境界線上の死神   作:オウル

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精神が崩壊しそうです・・・。


五話 中編

知らないということは

 

幸せなのか

 

不幸なのか

 

配点(糸口)

――――――――――――――

 

私は塚原卜伝が嫌いだ。

 

茶々は塚原卜伝の墓を見下ろしながら思った。

 

康景に最も近しく、彼の理想、思想、願望、絶望を理解していながら彼を裏切ったその神経。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()大恩がありながら、彼に嘘を吐き、彼を欺いたその恥知らずさ。

 

他にも嫌いな理由を挙げたらキリがないが、少なくとも自分は嫌いだった。

 

嫌いな相手の、嫌いな場所の前に立つその目的は、

 

「・・・なんで私はこういう役回りが多いんでしょうかね?」

 

()()()()()()にある手紙を隠すからである。

康景の記憶、そして塚原卜伝の凶行についての真相を記したものであるため、大変重要な手紙だ。

 

何故そんなことをするのかというと、大雑把に言うなら塚原卜伝(馬鹿)と元信公の尻拭いなのだが、厳密に言うなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も考慮しているからである。

 

全ての真実はこの茶々の口からいずれ必ず話す。

それは今ではないが、語るまでに自分が"嫉妬"に殺されたり、捕まったり、M.H.R.R.に連れ戻されたり、()()()()()()()()()とも限らない。

自分という"語り部"が居なくなれば、康景が塚原卜伝について、彼女が何をしてきたのかを知る機会がなくなってしまう。

だからこそ手紙という形で保険を残した。

 

手紙の場合だと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、末世については具体的な事は避けて書いた。

何も伝えられないかもしれないが、だがそれでも、塚原卜伝の想いだけは最低限伝えておきたい。

 

「・・・まぁそう都合よくは行かないでしょうけどね」

 

予定や予測は外れるもの。

この世界に絶対なんてありはしない。

絶対があるとすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()くらいだ。

 

まぁ忠誠心はあっても死ぬときは死ぬ。

死は避けられないので、手紙はそのための保険だ。

 

出来ればそんなことにはならないでほしいと思いながら、茶々はやるべきことリストの一つを達成した。

 

 

――――――――――――――

 

浅間は覗き(※本人にとっては偵察)中、徐々に人が増えていくのを直感で悟った。

 

・・・みんなこういうイベント好きですからね。

 

そんなことを思っていると、思った通りに人は増えていき、まず康景に相手をしてもらえずしょんぼりしていた二代から始まり、次にランニングしていた立花夫婦に覗き扱い(主に嫁の方に)され、魔女コンビに自分たちの様子を同人誌回し読みというあらぬ疑いを掛けられ、姉好きの半竜が偉そうに介入してきて、康景がおらず暇を持て余していた喜美、ミリアムに追い出されていた不憫な東、土下座練習をしていた守銭奴共が加わった。

 

まぁこれらはどうでもいいのだが、一番ショックだったのはその後加わった鈴が、

 

「の、ぞき?」

 

と開口一番にそんなことを放ってきた。

思わず、

 

「違います、違いますよ鈴さん!? そういう言葉は、めっ、ですよ」

 

と返したが、思えば自分が悪い気がするのでこれは逆切れかもしれない。

そんなことを思っていると、

 

「おや、浅間様」

「あ、おはようございますホライゾン」

 

ホライゾンもやってきた。

彼女もまた開口一番に、

 

「ホライゾンは現在、先程『あぁ康景、ハァハァ、どうして貴方は康景なの!』と鼻息を荒くしながら歩いていた茶々様という人を迂回して来ての出勤中なのですが、ノーゾキですか?」

 

返答しづらいことを並べてきた。

浅間はすべき返答を一瞬だけ考え、

 

「皆覗きだのなんだの言いますけどねホライゾン? 覗きじゃないんですよ?」

 

茶々という人物は一切無視して、まずは身の潔白を証明する。

変態の問題に関しては、亡命を許した正純か康景が責任を取る。

 

