境界線上の死神   作:オウル

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これから順次、投稿ペースを上げていけたらなぁと思っています(上げられるとは言ってない)


五話 後編

行く者に来る者

 

慌ただしく過ぎる中で

 

謎と過去が交錯していく

 

配点(藁をも掴む)

――――――――――――――――

 

"伊勢義盛"

 

今朝見た夢の中の、義経と一緒に居た男の名前だ。

不意に出したその名前に義経の表情が変わるのを康景は見た。

 

・・・まさか、本当に関わりがあるのか?

 

康景は半ばダメもとで聞いてみた感があったので内心驚きを隠せずにいる。

 

「その名前をどこで知った?」

 

先程までニコニコしていた顔が一転し、険しい顔つきになっている。

あまり刺激するのはよくないと思いつつ、康景は慎重かつ正直に話しを続ける。

 

「・・・夢で見た」

「・・・夢?」

 

訝し気にこちらを見る視線が痛いが、気にしなかった。

 

「三河騒乱以来・・・それがただの夢なのかそれとも何かの記憶なのか解らないものをよく見るんだ」

「夢・・・」

 

訝し気に構えていた義経が、顎に手を当て考えるそぶりを見せ始めた。

彼女はしばらく黙っていたが、

 

「・・・その他に、何か見たのか?」

 

そう聞いてきた。

思いの外冷静にしているのが却って怖いくらいだが、

 

「断片的だが、覚えている範囲でなら・・・"過去の堆積物"、"輪廻転生"、そして・・・"呪い"、かな」

「―――」

 

その言葉で、義経は信じられないようなものを見るような目でこちらを見つめて、

 

「・・・」

 

康景の頬に手を伸ばした。

今にも泣き出しそうで、しかし嬉しそうにも見えるその顔に康景はどう反応していいかわからず、動けなかった。

 

暫くの間、互いに見つめ合い動けなかった。

 

だが不意に店の奥の方で物音がして、義経がハッとして距離を取る。

何故か解らないが気まずい沈黙が続き、流石に耐えきれなくなったので、

 

「・・・大丈夫、か?」

「あ、ああ、すまんのう」

 

ポリポリと頭を掻き、申し訳なさそうにする義経は、

 

「義盛・・・わしが愛した阿呆の事は、今でも解ってないことが多くての・・・だから・・・」

「・・・無理だろうか?」

「・・・すまん、今は・・・話したい気分じゃなくてな」

 

"伊勢義盛"の話をすることを断った。

 

すぐに答えを得られるとは思っていなかったので、落胆は思うほど少ない。

そもそも夢で知り得た情報が、一国の主の過去と繋がっているとかいう状況の方がどうかしている。

 

康景はそう思い、頭を下げる。

 

「アンタにはアンタの事情がある。どうしても話せないのであればこちらは引き下がる他ない」

「・・・すまん、わしも少し戸惑ってる故、何を話したらいいのかわからなくてのう」

「・・・ならば一つ、アンタの見解を聞かせて欲しい」

 

"伊勢義盛"という人物がどうかはこの際仕方ないとして、義経に今一番聞きたいことは、

 

「なんじゃ?」

「俺と"伊勢義盛"は関係していると思うか?」

 

**********

 

その問いに対し、義経は返答を悩んだ。

というより自分でも信じられないほど混乱している。

 

なんと答えてやるべきじゃろうか・・・?

 

初めてこの男を生で見た時、"見知った顔を見た"ようなデジャヴ感に襲われた。

次に酒の席で自分の話を聞いて泣いたこの男を見て、義盛の雰囲気に似ていると感じた。

そして今、彼が自分と義盛しか知らない話を知っていたことで、康景は義盛ではないかと一瞬思った。

 

だが自分の中で"何か"が引っかかっている。

 

"この男は義盛ではない"という思いもまた、自分の中にはあるのだ。

 

だからこそ自分は動揺し、返答することが出来ずにいる。

義盛の『輪廻転生』という言葉にもしかしたらと思っていたが、冷静に考えるとそれを証明できる手立てがない。

 

関係があるか、それともないのか。

 

その答えは自分には断定できない。

 

「そうじゃなぁ・・・」

 

関係については、

 

「わしには解らん・・・どう関係していて、してないのか、それを断定するには材料が足らんからの」

 

だが、

 

「ただまぁ、わしは・・・お主が義盛であってくれればいいなぁと、そうは思っておる」

 

**********

 

