疲れますた。それしか言う言葉が見つからない(脱力感)。
解らないことの多さが
胸を締め付ける
しかしそれでも
目の前のことを疎かにしてはいけない
配点(それぞれの朝)
――――――――――――
人は夢を持つ。
どのような人間であれ、人は願いを持つ。
善人も悪人も仙人も達人も、誰だろうが夢という名の願いを抱く。
どんなに些細な事であれ、どんなに重要な事であれ、
この世界に生物がいる限り、彼らはどう足掻いても
その希望は人によって千差万別であるが故に、醜悪も華美もあってはならない。
優劣善悪あらゆる区分は願いには当てはめてはいけない。
多くの夢を見てきた。
多くの願いを見てきた。
多くの希望を見てきた。
そこには人の営みがある。
そこには人の生きてきた証があった。
人の生き方は十人十色で、それぞれ違うからこそ美しい。
中でも大帝の歴史再現を行った時は、人々の動きというのが特に実感できた。
王としての立場は、人々の願いを叶える上で大いに勉強になるものだった。
人々の願いを叶え、夢を為す。
それこそが自分の存在理由であるし、それが聖譜遂行のために繋がるのであれば尚良い。
しかし、それが王の歴史再現であっても、英雄の歴史再現であっても、否、どんな人物の歴史再現であっても、一つだけ変わらない真実がそこにあった。
それは"死"である。
人の願いを、夢を、聖譜を正しく遂行する度に、人が死ぬ。
自分が
人々の夢を叶える度に、人々の夢を壊す。
人々の願いに応える度に、人々の願いを見捨てる。
人々に希望をもたらす度に、人々に絶望を与える。
誰かを救う度に、誰かを殺すことになる。
一人を救えば、別の誰かを殺すことになる。
自分が小を殺して歴史再現を為せば、それで救われる命がある。
聖譜を正しく行う装置としてあり続けるために、それに抗う者を殺してきた。
公正さを保つために人間性を捨てること。
それが自分が聖譜を為すために選んだ道だ。
それなのに、歴史の闇に葬ってきた命が頭から離れない。
蓄積された膿が、何度も繰り返す己の魂を蝕んでいく。
人々に笑顔をもたらすことが、いつからか"自分の願い"から"苦痛"に変わり、"願望"が"絶望"になる。
その重みに耐え切れなくて、その重さから逃れたくて、結局逃げ出してしまった。
ボロボロの魂が、重奏神州と神州を彷徨った。
どれくらい彷徨ったのか、どれくらいの時間を無駄にしたのかは解らない。
だが彷徨った先に、自分はある一人の人物に出会った。
それは―――、
***********
「なにを呆けておるのじゃ阿呆」
不意の呼びかけに、"僕"は目を覚ました。
否、目を覚ましたわけではなく、昔のことを思い出しただけなのだが、
「別に呆けてないよ
発言に対し、義経が赤面する。
・・・よし、赤面ゲット!
内心ガッツポーズをする。
義経が恥ずかしそうに視線を庭の方に向けたので、自分もそちらを向く。
家の縁側で、義経と二人で庭を眺める。
静寂の中、個人的な趣味で作った鹿威しの音が響く。
なんてまったりとしたひと時だろうか・・・。
普段なら義兄の頼朝が偉そうに尋ねてきたり、佐藤兄弟が喧嘩しながら何かの報告をしに来たりして騒がしいのだが、今日は本当に静かだ。
静寂というまったりを心の奥底から堪能していると、義経が、
「お主は・・・そうやって縁側で茶を飲んでると、本当に爺臭いのう」
「その爺臭いのに惚れて一緒にいることを選んだのは誰だろうねえ?」
「・・・」
義経がなにやら悔しそうにこちらを睨みつけたが、可愛いから気にしない。
「なあ、■■よ」
「なんだい?」
「お主とはそれなりに長い付き合いになるな?」
「そうだね」
「長い付き合いを以てしても解らなかったんじゃが・・・
自分の正体について、それを問われるのは多分九十三回目だ。
■■は少し困った顔を浮かべ、
「前にも言ったけど、"僕"は■■みたいなものだよ。"過去の堆積物"って表現が近いかもしれないね」
「その表現がいまいちピンと来ないんじゃ阿保」
何だろう、ここ最近名前より阿保の方が言われてる気がする。
まあそれはさておき、確かにこの表現は当事者たる自分以外は知らないし、知ってる者もいないので何とも説明しづらい。
だから■■は、人差し指を立て、教え子に説明するように、
「義経・・・君は"輪廻転生"って知ってるかな?」
「さあ、詳しくは知らん」
あっさり否定する義経に、■■は苦笑いして、
「実際はそんな言葉で片付けられることじゃないんだけどね・・・イメージ的にはそれに近いものだ」
「近い、ということは別に輪廻転生ではないということか」
「輪廻転生に近い、ある現象・・・"僕"は、ある
「・・・呪い?」
「そう
自分に掛けられた呪い。
否、誰かが悪意を持ってしたことではないので呪いとは少し違うが、意味合い的には呪いだろう。
そもそもこの呪いを受け容れている時点で自分が悪いのだけれども。
「"僕"は――――――・・・・・・」
最愛の伴侶たる彼女に、自分は"答え"を告げた。
――――――――――――――
「"僕"は――――――・・・・・・?」
何だ今の夢は・・・?
