過去は背後からやってくる
それが望むものでもそうでなくとも
自身が作ってきた道は
消える事はない
配点(介入)
――――――――――――――――――
私は夢が嫌いだった。
夢を見るのも、夢を持つことも嫌いだった。
昔
しかし、肝心のその人自身が、誰よりも"人として生きられない"ことに絶望し、夢など持ち合わせていなかったことを私は知っていた。
人の願いによって
彼を支え、彼を調整する役割をになってになっていたあの女と、彼が■■した■の一つの生の間で、彼が最初に妻に迎えた女以外、彼と対等でいられるものなどいなかった。
しかし、調整者たる女は"紛い物の人狼"、最初に妻に迎えた女もただの長寿族。
■を繰り返す怪異である彼は、彼女たちと同じ"人としての生き方"は出来なかった。
その使命を果たすために、自分を殺し、他人を殺す。
その使命を全うする度に、彼の心は死んでいく。
彼に残ったのは、死んでいく心と、人として生きられない絶望だけ。
彼の苦悩を知りながら、彼がされてきたことを知りながらも、私は何もできなかった。
だが彼も彼で、傍にいた私たちを頼ることもしなかった。
だから、そんな彼が語る"夢"が嫌いだった。
彼自身のことは好きであったが、彼の語る"夢"は空っぽだったのだ。
―――だからこそ私は、"夢"を
彼が持てなかった"願い"を、私自身が持つことにした。
『■■を幸せにする』
そんな夢だ。
それが私の願い。
彼が幸せになってくれるなら、
彼が幸せになれるのであれば、過ごしてきた教導院も、私を信頼してくれた仲間たちも切り捨てたっていい。
私の
だが、一つだけ、私には心残りがあった。
"彼ら"を裏切るような真似をしておいて、今更こんなことを思える義理はないのだけれど。
それでも、思わずにはいられなかった。
康景が彼の■たちと争うことになることだけは、どうかなりませんように・・・。
身勝手な思いだが、そう感じずにはいられなかった。
――――――――――――――――――
茶々は、オリオトライを見た。
「どうも、
わざわざビアガーデンの一角を貸し切り、二人きりで相対する。
オリオトライ・真喜子。
この人のことは解らないが、正体は知っている。
自分は天野康景の"過去"と、彼女は天野康景の"■■"という接点を持ち、しかも互いに彼を
だから彼女は自分にとっての敵ではない。
敵意はないことを示すために、茶々は持ち物を床に全て置き、両の手の平を見せる。
「ここには戦闘しに来たわけではありませんよ・・・第一、貴女と戦ったところで私が負けるのは目に見えてますからね」
「なら野暮用って何?」
明らかにこちらを警戒しているオリオトライを見て苦笑する。
茶々はわざとらしくため息をついて、
「さっきも言いましたように、康景のことで幾つか話があるだけです・・・そう、確認したいことが幾つか、ね」
「確認・・・?」
「そうです・・・」
それは、
「康景は・・・彼は、
********
正純は里見義康が全裸と遭遇して叫んだのを見て、思った。
「普通はああいう反応するのが一般的なんだよな?」
「アンタは慣れるまでが異常に速かったわね。二回目にアレ見たときは『あぁ・・・そう』って感じだったものね」
そう思うと意外と自分の適応能力が高いことに驚くが、それならば皆と距離感があったこの一年は何だったのだろう。
正純は悲しくなるので考えないことにした。
全裸が何食わぬ顔で厨房に戻っていくのを尻目に、卓に広げられた表示枠を確認する。
平面に広げられた表示枠には関東一帯の地図が広がっている。
「里見教導院のある房総半島、世界側の李氏朝鮮と安房の国はこの時期、戦乱の土地だな?」
「Tes.」
向かいに座る義頼が頷く。
「房総半島とはいえ関東の一部だ。この時期はまだ松平の確立性がまだ弱い故に、北条、武田、上越露西亜や結城などの諸勢力が侵攻してくる地域でもある。漁業が盛んな土地だからな、良い土地であるとは思う」
「そうね、朝鮮半島は李氏王朝時代になるまで様々な国の興亡が激しいのよね。まぁその後の・・・」
一息して、卓を見渡し、
