自分だけが知っていること
彼が知らないこと
言えない事のもどかしさと心苦しさが
己を支配する
配点(秘密)
――――――――――――――――――
―――ああ、こうして会えただけでも私は嬉しい。
彼が自分を視界にいれてくれるだけで、心が躍る。
彼が自分に対し、何か思ってくれていると考えるだけで、恋慕が止まらなくなる。
彼が自分に抱く感情が、"好意"でも"敵意"でも"無関心"でも構わない。
この思いはきっと、誰にも理解されることはないだろう。
自分が彼に執着する理由は幾らでもある。
彼から学んだ知識、体術。
彼と過ごした時間。
彼と育んだ絆。
そして彼から分け頂いた"
など、彼に執着する理由を挙げだしたら切りがない。
しかし、今の彼は
徐々に過去を取り戻しつつあるようだが、彼が
今はそれでいい。
思い出さなくてもいいことなら、思い出して悲しくなることならば、無理に思い出す必要はないはずだ。
少なくとも自分はそう思う。
だが彼が戦い続けることで、いつかアレは壊れ、全てを思い出す日は来るだろう。
せめて、そうなった時、康景の苦痛を少しでも和らげてあげたいと願うのはきっと、正しくはなくとも間違いでもないはず。
茶々はそう信じて、今は道化を演じようと決した。
――――――――――――――――――
康景の長く深いため息だけが店内に響く。
相当この人のことが嫌なんだろうなぁ・・・。
ただ単に面倒くさいだけなのかもしれない。
正純は辟易した様子で頭を抱えた康景を見て思った。
その様子を知ってか知らずか、茶々はハイテンションで、
「康景!?どうしたんですか康景!?テンション低いですよ!?どこか御身体の調子が優れないのですか!?」
本当に顔色が優れない康景は、
「お、お前の顔見たら急に吐き気が・・・」
「え?それはきっと恋ですよ!私の顔見て心臓が高鳴り、発汗量が増えて顔から血の気が引いたんですね解ります!」
ん~・・・なにか違くないか?
詳しくないから何とも言えんが。
嫌そうにしていた康景の顔を見ると、彼の額には次第に青筋が浮かび、
「そうか、これが恋なのかぁ・・・じゃあお前の顔を見なければこの嫌気も治るわけだな?」
「そ、そういう返しは予想してなかったあだだだだだだだだだ!!!」
康景が茶々の顔にアイアンクローを食らわせる。
康景の指が茶々の顔にめり込みそうな勢いで絞まる。
その場にいたほとんどが「うわぁ」と引き気味に見る中、松永公は、
「いやお前ら仲いいなあ、嬢ちゃんに好かれても羨ましくはないけどよう」
康景と茶々を見て笑った。
正純にはこの三人の関係性は解らない。
二人は康景に対して親し気な感じだが、康景は二人を警戒しているように見える。
茶々がアイアンクローで身悶えている中、無視されていると感じたのか義経は少し苛立った様子で、
「そっちの小娘は知らんが、お主のことは覚えているぞ・・・まぁ思い出すのに時間はかかったがのぅ。酒井の一件以来じゃな」
久秀に対しそう言った。
対する久秀は三好晴海の方を見て、
「おいおい、こりゃ殺されちまうなあ・・・政康、義経殿を納めさせてくれんかよう」
「今は晴海の方を名乗っているであります」
しかし三好晴海は視線を逸らした。
すると今度は、
「じゃあ康景、お前が義経殿をなんとかしてくれよう」
「・・・松永さんがここに来た目的をさっさと話してしまえばいいのでは?」
「ちょっ、ちょっと康景!?か、顔に指がめり込んでるんですけど!?そろそろ本気で痛くなってきたので離してもらえるとありがただだだだだだ!!!」
アイアンクローは続行らしい。
茶々の叫びは無視して、松永が、
「は?目的?そんなもん引っ掻き回し決まってんだろうがよう。それが俺の得意分野なわけだしさあ」
・・・読めないな。
正純はそう感じた。
松永久秀
実質的には自分たちより二世代ほど前の人だ。
松永久秀は十三代将軍、足利義照を暗殺し、三好家重臣たちと対立した後、彼らが隠れ潜んだ東大寺大仏殿を焼き払った。
しかしそれについては諸説あるはずなのだが、この人はそれを
何者も恐れず、悪びれない。
旧来の思考を壊して、新しい時代を壊して作る。
時代の先駆者だ。
その人がいったいなぜここに・・・?