康景は動悸を感じながら目を覚ました。
一言で言い表すのであれば"奇妙"というのが妥当だろう。
夢の中で夢を見て、それを傍観するような感覚で、あまりにも不思議な感覚過ぎるのでそれが夢だったのかどうかも解らない。
夢であって夢でないもの。
曖昧なもの。
ひょっとしたら記憶の一部か何かなのかもしれないが、何とも言い難かった。
記憶なのか、それとも記録なのか。
頭の中に霧がかかったようではっきりしないのが、この胸にこみ上げてくるノスタルジックな感傷は、
・・・何なのだろう?
自分ではない自分に、何かを思うのは無駄なことだろうか。
それでも、他人事のように捉えるのは違う気がする。
今すぐに解決できる問題ではないが、いつかはなんとかしなければならない。
夢の中の人物に義経が居たのであれば、義経とはもう一度話し合う必要があるだろう。
かなり個人的な問題であるし、かなり込み入った話になりそうなので時間がかかると思う。
となれば、IZUMО滞在中にこの問題を解決するのは時間的に無理がある。
昨夜、どうやら自分が外交官云々の話をしてしまったようなので、機会は存分にあるはずだ。
「はぁ・・・」
頭痛の種が多すぎる。
いつかストレスで禿げないか心配だが、それよりも、心配なのは"彼"の
・・・呪い、か。
なんだか最近、そんな言葉を誰かに言われた気もする。
否、自分が言ったのかもしれない。
どう考えても今は答えが出ない。
とりあえず康景は身体を起こす。
すると、
むにゅ。
右手が何かを掴んだ。
柔らかく、温かいもの。
それは、
「んっ・・・」
喜美の胸だった。
しかも直接、直にだ。
更に気が付けば、自分も全裸だった。
どうして全裸なんだっけ・・・?
昨夜あったことを思い出そうとする。
なんだか思い出さなくてもいいようなことまで思い出してきた。
そう言えば昨日の夜、喜美に散々搾り取られた(意味深)のだ。
その時のことを思い出して康景は赤面し、隣で気持ちよさそうに寝ている喜美を見る。
「Zzz」
微かに寝息を立てる喜美を見て、
ま、満足そうな顔しやがって・・・!
こっちも満足したからいいけども。
喜美を見て今の日常に満足しつつ、康景は今度こそ身体を起こした。
昨日は喜美も朝練に参加してくれたが、如何せん体力がないので途中寝てた気がする。
気を遣ってもらえるのも嬉しいが、今日くらいはもうちょっと寝かせてあげよう。
喜美を起こさないようにして、康景は朝練の準備を進めた。
**********
昔のことだ。
かつて"兄"と英国に行った頃の話。
あの時の自分たちは、世界にとっての"必要悪"であるということを上役に聞かされていた。
目的を達成するためなら多くの同胞たちを彼らは物か何かのように扱っていたが、
彼らは期待を込めて自分たちを特別扱いしていたが、"兄"に対しては更に特別以上の扱いだった。
"兄"を畏れていたのだ。
子供であるはずの"兄"に敬語は当たり前、大半の奴が"兄"が通りすぎるだけで額に汗を浮かべていた。
"兄"は語ろうとはしなかったが、彼が特別な存在であることは何となく解った。
しかしそれ以上のことは自分には知り得なかった。
そんな"兄"が、ある日、英国へ自分を連れて行くと言い出した。
"兄"に次いで優秀な頭脳を持つ"色欲"や、兄を除く兄妹たちでは随一の戦闘力を持つ"嫉妬"ではなく、中途半端な人狼の力を有する"強欲"の自分。
自分が選ばれたことで『必要とされている』という実感を得られたのは嬉しかったが、今思えば不可解だ。
何故英国に同行させたのが自分だったのか?
