※修正・加筆しました
日常は、簡単に崩れ去る
それは思うよりも早く
水面下で進み始める
配点(崩壊)
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午後から夕方に空が傾き始めた時間帯、酒井と榊原が人気のない三河の街を歩いていた。
「三河からの荷物の流れがおかしい・・・今の三河はどうなっちまってるんだ?」
井伊はどうした?
酒井は井伊が国政や開発担当なのを思い出し、ぜひとも井伊の話が聞きたかった。
井伊の居場所を問いただす酒井だったが、
「井伊君は・・・公主隠しです」
公主・・・公主の意味は中国における王家の娘の事だが、公主隠しってのはよくわかっていない。
正純の母親も被害者だし、浅間が話してくれる怪異にそんなものがある話を聞いたことはあった。
だとすればもう井伊は・・・?
「なんでそれが公主隠しだって言える?」
「井伊君が消えた書斎に、これが残されていました」
榊原は足下に円と、それを横断する直線を書いた。
「二境紋と名付けられた印と、「もう遊べない」・・・そんな意味の血文字が残されていました」
確か公主隠しの現場には必ずその印がある、そんな話を浅間から聞いたことを、酒井は思い出した
「・・・それと、三河と一体どう関係しているんだ?」
「その資料を、今夜お渡しします」
そう言って榊原は竹で作られた垣根に囲まれた屋敷を指し
「そちら、茶屋があります。今夜八時半までには資料を持って行かせますので、待っていてください」
「え、お前ん家で待たせてくんないの?」
「私の家、本多君の家の近所ですよ?あれほど酒井君に話したがらなかったわけですから・・・」
井伊が消えてしまった話のせいで、随分と暗い雰囲気になってしまったが、榊原は口調をなるべく明るくし話題を無理やり変えた。
「そうそう、先程の質問の一つであるP01-sの事ですが・・・たぶん君が思っている通りかと思います」
「それは・・・」
「そのことに関しては、今夜殿が話しますよ」
「三河の花火だろ今夜・・・?」
jud.そう頷いて話を続ける榊原。
「今夜は面白い祭りになると思いますよ・・・それまでには帰れるようにしますから、茶屋で待っていてください」
「・・・じゃあここでお別れだな」
酒井の台詞に、不意に榊原が笑った、そんな気がした。
「お別れも何も、松平四天王は皆、君と共にあると信じてますよ」
********
空を行く船があった。
一つは三河警護隊の船、そしてもう一つは三征西班牙の船がすれ違った。
三河警護隊の船は西へ、三征西班牙の船は三河の陸港に着艦しようとする。
前方甲板に二人の生徒がいた。
「先程の船、東国無双である本多忠勝の娘、本多二代が乗っていたそうですね」
「本多様は、ご息女への襲名を考えておられるのかな・・・」
「どうでしょうか・・・」
そう話す二人は三征西班牙の三年、金髪の少年、西国無双の立花宗茂と黒髪で両腕が義腕の少女、立花誾。
今回大罪武装の無心に来たK.P.A.Italiaへの牽制の意味を込め、教皇総長と同じく八大竜王の一人である宗茂も、三河に来た。
「戦闘型の私でも、随分政治的に扱われるようになりましたね・・・」
頭を掻きつつ、甲板の目立つ位置でたった宗茂。
彼はため息をつき皮肉そうに言った。
「戒律重視の教譜で、旧派の首長たる教皇総長自らが大罪をモチーフにした武装の無心に来るとは・・・」
「まぁ男の人なんて俺tueeeがやりたいだけの馬鹿な方が多いですからねぇ」
「・・・誾さんたまにすごいこと言いますよね」
彼は肩越しに誾に振り向き、
「誾さんは大罪武装の噂について信じていますか?」
大罪武装の噂・・・その強力な威力を持った武装、人間の大罪がモチーフにされているだけありその材料も人間そのものだという噂。
「できれば嘘であってほしいです・・・立花が人の犠牲の上に立っているなど、考えたくはないので・・・」
「そうですよね」
「宗茂様?」
「なんです?」
「負けないでください・・・すべての邪推や疑念は、勝利で払拭できますから」
言われ、宗茂はその意味を考え、自分が立花宗茂を襲名した時の事や誾の腕を切り落とした時の事を思い出した。
「・・・はい」
宗茂は微笑んで肯定した。
船の軌道が変わる。
K.P.A.Italiaと同じ旧派の三征西班牙の船が、教皇総長を見下ろして着艦するのは体裁が悪いので、わざわざ空いている南側にまで迂回した。
宗茂は眼下、K.P.A.Italiaの船の甲板に立つ痩躯の男がこちらを片頬を上げた笑みで見ているのに気付いた。