そういう疑問が浮かぶ中、全裸が奥から出てきた。
「あ、誰かと思ったら英国の時の綺麗な姐ちゃんと・・・サークル"冗談"の久秀じゃん!?」
********
名を呼ばれた久秀は厨房の方に出てきた馬鹿を見た。
馬鹿を見て一瞬、動きが止まったが、ややあってから、
「・・・ああ!毎年来る目利きのガキかよお!」
「ああ、そういえばトーリ、松永さんのとこのエロゲも買ってたのか」
「そうそう、コイツ高価な品の目利きとかてんでダメなくせに、イベントで遊んだやつレビューすると後で確実にバカ売れしてよう!」
・・・金がなくて生徒会費でエロゲ買う奴だからなぁ。
その分厳選はするだろう。
その事をツッコもうかと思ったが、流石に他国の重役にそういう国の汚点をわざわざ教えることはないだろう。
康景は一旦口を開きかけた口を噤んだ。
「だけど久秀、オメエ何しに来たんだよ?直近のイベントなんざ今の時期ねえじゃん」
「は?・・・ああ、知り合いに
「そういやあそこのでかい鬼のおっさんと、小さい義経と・・・あ、あとヤスも知り合いか」
「まぁ俺は・・・師匠が生きていた時に何度か会ってるんだよ・・・
そう言って自分がアイアンクローをしている茶々を見る。
そろそろ放してやるかと思い茶々を見ると、
「はぁはぁ・・・康景の手ぇ・・・おぉきぃ///・・・はぁはぁ///」
「うえ」
思わずぎょっとして手を離した。
何に興奮しているか解らないが、へたり込んでビクンビクンしている。
なんかコイツ変態度が増してるなぁ・・・。
ヘタレが進歩したもんだと変な関心を抱いていると、松永がカウンターの方に座り、
「俺の見立てじゃあ、東宮を積んで大和を通過するって感じかよう?まぁ大体その辺は羽柴や竹中、あとはそこの茶々が予測した通りだわなあ・・・だからなあ、そんときゃあ距離的に一番近い場所に勢力保っている俺が武蔵撃沈を担当すんだよなあ」
鳥竹串を食いながら、
「俺なら東宮積んでようが帝の意向だろうが無視したって問題ねえわけだあな・・・だからよう」
笑って、
「見に来たってわけだあな・・・
そう答えた。
これがこの松永久秀という人だろう。
だが康景は違和感というか、何かが足りないような感覚があった。
松永久秀という人は、戦国という時代における草分けだ。
自分にとってこの人は、将軍殺しや焼き討ちなどのイメージが強い反面、文化人としての側面も強い。
茶器の目利きを始めとし、クリスマスを極東で初めて祝った人でもあり、武蔵の設計にも関わっている。
その人が、ただ面白いから試すというのは些か理由としては足りないような気がする。
「松永さん、アンタにとっては皇族だろうが何だろうが討ってしまえば変わりないけど、『
「おいおいお前、前より怒りっぽくなってねえかよう?・・・お前が強いのは知ってるけどなあ、お前のことだから俺を
「・・・さあ、それはどうだろうな」
ピリピリとした雰囲気が流れる中、その沈黙を破ったのは、
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!?ちょっと待ってください康景、松永おじ様も!ここで問題を起こすのはやめてくださいよ!?そしたら私がここに来た意味がなくなるじゃないですか!?」
さっきまで何故か知らんがビクンビクンしてた茶々だった。
彼女は慌てて松永と自分との間に割って入ってくる。
さりげなくボディタッチされたのでぶん殴ってやろうかと思ったが、そう言えばこいつの話を聞いてなかったので、
「ああ、そうかお前のこと忘れてたよ・・・存在を」
「あ、相変わらずこの仕打ち・・・!流石にもう慣れてきましたけどね!?」
「で、お前はなんで来たの?」
「・・・前に言ったじゃないですか、
亡命
その言葉に、康景と正純は顔を見合わせた。
*******
正純はM.H.R.R.の大物である人物が亡命を口にしたことに驚きを隠せず、理解が追い付けなかった。
思わず康景と顔を見合わせてしまった。
え、亡命?・・・は?