英国に連れて行った本当の目的は何だったのか?
"兄"の考えが解らなかった。
"
その頃の"兄"には"強欲"なんてなかったはずなのに、自分より"強欲"が過ぎるようにも見えた。
"兄"はヘンリー八世と何かを話し合っていたようだが、何を話していたのか、それは自分には教えてくれなかった。
その分、メアリ、エリザベス姉妹の面倒を見させられていたのはいい思い出だが。
結局"兄"が英国で何をしていたのか、それを知る機会は訪れなかった。
英国行きは自分にとって大好きな"兄"との旅行になったのは別に構わないのだが、
貴方の本当の目的はなんだったの・・・?
それだけが未だに自分の中で理解できていなかった。
今の"兄"には、昔の記憶は憶えていないだろう。
彼と再会し、彼と
この戦いに勝てたとして、自分の望みは叶うのだろうか。
否、心配するのは間違いである。
彼との過去への固執。
彼との未来への固執。
自分のすべては、彼と共に在る。
"強欲"らしく、望んだものを手に入れて見せよう。
それが自分なのだから。
広家は長い夢と回想を終え、目を開ける。
「あぁ・・・眠い」
楽しみがあると眠れない。
まるで遠足前の子供のようだが、まぁ基本子供っぽいのでどうしようもない。
浅い眠りを繰り返し、一時間置きに起きているが、起きるたびに午後への興奮を感じるのも悪くない。
広家は胸の高鳴りを感じつつ、また眠った。
この数秒後、戦争の準備で忙しいのに全く仕事をしない広家に代わり仕事を頑張るヤンキーが鉄バットを持って乗り込んでくるのを、広家はまだ知らなかった。
********
武蔵の朝は早い。
最近は武蔵の補修作業や自主練習に励む生徒も多いので、朝三時過ぎには起きてる人も多い。
その中で康景の
そのせいか今では多くの人が康景の訓練を目撃する。
通りすがりや、康景の訓練を見て勉強しようとする者まで様々だが、その中に一人、新参者が混じっている。
茶々だ。
昨日康景に椅子に縛り付けられ身動きが取れなくなったところをなんとか解き、先程自由になったばかり。
つまり一睡もしていないのだが、
「(ふぅ・・・まさか私に放置プレイの適正があるとは)」
(色々な意味で)新たな境地に立ったので、あまり気にならなかった。
それはともかくとして康景の動きを見た。
攻撃を凌ぎ、捌くというのは、戦闘に携わる者であればある程度可能だろう。
しかし、無数の攻撃を、的確に素早く落とし、更に目隠しをしながら捌くのは難しい。
それが移動しながらなら猶更だ。
・・・流石です。
体捌き、太刀筋、どれをとっても見事だと言わざるを得ない。
茶々は恍惚の表情で訓練を続ける康景を見つめた。
この分なら、おそらく織田や羽柴とやっても乗り切れると思う。
柴田や"あの男"という厄介な相手はいるが、康景が今用いている剣は、
どうやら予想以上に彼の手に馴染んでいるようだし、問題はないだろう。
この調子で事が進めば、
一晩(放置プレイ中に)考えた結果だが、全てを思い出すのは信長に彼を合わせてからでも遅くはないはず。
彼にいつかすべてを話すと語ったが、何時かとは定めてないので詐欺っぽいけど多分殺されはしないだろう。
M.H.R.R.やP.A.Odaの戦力から考えて、創世計画が始まるギリギリのスケジュールになると思うが、それが康景を幸せにするという夢への着実な一歩だ。
頭の中であらゆるシチュエーションを想定し、考える茶々であったが心配なことが一つだけあった。
「(・・・六護式仏蘭西、ですか)」
六護式仏蘭西に関しては、茶々ですら把握しきれていない部分がある。
特に、六護式仏蘭西副長に関しては茶々を以てして謎だった。
襲名者の情報は基本頭に入れているのだが、この人物の素性がいまいち掴めない。
もしかしたら、経歴辺りは詐称している可能性もある。
顔に傷があるという理由で顔を隠しているので、人相は解らないが、もしかするとこの人物は知っている人物である可能性が高い。
茶々はこの後に控えた六護式仏蘭西との戦争を思い、自身が前線に出る可能性も視野に入れた。
とにかくこのまま康景を見ながら過ごすのも一興だが、せっかく康景が近くに居るのに声を掛けないのはもったいない。
エロゲでもこういう地道な好感度上げとフラグ建築が重要になる。
そして最終的には康景のエロCGをコンプして・・・フヒヒ。
じゃなかった。
思わず関係のない欲望が漏れそうになる。
"色欲"だものね、仕方ないよね?