教皇総長インノケンティウス・・・。
八大竜王の一人でありながら旧派の首長。
その実力は初老にして今もなお総長を続けられるほどで、西国無双の名を関する自分でも苦戦必至だ。
だが、先程の誾の願いのこともある。
もしK.P.A.Italiaとの戦闘になったとしても負ける気はなかった。
だが宗茂の想いとは別に、誾がつぶやいた。
「元信公が今、祭りやら花火やらの準備をしているようですが・・・」
「?」
「一体誰のための、何に対しての祝いなんでしょうね」
何に対して、誰に対して。
誾の疑問も、確かに気になるものではあった。
今回元信公が準備しているという祭りは何に対してのものなのか、宗茂には解らなかった。
三河に武蔵が来ていて、K.P.A.Italiaが武器開発の無心に来ている。
この状況がもしかしたら狙ってのものだった場合、祭りで何が起こるのか、そこに少しだけ不安を感じた。
*******
人気のない三河の町で自動人形の声が響いた。
「それでは・・・それぞれ状況を開始しなさい」
告げたのは、鹿角だった。
彼女の合図とともに家の影などに潜んだ自動人形が動く。
そして元信に通信による表示枠を展開、
「元信公、予定通り状況を開始いたしました」
「そうか・・・こちらも地脈炉の準備は予定通りだ。八時過ぎくらいには向こう側にも気づかれる頃だろうから、それまで頼むよ」
jud.頷いて頭を下げる鹿角。
「しかし、忠勝も予定通り現場に向かったけどこれで良かったのかい?鹿角としては・・・」
「楽しんでおられましたから・・・十分に別れの挨拶かと」
言った鹿角は空を見上げ一息、
「私共には元信公の御考えは理解しきれていませんが、忠勝様ともども、最後までお付き合いいたします。三河最後の祭りを主催者としてお楽しみください」
********
夜、酒井は言われた通り茶屋で待っていた。
酒も出るし料理も出るのだが料理の品が、
・鯵のタタキカレー
・マグロのカレー添え
・鰈のカレー丼
・カレーの軍艦巻き 等
カレーがやけに多かった。
流石に何も頼まないのは気まずいので一品食べてみたが、
胃が痛い・・・。
急に胸やけや腹痛がしたので、それ以上食べられなかった(食べたくなかった)。
神棚の時計を確認する。
八時か・・・そろそろ榊原の使いが来る頃か?
そんな事を考えていると夜道から声を掛けられた。
「酒井様、こちらお届け物になります」
「おお、ごくろうs」
ねぎらいの言葉を掛けようとして酒井の言葉が止まった。
届けられた書類は、すべて白紙だったのだ。
書記だった彼が白紙でものを届けるということ。
もし彼が知っていることを自分に伝える意思があった場合、白紙で書類を届けることにいったい何の意味があるのか。
酒井は思った。
何か榊原がマズい状況に巻き込まれたのでないだろうか。
「榊原は?!」
「机の上の物を、あとで酒井様に届けるよう事前に言われていたので・・・」
自動人形が言い終わる前に、酒井は駆け出していた。
悪い予感がする。
榊原・・・お前一体何を、どこまで理解していた?
********
三河、各務原にある監視所。
三征西班牙の学生が、三河に居る各国の動きを監視している。
「B1T3からB2T3へ、そっちの様子はどうだ?」
「B2T3からB1T3へ、現状の変化なし、早く帰りたい」
少女型の走徒を指で撫でまわしながらB2T3が本音をこぼした。
「いいなぁお前の走徒、俺の標準型だから喋り方が事務的でおもんない」
「ははは!いいだろう!俺、この任務が終わったらこの子と結婚するんだ」
「走徒相手に・・・っていうかフラグ立てるな。不吉な」
「ひがむな負け組、俺勝ち組だわwww」
自分の走徒の自慢しまくったから気分が良かった。
だが返答はなかった。
怒ったかな?
「B2T3からB1T3へ、どうした?」
「・・・」
ずっと黙りこくっている通神相手に、不安が募る。
「おいどうした?」
「B1T3からB2T3へ、大丈夫だ、問題ない」
聞こえてきたのは、先程の男子生徒の声ではなく、女の声だった。
異常事態が起きている。
そう判断したB2T3は、臨戦態勢に入った。
「そんな装備で大丈夫ですか?」
声がする背後、振り向くとそこには、
「三河の自動人形!?」
こちらに向かってくる自動人形に、B2T3は短刀で応戦するが自動人形はこちらの動きを躱し背後を取った。
「背中ががら空きです♪」
「へ?ちょっ、まっ・・・あ///・・・アッー♂」
尻に違和感がした。
*******
榊原の邸宅に着いた酒井は、書斎と思われる場所の異様さを感じていた。
これは・・・?