自分が義盛であってほしい。

 

"関係している、していない"、ということではなく、"関係していてほしい"。

これはもう義経の"願い"と言ってもいいだろう。

 

康景は、義経がもう一度"伊勢義盛"に会いたいのだということを改めて理解した。

 

義経の見解を聞きたかったわけで、まさかこういう風に言われるとは思っていなかったのでどう返せばいいかすぐには思いつかなかった。

 

こちらが返答に迷っていると、

 

「・・・ま、あれじゃな。こっちでもあの馬鹿と、お主のことに関して独自で調べておこうかの」

「すまない」

「いや、こっちこそ悪かったの・・・お主が本当に聞きたかったことは、こんなことじゃなかったじゃろうに」

 

申し訳なさそうにする義経に対し康景は首を横に振り、

 

「会いに来てくれた・・・それだけで今の俺には十分だよ。ありがとう、急な呼び出しに応じてくれて」

 

康景は右手を差し出した。

義経はその右手を見て笑い、

 

「はッ! 他ならぬお主の頼みなら大抵の事なら聞いてやるぞ? まぁ義盛のことはすまぬが心の準備ができておらぬでな・・・勘弁してくれ」

「それに関しては俺もいきなり過ぎた。俺も今日聞く気はなかったんだが義頼が・・・」

「義頼? 里見のとこの小僧か、あの小僧がどうかしたか?」

 

互いに握手をする。

しかし、

 

「ああ、いや・・・何でもない」

 

康景は今朝会った義頼との出来事を話そうとして、必要の事ではないと思い、苦笑いで誤魔化した。

 

*******

 

義経との不思議な会談を終えた康景は、店に残り考えをまとめていた。

()()()()()()()は得られなかったが、情報は得た。

 

義経が『義盛であってほしい』と思うということは、自分に何か近いものを感じているからであろう。

ならば"天野康景"という自分と、"伊勢義盛"は何かしらの接点がある可能性がある。

 

なら問題なのはその接点が"何か"ということだ。

 

"血縁"か、それとも今朝見た夢の"呪い"という言葉が関係しているのか、判断は出来ない。

 

それでも何か、見えない闇の中にわずかでも光が差したような感覚が今の自分にはあった。

今回の接触には少なくとも意味はあったと、そう捉えるべきである。

 

・・・まさか、その日に見た夢をその日のうちに聞くことになるとはな。

 

里見義頼から接触がなかったら多分接触しようとは思はなかった。

その点で言えば、あの男には感謝すべきだろう。

 

それにしても、英国で会った人々も相当濃いメンツが多かった気もするが、関東勢も大概である。

 

英国では状況が状況だけに戦いを強いられたものの、関東勢は比較的友好的(?)に済んだ。

真田の忍者はともかく、義経や義頼のような連中と戦闘にならずに済んだのは良かった。

 

あの二人と刃を交えたのなら、午後の六護式仏蘭西戦に支障を来すのは避けられない。

 

だが今回の件で、里見、清武田と表立って対立することは無いと判断していいだろう。

北条はまだ解らないが、()()()()()もあるため可能性的には対立しない方向性で見るべきだ。

 

上手くことが進んでいるとは思えないが、ポジティブな方向で考えよう。

 

六護式仏蘭西戦をどうするか・・・だな。

 

大まかなビジョンは考えているが、決め手には欠ける。

最悪の場合は術式を使用することも視野に入れておかなければならない。

 

康景はため息を吐きながらウオルシンガムが用意した茶(らしきもの)を飲み、思った以上に甘かったため吹き出した。

 

*******

 

一方、里見義康は、武蔵一行と共に外交街に居た。

だが不意に義頼が現れたことで緊張感が走る。

 

そして村雨丸を武蔵書記に拝謁の形で手渡そうとしているのを見て、思わず、

 

「おい・・・」

 

姉上のだぞ、と叫ぼうとして、

 

「今は私のだ。 セイフティも掛かっているし、彼の礼儀も理にかなっているのだから問題はないだろう、義康」

 

見透かされたように先に言われてしまった。

名前を言われたことに対してか、それとも村雨丸を手渡そうとしたことに対してか、妙に憤りを感じる。

何を言い返せばいいか惑い、思わず、

 

「万が一があったらどうするつもりだ・・!」

 

当たり障りのないことを言った。

まぁ武蔵勢の面々の前でも問題はないと思うが、義頼は困ったように、

 