「この話の意味は、ここにいる皆なら理解していると思うけど・・・」
ナルゼの言葉に続くように義頼が、
「そうだ・・・羽柴による朝鮮出兵が起こる」
と繋げた。
「羽柴の朝鮮に来る機会は三回。一度目は北条を攻め落とすための朝鮮出兵、二度目は安房の国を攻めるための朝鮮出兵だ・・・一番厄介なのは羽柴が歴史再現の名目で二回、朝鮮出兵を行えることだろう」
*******
義頼がそういうのに対し、正純が続く。
「羽柴は何らかの理由を口実に朝鮮出兵を行うことが出来る。しかもそれが聖譜記述を理由とするならば聖連も手出しは出来ないし、関東、江戸をいずれ本拠地として迎える松平は確実に羽柴による二度の危機を迎える・・・ということだな」
今の羽柴は、毛利攻めや、現在IZUMОに展開している残存勢力もあり、そちらに割ける戦力はないはずだが、それらの出来事はいずれ必ず起こる。
いつかは越えなければならない壁だ。
「だから、里見、北条は武蔵に力をつけろというのだな?」
正純の言葉に対し、氏直は肯定として首を縦に振り、
「北条家はいずれ羽柴に滅ぼされます。推測ですが、武蔵とP.A.Odaが敵対していた場合、小田原攻めが最初の直接対決になるのではないかと・・・」
「そうか・・・想定はしていたことだが、考えたくはなかったな・・・そうなった場合、構図的には"武蔵対羽柴とその配下"になるんだろうなぁ」
正純は深いため息を吐く。
この件は、
康景を見ると、彼は今長椅子で寝ている。
日頃の疲れもあるし、今日はその上で酔ったのだからしょうがないことだが、康景が酔ったらロクでもないことになるのも理解できた。
それを考えると内心複雑な気分だったが、義経の感情を動かした功績もあるので酔った時の発言は大目にみよう。
本当は大目に見たくはなかったが、彼の疲れ切っている寝顔を見たら、なんだか叱る気も失せてしまった。
はぁ・・・。
正純は内心、先程よりも深いため息をつく。
武蔵への貢献や、彼がそのために背負った覚悟。
彼が武蔵にとって全裸の方である馬鹿と同等クラスで中心的な人物であり、三年梅組にとっての恩人であり、自分にとって居てもらわなければ困る人物である。
正純はそこまで
「・・・」
あれ?
私にとって居てもらわなければ困る人?
ん?
そう思ってしまったことに思わず赤面した。
「どうかされましたか?」
氏直がそう尋ねたことに対し、正純は慌てて、
「いや、なんでもない!・・・気にしないでいい!!」
そう取り繕ったことを氏直は理解していなかったようだが、正直それでいいと思う。
今はそんなことより、
「里見義頼・・・貴方は、羽柴やP.A.Odaのような並み居る諸大国と自国だけで相手をしなければならないというプレッシャーと共にいたのか」
と義頼に問いかけた。
義頼は苦笑交じりに、
「・・・それは―――」
と答えようとして、
「そのような時のために、姉上が八犬武神を作り、それに続いて八房と村雨丸を作った。一国の・・・一教導院の戦力として各国に抵抗するために」
酔い覚ましとして刀削麺を食べている里見義康が答えた。
彼女は器を置き、胡椒を振りながら、
「さらに初陣で、姉上は"八房"の性能を証明するため・・・そこの氏直の航空艦を三つ、落として見せ帰還した。だg」
と言いかけたところで、動きを止める。
その原因は、厨房から山盛りワカメを差し出してきた全裸で、
「俺の奢りだぜ?ラーメン用のトッピングだ」
そんなことをほざいてきた。
正純は面倒くさくなり無視しようと思ったが、とりあえず他国の手前、相手だけはして、
「お前、それ股間とかに乗せたりしてないだろうな?」
「オメェはよぉ!?なんでまず先に俺を疑う!?確かにチンポジ合わせるのに
馬鹿が馬鹿なことを言い出したのでジト目で睨む。
すると、
「食べ物を粗末に・・・」
と、どこからか声が聞こえ、その次の瞬間、
「・・・するなっ!」
「ほんげぇ!?」
康景が叫び、馬鹿の顔面に胡椒の入った瓶がめり込み、いきなり視界から消え、店の奥で物凄い音がした。
「「!?」」
全員がいきなりのことで何が何だかわからなかったが、康景の方を見ると、
「zzz」
