境界線上の死神   作:オウル

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寒い日は寒いので嫌ですけど、暑い日も暑いので嫌ですね・・・。
春は花粉症なので生きた心地がしないのでオールシーズン駄目かもしれませんね。


四話 後編

宴の終わり

 

進むべき場所、倒すべき相手

 

全てを見据えた先に

 

彼は何を見るのか

 

配点(前夜)

――――――――――――――――――

 

正純は言われた言葉に、すぐに反応できなかった。

実際に自分がそう思っていたからだ。

 

・・・私たちのせいで、か。

 

確かに康景は仲間を家族のように思う節があり、一度家族だと認識した相手には入れ込みようが凄い。

 

家族であるホライゾンを救うため、そして自分たち武蔵勢を失わせないために彼は茨の道を自ら進んだ。

そして、彼自ら"妹のような存在"と語るエリザベスとメアリに関しては、自ら英国の問題に首を突っ込んだ。

 

それだけ彼にとっての仲間、家族という存在が重いものであり、彼の行動原理であることが解る。

 

だからこそ自分たちは、彼にとっての家であると同時に足枷になっているのではないか。

 

もし、自分たちがいなかったら。

もし、康景が別の場所にいたら。

 

そうすれば彼はもっと自由にやれたのではないだろうか。

そう思ってしまうことが、《前は》あった。

 

だが、彼は武蔵を選び、葵姉を選んだ。

一度は失ったホライゾンを救い、妹のように思っていたメアリを救った。

 

康景が自分で選んだ、康景がここにいる理由だ。

 

それを第三者たる自分たちが、"自分たちがいるせいで無茶をする"など、そう考えるのは彼に対する侮辱じゃないだろうか。

少なくとも正純は、今の問いに対しそう思った。

 

「松永公の言う通り、私もそう感じたときは多々()()()

「セージュン・・・」

 

全裸がこちらを見た。

全裸だけでなく、ナルゼもこちらを見たが、それを手で制し、

 

「だがな松永公、それは康景が選んだことだ」

 

そう言った。

だが、

 

「お前たちがいるから、それを選ばざるを得なかったんじゃねえのかよう?」

「違う」

 

断言する。

 

「康景は大事なものを守りたいから、そのために戦ったんだ。康景は今までで色々なものを失ってきたが、それでも武蔵に残って、武蔵を選んだ」

 

それは、

 

「彼は仲間を愛し、家族を愛している。大事な人を護りたいと思うことは当然の感情だ」

 

そして、

 

「康景は今までの出来事を含めたとしても、様々な選択肢を選べたはずなんだ・・・でもその中で武蔵と共に在ることを選んだ」

 

ならば、

 

「ならば私は、康景の選んだ現在()を信じる。康景がしてきたことを否定することだけは、絶対にしない。康景が無茶をするなら、それ以上に私たちが強くなればいい・・・それだけのことだ」

 

言い切った。

自分なりの考えだ。

途中、なんか恥ずかしくなったがこういうのは言い切った者勝ちだと思う。

すると、

 

「・・・ニヤニヤ」

 

全裸がうざいニヤニヤ顔でこちらを見ていた。

 

な、なんだコイツ腹立つ・・・!?

 

ナルゼも恥ずかしそうにしながらも今のセリフをメモしている。

 

「な、なんだお前ら・・・」

「いやぁ、今のヤスにも聞かせてやりてえよセージュン!多分アイツ泣いて喜ぶぜ!」

「おい馬鹿、今のは絶対康景には言うなよ?」

 

するとナルゼが不思議そうに、

 

「あら?どうして?」

 

と、尋ねてきたので、正純は当たり前のように、

 

「恥ずかしいからだ」

 

と述べた。

 

***********

 

ミトツダイラは、実況通神で正純が放った言葉を聞いていた。

 

・・・凄いですわね。

 

康景を信じると、ああも素直に言えることが羨ましかった。

否、康景のことは未来永劫信じているし、その思いは変わることはないだろう。

 

ならば何が羨ましいのか。

 

・・・誰かに向けてそれを言えることですわね。

 

正純の康景に対する思いだが、なんとなく察しはつく。

 

転入したての正純に康景が武蔵のことを教えたりしてましたもの・・・。

 

だからこそミトツダイラは羨ましかった。

康景が喜美を選んでも、その思いを広言できることが、羨ましかった。

 

今の自分は多分、正純と同じことを彼に向って、他国の重役に向かって言うことは出来ないだろう。

 