茶々という人の人となりなど正純には解らない。
英国での会議の際、前田利家と共に乗り込んできたのを見ただけだ。
その後に何か話をしていたようだが、康景から『変なのに勧誘された』とした聞かされていない。
どうやら余程天野康景という存在に入れ込んでいるようだが、どうなのだろうか。
"茶々"という存在は浅井長政と織田信長の妹、御市の娘の一人。
後に羽柴の側室になり、後の歴史再現にも大きく関わってくる。
歴史再現上、信長の血筋であり、M.H.R.R.内でもそれなりに地位は高いはず。
そんな人が何故今亡命を希望するのだろうか。それもこんな時期に。
「あ、え、っと・・・私は武蔵副会長、本多正純だ。その亡命の申し出は、正式なものだと受け取っていいのだろうか?」
「ええ、構いませんよ。松永のおじ様はこんなんですけど、私の意思は明確・・・武蔵に敵対する意思など皆無で、本当に亡命したいと思っています」
何だろう、胡散臭い感じがある。
康景に対しては妙な態度が多いが、その他への振る舞いには優雅さや気品を感じる。
まるで康景とその他への態度を割り切っているようにも見える。
正純はこの人を不可解だと感じた。
「亡命の理由を、聞いてもいいだろうか?」
「理由?理由ですか?・・・そうですねぇ」
すぐに言えない辺り、この場では言えないようなことなのだろう。
今は六護式仏蘭西とM.H.R.R.に挟まれている状況だ。
松永公と思惑が違うなら、一応慎重に見ていると取るべきか。
「私は・・・私の
「役割・・・?」
「・・・」
茶々はそれ以上答えようとはしない。
・・・この時期に、わざわざ松永公を利用して亡命?
M.H.R.R.と六護式仏蘭西が武蔵を取り囲んでいる今を狙ったのには理由があるのだろうか。
いや、彼女が松永公の性格を知っていたためにこうして今の時期を狙ったと考えることもできるが、そもそも何故亡命するのだろう。
その理由が解らない。
彼女と知り合いだという康景を見る。
康景は康景で、眉間を押さえて唸っている。
どうやら康景にも理由は把握できていないらしい。
「・・・」
茶々はと言えば、食い入るように康景を見つめている。
なんだか解らないが、妖精女王の件といい義経の件といい茶々の件といい松永の件といい、やたら康景を中心に出来事が回っている気がする。
この交友関係の幅の広さは正直異常だと思う。
「あ、そうだ・・・要求ってわけじゃないんですが、一つお願いが」
「なんだ?」
この人の動向の理由を考えていると、不意に彼女が尋ねてくる。
彼女は見事なまでの笑顔を作り、
「少しだけでいいので、康景と
頭を下げてきた。
*******
店内にいた全員が康景を見た。
その視線がなんだかとても痛かったが、康景は無視して茶々と共に店を出た。
「まさか本当に来るとはな・・・驚きだよ」
店を出たところで、康景は茶々にそう言った。
茶々はなぜか済まなそうに、
「本当ならもっと早く
「制約?あの女?・・・なんの話だ?」
「まぁそれはこっちの問題なので気にしないでください」
気にするなと言われて気にしない奴が果たしているだろうか。
茶々は話を逸らすように、
「それにしても、義経公・・・パッと見ただけですけど、楽しそうでしたね。貴方を見る時メスの顔してましたよ」
「お前は何を言ってるんだ?・・・ってかなんでそう思った?」
「女の勘です」
「アバウトな意見だなぁ」
「いえいえ、意外と馬鹿に出来ませんよ?女の勘って・・・身に覚えがあるんじゃないですか?」
「怖い事言うなよ」
そういうフラグ立てると後でとんでもないことになりそうだから、やめてくれ。
********
一方その頃、
「クク、ククク・・・!あの馬鹿の顔の広さには舌を巻くわ!今度からは
「き、喜美!?落ち着いてください!発音一緒なので文字起こししないと解らないです!多分どうせいつもの一人シリアス展開になるだけなんでみんなが期待しているようなことにはならないです多分!」
「「煽るな!?・・・っていうか巻き込むな!?」」
浅間が言うのに対し、皆が"巻き込むな我関せず"を貫く。
フラグは成立していた。
********
「・・・っ」
「ん?どうしました康景?」
「なんか頭痛が・・・いや、いい」
康景は深くため息をつく。
酔っていた時のことは覚えていないが、義経に対して懐かしく思い、言ったことは間違いはない(と思う)。
だからそのことはいいのだが、それ以外で何かマズいことはしてないだろうか。
それが心配だった。