そんなやり取りをしていると今度は、点蔵の嫁であるメアリが点蔵を探しに来て、何やら最近ストーカーに悩まされているネシンバラ、朝日を拝みに来たイトケン、ネンジが襲来し、最終的には終始無言だったペルソナ君といつもの全裸がやってきた。

ペルソナ君との会話に関しては、

 

「・・・」

「・・・」

 

という無言会話になり、もはや会話じゃなかったが、まぁそれはともかく予想通り康景を除くほとんどの三年梅組が集結した。

皆イベントとか好き過ぎますよね、と内心肩を落としつつ、浅間は開き直って、

 

「ということで点蔵君、録音スタートです!」

「一番ノリノリなのは浅間殿で御座るよね?」

 

あーあー聞こえませーん。

 

***********

 

点蔵は内心肩を落とし、

 

この連中、こういう密会現場とか好きで御座るなぁ・・・。

 

とため息をつく。

メアリも居る手前、ここは集中してやろう。

 

北条氏直の身体は、聞くところによると生体式の自動人形。

生体式であれば、喋りは人と同じだろう。

ならばこちらも同じ唇の動きを取り、息を出すことで母音で発音を取れる。

後は状況に合わせて会話の内容を予測する。

 

結構な時間の訓練を必要とする技術なのだが、経験を積めば、

 

『―――いいですかのりきさま。さがみももうおちついてきているのれす』

 

この通りある程度の会話の読み取りが可能。

おお、という驚きの声を、点蔵は歓声だと受け取り少し鼻が高くなる。

だが喜美が小さな声で、

 

「でもこれ、冷静に考えると犯罪よね? 最後の方ちょっと噛んでたし」

「しゃあねえって姉ちゃん、これがコイツのキャラなんだから! 英国でもこれが原因で検索上位に入ったくらいだしな! きっと点蔵の背負った性なんだよ! 多分自己紹介の時も『おっすおら点蔵・クロスユナイちょ』とか言って噛むんだぜ?」

 

全部台無しである。

周囲が頷く中、唯一の救いは、

 

「まぁそれは少し可愛いですね」

 

というメアリの言葉だけだった。

 

平常心、平常心で御座るよ・・・!

 

外道連中のペースに乗ると負けは濃厚なので、点蔵はメアリを支えに続けた。

 

『あれはらもうしゅうさんねん、もうもとってこられてもいいのでは?』

 

それに対し、ノリキが気まずそうに、

 

『いまさらかえるいみもない、おやもおなじだ。だいたい、おれもおまえもちがっていて、だけどおまえだけはただしいみとめられた』

 

会話内容がこれだけでは状況が読み取れないがアデーレがこれに対し、

 

「こういう真剣な雰囲気って武蔵には基本無いですよね、芸風が違うような気が・・・」

「い、いや、アデーレ? 私たちだって真剣ですのよ? ねえ?」

「「真剣・・・?」」

 

なんでウチの連中はここで疑問形にするのだろう。

一人、天野康景という真剣というかシリアスムードを出すのがいるが、最近ギャグとかが半分入ってキャラが迷走しがちなのでそういうのとは違うのかもしれない。

 

「あれ? ナイちゃん見るに氏直元気なくなってない?」

 

見ると、氏直が胸の前で指を組んで訴えかけるように、

 

『らめえええええええ!』

 

********

 

トーリが突然乱入してきたことで点蔵は会話を逃してしまった。

 

「な、何をやっているで御座るかトーリ殿!? あ、しもうた! 逃したで御座る・・・!」

『のがしちゃらめぇええええ! ってなんだてめえら!?』

 

急な邪魔に対し、皆がトーリをフルボッコにする。

点蔵はそれを半目で流しつつ、再開する。

 

『・・・まってますから』

 

気が付けば、会話はもう終わってしまっていた。

至らぬ部分が多かったが、会話の再現は大体こんな感じだろう(トーリの乱入を除いて)。

 

こちらの横にメアリが来る。

彼女はこちらの腕を組んで、こちらにだけ聞こえる声で、

 