寝ないで頭を必死に動かしてきたせいもあるが、自分がエロゲーマーであるのもこういう思考回路の原因かもしれない。
そもそも"色欲"が強い時点でどうしてもそういう考えが出てしまう。
自分を制御できなくなることはないが、康景が近いとどうしても昂ってしまう。
少し注意した方がいいかもしれない(自重するとは言っていないが)。
そんなことを考えていると、
「おや・・・あれは?」
前を一人の男が通り過ぎて行った。
明らかにこちらに気づいていたが、おそらくこちらを無視して行ったのだろう。
その事に対して腹は立たなかった。
文禄の役の事もありますからね・・・。
自分はいつか、今までに犯した罪を償うために地獄に落ちるだろう。
彼に殺されても文句は言えないのだが、
・・・その前にやり遂げなければならないことがあるのです。
茶々は自身の目的のため、康景に会いたいのを我慢してその場を去り、もう一つの目的を果たしに行った。
********
康景は訓練に集中していた。
今日の相手は左舷三番艦青梅艦長"青梅"。
通称"青梅"さんは自分が住んでいる艦の艦長であるせいか艦長ズの中では一番仲が良いと思う。
無論、艦長である"青梅"さんにとっては艦長の仕事をしているだけだろうが、それでも仲は良いと思う。
この後戦争があるので艦長ズは忙しいはずなのだが、こうして面倒を見てくれる"青梅"さんマジ神。
"青梅"さんには感謝してもしきれない。
今日の訓練は『武器無しの初期状態で重力制御による連続攻撃を凌ぎ続ける』という、所謂武器縛りでどこまで耐えられるかというものにしようかと思ったが、昨夜茶々に貰った剣がどこまで馴染むか試したくもなった。
いつもと同様、視覚情報を遮断して、聴覚、嗅覚、触覚でどこまで行けるか試してみたが、この剣は想像以上に手に馴染む。
否、手に馴染むというより以前から使っていた己の獲物のようで、まるで自分の手足みたいに操れる。
・・・師匠の剣よりも凄いかもしれない。
得体の知れない武装、それが"神格武装"ともなれば警戒もするが、不思議なことにこの剣にはそれを感じなかった。
康景は次々と飛んでくる鉄骨や鉄板を剣一つで凌ぐ。
今の武蔵は補修状態であるため、廃材などは利用できる。
廃材も処理でき、更には訓練、武器の性能まで確認できる。
一石三鳥くらいのお得感を感じていると、
「・・・康景様、お客様です」
「ん?」
"青梅"さんが不意に攻撃を止めた。
何事かと思い目隠しを取ると、そこには、
「やあ、天野康景―――今少しいいだろうか?」
里見義頼がいた。
*********
午前四時。
里見義康の朝は、早いはずだった。
はずだったのだが、
・・・むぅ?