康景に対して、妻として支える喜美。

康景に対して、姉として支えるホライゾン。

康景に対して、友として支える総長。

康景に対して、師として支える先生。

 

武蔵の住民は彼に対し、何らかのポジションを持つ。

 

だが、自分のポジションは果たしてどうなのだろう。

 

ミトツダイラは、そういう疑問を己の中に感じた。

自分はいったい、彼にとっての何なのだろうか。

暫くの間、自問が続いた。

 

**********

 

正純は少し己の顔に熱を感じながら、松永の反応を待った。

だが、先に、

 

「そうだぜ久秀!ヤスの奴最近姉ちゃんと毎晩イチャイチャして忙しくして()()()()なんだぜ?だからさ」

「なんだよう?」

「ヤスが信じた武蔵(俺達)を舐めんじゃねえ」

 

トーリがそう言ったことに対し、松永は笑った。

 

「言うねえ・・・」

 

そう言うのは、こちらを品定めしているのだろうか。

 

「ま、あの馬鹿が楽しそうならそれはそれでいいかあ」

「貴方は、康景のことが心配だったのか?」

「は? 馬鹿言っちゃいけねえ。俺はただ単に引っ掻き回しにきただけだぞう?」

「ならば何故、康景のことを気に掛ける?」

()()()()だからよう。もし康景を相手にするんだったら、お前らも敵だろうがよう。面白さの塊みたいな奴が選んだ連中がどんな連中か見定めに来たんだよう」

 

最初に言っただろうがよう、とまた笑う。

何かが引っかかるが、取り付く島もなさそうだ。

この人は多分、康景のことについてなにか喋る気はないのだろう。

 

「そうか、貴方がそういう立場だとしたら、こちらとしても方針が決まった」

 

正純は動く。

 

「今回のM.H.R.R.の航行禁止や包囲に関して、色々と思案を重ねたが、ようやく終りが見えた」

 

それは、

 

「貴方と一戦を交えるかどうか、もし一戦を交えるなら最後に待ち構える貴方を倒すことが、私たちの目標になる」

 

**********

 

「ほう、言うじゃねえかよう!」

 

松永が椅子に座り直す。

彼はこちらを見ながら、

 

「俺と康景をお前らが進んでぶつけさせる気かよう?やるなあ」

「いや、貴方との戦闘において、康景は()()()()()

「どういうことだよう?」

「そのままの意味だ」

 

康景の性格を考えるに、彼は知り合いや友人のことを大事にし過ぎる。

それが彼の師匠と共通の知り合いともなれば、猶更だろう。

 

そんな人たちと戦うのであれば、彼への心的負担は小さくはないはずだ。

 

だから、

 

「最終目標である貴方と彼は、絶対に戦わせない」

「俺、これでも結構出来るんだぜ?それこそ、アイツの知恵なり力なり使った方がいいんじゃねえのかよう?」

「そこのよく全裸になる方の馬鹿が言った通り、私たちを舐めるなよ?」

 

正純は立ち上がって言う。

 

「確かに私たちは、康景に頼り過ぎてきたのは否定できない」

 

だがな、と正純は続ける。

こういうことは、胸を張って、堂々と言った方がいい。

 

「康景が選んだ私たちも、強くなる。彼に背負われてきた分、彼を背負えるぐらいには強くなる」

「・・・」

「だから貴方を、康景抜きで倒す」

 

こういうことを勝手に決めて、康景は怒るだろうか。

いや、今まで背負われてきた自分たちも、彼を背負う権利はある。

 

彼自身、英国で背負われていいかどうか悩んでいたのだ。

だったら彼がどう言おうとも、背負って見せる。

これからも周囲に心配はかけるであろう康景に対してお節介を焼いても問題はないだろう。

 

武蔵が関東へ抜ける事への最終目標があるのとないのでは武蔵のモチベーションが段違いだ。

少なくともこの人の康景への関心は高い。ならば武蔵への関心も少なからずあるはず。

 

敵は織田という戦力ではなく、松永久秀という個人。

 

正純は続ける。

 

「もし戦闘になるのであれば、松永公なりの見解を持って臨んでいただきたい。武蔵は欧州へ出たときと同じルートを通る」

「―――あの時、柴田の船に突っかけられたの、面白かったろよう?」

 

あの時の航路が重なった原因はこの人だったか。

 

武蔵『あの時は随分恥をかかされたものだと統計的に判断できます―――以上』

 

自動人形もそう判断するんだなあと、しみじみと思いながら、

 