「まぁ・・・困ったときはその木刀で何とかしてくれるんだろう?」

 

と苦笑いした。

この男には、否、この男と姉には口ではかなわないなと思ったその時だ。

 

「そんなことより、早く着替えろ義康。ハードポイントからの供給は武蔵に泊るときの設定のままだろうから、朝の寒さは想定していないはずだ」

 

不意に彼がこちらの背を押した。

 

「!」

 

それに対し、義康は反射的にその手を払いのけてしまった。

 

**********

 

背中を押される感触は、中等部以来だ。

かつて姉が居てこの男が居て、よく二人に背を押してもらった。

 

だが、今の拒絶はその過去すら否定してしまったような気がして、更に、

 

「済まなかった」

 

義頼に先にそう言われてしまったことが悔しかった。

そう言われてしまえば、それでおしまいだからだ。

 

振り上げた手を納められずにいる自分が、どうしようもないと燻っているとまた不意に、今度は手に感触を感じた。

その正体は、

 

「義康様」

 

武蔵の姫、ホライゾン・アリアダストだ。

彼女は強いと思えるレベル程度の力でこちらの手を握り、無表情な視線を向けてくる。

 

「武蔵副王、ホライゾン・アリアダストか・・・」

 

この感情は八つ当たりであることは理解しているつもりだ。

理解はしているが、

 

「いったい何だ・・・!」

「jud.」

 

武蔵の姫は静かに言った。

 

「ホライゾンも、その薄着ではお腹が冷えると思います」

 

*********

 

ホライゾンの言葉に、義康は膝から崩れ落ちた。

 

「おや、義康様、どうなされました?」

 

あさま『なんというか・・・ええ、予想通りではありましたけども』

賢姉様『流石は我が義妹(姉?)ホライゾンね! 誰に対してもそのマイペース、頼もしいわ!』

 

ホライゾンは膝をつく義康の方に手を乗せ、続ける。

 

「あとは謝りましょう、義康様」

「な、なにを・・・」

「貴女様の体調を気遣ってくださった方の、その厚意を拒絶したことについてです」

「べ、別に謝ることなど・・!」

「ではホライゾンが代わりに謝りましょう。 本日はお日柄もよく・・・」

 

頭を下げるホライゾンに対して、義康は慌てて、

 

「な、何故そんなことをする必要がある!?」

「簡単なことだと判断できます」

 

それは、

 

「為さぬことを為さねば、後悔が残るからです」

 

*********

 

義康は武蔵の姫が話すのを聞いた。

 

「良いですか? 義康様が現方針として謝罪はしないということであれば、ホライゾンが先に謝罪しておきますので、先程の件で後悔されたのであればホライゾンにご一報ください。 ホライゾンは『ご安心ください』と言いますので・・・」

「な、なにもそこまでしなくていいっ!」

 

見れば義頼が目を逸らし笑いを堪えようとして肩を震わせている。

それに対し、義康は顔に熱を感じながら、

 

「わ、笑うなあ!」

「ほうら義康様、どうなさいますか? 後悔したくなってきましたか? まぁ、ホライゾンも謝るにしろ何分"恥ずかしい"感情がわかりませんのでご負担五割引くらいで考えておいてください。 さぁ」

 

武蔵の姫がさぁ、というのに続き、義康は下唇を噛みしめ、

 

「申し訳ない」

 

と謝った。

顔を上げると、義頼が笑いを堪えて、

 

「・・・大儀であった」

 

*********

 

「このっ・・・!」

 

義康が肩を上げるのと同時に、ホライゾンが彼女の肩に手を置いたのを正純は見た。

彼女は無表情で平然と、

 

「頑張りましたね義康様、困難なミッションでした・・・しかし、昨今では空気ニンジャが身に余るほどのボイン嫁を手に入れたり、死刑空間からホライゾンと手を繋いで戻ってきた馬鹿も居ますし、毎晩嫁に搾取されながらも他の女にフラグを立てることを忘れない屈強な男も居ますし、死亡フラグなんてものは案外チョロかったりします」

「うん? 最後の方とかよく解らんのだが・・・?」

 

最後のは確実に康景の事だと思うが・・・。

 

フラグを立てることに関しては質の悪いのが一人いる。

正純は昨夜康景の膝の上にライドオンしたり額と額をくっつけ合わせたりしたのを思い出し、

 

「~~~///」

 

一人悶絶した。

その様子をミトツダイラが訝し気に見てくる。

 

「どうしたんですの・・・?」

 

その視線が痛すぎたので咳払いで誤魔化す。

気が付けば里見義康も頭を冷やしたようで、冷めた目でこちらを見ていた。

落ち着いたようで何よりだが、なぜ自分まで被弾しているのだろうか。

 

おのれ康景・・・!