今は完全に眠気に負けてしまっていた。
いつもは朝三時には起床し、教導院の周り走り込み、剣の鍛錬の後、沐浴。
そして皆を叩き起こして朝食にするのが習慣だった。
それが今は全く起きれそうになかった。
そもそも、見上げる天井がまったく見知らぬもので、布団も普段自分が使っているものではない。
どこだっけ、ここ・・・?
確か昨日、会議後にまた数人で飲み始めたところまでは憶えている。
その後は確か、
「んー・・・」
そう言えば、氏直の安い挑発に乗って自分も飲み始めてしまったんだった。
前後不覚になるほど(多分)飲んではいないが、この眠気はそれのせいだろう。
憶えている範囲だと、確か昨日飲み会の後義頼が全裸と天野康景と話し合い、武蔵に厄介になることに決まった。
つまり、今は来賓状態だ。
ならば、
「(・・・眠ってていいのか)」
と、気が緩みまた眠りそうになり、
・・・いやいやいやいや、それは流石に駄目だろう。
と自分自身にツッコミを入れて、身体を起こそうとした時だ。
「おっはようごっざいまーす!!!! モーニングサービス"早朝ファラオ"のお時間でぇぇぇぇぇぇええええええす!!!!!」
突然天井から全裸が落ちてきて、ボディプレスを食らった。
それに対し、義康は"ぎ"で始まる悲鳴を上げた。
*********
「なんだか今、艦首側の外交街から悲鳴が聞こえてきた気が・・・」
朝の鍛錬として各艦上を走っていた青のジャージのアデーレは、薄明るくなってきた空の下で多摩の方を見た。
横を走っていたミトツダイラも半目で頷き、
「大方アレでしょう、昨夜総長が里見生徒会長に"明日起こしてやろうか?"って言った際、酔ってた先方が"そ、そんな必要はない、朝三時までには必ず起きてやるからな"と言い返してましたから・・・総長もきっかり一時間待ってから起こしに行ったんですのね」
馬鹿なのか律儀なのか・・・。
否、多分両方なのだろう。
アデーレはそう思うことにした。
「まぁ、里見生徒会長の方も無謀ですよね・・・うちの連中と約束事するなんて」
隣、ミトツダイラとjud.jud.と頷き合う。
再び走り出そうとするが、ふとミトツダイラが足を止めて、
「そう言えば、康景の訓練の音・・・聞こえなくなりましたわね」
「え?・・・あ、そう言えばそうですね」
言われてみると確かに康景の訓練の音が聞こえない。
康景の訓練は朝の武蔵名物の一つであり、物好きゲフンゲフン・・・向上心の強い
余程の用事がない限り、その訓練を中断することはない。
つまり逆説的に言えば中断するような用事が出来たとも言える。
戦闘音が聞こえないなら、今は大事が起きているわけではない。
ならば大丈夫だと思うが、それを心配している辺りやはりミトツダイラは、
「・・・やっぱり気になりますか? 康景さんのこと」
「え、あ、いえ、その・・・べ、別に?」
そう言って視線を別の方に向けた。
・・・立ち直るには時間がかかりそうですねぇ。
思ったより重症らしい。
こればかりは無理してもなんともならないと思うし、時間もかかるだろう。
アデーレは苦笑いしてミトツダイラが視た方を視る。
「艦群、昨日より増えてますね・・・」
東西と南北に布陣する船影。
六護式仏蘭西は、自分もミトツダイラも関わりが深い。
それ故に複雑な気持ちもあるが、ここでやると決めた以上はやる。
だが、ミトツダイラは自分が心配していた内容とは別のことを心配していた。
「あの中に、康景を攻撃した妹という存在・・・がいるのでしょうか?」
「あー・・・どうでしょうね」
その辺のことは解らない。
実際にその康景の妹という存在を見たわけではないし、その人が塚原卜伝に似ていたという話だが、
「・・・実は自分、塚原卜伝さんってあんまり憶えていないので、似ているって言われてもピンと来ないんですよね」
塚原卜伝の名はもちろん知っている。
彼女が死ぬ前に、何度か見かけたこともある。
しかし、
「なんというか、関わりが薄かったせいもあると思うんですが、思い出そうとすると靄がかかった感じが・・・」
「そうなんですの?」
「第五特務は覚えてるんですか?」
言われ、ミトツダイラは考え込んだ。
