境界線上の死神   作:オウル

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もうすぐ一巻上も終わると思いますが、可能ならば最後までお付き合いください

※修正・加筆しました


七話

止めようとする動きも、守ろうとする動きも

 

全ては祭りの余興になる

 

配点(祭)

 

――――――――――

 

武蔵右舷側の二番艦、多摩の艦首側。

「三河の花火」を見ようとする武蔵住民の人々が集まっていたが、先程から地鳴りや爆発音などで混乱が生じている。

正純もその一人で、三河の花火を見ようとここまで来たクチである。

 

結局、アイツへの荷物、直接渡せなかったな・・・。

 

渡すかどうかで迷い、公園のベンチで悩んだ挙句、生徒会室に置いてきてしまった。

悪いと思ったが、正直どんな顔して会えばいいかわからなかった。

そこで諦めてしまい花火の方に来てしまったが、

 

これはどういった状況なんだ?

 

三河の方でさっきから動きがあるようだが、何の注意の連絡もない。

どうしたものかと悩んでいると、P01-sが居るのに気付いた。

 

「正純様も花火の方に?P01-sも花火というものがよくわからなかっので来たのですが・・・」

「ああ・・・そのはずだったんだが・・・どうやらそれどころではないらしい・・・これから状況が確認できる場所にまで移動しようと思うんだが、お前はどうする?」

「花火は無いのですか?」

「解らないが、多分な」

「そうですか・・・」

「ざんねんむねーん」

 

よく見たら、足下に黒藻の獣もいた。

 

仲いいな・・・。

 

「どちらまで?」

「うーん、とりあえず青雷亭に確かテレビがあったハズだから、そこまで行こうと思う」

 

辺りが騒がしくなってきた。

 

「とりあえず急g」

 

P01-sの手を引いて動き出そうとした時だ。

背後、三河の大地が光り、次の瞬間には大地が裂ける轟音が鳴り響いた。

 

*******

 

夜の空を、三河警護隊の船が停まっていた。

 

「二代様!どうなさいますか?聖連からの連絡によれば、今三河では地脈炉の暴走を止めようとする聖連の動きに対して三河の自動人形が対立しているようです」

 

二代は今自分がどうするべきか、判断に迷っていた。

聖連が関わっている以上、迂闊には動けない。

 

こういう時、判断力に優れた者が居れば心強かったが・・・。

 

二代はかつての旧友である正純を思い出していた。

 

しかし、正純は今武蔵で御座る、相変わらずの知識と判断力で頑張ってるでござろうな・・・。

 

そしてもう一人、二代は三河の茶屋で出会った少年を思い出した。

 

康景殿・・・貴殿ならこういう時、どうするで御座るか?

 

最初に乳を揉まれたのは面食らったが、自分のような者こそが武蔵の副長になるべきだと、そうわざわざ伝えに来た真面目な御仁。

拙者はどのような選択をするのが正しいのだろうか。

二人の顔を思い出し、彼らならどうするか考えたが今ここに居ない二人を思ってもしょうがない。

頭を切り替え、ここにいる者で判断することを選んだ。

 

「大事なのは拙者たちがどう動くことが武蔵にとって最良となるか・・・誰か意見は?」

 

その問に答えたのは警護隊の副隊長だった。

 

「今回の一件が三河が起こしたものであるならば、三河の消失の有無にかかわらず聖連から極東代表の地位は剥奪されるでしょう・・・そこから想定されるのは恐らく極東側への債権の踏み倒しや完全支配等の事が想定されます」

 

極東の最悪のケースが、聖連への最良ケースになる。

 

ならば・・・武蔵と聖連との間に立てる我々がここで動くのは早計か・・・?

 

「聖連へ打診しておけ、有事の際は我々を使ってほしいと」

 

これから時代が動く、忠勝がそんなことを茶屋で言っていたのを思い出した。

 

「三征西班牙が新名古屋城に向かいます、地脈炉暴走確定まであと十五分!」

 

*******

 

一体の自動人形と、武神が三河街道で衝突した。

 

本多家の鹿角と三征西班牙の武神。

本来であれば武神に自動人形が敵うはずもないのだが、武神a1が追うように鹿角を攻め、鹿角はそれを退くようにして躱す。

鹿角は自動人形の武器ともいえる頭脳と、重力制御によってそれらを凌ぎ防ぐ。

 

a1は長剣で一気に潰そうとするのを鹿角は道路の表面を剣にして対応。

 