 

なんだか某銀狼のようなことを内心で感じた。

冷静さを取り戻した義康は肩に掛けた上着を掛け直し、義頼に対し口を開く。

 

「何しに来た?」

「アリアダストの学長に急ぎの要件があったのと、天野康景に武蔵総長がここにいると聞いてな。挨拶にと・・・」

「挨拶だったら私が・・・されたことになると思うので大丈夫だと思う」

「そうか・・・彼とは色々と話し合って見たかったんだが・・・」

 

うん?

 

皆が一斉に顔を顰め、見合わせる。

 

「あ、あの、ウチの馬鹿が何か悪いことを・・・?」

「早朝ファラオの件は悪さに入らんのか・・・?」

 

里見義康が訝し気にこちらを見るが、無視した。

里見義頼の方は不意に空を見上げ、

 

「まぁ精神的に救われる部分があったのでな、礼を言いたかったんだ」

 

●画『馬鹿×里見総長かしら? それとも里見総長×馬鹿かしら?』

金マル『ガっちゃんのそういうなんでもネタにしていくスタイル、流石だと思う』

副会長『国際問題になるようなネタはやめろよ?』

あさま『正純、根本的な問題が違うような気もしますが・・・』

 

自分でもそう思うが、正純は一つ引っかかる部分があった。

 

「ウチの総長兼生徒会長(馬鹿)はともかく、康景には会ったのか?」

 

なんでわざわざ康景に会う必要があるのだろうか。

康景はなんでも出来る万能タイプの人間だが、役職付きではない。

一国の総長が一般生徒に会いに行く理由がすぐには浮かばなかった。

 

あさま『また康景君のなんでも一人で抱え込む悪癖が出ましたかね?』

ウキ―『だが待て、里見総長は男だ。 康景は女権力者に知り合いは会いに行くが男の方に会いに行くか?』

約全員『確かに・・・』

副会長『アイツの信用っていったい・・・』

 

なんで女権力者には会いに行くのが前提なんだろう。

そしてなんでその法則が皆に浸透しているんだろうか。

正純は一瞬だけ思案し、

 

・・・まぁ康景だからな、しょうがないかうん。

 

との結論に達した。

 

その問いに関して里見義頼は困ったような表情を浮かべて、

 

「彼の人となりは昨夜の件で把握したつもりだが、どうしても一度面と向かい合って話し合いたかったんだ」

 

その言葉に、同人作家が反応した。

 

●画『ハァハァ、康景×里見総長!? 里見総長×康景!?』

あさま『トーリ君の時よりえらい反応してますね・・・』

金マル『ガっちゃん・・・涎拭こう、ね?』

 

大興奮である。

 

「・・・いつの間にあの男に会ったんだ?」

「彼の技は実際に間近で見る価値がある。義康、お前も機会があれば彼の特訓風景を見せてもらうと良い」

「―――」

 

里見義頼が素直に康景を褒めていることに、里見義康が驚いたような顔をしている。

 

「まぁ彼との話し合いは半ば不完全燃焼だったから、武蔵総長と三人でとことん話し合ってみたいものだ」

 

うちの康景(馬鹿)総長(馬鹿)が何故か高評価だった。

ナルゼが興奮のあまり『次の原稿間に合うかしら!!!』などと訳の分からないことを呟いているが、アイツは大丈夫だろうか。

 

ややあってから里見義康は何かを考えるようにして、

 

「・・・先に行く」

 

一礼してその場を去った。

里見義頼も苦笑いし、こちらに一礼してその場を去った。

その後ろ姿はさながら兄弟のようにも見える。

 

あさま『なんだか義康公、康景君の名前が出る度に怪訝そうにしてましたね』

蜻蛉切『康景殿の戦士としての技術は出鱈目で御座るからな、武に生きる者であれば複雑な胸中で御座ろう』

立花嫁『貴女がそれを言いますか・・・まぁ、あの男の出鱈目具合に関しては同意しますが』

 

現武蔵でもトップランクの実力を誇る二人がそう言うのだから、自分が彼女に思った印象に間違いはないのだろう。

いずれにせよ、里見と清武田との交流には康景の存在が重要になってくるだろう。

 