「まぁとにかく、義経公と接触されたのはよかったと思います」
「ああ、今回の接触は武蔵にとって大きな意味を持つだろうな」
「・・・いや、
「はぁ?」
よく解らん奴だ。
昔からよく解らないことを連呼したり、奇声を上げながら抱きついてきたり、ストーカー染みた通神文を送ってきたりしてた。
通神文に関しては浅間にお願いしてお祓いとかしたりもした。
だから面倒くさくて苦手だった。
英国で会った時もそれは少しも変ってなかった。
だからこそ、この女が何を考えているのかわからなかった。
何故この女は自分に拘るのか。
その理由だけがいまいち掴めなかった。
昔からの付き合いとは言っても、ここ暫くはやり取りもなく、久しぶりの再会だ。
ここまで自分に拘るような、そんなきっかけはなかったはず。
「茶々・・・何が目的なんだ?」
「それは・・・すみません。まだ言えないんです」
「・・・お前の言う役割ってのには・・・俺が関係してるのか?」
「・・・」
だんまりだ。
ならば、
「目的は話せない、だけどここにおいてくださいって?都合よすぎるだろう、流石にさ」
「で、ですよね・・・」
「もしお前が武蔵に仇なすような存在なら・・・今、ここで」
「・・・っ」
茶々の首に手を掛けた。
本気でやっているわけではないが、どうも信用するには不十分過ぎる気がしたのだ。
こちらの手が茶々の首を絞めているのにも関わらず、茶々は少し苦しそうにしながらも笑顔で言った。
「信用してください、なんて都合の良い事は・・・言えませんよね」
その目は真っすぐで、濁りなく、
「ですがお願いします。信じてもらえなくとも私は・・・貴方のために尽くしたいのです」
そう言った。
あまりに真っすぐ過ぎるその意思を、康景は無下にすることがどうしてもできなかった。
「・・・お前を
「はい、この身は貴方様のために」
最近、人に甘くなった気がする。
康景は己の甘さに呆れつつ、茶々の首から手を離した。
茶々は首を少しさすった後、すぐにこちらに跪き、首を下げる。
彼女の様子は、傍から見れば王に対する騎士のようにも見える。
「貴方への献身の理由も、創世計画のこともいずれ全てをお話しします。ですが今はお待ちください。貴方を後悔させません」
茶々がこちらの左手にキスしてきた。
ここまでくると、怪しいというよりは不気味さすら覚える。
しかし、何故か己の中で"こいつは信用できる"と何かが訴えかけてくる。
康景はその"何か"を信じることにした。
武蔵にとっての味方は、多い方がいい。
優秀な人間なら猶更(優秀さの方向性は義経とは違うだろうが)。
もしこの女が、武蔵の情報をM.H.R.R.やP.A.Odaに流すようであれば、その時は処理すればいいだけだ。
茶々はこちらの左手にキスし、ゆっくりと立ち上がるが、手を離しはしなかった。
彼女は自分が左手に填めている指輪をなぞりながら、
「・・・御結婚、されたんですね」
「いや、まだ婚約段階なんだ、式は挙げてない」
寂しそうに見えるが、どこか嬉しそうにも見える表情を浮かべて、
「おめでとう御座います。本多正純さんと末永くお幸せに」
「ん?」
あれ?
「待て、正純?」
「え、御婚約されたのは本多正純さんですよね?武蔵副会長の」
「確かにアイツは副会長だが・・・婚約相手は違うぞ?」
「・・・え?」
何か情報に齟齬があるらしい。
確かに正純とはよく一緒にいるし、武蔵の情勢や他国の情報を話し合ったりする際に二人で会ったりしている。
だが、なんで正純だと茶々は思ったのだろうか?
「どうして正純だと思ったんだ?」
「あ、いや、その・・・M.H.R.R.では康景と武蔵副会長が仲が良いと専らの噂でしたので・・・」
「・・・?」
M.H.R.R.の情報網はいったいどうなってるんだ・・・?
M.H.R.R.に知り合いは
そもそも求婚したことは仲間内には話したが、噂になるようなことは他国の相手には話していない。
ならばいつ、自分と正純がそういう仲になるという噂になったのだろうか。
不思議な国だなぁと呆れるというか、他人事のように康景は感じていた。
茶々は未だに不思議そうに、
「康景の妻が本多正純ではない・・・?では
ボソボソと呟いている。
「おいどうした?」
「・・・その、御婚約相手の名を、窺っても?」
「・・・葵喜美。うちの総長、葵トーリの姉だ」
「・・・!」
********
茶々は告げられた名前に驚きを隠せなかった。
―――私が知っている情報と違う・・・!?