「あの、点蔵様・・・私、何かあったら手伝いますから」

 

そう囁いた。

これは別に自分の事ではなく、ノリキか氏直のどちらかを、ということだろう。

 

メアリとエリザベスは、あの康景を見ている。

昔の康景がどうだったかは知らないが、少なくとも英国でのエリザベスと康景のやり取りを見る限りでは、影響されているように思えた。

ならばメアリも、多少なりとも彼の在り方や強さに影響されたのかもしれない。

 

・・・兄のようだと慕っている程で御座るしなぁ。

 

自分たちは康景を始めとして多くの人の手伝いを得て答えを得たのだ。

ならば自分たちが手伝うのは当たり前だろう。

 

『・・・』

 

残されたノリキの吐息を、点蔵は再現しなかった。

吐息の意味は人によって様々であるし、その意味は本人のみが知るべきことである。

 

「まぁ・・・このようなところで御座ろうな」

 

一通り終えたところで、点蔵は皆に対し方をすくめて見せる。

 

「とりあえず、ノリキ殿と氏直殿が知り合いであったことは流石の皆も知らぬところでありもうしたが・・・それ以外に懸念はないかと」

 

武蔵以前のことは基本的に不問である。

己から話さない限りは、こちらから聞くことはない。それは武蔵の不文律だ(康景に関しては色々と例外的だが)。

小等部以後の付き合いが全てである自分たちは、それ以前のことをあまり気にしない。

だからそれ故に、

 

・・・背を向けたので御座ろうな。

 

彼は過去の繋がりよりも今を取った。

少なくとも末世が解決するか、卒業するまでは自分たちの側にあるだろう。

そんなことを思っていると、

 

「卒業後の進路なんて知ったこっちゃないし、何があっても知らないけど―――」

 

とナルゼが小声で、

 

「知ったら知ったで、卒業後の暇な時間使ってなんとかしてやるかもしれないわね」

 

苦笑する。

自身の横、メアリの身から安堵が伝わる。

 

皆も大体は同じ気持ちであるのがわかったからだろう。

 

そう思っていると、

 

「貴殿達は何をしているのだ?」

 

里見義康が木刀を持ってやってきた。

 

**********

 

里見義康が、各部のハードポイントにインナースーツの布地部分だけを付けた急ぎの恰好で立っている。

 

「すまんな。そちらの総長に用があるのだが・・・」

 

そう言って血走った目で辺りをキョロキョロ探すのを見て正純は、

 

・・・これが普通の反応だよな?

 

自分が初めて全裸の洗礼を受けたときは康景が居たので、彼が全裸を粛正し、「ああここってこんな感じなんだなぁ」程度に思い、今では「ああ、なんだ全裸(馬鹿)か」程度にしか思わない。

慣れって怖い。

 

普通の反応に対し、全裸を引き渡そうか迷ったがあれでも総長兼生徒会長だ。

下手に引き渡すと国際問題になりかねない。

 

未熟者『既に簀巻きにしてるしね。解くのも面倒だし』

副会長『本人は海苔巻きと言い張っているが・・・今はどこに?』

あさま『あ、今ペルソナ君が座ってるそれです! 中身入ってますって書いておけば良かったですね』

 

馬鹿の位置は把握できた。

 

危険因子たる馬鹿を固定している間に正純は、

 

「うちの馬鹿に用とは?」

「ああ、朝からぶちかましてくれたからな・・・」

 

銀狼『やっぱりしでかしましたのね』

 

まぁ予想してた通りではあるが。

正純は少し考え、

 

副会長『なぁ康景、今大丈夫か?』

 

ここにはいない康景に助言を求めた。

するとすぐに返事が来る。

 

弟子男『どうした?』

副会長『馬鹿を里見に引き渡した場合どうなると思う?』

弟子男『馬鹿がボッコボコにされる。もしくはボッコボコにされる・・・あるいは・・・ボコボコだな』

副会長『なるほど、事実上の一択か』

 

結局はボコボコにされる。

それ自体は別にどうでもいいのだが、

 