胡椒瓶を投げ終えた態勢のまま寝ていた。
全員が唖然とした様子で康景を見ていると、康景はまた長椅子に横になり、
「zzz」
また眠った。
義康は一連の流れを信じられないものを見るような目で見た後、顔を引き攣らせ、
「あ・・・あの"八房"は、里見の抵抗の意思・・・その象徴なのだ」
伏し目がちに言う彼女に対して、義頼は苦笑して、
「まぁ・・・そういうことだ」
里見にとっての"八房"は抵抗の証。
そう言うことなのだろう。
正純は、思案する。
そして、
「義経公・・・話をしたい」
視線だけを義経に送る。
出来る事ならこの義経という存在を味方につけたい。
先程、康景が"三方ヶ原の件"をなんとかしてくれたのだ(やり方に納得はしていないが)。
ならば副会長として、協力を取り付けるくらいのことはしなければな。
********
正純は思考をゆっくりと動かしながら、
「義経公・・・ある事柄についてだが、貴女に意見を求めたい」
そう問いかける自分に対し、義経は小豆パフェを食べる手を止めず、
「何故わしが貴様に対して意見を言わねばならんのじゃ。それになんじゃある事柄とは、もったいぶって」
「jud.――――――末世についてだ」
四百年以上、一つの国の頂点であり続けた経験を持つ彼女は、仲間に引き込みたい。
そのための餌はあるし、方法も解っている。
うちの馬鹿どもが示したのだから、自分も後に続こう。
普通起こり得ないことに関しては、いくら不感となった義経でも反応を示す。
しかも康景とのやり取りに関しては義経と佐藤兄弟が何やら思うところがあったようだ。
さらにここで今、武蔵が現状、大きな指針として向き合わなければならない問題があり、それを提示すれば、行ける。
それこそが"末世"だ。
それにもし義経が末世に関して何か情報を知り得ているのであれば、ぜひとも聞いておきたい。
「末世の解決は、三河で元信公が初めて世間に対して明確にした事柄だ」
人命や政治、国家という枠組みの外側にあるもの、それが末世。
ならばその末世の解決策という問題は義経にとっても初の問題になり、何らかのリアクションは期待できるはず。
「かつて元信公は、"滅びは全世界に対しての最大級のエンターテイメント"だと語った。元信公が三河で行った授業は、貴女をこの世界の生徒たらしめたか?」
「齢五十前後の男の言が、このわしを生徒扱いで見下ろすと?」
「ならば」
言った。
「貴女は末世に対しての解決方法をご存じなのか?」
********
義経は正純がそう言ったことに対し、笑みを作った。
武蔵の連中はどいつもこいつも畏れというものを知らんのぉ・・・。
先程の康景の件があったので少し気分が良い。
だがその前に、
「・・・末世が本当に起こるのであれば、わしの国はわしが死ぬのを待たずして、消える」
だが、
「P.A.Odaの創生計画というものがあると聞いたぞ?ならば武蔵ではなく、P.A.Odaと話し合ってもいいじゃろう?」
末世解決という同じ目標に向かう二つの国があるとして、話し合うのであれば条件が良い方につく。
それが常道だろう。
今見たいのは、武蔵がどう出るかだ。
自分の中で答えは
すると正純は少しの間考えるそ素振りを見せてから、
「義経公」
告げる。
「
ほう・・・。
天野康景とのやり取りで結構満足気味だった。
なにせ
それを抜きにしても面白い理由があるのなら聞いてみたいものだ。
正純は卓に広げられた概要図を見ながら、
「まぁその前に、ウチの康景のことだが、義経公が気に入ったのなら正式に外交官として清武田に派遣することも検討しよう」
「お、本当か?」
「ただし、あくまでも武蔵が天下を取った"後"だ」
と前置きした。
「だが、康景は武蔵にとっての大事な戦力であり、仲間であり、私にとっての
そう釘を刺してきた。
義経はそれを聞いて、
「カッカッカッカ・・・正純、お主は解りやすいのぅ」
「な、なにがだ・・・?」
義経は康景の方を見る。
その行為の意図に気づいた正純は、
「ばっ、ち、違うぞ?べ、べべべべ別に深い意図はないぞ!?」
解りやすく赤面した。