彼らが嘘をついたということだろうか。
いや、それはあり得ない。
彼らは■を大事にしているし、中でも康景の■である彼は、康景を崇拝していると言っていい。
その彼が言う情報であれば、嘘はないだろう。
ならば、知る情報と違う展開になっているということだ。
もしかしたら・・・。
自分が思っている以上に、状況は切迫しているのかもしれない。
自分の様子がおかしいことに気づいた康景は、
「・・・俺の嫁さんが喜美だとなにか都合が悪いのか?」
「そ、そんなことはありません。ただ、少し意外だったので」
「・・・はぁ?」
こちらの様子を訝しげに窺うも、深くは追求してこなかった。
「・・・そろそろ戻りましょう。康景、あんまり既婚者が年頃の未婚女性と一緒に居ると、あらぬ噂を立てられるかもしれません」
「・・・お前が二人きりで話したいって言ったんだろうが・・・あぁん?」
「・・・」
「・・・」
「「・・・」」
沈黙が続く。
あ、まずい・・・(汗)。
選択肢を誤ったか。
今の段階で康景の嫁について話し合うのはタブーだった(のを失念していた)。
またアイアンクローを食らいかねない雰囲気だったので、茶々は急いで話を変えた。
「あ、ああ、そういえば忘れてました!」
「・・・あ?」
「や、康景にお土産があるんですよ・・・!」
「はぁ・・・お土産ねぇ」
そう、康景のためにM.H.R.R.から極秘裏に盗んで、持参した神格武装。
ある理由からとんでもなく厳重に保管されていたので持ち出すのに苦労したが、
「お土産・・・お前がさっきから背負っているそのその大きめのケースがそれか?」
「そうです。持ってきたはいいんですが貴方に会えた喜びで忘れてましたよ」
「・・・」
半目で睨まれる。
冗談ではなく、浮かれてたのは本当なのだが。
とりあえず、これ以上康景を怒らせるととんでもないことになりそうなので茶々はケースを開けた。
「さぁ康景、御収めください。これは・・・
********
一方、康景と茶々が不思議な会話をしていた頃、店内では松永と武蔵勢が対峙していた。
「相変わらず仲間大事にし過ぎんだろうがよう、康景は・・・」
「貴方は、康景を知っているのか?」
口ぶりからすると、それなり、というよりはかなり親しいようにも聞こえる。
「卜伝の阿保とは前々から知り合いだったからよう、
「・・・相当親しいように聞こえるが・・・貴方はひょっとして、康景が知らない康景のことを知っているのか?」
鎌をかけてみる。
この人も茶々という人物も、康景という人間に対して何かは解らないが気遣っているというか、腫れ物に触れるような感じがある。
あくまで自分の勘で、そんな感じがするだけだが。
しかし、ナルゼも似たようなことを感じたようで、彼女もこちらに視線を送ってきた。
対する松永の反応は、
「おう、知ってるぞう。アイツが忘れてることも含めてなあ」
やはり、睨んだ通りだ。
だがそれを隠そうとしないのが気になる。
「貴方は、康景に記憶のないことを知っていて、それを黙っていたのか・・・?」
「・・・黙ってようが何しようが、いずれはアイツ自身が自分で気づくことだからよう」
いずれは気づく。
それはどういうことだろうか。
松永は言葉を続ける。
「いやそれにしてもよう・・・お前らも大変だなあ」
「何がだ?」
「康景短気で世間ズレしてるところあるからよう、ヤキモキさせられること多々あるんじゃねえかよう?」
・・・それは否定ないが。
いや、出来ないのだが。
同じことを思ったのかナルゼがこちらの顔を見てきた。
あえて何も言わなかったが、松永はその様子を見て笑う。
「何故笑う?」
「いやあ、お前らの様子見てると大分心当たりが多そうで可笑しくてよう」
どうしてそういうことを言う・・・?
康景の人となりを完全に理解しているかのような言い方に、少しだけムッとする。
すると同じことを思ったのか馬鹿が松永に、
「おい久秀・・・」
「なんだよう」
「オメェ、ヤスの過去知ってんのかよ?」
珍しく真面目なトーンで聞く。
さっきも自分が松永に対して聞いたことであるが、
「ああ、知ってるぞう?」
「・・・なんでさっきからはぐらかすんだよ?ヤスの過去って、そんなに言えないようなことなのかよ?」
「・・・」
確かに、それを言えないという理由は気になる。
いずれ知れることというのは、どういうことか、
「松永公、"いずれ気づく"ということは、それは"今"知っても問題はないということか?」
そうと取ることも出来るはずだ。
松永は笑って頭を掻きながら、
「・・・変なところ突いてくるなあ」
「貴方と茶々は、どうやら康景に思い入れがあるようだが、それは何故だ?」
「んー・・・」
困っているようにも見えなくもないが、読めない。
康景が面倒くさそうにする理由がなんとなくわかった気がする。
「別に言えねえわけってのもねえんだがよう・・・」
「それなら・・・」
「でもまぁまず聞きてえんだがよう」
松永がゆっくり正純を見た。
「お前らがいるから康景の奴が無茶するって、そう思ったことねえかよう?」
会議は次で終わりますね(断言)