弟子男『まぁ真面目な話、トーリが変態罪で罰せられるとしてもトーリが罪の重さ(笑)を理解していない場合罰が軽くなったりするかもしれないからな。色々面倒ごとになるだけで良いことはないし、智の苦労が増えて胃に穴でも開いたら大変だから引き渡さない方向がベストな選択なんじゃないか?』

あさま『わ、私がトーリ君の面倒受け持つのは確定なんですか・・・?』

 

浅間がこちらを見てきたが、自分は目を逸らした。

そんなやり取りの間に、義康が足元の簀巻きに気づく。

 

「それは・・・人か?」

 

長寿族は鋭いなー。

 

と思いつつ、正純は咄嗟に、

 

「物騒なことを言うものだな里見義康。これは人じゃないぞ?」

「ではなんだと言うのだ?」

「武蔵上でのみ発生する怪異みたいなものだ。貴公が気に掛けるモノではない」

 

適当に言った。

 

********

 

全員がこちらを見たが、正純は気にしなかった。

 

あながち間違ってない気がするけどなぁ・・・。

 

全裸で徘徊し、人に害を及ぼすわけでもないが対応に困る人はいる。

害があるかないか解らない全裸だ。

 

「怪異ならばなんとかしたほうがいいのではないか・・・?」

「いや、全裸で徘徊するという不快感はもたらすがその程度でしかない"簀巻き型怪異もどき"だ。こうやって確保しておけば実害はないので安心してほしい」

 

なんだかめちゃくちゃな事を言ってる気がするが、正純は気にしなかった。

すると義康は肩を落とし、

 

「・・・害がないならいいの・・・か?」

 

と疑問符を浮かべながら納得(?)した。

どうやら馬鹿を狩り出すのを諦めてくれたようだ。

すると今度の関心は全裸の馬鹿ではなく、

 

「・・・北条の鬼女か」

 

横目で、去っていく北条氏直を見ていた。

 

******

 

氏直が、その場から離れていく。

鈴は彼女の足音を聞き、思う。

 

・・・元気ない、ね。

 

胸を張って前を見てはいても、足元は正直だ。

元気のなさが表れている。

どうしてそうなっているのかは、理由は解らないが結果だけ見るなら、

 

ノリキ君が、こっち、選んだ、から・・・?

 

詳しくは解らない。

しかし、氏直が選ばれなかったということが全てなのだろう。

 

「北条も大変な時期であろうな」

 

里見の人が続ける。

 

「小田原攻めが近く、その上で領内が多種族に分かれているおかげで意思統一が困難なようだ。あの身体も、弱い君主、女の君主というイメージを払拭するために先代から押し付けられたとも聞くが・・・まぁ、人間の重臣が居れば、多少は違ったのだろうな」

「人、だ、と良いの?」

「は・・・あー・・・」

 

自分の問いに、里見生徒会長は戸惑い、

 

「いや、その、誤解しないでほしいのだが、やはり極東最大の種族は人間なのだ。スポークスマンとして親しみを得られやすいのは、結果として大体が人だからな」

「たいへ、ん、そう、だね」

 

里見生徒会長との会話を続ける中、背後で何かが落ちたと騒いでいるが鈴は話に集中した。

北条氏直の気配がわからなくなってきたのにも関わらず、そちらの方をまだ気にしている辺りこの人はいい人なのだろう。

 

「北条、たい、へん?」

「Tes.」

 

思い出したように彼女は語り始める。

 

「印度諸国連合はムラサイ、いずれ小田原攻めで羽柴と繋がりのある織田に飲み込まれる。それなのに各種族は己の保身で躍起になっていたと聞く。そんな中、二十年ほど前のことになるが―――」

 

里見生徒会長は淡々と、されど大事に続ける。

 

「北条の党首の妻と、鎌倉以来の家臣の妻、両方に子が出来た。次代の北条氏直が産まれたら、重臣の子をその妻とする。松平の姫の輿入れを北条側で済まそうとしたのだな。だがそれで家臣たちは"自分たちを追い出すための作為性が高い"と詰め寄ることになってな―――」