*******
正純は不意に言われたことに顔に熱を感じた。
というかテンパった。
確かに康景のことは好意的に見てるし、大事な人だ。
だが今のは武蔵の大事な仲間をおいそれと引き渡すことは責任ある立場である身として出来ない、という意味である。
本当に他意はない。
それに、
・・・康景には葵姉がいるからな。
それはちゃんとわかっている。
だから正純は平静を取り戻し、話を元に戻した。
「・・・話を戻そう。康景のことを抜きにしても、武蔵に付いた方が面白いのには理由がある」
「それはなんじゃ?」
「大罪武装だ」
全員がこちらを見るが、正純は慌てず続けた。
「大罪武装は、ホライゾン・アリアダストの感情を元に造られたものだ。つまり、武蔵のスタートラインにおいて本当の意味で無感情だ」
英国では色々あったが、それに見合うだけの成果はあった。
「そのホライゾンが、英国で感情に興味を持ち、何も失わせないことを決め、末世解決を望み、全てを取り戻すことを願ったのだ」
だから、
「私たちが感情を求めて作る国は、貴女の無感情の国を否定する・・・貴女も別の生き方が出来ることを証明して見せる」
大罪武装回収の目処は立っていないが、目標は明確である。
「だから、私たちは必ず末世を解決し、世界征服する・・・私たちの方に付いた方が面白みがあるぞ?義経公」
正純は義経の反応を待った。
正純も義経も、その他のメンツもほとんどが沈黙する。
唯一、長椅子で寝てる康景の小さめの鼾をかいているのを聞いて少々呆れながら、答えを待った。
すると、
「・・・佐藤兄弟」
「はっ」
「明朝、清武田に帰投する。艦に戻って帰り支度をせい―――交渉は終了じゃ」
そう告げた。
*********
正純は告げられた言葉に一瞬腰を浮かしそうになったが、すぐに冷静になる。
そうだ、この人は何か理由があるからこそ動く。そういう人だ。
ならばこの人が今動いたということは、源義経という人の中で何かが定まったのだろう。
それを証明するように、
「おい」
こちらに視線を向けてきた。
「わしが何かせずとも、貴様ら馬鹿どもはわしが見たことのない国を作ると、そう言ったな。そしてそこの寝ている馬鹿は・・・」
康景を見た。
現状、一人だけ呑気に寝ている馬鹿の顔を見て、義経は優し気な笑みを浮かべる。
「それに、
その顔は、心底嬉しそうで、だがなにか切なそうだった。
彼女は再びこちらに視線を送り、
「末世が起こるのは今年中という話じゃ、貴様らが末世を解決するまでの時間はわしにとっては数秒程度の事・・・その数秒程度待つだけでわしの国の可能性を広げ、そこで寝ている馬鹿が清武田に来るのであれば、わしは期待して待とう」
いや、そこの寝ている馬鹿を外交官として派遣する検討はすると言ったが、清武田にやるとは言ってないぞ?
「―――だからのう、正純」
「何だ?」
「三方ヶ原については、
「感謝する」
こちらの感謝に、義経は笑って、
「感謝の言なぞわしには不要じゃ―――方針は決まった、関東としては武蔵を受け容れよう。しかし、お主らが国力を得るのが条件じゃがな」
しかし、
「まぁ最大の問題点としては、この危機をどう乗り越えるかじゃが・・・」
そう言って佐藤兄弟が視ている表示枠を見た。
すると、自分の方、ツキノワも表示枠を作って見せてくれて、ナルゼと共に確認する。
〇べ屋『大変大変!今、聖連側から通達が来たの!明日の午後三時には六護式仏蘭西が武蔵を攻撃するって!』
*******
康景は微睡の中にいたが、会議の話声で目を覚ました。
が、起きる気はなかった。
否、起きる気がないというよりは、
だから狸寝入りを決め込む。
実を言うと、今はもう酔っていない。
酔ったとしても、一度寝てから目覚めると酔いが醒めてしまうのだ。
だから二日酔いにはなったことがない。
一度眠ってしまえば酔いが消える。
ちょっと特異体質過ぎる気がするので、喜美にすら言っていないのだが。
いつも先生や喜美の酒に付き合うと、寝て醒めた後は何も覚えていないことが多い。
一番酷かったのは、自分と喜美と先生の三人で川の字になって同じ布団で寝ていた時だ。