目の前には、庭を見渡せるように作られた部屋に大きく血で描かれた印があった。
「二境紋!?」
榊原の部屋に、先程話したばかりの印と、「何してるの?」と書かれた血文字を見た。
これがあるという事は、つまり榊原は・・・。
酒井は視線を落とした。
机の上には、黒布に和紙、そして水だけ注がれた硯を確認する。
何をしていた?榊原・・・
和紙を手に取ると、月明かりで透かされ、水で書かれた文字が確認できた。
二境紋、公主・・・追え?
どういう事だか、酒井はすぐに判断できなかったが、先程の資料の事を思い出し、月明かりに透かした。
「創世計画・・・追え」
ここにきて酒井は更に混乱する。
創世計画とは、P.A.Odaが計画した末世の対策案のことで、それがなぜ今出てくるのか酒井には分らなかった。
更に混乱する酒井に追い打ちをかけるように遠くの方で何かが爆発するような音が響く。
「何だ!?」
酒井は混乱の中、外へ駆け出す。
外で確認できたのは、各務原の聖連の監視所が炎を上げていることだった。
確認できたのはその爆発だけだったが不意に、足元に棒のようなものが出されるのに気付いた。
石突!?
急に出された動きに、酒井は対処できずバランスを崩して躓く。
「お前も老けたよなぁ酒井。大総長とまで呼ばれたお前が、この程度の不意打ち、避けられねぇんだから・・・」
「ダッちゃんに・・・鹿角・・・?」
二人の知り合いが、街道に現れた。
酒井は忠勝が持っている槍を見て、
「蜻蛉切?事象を割断する神格武装、そんなものまで持ち出していったい何する気だよダっちゃん・・・!」
「・・・監視という事象を割断してきた」
「何のために?」
酒井が問いかけが終わる前に、複数の音が重なった。
一つは聖連の航空型武神が制空権確保に動き出した音。
一つは聖連の警護艦が各務原の火事を消そうと動き出した音。
そして・・・、
「おいダッちゃん、この音はなんだ!?地面・・・いや地殻から響いてるぞ!」
「新名古屋城の地脈炉だ、三つ目が逝ったからそろそろ気づかれた頃だろうよ」
「新名古屋城の地脈炉を暴走させたら三河が吹っ飛ぶどころか消えてなくなるぞ!・・・おいダッちゃん、お前は・・・いや、殿はいったい何をする気なんだ?」
地脈炉の暴走に伴う爆発。
八年前、P.A.Odaの信長襲名者がムラサイ反勢力を潰すために暴走自壊させ、反勢力どころか比叡山すら吹っ飛んだ。
それが三河の五つもある新名古屋城の地脈炉なら被害がどうなるか分かったものではない。
「我は何も知らん、我が知ってるのはこれが創世計画の始まりだってことぐらいだ・・・榊原から聞いてないのか?」
「榊原は・・・消えたよ」
消えたという台詞に忠勝は遠い目をし、ただ、そうか、と呟いた。
「行けよ、酒井。我はお前に構ってる暇はねぇんだ・・・これから相手も調べずに突っ込んでくるK.P.A.Italiaと三征西班牙を鹿角と迎撃しなければならない」
「馬鹿!そんなことしてたら地脈炉の暴走に巻き込まれるぞ!」
「我はただ殿が望んだことを支えるだけだ。ただ勝利する、それが我の忠義・・・酒井、お前の忠義は何だ?ただ次に繋ぐことじゃあねぇのか?」
どうやら忠勝の意思は固いらしい。
「・・・我は殿と共に過去になるだろう・・・お前が過去になった時、我が為したことが末世を救うことへの足掛かりになっていたなら、そん時は褒めてくれ」
忠勝はただ笑い、背を向け、新名古屋城に向かった。
「おいダッちゃん!娘どーすんだ!」
追いかけようと、踏み出した時、大地が揺れた。
地脈炉の暴走が地脈に干渉を始めた。
崩壊が始まる・・・!
酒井は忠勝が居た方を見る。
そこにはかつての仲間はもういなかった。
自分だけが取り残されている。
取り残された自分に何を為せというのか。
去る仲間たち、そしてかつての君主が何をしようとしているのか。
酒井は不安の中に一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
*******
元信は新名古屋城の中で、外が騒がしくなってきたことに気付く。
そろそろ聖連が武神で乗り込んでくる時間帯だろう。
だが、その辺は全く心配していなかった。
忠勝と鹿角がいるから、外は大丈夫だ。
元信はあの二人に絶大な信頼を置いている。
問題は、この後の世界の反応である。
義伊には例の物を匿名で送ったが、
あの子は怒るかな・・・?
全ての真実を知った時、彼がどう思うのか。
それを考えると少しだけ、ほんの少しだけ気が重かった。
途中、何か混じってたと思いますが、それは気のせいです