 

その結果、

 

「結果、作為性がないことを示すために先に生まれてくる子の性別は調べないことにした」

 

*************

 

「待て、その話に確証はあるのか?」

 

正純は性別の件に引っかかりを覚えながら話を遮った。

 

「その言だと噂位は聞いたことがあるようだな?」

 

こういった裏事情は生徒会・総長連合年鑑には載らない。

しかし、情報草紙などではあくまで噂でしかないが載ることがある。

 

「本当の事なのか・・・?」

「調べて分かることしか言わないようにしている」

 

義康は一息つき、

 

「頭首が望んだ通りなら問題はなかったのだが、結果はあの通りだ。子は女だったが、頭首は後継に氏直を据える、しかしその代償として家臣団は重臣を遠ざけさせた」

「その後に氏直は自動人形の身体に・・・?」

「家臣団に対して不備のない頭首であらねばならなかったからな。十歳になった時に正式に襲名し、その家臣団も今では前の頭首以上にあの女に従っているようだ」

 

しかし、

 

「北条を去った重臣は、異国の地で家族を作り、氏直が正式襲名した時に自害したそうだ」

「・・・」

「重臣の子も、女ではなく男として産まれていてな。予定していた松平元信の娘である督姫を名乗れず、武蔵に乗船して去った姫、"乗去"もしくは"乗姫"と名乗ったそうだ。いずれも読み方としては"ノリキ"と読めるが――――――」

 

********

 

義康が告げた内容に、武蔵勢はスクラムを組む。

皆は無言で頷き合い、

 

「・・・マジで?」

「マジっぽいですね・・・自分、ホライゾン副王や第五特務がいるだけで結構レアな貴族感感じてたんですけど」

「シロ君と私も権力者側だし、御広敷もロリコンだけど御曹司だし、アサマチは浅間神社の跡取りだし・・・」

「康景様の場合ですと権力者(女性)と知り合い多いみたいですし、どちらかと言えば武蔵上層部の権力者サイドですかね?」

「フフフ、ちょっと違うわホライゾン! あいつの場合だと権力者と書いて馬鹿よ! つまり権力者(馬鹿)!」

「成程、つまり権力者と馬鹿を両立しているのですね。まるでトーリ様ではありませんか」

 

皆がまた無言で頷いた。

皆の認識がちょっと狂っている気がするが確かに康景の顔の広さは驚くべきものがあり、コネクションという意味では武蔵随一だ。

権力者という側面で康景を見るのであれば、彼の権力は"人脈"だろう。

彼の生き方の中で培ってきたもので、それは武蔵上の誰とも違うものである。

その上で馬鹿だから権力者で馬鹿と呼んでも相違ないかもしれない。

 

まぁ葵とは根本で何か違う気がするが・・・。

 

正純は同意はしなかったが否定もしなかった。

 

「まぁとにかく、ノリキ殿と氏直殿に関しては手の空いている者は助けると・・・それが事情を知ってしまった自分たちにとっては最善ではないで御座ろうか」

 

腕をメアリに抱かれる点蔵がまとめた。

それに対し異論はない。

だがここで御広敷が顎に手を当てながらひそひそ声で、

 

「なんか小生、急に勝ち組になった人間にこういうこと言われて余裕染みたものを感じてしまうのは・・・心が狭いんでしょうか?」

「ナイちゃんの予想だと、メーやんとやっすん仲いいからもしかすると寝取られフラグが・・・」

「そこっ! 聞こえて御座るよ!? 無いで御座るよ! 絶対に無いで御座るから!?」

「「・・・」」

「な、なんで全員で目を逸らすで御座るか!?」

 

メアリが唯一何の話か分かっていないようだったが、皆を尻目に義康が呆れ顔で、

 

「貴様ら余裕だな、午後から六護式仏蘭西とM.H.R.Rが攻めてくるというのに・・・」

 

それに対し、正純は苦笑い気味に、

 

「ならば里見生徒会長」

「義康でいい」

 

その申し出に奥の方で喜美が笑い、

 