・・・そう言えば、康景の姿を見ないな。

 

どこに行ったのだろうか。

康景に今後の里見と清武田について、今後どう展開していくべきかの考えを聞きたいと思っていたその時、

 

「おお、なんじゃあ皆雁首揃えて・・・ここからじゃと鴨撃ちじゃのぅ」

 

義経が外舷約百メートルの雲の上に立っていた。

 

***********

 

船のような形をした雲に無数の符や剣が突き付けられ、その上に貨物や人影がある。

その壮大さを見て、直政が口笛を吹いた。

 

「道術機殻の仙雲船とはまたレアさねぇ・・・IZUMОに来た時とは別のモノを用意するとは・・・急ぎみたいさね」

 

武蔵との距離は約百メートル弱だが、義経が佐藤兄弟に対し何やら命令したが拒否されたようで、わざとらしいがっかりアクションの後、

 

「それ」

 

軽い掛け声とともに、なんの苦も無くこちらに跳んだ。

 

********

 

誾は今起こった光景を見て思った。

 

・・・は?

 

百メートルほどの距離を、小川を渡るが如く軽く跳んだのだ。

だが驚きはしたが、似たような動きを知っている。天野康景の動きだ。

 

・・・あの男と義経の違いと言えば"軽さ"だろうか。

 

床を揺らすような音すら立てず、緩やかに歩く彼女に対し皆引き気味で、

 

「う、うわぁ、ヤス君以外でああいう動きする人初めて見たかも」

「なんだか康景さんがいつも普通にあれっぽいことしてるので慣れてるつもりでしたけど、改めてやられるとうわぁってなりますよね」

「え、あ、ひ、人? きゅ、うにま、えに・・・?」

「あ、大丈夫ですよ鈴さん、ああいう立場的に偉そうな人は正純の領分なので、後は正純が何とかしてくれます」

「あ、お前ら・・・!?」

 

誾を含めたほとんどが後ろに下がったが、同時にその動きとは反対に動いた者が()()いた。

一人は本多二代、速さを売りにしている女と、

 

宗茂様・・・。

 

西国無双と呼ばれた、自分の夫だった。

 

*******

 

宗茂と二代は、共に義経の前に腰を落として、

 

「「今のを口伝で良いので教えて頂きたい!」」

 

口を揃えてそう言った。

 

武蔵に来てからは、二人で一緒に居られる時間が長くなった。

それでいて訓練を疎かにすることはなく、忍者(名前忘れた)が与えてくれる修行もこなす。

その上で武蔵には現副長本多二代と、

 

・・・あの男が居ますからね。

 

天野康景の戦い方は、嫌でも人の目を引く。

それが武を志す者であれば猶更だ。

癪だが、あの男の存在もまた宗茂にとっていい刺激になっている。

 

宗茂が目指しているのは、回復ではなくその先にあるものだ。

 

宗茂はきっと大丈夫。誾はそう信じている。

義経は前に出た二人の顔を見て、

 

「今のと言うと・・・八艘跳びのことか?」

「「jud!」」

 

二人の反応に、義経は腕を組んだ。

 

教えてくれるのだろうか。

 

期待を胸に見守る。

すると、

 

「はて・・・どうやってるんじゃろうか・・・?」

 

誾は頭からコケた。

 

********

 

「あっ、誾さん誾さん!? 頭から行きましたけど大丈夫ですか・・・!? っていうか"十字砲火"仕舞って!?」

「くっ・・・醜態をっ! 天野康景と話している時並みの屈辱です・・・!」

 

どんな屈辱だ・・・?

 

と内心正純は思いつつ、義経を見た。

 

「靴に何か仕込んでいるのか?」

「いや、これは・・・昔、ある男がおってな。そいつと過ごしているうちになんとなく出来るようになった」

 

それはなんとなくで出来るものなのだろうか。

 

「まぁ意識したことなかったからのう、そいつも当たり前のようにやっとったし」

 

足を延ばしたり、腰を落として飛ぶようなモーションを取るがやはり、

 

「暇があったら調べるという形では駄目じゃろうか?」

 

この調子では調べても無駄なような気が・・・。

 

反応が怖いので黙っておくが。

 

「義経公、この二人にはとりあえずそれで納得してもらうが、いいだろうか?」

「まぁ、清武田の主に対して恐れずに技術を乞うのはいい根性じゃ。 今年の武蔵は康景を筆頭に面白いのが揃ってるのう」

 

