にまとわりつく雨の音を突き抜けて、すれ違ったカップルの会話が聞こえてくる。

 

「ちょ…そんなにくっつくなよ…。」

 

「えー、いいじゃーん?あんまり人いないし、暗いし!さらにこの傘ちっちゃいからくっつかないと濡れちゃうよ。」

 

「まあ傘忘れたの俺だし…、我慢するけどさ…。」

 

「ひょっとして照れてるの?かわい〜。」

 

「そっ…そんなんじゃねぇよ!」

 

いいなぁ相合傘…。いつかわたしも先輩と………って、そんな場合じゃなかった。まずなんで先輩が最近素っ気ないのかを考えないと…。

 

…もしかして彼女ができたとか?

 

「っ、いやいやないない!だって先輩だよ?目は腐ってるしあんなひねくれた先輩…。」

 

いや全然ありえるかも…、、、

高校と大学とじゃ女子の()る男子の基準が違うし、先輩は確かに目は腐ってるけど逆に言えばそれだけで他は整ったきれいな顔をしている。

しかも高校のあの奉仕部のおかげで、中には自分のことを理解してくれることも知った先輩が、全ての人を拒絶するわけない。

きっと先輩のことを理解してくれる、いや理解してしまう人だって何人かいるはず。

確かにこれまでに時々週末に用事があると行って家にいなかったことがある。その時は特に何も気にしてなかったけど、今から思うと他の女の人と食事に行ってたりしたのかな…?

そんなの信じたくない。でも実際あり得てしまうのが現実なわけで…。

先輩は他人からの悪意にはとても敏感だけど、好意にはものすごく疎い。いや、疎いというよりは今までの経験(トラウマ)によって自分に好意を寄せる人間なんていないと自分の中で否定してしまっている。わたしがあんなにアタックしてもずっと『妹』の枠から出ないほどだから、大学でもし誰かが先輩に想いを寄せていても先輩がそれに本当の意味で気づくことはない…と思う。

でももしその人がめちゃくちゃ積極的で、もう先輩に直接想いを伝えてしまっていたら?

いくら先輩でも直接伝えられたその想いが、好意が嘘じゃないってわかるはず。そうしたら先輩はきっと真剣にその人とのことを考えると思う。

そうなったら……

 

自分の中にとめどなく溢れてくる不安。

多分先輩に「彼女いますか?」って聞いたら正直に教えてくれると思う。

でも、その答えがもし自分の望まない答えだったら、わたしはわたしを保っていられる自信がない。

多分泣き出してしまうだろう。好きな人の前でみっともなく、それでもきっと諦められないだろう。先輩を困らせてしまうだろう。それならいっそ今の曖昧な関係でも……。

 

いや、そんな関係本物とは言えない。

先輩は本物が欲しいって言ってた。今もその気持ちに変わりはないと思う。わたしは先輩とそんな関係になりたい。

よし、今日会ったら先輩に聞こう。茶化さずに、真剣に。

それで、先輩に付き合っている人がいたら諦めよう。…いや、嘘だ。諦められない、諦められるわけがない。あの人はわたしを変えてくれた、大切な人だから。それでも、自分の気持ちに区切りはつけよう。これはわたしなりのけじめだ。

 

 

そう決意して、足早に先輩の部屋に向かう。

もう雨の音は聞こえなかった。

 

先輩のアパートが見えてきた。

もう先輩帰ってるかな…?

 

澄んだ私の耳にある二人の男女の声が届いてくる。

 

「おい…、そんなにくっつくなよ…。」

 

「なに?照れてんの?ウケるんですけど!」

 

「そ…そんなんじゃねぇよ…。」

 

「だってうちが傘忘れたのに比企谷が濡れちゃわるいじゃん?うちのためだと思って!ね!」

 

「はぁ…。」

 

 

 

 

先ほど固めた決意が崩れ落ちる音が聞こえた気がした。

再び雨の音がわたしの耳を塞ぎ、わたしは今までの自分の足跡を辿るようにして足早にその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 




ひとつ誤解のないように言っておくと、この時点で折本は一切の恋愛感情を八幡に対していだいていません。
ただただ中学の頃とは違って『ウケる』やつ、という認識です。

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