何もなかったと信じたいが、三人とも裸だったので、ナニかはあったんだろう(何故か二人ともその時のことを話してくれない)。
今回も記憶が曖昧なので、何もなかったと願いたい(が、無駄な願いなんだろうなぁ)。
しかし、覚えていることもある。
義経のことだ。
彼女の話を聞いて無性に悲しい思いをしたのは確かだ。
だから彼女に対して言ったことには、後悔はないだろう。
とりあえず、すぐ寝て酔いが醒めてたら不審がられると思ったので、もう少し横になっておく。
そろそろ、武蔵がどう関東へ抜けるかのルートを検討しに入る頃だと思う。
武蔵が六護式仏蘭西、M.H.R.R.に挟まれている状況を脱するに考え得る選択肢は、
1.いったん英国に引き返す
2.遠回りになるが北回りで進む
3.関東勢に輸送艦として雇われる
などというものが思い浮かばれるが、1の「英国に引き返す」のは論外だ。
武蔵が今から英国に引き返してしまえば、M.H.R.R.や六護式仏蘭西の連中を引き連れて戻ることになる。
それは友好関係を築いた直後の武蔵としては避けたい。
そうなれば聖連所属国としの英国はそれなりの対応をしなければならなくなり、リザに迷惑がかかる。
2の「北回り」で考えると、武蔵が燃料補給なしで進むことになるため、北陸手前までの、四時間程の航行で止まってしまう。
3の「関東勢に輸送艦として雇われる」という考えだが、武蔵は一度、英国の傭兵として雇われている以上、どの国も武蔵をただの"輸送艦"として見る事はない。
つまり、この選択肢を選べば、M.H.R.R.は関東勢、武蔵の臨検を行い、足止めをするだろう。そうなれば長篠の戦いや小田原攻めの口実を与えてしまう。
ならばこの選択肢も選べない。
他に考えられる選択肢は、瀬戸内海経由での三河行きだが、これはかなり微妙な選択だ。
なにしろ東を存分に前に押し出す選択肢である。
京にいる帝の子である東を出せば、京周辺、大和地方を配下に治める織田には効果覿面だろう。
しかし、この手段は東の意思を無視している。
この場合はトーリが納得しないだろう。
ならばやはり一番いいのはM.H.R.R.領内を通ることだ。
だが、それが出来ない理由が、武蔵のM.H.R.R.航行の禁止に繋がっている。
康景は会議の方に意識を向けた。
するとちょうど正純がそれを語っている。
「M.H.R.R.の旧派と改派がまだ決別していない。なにせ決別したら史実通りに旧派の負けに繋がるからな・・・だから決別後には武蔵に味方になるよう、交渉しておきたかったんだが、仕方のないことだろうな」
「・・・?M.H.R.R.の旧派と改派が決別する理由ってなにかあんのか?」
珍しくトーリがまともな質問をしていることに驚く。
M.H.R.R.旧派と改派が対立する出来事、それを答えたのはナルゼだった。
「改派州都であるザクセン州マクデブルクが、旧派の勇将、ティリー将軍によって蹂躙されるのよ」
********
「マクデブルルの略奪?」
メアリが噛んだのを、その場にいた全員が察知した。
メアリ本人は気づいていない様子だが、雰囲気的に明らかに他は気づいている。
その反応は、
「「・・・」」
まさかのスルーだった。
なんて連中だ。普段ここで自分が噛めば
これはいかがなものだろう。人徳だろうか?否、人徳だろう。
点蔵は人徳の問題と割り切り、メアリに説明を始める。
「ええっと・・・マクデブルクの略奪は、非協力的な改派への見せしめとしてティリー将軍が行ったもので、マクデブルクの人口三万人が、五千にまで減少するで御座る。生き残ったのは女子供で、そのすべてがティリー将軍の戦利品として・・・その」
言葉を選び、
「
自分が今考えられる限りの語彙力で言葉を選んだ。
できれば察してくれると有難かったのだが、案の定、
「暴行・・・ですか。つまり殴られたり蹴られたりするんですね・・・なんて酷いことを・・・」
察してはくれなかったようだ。
先程まで
『つまりレイープやリンカーン!リョジーョクでもいいわ!』
こちらにだけ見えるように表示枠を大盤で向けてきた。
クッ・・・他人事だと思って・・・!?