カカッっと笑う義経に対し正純は恐る恐る聞く。

 

「・・・そんなに康景のことが気に入ったのか?」

 

正純の問に対し、今度は意地悪そうな笑みを浮かべ。

 

「カカッ! そうじゃなあ、あれほど心躍った相手も久しぶりじゃ。 さっきも()()()()()あったしのう・・・」

 

しみじみと語るその言葉に、武蔵の面々の動きが止まった。

 

********

 

義経の言葉に、武蔵一同はスクラムを組む。

 

「いや、ヤスって本当に期待を裏切らねえよな、って前なら思ってたけどよ? 今回はどうなんだろ?」

「なんだか毎回ヤス君の不祥事に対して盛り上がるけど、何しに行ったか解らない以上は・・・ねぇ?」

「義頼公とも会ったらしいですけど、昨夜の会議ではあまり接点のなかった義頼公に康景さん自ら会いに行きますかね?」

 

アデーレの指摘に皆が頷き、

 

「確かに昨日の康景と源九郎義経ならともかく、里見義頼とはあまり接点はなかったわね」

「では里見義頼の件は公の方が康景に会いに行ったと、そう見るべきか」

「その後で"何か"思うところがあり、義経公に相手に単身乗り込んだのではないで御座ろうかな」

「その点、喜美ちゃんはどう見るの?」

「そうねぇ・・・今朝の時点では『会いに行っても解決しない』って言ってたから、会いに行く気はなかったと思うわ」

 

"二人きりで会った"ということに対して、"里見義頼と会い、会いに行く気はなかった義経に会いに行った"とみるべきだろう。

そういう結論に達した。

 

義経の含みのある言い方に一瞬一同が凍り付いたが、話し合いにより解決した。

 

・・・話し合いってやっぱり大事だよな。

 

そう実感する。

 

「なんじゃ、お前ら意外とつまらん反応するのう」

「いやまぁ・・・康景の女性関係に対して一々反応していると体がもたないからなぁ」

 

背後で約全員が頷く。

その様子をつまらなそうに見つめる義経は何事もなかったように、

 

「そうか・・・まぁよい、それより正純、昨晩は散々話し合いをしたと思うが・・・」

「「話し合い・・・?」」

 

●画『話し合いに関しては認識のズレがあるみたいね』

あさま『その辺りは・・・ええ、当人同士でそう思うならそうなのではないでしょうか。どうだったんです正純』

副会長『うーん、康景の酔っ払い具合の印象が強すぎて話し合いというより飲み会みたいな雰囲気が強かったが、義経公本人がそう思ってくれるのならいいんじゃないか』

 

「昨日は世話になったからのう、その礼として何か一つ質問に答えてやるぞ?」

「・・・いや、そう思うなら私たちではなく康景になにかしてやってくれないか?」

「・・・さっき奴に会った時、答えてやれなくてな」

 

申し訳なさそうにする義経の顔から判断するに、康景と会った時は康景が聞きたかった事に答えられなかったのだろう。

 

正純は思案する。

 

康景は既に"何か"を尋ねるために義経に会いに行った。

しかし、康景は対面では対して答えを得られなかった。

だから義経はその罪悪感もあり、今回百メートルを優に飛び越えわざわざやってきた。

 

そういう流れが自分たちの知らないところで存在した。

 

だが、康景が質問したこととは何だろう。

政治、国の話は昨日話をした。康景は康景で昨日の会議のログを整理していると思うし、政治関係でわざわざ会いに行くとは思えない。

 

ならばそれ以外の事で考えるべきだ。

 

・・・あ、そう言えば。

 

正純は一つ思い出したことがあった。

昨日の会議で、康景は義経の話を聞き、一度涙を見せたのだ。

 

その原因は解らないが、もしかすると彼は義経のプライベートな件に関して深く突っ込んだのかもしれない。

だとすれば、プライベートな件の話題は避けるべきだ。

 

プライベートな件以外で、義経に尋ねるべきことと言えば、

 

「では義経公、一ついいだろうか」

「なんじゃ・・・?」

 

正純は一拍置いてから、

 

「"公主隠し"に関して、何か知ることがあったり、もしくは解っていることがるのであれば、こちらに教えて欲しい」

 

******

 

「カッカッカ・・・こりゃあまた、面妖な問が来たの」

 