その数四枚

 

a1を手数で攻めるが、武神の装備とはやはり質が違うのか重力制御で作った剣はすぐに壊れる。

その攻防の中、先に動いたのはa1だった。

a1は相手の急繕いの剣を破壊して長銃を取りだし、

 

「穿て!」

 

a1が長銃から銃弾を放つ。

人の倍以上ある武神が扱う銃の威力は計り知れないが、鹿角はそれすら冷静に捌く。

重力制御で道路の表面を削り十枚以上を盾にして銃弾を防いだ。

 

「!」

 

さらに、盾にした道路を影にして鹿角は構造材を用いた砲台を作っていた。

a1が放った銃弾を利用し、鹿角はそれを自らの銃弾にする。

 

「穿ちなさい!」

 

鹿角の放った銃弾はa1の腹部を貫通した。

衝撃と共に、a1が手から長銃を落とし、力なく膝から崩れ落ちる。

 

「う・・・撃て」

 

a1は背後、自分の援護に来たもう一機の武神に指示した。

援護に来たa2の武神はその長銃に鹿角をとらえるが、

 

「三征西班牙製重武神"猛鷲"・・・後ろには陸上部隊か、鹿角?動くなよ」

 

その言葉と共に、a2のいきなり右腕右足が割断された。

 

「臨界まで六分・・・結構余裕のある状態で終わったな」

 

******

 

鹿角は、忠勝に割断された三征西班牙勢を見た。

それぞれ何が起こったかわからずに倒れんこんだ三征西班牙勢を見て、

 

何が起こったのかわからないと判断できます・・・。

 

忠勝がやったのは蜻蛉切の刃に対象を映して割った。蜻蛉切の通常駆動だ。

だがそれをわざわざ敵に説明してやる義理もないので、黙った。

 

「我はこれから殿の守りにつこうと思うが、お前は?」

「三河に預けられたこの身、頭首である元信様の意向に準じるだけです」

「城を守れって言われたら実際守り切るあたり、見事なもんだ・・・お前、ぶっちゃけ我と殿の言う事だったらどっち聞くんだ?」

「忠勝様の言う事を一々聞いてたらこの身をすり減らしてしまいます。猫を拾ってきては「今日からうちの子だ!」とか言い出して、正直言うと面倒臭いことこの上ないです」

「お前・・・」

 

鹿角はちぎれた裾を見て、

 

出来れば一度着替え直しておきたかったのですが・・・

 

そう呟く鹿角に忠勝は新名古屋城に歩き出しながら、

 

「そんなチャラチャラした服なんか着てるからだぞ」

「これは一応、侍女服という自動人形のメジャーな民族衣装みたいなものなんですが・・・」

 

忠勝に並ぼうと、歩幅を広めようとしたとき、鹿角は背後、何か来ることに気づき足を止めた。

 

********

 

忠勝は不意に足を止める鹿角を見た。

鹿角はこちらに右手を上げて無表情で立っている。

 

「おい・・・鹿角?」

 

こちらに来るな、という制止を求める右手を無視し外側から確認する。

見ると鹿角の胸部に小さく穴が開いていた。

 

「敵です」

 

鹿角の腹部から胴体が二つに爆発し、正面から強力な削ぎ落とす力で、三河の土地が抉られた。

 

その力を忠勝は鹿角の上半身を抱えて大きく後ろに跳ぶ。

忠勝は正面、こちらと相対する若者を見た。

 

「お初にお目にかかります。三征西班牙所属、ガルシア・デ・セヴァリョスを襲名した、立花宗茂です。戦種は近接武術師です」

「西無双、立花宗茂・・・!」

「Tes.そして三征西班牙の大罪武装、悲嘆の怠惰を預かる者・・・八大竜王の一人でもあります」

「ノリノリだなぁお前・・・」

「投降をお願いします」

「・・・結べ!蜻蛉切!」

 

*****

 

投降を呼びかけた相手がいきなりこちらに割断の力をぶつけてきた。

なので宗茂は蜻蛉切の射程範囲外、忠勝の背後に回る。

 

容赦ないですね・・・!