「私は・・・小等部の頃に一度会っているので、顔も覚えてはいます・・・ですが」
「・・・?」
「それ以前に、武蔵に来る前に一度、どこかで会っている気がするんですの」
「六護式仏蘭西でですか?」
その問いにミトツダイラは唸り、
「・・・気がする程度なんですけどね」
と曖昧に答えた。
浅間辺りは確か、康景と一緒に会ったりしていた(らしい)ので、実は存在していなかった、とかいうオカルティズムなオチはない。
不思議ですね・・・。
康景には聞きづらいので、次いで詳しいであろう浅間に聞いてみようと思った時だ。
ふと外舷側の方に人影を見た。
「どうしましたの?」
「いや、あれ・・・浅間さんと第一、第六特務たちが・・・」
アデーレが示した方向に浅間、点蔵、直政がいる。
三人は外舷テラスを見ている。
しかもそれが隠れながらであるので、危ない集団に見えなくもない。
彼女たちの視線の先に居たのは、
「あれはノリキさんと、北条氏直さん・・・?」
**********
「智・・・?」
「ひぁ!?」
いきなりの背後からの声に、思わず上ずった声を上げる。
驚きながらも振り返ると、
「な、なんだミトにアデーレですか・・・てっきり康景君が来たのかと」
「智・・・一体何をしでかしましたの?」
「べ、別に悪いことしたわけじゃないですよ」
というか何故何かをしでかしたことが前提なのだろう。
とりあえずこの状況をどう説明したものか。
浅間は人差し指を立てて、
「まず言っておきますが、覗きじゃないです」
「なんで最初に保身から入るんですの?」
「いやあの、出港前に各地の歪みとか祓ったりしてたんですよ、マサの見立てもつけて。そしたら・・・まぁ、アレなんですよ」
「アレって言われても・・・なんとなくわかりますけど」
「分かっちゃうんですのね」
それはどういう意味だろうか。
「なんとなく色々祓って回ってたらノリキさんの密会現場に遭遇して、それでまあ、浅間さんのことですから無駄に情報に敏い康景さん辺りに何か聞こうとしたら"首を突っ込むな"とか言われて迷った挙句読唇術等に長けた第一特務を読んだ、と?」
な、なんか鋭すぎませんか・・・!?
実際にその通りなので、ぐうの音も出なかった。
武蔵上において
トーリの情報ならすぐくれるのに、他の人の情報は中々教えてくれない。
多分人望の差なんだろうと思う。
それにあの二人は、意外に仲が良かったりする。
その他諸々の事情もあったために康景に相談した際、
『お前さ、あんまり本人が言わない事詮索するなよ?』
と割と真面目に言われた。
それにどうやら人と話しているようだったので、協力は得られないと判断した。
始めは訝しげにこちらを半目で見ていた二人も、ついにはこちらに加わった。
連帯感という言葉よりも先に共犯という言葉が浮かんだが、浅間は気にしないことにする。
そんなことを思っていると、不意にまた背後から、
「おい、お前らそんなとこで何やってんだ?」
「あれ? 正純こそ何やってるんですかジャージで」
「私はほら、途中倒れたりで身体弱いなって実感したからな、少しでも鍛えようと思って」
その言葉に、"もし倒れたら康景に救出されるのではないか"と本当は思っているのではないだろうか、という邪推があったが多分ここに居た皆が思ったことだだろう。
特にミトツダイラは口にはしていないが、"そ、その手がありましたかっ!?"という表情をしているのが手に取るように分かった。
だが冷静に考えてミトツダイラと正純では戦闘面での康景の信頼は違うので、その展開にはならないと言わざるを得ない。
そのことは彼女の名誉のために黙っておこう。
「で、結局何してるんだ?」
「覗きじゃないですよ? 違いますからね?」
そう答えると、正純が首を傾げて少し考え、
「なるほど・・・で、どういうことなんだ?」
言いながら列に加わってきた。
浅間は三人目が加わってきた時点で悟る。
多分これまだ人増えますね・・・!?
おそらくだが、クラスの大半がこの列に加わる未来が、浅間には容易に想像できた。
久しぶり過ぎて感覚が掴めません。
体調が微妙過ぎるので大目に、大目に・・・(震え)