こちらが説明しづらいことを妙に楽しんでいるように見えるのは、おそらく気のせいではないだろう。
点蔵は無視して話を続けた。
「この行為は見せしめとしての牽制だったので御座るが、悪影響だったので御座るな。これがターニングポイントとなりM.H.R.R.旧派の基盤は乱れていくことになるで御座る、それ故に、この歴史再現は未だ行われていないの御座るよ」
*********
康景は寝たふりをしながら、極力東を使わずに瀬戸内海へ抜けるルートを考えていた。
瀬戸内海へ出てしまえば、あとは清武田との調整で何とか関東まで行けるだろう。
しかし問題はそこに抜けるまでだ。
先程話題に出たように、マクデブルクの問題がある。
まぁそれがあってもなくてもいくつか戦闘はあるだろう。
殴り殴られつつ瀬戸内海へ抜ける方法に、康景は一つ、東を使う以外に思い当たる方法があったが、ほぼ実現は不可能だろうと思っていた。
何故なら、
・・・あの人とは師匠が死んでから会ってないからなぁ。
昔、学長たちが教皇とドンパチやっていた時代、今と似たような状況で
しかし、顔見知りではあるが、あの人は非常に厄介で、もし会ったとしても自分が交渉できるとは限らない。
どういう意味で厄介なのかは、いい意味でも悪い意味でも引っ掻き回されるということで、人となりは理解しているつもりだが、読み切れない部分もある。
そう言う意味では苦手の部類に入る人であるが、今いない人のことを考えても仕方がなかった。
康景の考えを他所に、正純達は会議を進める。
「ともあれ、武蔵は清武田領に接近することが可能なわけですね?追手が来た場合は・・・」
「その時はうちがフォローに入ればよかろ。"三方ヶ原の戦い"の歴史再現を理由にすればいいんじゃから・・・だからこの辺まで来い」
と言って指さしたのは紀伊半島の東側だ。
「富士山寄りになるじゃろうが、ここまでくれば三方ヶ原をなぁなぁで済ませ小田原まで送ろう」
「ならば、小田原から東側、江戸までは私たちがフォローしましょう」
と氏直が言うのに対し、正純は有難いと頭を下げた。
それに対し義頼は頷きながら、
「まぁ東宮様のことを懸念しているのならそんおその辺りは大丈夫だと思う。現在京と大和地方を治めているのはP.A.Oda内でも第二の発言力を持つ明智光秀だ。信長上洛手続きも行っているから、東宮様のいる艦に対して攻撃を―――」
「掛けられる奴がいたらどうするんだよう?」
不意の声が、店の外から響いた。
あれ?この声は・・・。
康景は不意の声にハッとし、身体を起こす。
********
不意の来客に真田の忍者達が前線を作り、里見、北条が腰を軽く浮かせる中、正純は一人冷静でいる者がいることに気づいた。
康景である。
さっきまで眠っていたはずの彼は長椅子に座りながらも姿勢を正し、
「・・・お久しぶりです」
「おう、久しぶりだなぁ。
初老の男に対し、深々と頭を下げた。
不意のことで何が何だか理解が追い付かないが、P.A.Odaの上着を着こんでいることから、織田の人間であることは解った。
初老の男に対し、康景は、
「
「まぁ色々あってなあ。それに、今回来てるのは俺だけじゃなくてよう」
俺だけじゃない
その言葉に康景は何かに気づいたようにハッとして、途端段々に嫌そうな顔を作り、
「・・・まさか」
「相変わらず無駄なことには察しが良いなあ。そう、実は
P.A.Odaの松永・弾正・久秀。
P.A.Oda紀伊半島管轄、ムラサイ諸派連合総長で、これまた有名人である。
英国で妖精女王と知り合いだったことから誰が知り合いでも驚かないと思っていたが、まさかまた康景と知り合いだったとは。
顔広すぎるとかいう範疇じゃないぞ・・・!?
康景の顔の広さに驚きよりも疑念を感じ始めた。
すると、
「ふっふっふ・・・」
松永の背後からさらに声が聞こえてくる。
この声は確か以前聞いたことがある。
その声の主は大きなケースを背負い、両の手を広げて、
「ぱんぱかぱーん!正解はこの私、茶々でしたあ!」
とテンション高めに入ってきた。
なんかこの人前とキャラ違くないか?
そんな感想を抱いていると、康景は俯いて、
「ぁぁぁぁぁああああああああ・・・」
心底嫌そうにため息を吐いた。
「ぱんぱかぱーん」に関しては皆様なら言わずともなんとなく察してくれると思います(震え)