 

「蜻蛉切、その刃に対象を映すことで名を取得し割断する・・・有効距離は三十メートル」

「何故それを・・・」

 

宗茂の視界、先程壊した自動人形が喋るのを聞いた。

 

「何だお前死んでなかったのか」

「死体を抱きかかえる趣味があるとは・・・知りませんでした」

「そりゃあ、お前・・・アレだよ、アレ・・・鎧のつもり」

 

話し終えた忠勝はこちらに向き直り、視線を話さずに言った。

 

「蜻蛉切は悲嘆の怠惰と嫌気の怠惰の試作品だからな、向こうが知ってても変じゃあねぇだろう」

「試作品・・・劣ったものは苦労しますね」

 

忠勝が言った通り、向こうの武器はこちらの試作品だが、向こうにはそれを補うだけの技量を持つ。

それだけの相手を前にし、宗茂は緊張を解かない。

 

「さっきの、悲嘆の怠惰の超過駆動か」

「Tes.悲嘆の怠惰は刃に映り覚えた射程距離上のものを削ぎ落し、その時悲嘆を示す搔き毟りが走ります」

 

こちらが使えるのは残り一発分、燃費は悪いがそれだけの威力はある。

 

「ここからなら南東か北東の地脈炉が射程範囲内です。壊せば三河地脈炉に集められた流体は逃げ場を得て三河消失は防げます」

 

代わりに流体の飽和状態が続く三河は当分の間怪異の温床になるだろうが、三河が失われるよりはいい。

そう判断した宗茂だったが、

 

「だよなぁ・・・でもよぉ三河の頭首はそれ、望んでねぇみたいだぜ」

 

言われた直後、背後の新名古屋城の門が開いた。

三河の統括路に立つ人物、

 

「元信公・・・!」

 

******

 

「全国の皆ぁ~!こんばんはぁ~!全国ネットだからねぇ・・・よい子の皆もそうでないのも、先生の一挙手一投足に油断せず見てないといけないよ!油断して授業聞いてないとか、先生の授業なら懲罰ものだからね!」

 

元信はマイクを口元に近づけポーズを取り、続けた。

 

「先生は今日、地脈炉がいい感じ暴走してる三河に来ていまぁあす!・・・おやおやぁ?そこに居るのは立花宗茂君かな?遠路はるばる見学に来てくれるなんて、先生嬉しいよ!でもこうやって先生の下に来てくれたが一人とは・・・ちょっと残念かな?」

「・・・見学?」

「ああ・・・地脈炉暴走による三河消失・・・課外授業としては最高だと思わないかい?」

 

結構重大な事をしれっと話す元信。

その台詞と同時元信の背後に控えた自動人形たちが横笛や和太鼓などで演奏を始めた。

ノリにのった元信は更に話を進める。

 

「じゃあ皆さんの中でご質問がある方ー?」

「元信公!いったい何のために極東及び三河を危機に陥れるのです?!」

「はぁ・・・宗茂君、質問するときはまず挙手ね」

 

言われた宗茂は視線をそらさず、ただ悲嘆の怠惰を構え直した。

 

「うん、まぁ挙手の件は置いといて、良い質問だったから逆に先生聞きます・・・危機って面白いよねぇ?」

 

元信は続ける。

 

「先生よく言うよねぇ、考えることは面白いことだって。だから考えないと滅んだり死んじゃったりするんだもの、だから危機って最大級の面白さだよね」

 

何も言えず、戸惑う宗茂。

それを見て元信はさらに続ける。

 

「危機ってのは考える必要があるから面白いけど、今現在の世界で、もっと、もっっーと!考えないといけないものがあるよね?じゃあ宗茂君何だと思う?」

「解りません!時間稼ぎはおやめください!」

「解らないかなぁ・・・まぁそれもいい、なんでわからないという回答に至ったか、理由は簡単だよ宗茂君・・・君は考えなかった。それはどういうことか・・・君は差し迫る恐怖から目を背けて死ぬ人間の一人だよ」

「・・・」

「嫌だったら考えなさい、それが恐怖を克服するという事だ・・・じゃあその後ろ、本多君、答えなさい」

 

言われた忠勝は手を上げて答えた。

 

「我はわかりましぇーん!」

「じゃあ自動人形首から下げて街道に立ってろ」

「扱い違いすぎねぇ?!」

 

元信は咳ばらいをして話を戻す。

 

「いいかい?極東の危機や三河の消失なんかよりもっと面白いものがある。それは・・・末世!」

 

宗茂は世界がなくなるかもしれないような状況を、面白いという元信に対し、

 

「世界が滅ぶかもしれない状況を面白いとは・・・不謹慎な!」

「・・・?、先生は真面目な話しかしていないよ宗茂君、先生は生まれてこの方不真面目なことなんてなかったよ、って言いたいくらい真面目だ」

 

そして元信は宗茂に対してではなく、全国に、世界に言い聞かせるように続ける。

 