「じゃあヨッシーでいいわね」

「いや待て待て・・・!」

 

義康が慌てて止めるが皆も乗っかって、

 

「じゃあヨッシーで決定だな」

「ええ、ヨッシー以外の選択肢はありませんね」

「逆にヨッシー以外の何があるんさね?」

 

義康=ヨッシーが成り立ってしまった。

一国の生徒会長をヨッシー呼ばわりするのもどうかと思ったので、正純はとりあえず話を変えた。

 

「しかしまぁ、里見生徒会長、貴女とてすぐに帰国の準備をせずにいるのは随分余裕そうに見えるが・・・?」

「この辺のことは北条も同様だが、最低でも武蔵出港まで付き合う予定だ。貿易目的という建前こそあるが、それよりも武蔵の戦力把握という情報の方が遥かに有益だろう」

 

義康は少しため息を吐いて、

 

「それに、天野康景の実戦を見れるのであれば、それだけでも付き合う価値はあるだろう」

 

悔しそうに呟いた。

自分は武術に詳しくなく疎いが、彼女の悔しさはおそらく、

 

・・・康景に対する嫉妬だろうか?

 

康景の口癖じゃないが、他人の心の内は読めない。

あくまでこれは本多正純が見た、里見義康の天野康景に対する見方だ。

 

そんなことを思っていると、不意に、義康の隣に影が来た。

二代を始めとした武闘派勢が反応するものの、まず一番にアクションを起こしたのがネシンバラだった。

彼は、

 

「あ、義頼公! ―――村雨丸写真撮らせてもらっていいですか!!」

 

義頼に対しネシンバラはオタク丸出しだった。

 

*********

 

外道共(一部を除く)がノリキの密会を覗き見している最中に里見が合流し、茶々がなにやらコソコソとやっている一方、そのちょっと前に康景はある場所に向かっていた。

正直な話、ここでは解決できない問題だと思うので行く気はなかったのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()ので行かざるを得なかったのである。

 

康景が行った場所、それは昨晩使った英国の茶屋だ。

ジョンソンに頼もうとしていたのだが、朝はどうやら寝てたらしく、仕方なくウオルシンガムに頼んだところ、「OK」の二文字でOKされた。

 

・・・それでいいのだろうか。

 

まぁそれはともかく、会う相手とは、

 

「昨晩ぶりじゃのう、なんの用じゃ? 天野康景」

「昨晩は・・・えっと、はい、ご迷惑をお掛けしました・・・」

 

義経だ。

数時間も経たない内に再会、しかも記憶が朧気で、来たところによると多大なセクハラ紛いの事故を起こしたらしい。

正直会って早々殴られるんじゃないか心配したが、なんか凄いニコニコしてるので大丈夫なんだろう。

 

何故だろう?

 

やけにニコニコで上機嫌そうな義経をよそに、康景はある事実に気づく。

佐藤兄弟がいないのだ。

 

「・・・もしかして一人で?」

「おかしなことを言う奴じゃのう? お主が呼び出したのは儂じゃろ」

「いやまぁそうなんだけどさぁ・・・」

 

一国の主が護衛も付けずに歩くなよと注意したくもなったが、これは信頼されているのか舐められているのか。

少なくとも前者だと信じたい。

 

一人で何かやってるのがバレるとまた厄介なことになりかねないが、皆は覗きに忙しいし、後で説明すればいいだろう(どう足掻いても皆に「浮気した」とかあらぬ噂を立てられる可能性が大だが)。

(覗かれている)ノリキに申し訳ない気分でいっぱいになったが、そんな気も知らずに義経は、

 

「で、なんの用じゃ?」

「あ、ああ、聞きたいことが幾つかあって・・・個人的な事で」

「個人的な事?」

 

昨晩のままになっている茶屋の席に座り、康景は重々しく口を開いた。

 

「『伊勢義盛』という男について、知っていることを教えてはもらえないだろうか?」

 

その問いに対して、義経の顔から笑みが消えた。

 




ネイトママン登場のカウントダウンが・・・。

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