「始まりの道を、新たな力を得るために通らせてもらうぞ、松永公」

 

そして、

 

「その折には、古天明平蜘蛛を用意しておけ」

 

周囲が動きを止めた。

 

********

 

茶々との会話を終え、店に戻ろうとした康景は、正純が"古天明平蜘蛛"の名前を言ったのが聞こえ、足を止めた。

 

「(・・・古天明平蜘蛛)」

 

その名を、康景は知っていた。

それは松永の歴史再現に大きく関わってくるものである。

 

松永の居城、航空戦艦"シギサン"のモデルでもあるその茶器は、以前一度見せてもらったことがある。

極東の名茶器の一つで、神代において松永久秀が信長に謀反を起こした際、信長に『古天明平蜘蛛を寄越せば赦そう』とまで言わせるほどの名茶器であったが、自分にはその良さはいまいちピンとこなかった。

 

羽柴をはじめとする軍勢に包囲されながらも松永はこれを拒否し、古天明平蜘蛛に火薬を詰め、信貴山城天守閣ごと爆死する。

その逸話を、あの人は艦名にした。

 

松永公らしいと言えば松永公らしいが、

 

「(俺は・・・古天明平蜘蛛を用意しろ、なんてこと言えるだろうか)」

 

おそらく言えないだろう。

エリザベスの時は味方になるかもしれない可能性があったから敵対行動はとらなかったが、今回は確実に味方をするとは言えない。

だがそれでも、知り合いである松永公に、それを言える自信が今の康景にはなかった。

 

松永がラスボスとしてゴールにいることは、武蔵にとって必要な事。

だからこの会話も、武蔵にとって必要なことだ。

 

それを言えない自分は、あの場には必要のない人間だろう。

 

そう思った康景は、有事の際はいつでも店内に踏み込める用意だけして、店の中からこちらが見えない位置に座った。

 

「どうしました?」

「なんでもない。ただ・・・」

「ただ?」

「俺って甘いよなぁって、そう実感しただけだ」

 

嘆息交じりに呟く康景に、茶々は隣に座って、

 

「康景のそういうところがいいんじゃないですか」

 

とクスクス笑った。

 

「ギャップ萌えですよギャップ萌え」

 

と励ましてるのか馬鹿にしてるのか解らない感じで言われたので、

 

「うるせえ」

「あうっ」

 

そう言いながらとりあえず茶々を殴った。

 

*********

 

「面白ぇなあ、俺を追い込んで花火やらせんのは羽柴だと思ってたけどよう、それをまさか松平がやるってんだからなあ―――今までにねえよな!」

 

松永が拒絶ではなく、関心を持った声で言う。

ノリがいいなこの人。

 

「久秀、オメエ・・・調子に乗って死んだりすんなよ?ヤスが怒るぜ?」

「は!違えねえなあ!」

 

大笑いの末、やがてまたこちらを見て、

 

「面白ぇなあ、康景は面白いが知り合いには甘ぇからよう。酒井みたいなことするの極東にはいねえのかと思ってたけどよう」

「酒井学長はまだ健在だ。ならばその下の私たちも同様だ、松永公」

 

松永がゆっくり、しかし軽やかに席を立つ。

 

「関東行きの前に、三河に立ち返るのかよう?」

「ああ、三河は中立地帯として聖連がP.A.Odaに対する橋頭保としてきたが、流石に今は形を変えているだろう・・・あれから大体二ヵ月だ。今の私たちは、見ておく必要がある」

「それじゃあ、頑張ってお前らを通さねえようにしねえとなあ」

 

厄介な頑張りだな。

 

何せこの相手には武蔵のステルス航行が効かない。

柴田勝家の船に遭遇したのが松永の手によるものなら、ステルス検知が成されている。

 

その時不意に松永がカウンターに小銭を置いた。

 

「松永君!」

「なんだよう?また、お前は俺に騙されたり利用されたりしてえのかよう」

「・・・いや、だからこそ君とは戦いたくないであります」

 

三好晴海の言葉に、松永は頭を掻きながら、

 

「いいじゃねえかよう。オメェは義経殿と東行ルートで帰ればよう?―――それに、武蔵副会長、お前だって俺のところに来るって決まったわけじゃねえんだろう?」

「ああ、戦力や状況を加味した上でどうするか決める。アドリブだ」

「アドリブか・・・ははっ、全裸の目利き、お前んとこの副会長、結構おっかねえぞお?」

 