正純は己の問が義経の表情を変えるのを見た。

 

「知っているのか?」

「いや、わしも詳しいことなぞ知らんよ。それこそ、その辺の知識はお主ら程度じゃろう。三十年ほど前から始まり、十年ほど前から活性化し始めた怪異である・・・ん?」

 

義経が話の途中で何かを思い出したように首を傾げる。

 

「どうかしたのか?」

「ん~、いや、不意に思い出したことがあっての・・・昔、お主らが産まれるよりずっと前の事じゃ。わしにとってはリアルタイムで失踪事件が()()に渡ってあった」

 

歴史再現にあるような事件であれば独逸の"ハーメルンの笛吹男"がメジャーである。

しかし、()()()ことは知っていても、実際の詳細は知りようがない。

それが歴史再現によらないような事件であれば猶更だ。

 

「一二八四年のM.H.R.R.内で起きた"ハーメルンの笛吹男"の事件はそれなりに存在は有名じゃが、記録には残らないような事件も幾つかあった。それこそ街一つが消滅するレベルでな」

「まさか・・・その規模の失踪事件が、どれ一つとして解明されていないのか?」

 

義経は首を縦に振る。

 

「街一つが消えれば、それこそ生き残りが出ない。()()()()()かなど証明は不可能じゃろうて」

「・・・ではどうやってそれらの事件を調べたんだ?」

「街一つではなく、()()()()()が消えるようなもの多々あった。そういう事件の"生き残り"連中から当時は聞き出したりもしたんじゃが・・・当てにならないのものが多くてのう」

「例えば・・・?」

「『気が付いたら隣人が消えていた』とか、そう言う奴ばっかりじゃった」

 

そんなことがあり得るのだろうか。

一つの街の半数が『気が付いたら』一夜で消えていた、なんてことはにわかには信じがたいが。

 

半信半疑に思っていると、義経はそれを見透かしたように、

 

「疑っておるな? まぁ無理もない。わしも、わしの周りではなかったからのう、実際に消滅した街について調べるまで半信半疑じゃった」

 

そう告げる。

その言葉の真意がどうであれ、わざわざ嘘を吐く理由もないと思う。

何故義経の周りでなかったかというのも気にはなるが、それより気になるのは二つ、

 

「それが"公主隠し"と関連があると・・・?」

「人が消えるという類似点は無視できんじゃろう」

「・・・確かに」

 

関連性があることを示唆しただけで、答えではないが、これはおそらく何かのヒントにはなるだろう。

 

「では・・・一体何故今その事件を思い出した?」

「・・・」

 

言われたことに対して義経はこちらに背を向けて、

 

「そうじゃなぁ・・・康景のせいじゃろうな」

「・・・」

 

その背中は悲しそうで、懐かしそうで、

 

「あの男のせいで、わしは随分懐かしい思いを起こした。昔、義盛の事で色々と調べてな、その過程で失踪事件に行きついたんじゃ」

「(義盛・・・?)」

「康景に問われた時、あろうことか動転してしまっての・・・答えられんかった。だから今回の情報提供は、奴に対する償いじゃろうて」

「償い・・・あ」

 

気が付くと、義経は既に仙雲船に向けて来た時と同じように跳び去っていた。

 

*********

 

義経が跳び去った後、一同は円を描くようにそれぞれ向かい合う。

向かい合った後トーリが代表するような形で、口を開く。

 

「うーん・・・なんかよく解んねえ展開になって来たんだけどよ? なんか俺たちが知らねえ間に・・・スケールデカくなってきてね?」

「そうですね、康景様が知りたいこと。康景様にまつわること。義経様が仰っていたこと・・・全ての判断には材料が少ないかと思われます」

「なんか謎だけが増えてくなー」

「「だよねー」」

 

皆がその一言で締めくくった。

謎が増えていくことに対して皆は肯定の意を示す。

 

だが皆が『だよねー』で済ます中、やはりそれでも心配そうな顔をする者の方が多い。

 

特に喜美は何かを考えるように義経が跳んで行った方を見据えていた。

何を想っているのか、正純には計り知れない。

 

しかし、康景の事を心の底からしているということだけは流石の正純にも理解できた。

 

いったい何が康景を取り巻いているのか、それを理解するにはやはりホライゾンの言う通り判断材料が少なすぎる。

 

午後の六護式仏蘭西戦に不安が残った。

 

 




いよいよ六護式仏蘭西戦が・・・

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