「卒業の無い末世という問題に対して、大変よくできましたって感じの人には先生ご褒美あげちゃう・・・末世を覆せるかもしれない代物、大罪武装だ。言い換えればこうだな、大罪武装をすべて手に入れた者はこの世界を左右しうる力を手に入れるって感じかな」

 

その台詞を聞いた宗茂が己が手に持つ悲嘆の怠惰を強く握りしめ叫んだ。

 

「大罪武装を世界に配ったのは貴方ではありませんか!?八つの大罪武装を巡って戦争でも起こせと!?」

「八つぅ?九つだよぉ・・・宗茂君」

「元信!貴様・・・!」

 

栄光丸の艦橋、三河の町並みが見える部屋で、教皇総長であるインノケンティウスが叫んだ。

その叫びに、元信はニヤッとさせて続ける。

 

「八つの想念を論じたエウアグリオスは実は九つ目の悪、嫉妬についても述べているのだよ」

「俺の武装開発要求も無駄だったわけか・・・じゃあその嫉妬は何処にある?」

「噂を聞いたことない?大罪武装は人間の感情を材料に作られたって・・・その噂は本当さ」

 

********

 

康景は、元信の台詞を聞いた。

 

「元になった人間の名は・・・ホライゾン・アリアダスト、十年前に私が事故に遭わせ大罪武装にした子の名前だよ」

 

――――――プッツン。

 

康景の中で何かが切れた。

 

「去年彼女の魂に嫉妬の感情を込めて九つ目とし武蔵に送った。自動人形の身体を与えた彼女は今、P01-sという名前で生活している」

 

康景は今までにしたことがないような、憤怒と憎悪を含んだ表情で表示枠の元信を睨んだ。

彼の握った拳は赤から青紫色に変色し、血が出ている。

今まで誰も見たことがない怨嗟で満ちたその表情を見て、誰も声を掛けることが出来なかった。

 

「P01-s、彼女の魂そのものが、大罪武装焦がれの全域だ・・・!」

「どうしてだ・・・」

 

康景は声を震わせ、絞り出すようにして叫んだ。

 

「どうして自分の娘を大罪武装にしたッ!!!!!」

 

武蔵に響くような、怒りと憎しみがこもった叫びに鈴が身体を強張らせる。

だがその叫びに元信は答えず、続ける。

 

「今日、ホライゾンを見たよ・・・手を、振ってくれていた。元気そうで・・・何よりだ。できればもう一人顔を見ておきたかったのが一人いたけど、そっちはどうせ会っても無視するだろうし、だから五年越しの襲名祝いってことで荷物だけ送っておいたけど・・・届いたかな?」

 

トーリは、元信が言い終わる前に駆け出していた。

 

「愚弟?!どこ行くの?!」

 

姉の呼びかけに応じず弟はただ走った。

昼間にあれだけ通るのに苦労していた後悔通りも、一瞬だけ迷って駆け抜けた。

 

トーリが駆け出したのを見てノリキ、ネシンバラ、ウルキアガが後を追う。

 

走り出し、一気に追いつく三人に、

 

「お願い・・・追って・・・」

 

喜美が叫ぶ。

皆はトーリが走り去った方から、康景に視線を移す。

視線の中、康景は怒りと絶望と恐怖とが、色々に渦巻きながら混乱していた。

 

俺は・・・俺はどうしたらいい!

 

焦りと混乱の中、トーリ達に遅れて康景も走った。

 

******

 

「馬鹿な!世界の命運を握る大罪武装を各国に火種として仕込んですべてを犠牲にすることに価値があると思ったのですか?!」

「うーん、別にそれだけではないよ・・・でも見たいよなぁ、聖譜記述にもない世界大戦ってのを・・・」

 

なら、

 

「止めます!止めて貴方を皆の前に連れて行く!」

「君の考えた結果がそれなら、それはそれでいい答えだ!・・・でもまぁ本来なら先生の言う事聞かない学級ってもう崩壊寸前だよね、だからちょっとそこの副長、どうにかしなさい」

 

言われ、宗茂は背後の威圧感に気づき、そちらを見る

 

「本多・・・忠勝・・・!!」

「止めるぜ、学級崩壊!」

 

東国無双、本多忠勝が蜻蛉切を構えた。

 

 




個人的に境界線上のホライゾンで一番好きなのは里見義頼と義康なんですが
どう考えても二人を出せるまで進めるのはかなりの時間を要しますね・・・(絶望)

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