全裸がそう言われたのに対し、どこからか持ってきた衝立を使い、上ずった声で、

 

「アノデスネ、ワタシ、ドメスティックバイオレンスデスカ?―――イツモウケテテ、イツモゼンラニサレテ」

「虚偽発言やめろ」

「あひん!」

 

明らかにうざかったので、衝立ごと破壊する。

馬鹿が転がっていくのに対し、松永は手を振り、

 

「ま、一つ面白い仕掛けしてやらあ。六護式仏蘭西が攻めてくるのは明日の三時以降、ならその前には出港しねえとなんねえよなあ。でもそうだなあ―――三時十五分くらいまで待ってくんねえかなあ?」

「何故だ? 何故十五分も?」

 

問いかける先、松永公はいつの間にか店から出ようとしており、

 

「待ってろよう。絶対に面白くしてやるからよう・・・」

「おい松永公・・・!」

「ああ、あと義経公、ヒント言ったらなんねえぞう?」

「久秀、ヤスのことは教えてくんねえのかよ・・・?」

「大丈夫だあ・・・俺が言わなくともいずれ解るからよう!」

 

こちらの問いかけに答えることなく、笑い声だけ残して店を去っていった。

 

********

 

松永が店から出てきたので、康景は立ち上がった。

 

「松永さん・・・お帰りになられるんですか?」

「お、なんだお前聞いてたのかよう?」

「入りたい雰囲気ではなかったので・・・」

 

は、と笑う松永は、康景を見る。

 

「明日、三時十五分までは耐えろよう?」

「十五分も六護式仏蘭西の攻撃を耐えろと?」

 

十五分間。

その間に武蔵が受ける被害は結構酷いものになりそうだ。

 

なにせ六護式仏蘭西(向こう)には広家がいるのだから。

 

「十五分、耐える価値はありますか?」

「おう、あるぞう。それに十五分くらいだったら、お前一人でもなんとかなるだろうがよう?」

「・・・」

 

何とか、か・・・。

 

確かに言われなくともなんとかするつもりだけども。

そうあっさり言われるとどう反応していいかわからなかった。

 

「アンタは・・・武蔵の前に立ちはだかるのか?」

「最後にお前と一回ガチで殺ってみるのも一興だと思ったんだけどよう、お前んとこの副会長、結構やるなあ」

「ウチの自慢の副会長ですからね。優秀さに関しては他国に引けを取りませんよ」

 

そこは胸を張って言える事だ。

武蔵自慢の一つである。

 

「お前、結構大事にされてるなあ」

「その分、心配させられることも多いですがね」

 

心配が出来る相手がいるのはいいことだと、最近思い始めてきたところだ。

婚約して価値観が変わったのか、それはなんとも言えないが、まぁ十分こっちも心配させているので五分五分だろう(多分)。

と、言ったら皆怒るだろうか。

 

「・・・おじ様は、今回の訪問に収穫はありましたか?」

「おう、昔の知り合いに会えたりして楽しかったぞお? 嬢ちゃんはどうだったんだよう?」

「私は・・・ぽっ///」

「『ぽっ///』じゃねえよこの阿呆」

「あうっ」

 

茶々をゲンコツで殴って黙らせる。

 

ツッコミ疲れか、軽く眩暈がした。

 

「じゃあ、後は楽しくやれよう・・・後は待ち構えてるからよう」

「アンタの所に確実に行くとは限りませんよ?」

「予感があんだよなあ、オメエは俺んとこに来るって予感がよう」

 

個人的には避けたい予感だ。

戦闘経験の差は、武蔵とは歴然だろう。

個人的にも全体的にも避けたいが、武蔵が進むためには必要なことだ。

 

そう思って、割り切ろうとする。

すると、その迷っている様子を見かねてか、

 

「オメエの悪いところはなあ、思い出を引きずり過ぎるところだぞお?」

「・・・」

 

耳の痛い話だ。

ぐうの音も出なさ過ぎて呆れかえるくらいにはその通りである。

すると、

 

「おじ様? 確かにそこは康景の悪い点でもありますけど、康景を康景たらしめている部分でもあります。理解していると思いますが・・・」

「まぁそれもそうなんだけどよう」

「・・・何が言いたいんだアンタらは」

 

康景の話を、康景抜きで始めたことに少々苛立つ。

松永はその様子に笑いながら、

 

「じゃあ、俺は行くぞお?」

「・・・はい」

「ま、最後の前に一回会いそうだけどよう」

 

そう言って笑って去っていった。

 

相変わらず読めない人だったな・・・。

 

苦手意識が変わることはなかった。

師匠との思い出もあるし、それを除いたとしても、康景は松永を憎めなかった。

 

そこが悪いところなのだけれど。

 

「・・・」

 

なんだか濃い一日だったなぁ・・・。

 

これで明日、松永との言いつけを守るのであれば広家と戦うことも不可避になる。

明日も濃い一日になることは必須。

 

康景は深いため息をついた。

 

「なんだか俺の人生、濃くないか?」

「だって康景自体、キャラ盛りまくって濃いじゃないですか!? 隻眼不愛想鈍感(伊達)眼鏡スケコマシアナ〇好き変態酒弱記憶なしで強い康景がそんな心配したって今更ですよ? そこがいいんですけどねっ!?」

「誰がアナ〇好きだっ!?」

「つ、ツッコミどころそこなんですか・・・?」

 

決して穴が好きなのではない。

ただ単に尻が好きなだけだ。

 

本当だぞ?

 

康景は誰に向けたか解らない言い訳をし、茶々を殴り飛ばし、茶々から()()()()()を担ぎ、また店内に向かった。

 

*********

 

店に戻った後は、地獄だった。

まず最初に、帰り支度を始めた義経に声を掛けられ、去り際にキスされた。

しかも唇に、だ。

 

お前は欧州人かっ!

 

とツッコミたくなったが、彼女の目を見たとき、何も言えなくなってしまった。

茶化してはいけないような、義経には真面目に返すべきだという思いがあったからだ。

だから康景は、表情を崩さず、とりあえず、

 

「ああ・・・いずれまた」

 

そう言い返して、別れは済んだ。

だがその後、正純が頭を押さえながら、

 

「おい康景?ちょっとそこ座れ」

「は?」

「いいから、座れ」

「な、ど、どうした正純?目が怖いぞ」

「康景」

「はい?」

「座れ」

「・・・はい」

 

彼女に正座させられる事態に陥る。

まあ何故正座させられたかは薄々分かってはいたのだが、酔ってた時の自分は、本当にいったい何をしたのだろうか。

 

正純の説教が続く。

 

「大体お前はなあ・・・」

「・・・」

 

その様子を見ていた里見義頼と北条氏直が笑いを堪えて顔を背けている。

そこまで気を遣うならこの説教を止めてくれと、目で訴えたが無視された。

 

流石の康景も足が痺れてきたのでトーリかナルゼに何とかしてもらおうと思ったが、

 

「お、叱られている康景・・・良い絵になるわ!」

 

などと意味不明なことを言いながら同人誌を描き始め、

 

「あ、貴方はまさか"馬鹿二人"で有名なナルゼ大先生じゃありませんか・・・!サインください!」

「ふっ、私のファン?いいわ、まずアンタを同人誌にしてあげる」

 

と、理解したくないところで二人が意気投合し始めたのでナルゼは使えない。

一方のトーリは、

 

「おいおいセージュン、その辺にしとけって」

 

おお、ここに神がいる・・・!

 

と思ったのだが、

 

「どうせ帰ったら帰ったで姉ちゃんに搾り取られるんだからさw」

 

否、こいつは悪魔だった。

 

なんて恐ろしい事を平然と笑いながら言うのだろうか。

正純も、

 

「まぁ・・・それもそうか」

 

と納得し、

 

「うん、この馬鹿(女の敵)の処遇はその妻である葵姉の判断に任せるとしようか」

 

と恐ろしいことを口にする。

 

ああ、今日はホントに濃い一日だなぁ・・・!

 

義祖母に挨拶して忍者蹴って義経に気に入られて知り合いに会って仲間に正座で叱られて、さらにこの後は、愛する人からどんな報復を受けるか解らない恐怖が待ち構えている。

 

康景は内心で嘆息した。

 

********

 

関東勢との会談を終えた康景は、とりあえず武蔵の皆がいる露店食堂には向かわなかった。

理由は簡単、皆に会いづらかったためである。

 

あの後、ナルゼの記録した会議の記録を読み返し、頭が痛くなった。

 

事故の方が多い(?)とは言え、それを除いたとしてもセクハラで訴えられてもおかしくないレベルだと自負している(すべきことではないが)。

 

特に義経の股に顔を突っ込むとかってなんだろう。

 

よくあれで交渉決裂にならなかったなぁ・・・!

 

我ながら驚きである。

その他正純を膝の上に乗せたり、尻の話をした(らしい)時は耳を疑った。

先生の尻の揉み心地とか、カミングアウトにも程がある。

 

まあ揉んだことは事実だけども・・・。

 

酔うとロクでもないことしか言わない自分に呆れかえった。

 

それ以外にも色々とマズいなぁと思うことが多かったので、会いづらいのである。

 

今回、関東勢の内、里見は義康が氏直の挑発に乗りまた飲み始めて酔いつぶれていたため、トーリと義頼が話し合い、里見は武蔵(うち)に厄介になることになった。だから義康を背負う義頼を多摩迎賓館に案内し、ついでに我が家に泊るとか抜かした茶々は面倒くさくなったので迎賓館入り口の椅子に括り付けてきた。

 

********

 

「むぅ!むぐぐうぐぐぐぐぐぅ!?むががっむくぅむふぅ!!(意訳:な、なんでこんなプレイを!?わ、私放置プレイは趣味じゃないです!)」

 

*********

 

ついでに"私は変態です。放置プレイ中に付き触らないでください"というプラカードを立ててきたので、今日の内に康景邸(我が家)に来ることはないだろう。

 

茶々に貰った()()を背負い、こっそりと帰ろうとしていると、

 

「ククク、この妖怪"節操無し"め。今日は随分ヒャッハーしてるじゃない」

「げっ・・・お前は!?」

 

目の前に現れたのは、

 

「葵・喜美っ!?」

「イェス!アイアムッ!」

 

某スタンド使い見たいに反応してくれた喜美は、ノリがいいと思う。

 

「お、お前、皆と一緒に居たんじゃなかったのか・・・よ?」

「フフフ、愚旦那の考えなんて賢妻の前では無意味なのよ」

 

なんだか雰囲気が怖いと思ってしまうのは、多分気の迷いだろう。

うん、大丈夫、怖くない怖くない。

 

「クックック・・・」

 

笑いながら段々近寄ってくる喜美。

 

「クックック」

 

うん、ごめん怖いわ。

 

「いや、うんごめん喜美さん・・・なんか怖いっす」

「フフフ・・・私は別に普通よ? アンタが怖いって思ってるなら、それはアンタにやましい思いがあるからじゃないの?」

「う」

 

ぐうの音も出ないです。

 

じりじりと()()に歩み寄ってくる喜美相手に、何故か自然と正座していた。

 

「も、もう、公の場でさ、酒を飲むことは・・・いたしません」

「フフ、殊勝ねぇ」

「・・・?」

 

てっきり酷い事(意味深)をされると思ったのだが、喜美はなにもすることなく、自分の隣に立ち、六護式仏蘭西の艦群を見ていた。

 

「・・・喜美?」

「明日ね」

「え?・・・あ、ああ」

 

急な話題に、康景は一瞬戸惑いながらも、喜美の横に立ち、同じ空を見る。

 

「明日・・・アンタ、無茶するの?」

「・・・」

 

言われた言葉に、康景は一瞬返答に迷った。

だが、

 

「明日は・・・どうしても戦わないといけない奴がいるからな」

「アンタの妹とか言う奴?」

「俺が避けても、多分向こうからやってくるだろうから・・・」

 

こればかりは他の奴には戦わせたくなかった。

それに、これは自分がやらなければならないことである。

 

「決着付けて、アイツが知ってること聞き出して、終わらせる」

 

会う度に殺し合うのは、正直疲れる。

そしてその都度目を抉られたりして傷つき、喜美に心配をかけさせたくない。

 

だから、

 

「明日、アイツは必ず来る。だから、俺は俺が出来る範囲で頑張る。お前が危惧するような無茶はしないさ」

 

自分の居場所は、武蔵(ここ)であり、喜美の隣だから。

自分は一人ではないのだ。

いざとなれば頼りになる味方がいる。

そう、武蔵は個別戦力で言えば他国に引けは取らない。

 

それに今回、馬鹿(茶々)が持ってきてくれた物もある。

 

アイツさえ倒してしまえば、武蔵はIZUMОを出ることが出来る。

康景は、茶々からの貰い物を片手に、

 

「広家・・・」

 

六護式仏蘭西の艦群を見た。

 

*********

 

余談だが、康景がこの後、喜美にたっぷり搾り取られた(意味深)のは、言うまでもなかった。

 

 

 

 




御母様(例のあの人)の登場までもう少しですね。

???「主人公がどんな目に遭うのか、私、気になります!」

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