境界線上の死神   作:オウル

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GW?なにそれ美味しいんですか?


三話 伍

ようやく見え始めた入り口と

 

静かに進行する状況

 

招かれざる者の存在は

 

武蔵にとっての利益か損か

 

配点(来訪者)

――――――――――

 

正純は康景のラッキースケベを見て、かつて自分が三河で押し倒された事を思い出した。

 

そう言えば押し倒された事あったなぁ・・・。

 

原因は全裸の馬鹿が自分のズボンを引き下ろしたことが原因だった。

今のも、馬鹿が背後からチンコ乗せなきゃ、あんなことにはならなかったはずだ。

 

ん、いや、そもそも康景が馬鹿にゴーサイン出したんだから、康景が悪いのか・・・?

 

何だか誰のせいかよくわからなくなったが、いつもの事なので問題はないだろう。

 

康景が義経の胸をまな板扱いした事で、義経が声を上げる。

 

「貴様っ!?誰の胸がまな板じゃあ!?」

「あ、ごめん・・・固かったからつい"まな板"だと・・・」

「貴様ァァア!」

 

康景が本気で『まな板』だと思ったかのように言うので、流石の義経も康景に子供パンチを繰り出す。

康景の胸元辺りをポカポカと殴る義経に対し、康景は子供を相手にするような穏やかな声で、

 

「いててて・・・悪かったよ。でもさぁ・・・」

「なんじゃ!」

「そうやってすぐ怒ってたら、ガキにしか見えないぞ()()

「きっ、貴様に何が解る!?」

 

ポカポカと康景の胸元を殴り続ける義経に、康景は、

 

「・・・」

「むぎゅ」

 

義経を抱き締めた。

その様子に、正純は英国でのエリザベスと康景のハグ合戦を思い出す。

 

・・・康景のハグって癖みたいなものなのかな?

 

結構色々な人にやっている気がする。

 

相手に感謝の意を示すときや、落ち着かせるときにやる。

 

葵姉やホライゾンは康景にとっての家族であり、婚約者であるのだからまだ解る(納得したとは言ってないが)。

しかし、先生相手にやるのは違うんじゃないかなとも思うが、如何せんやるのが康景なので最近ハグをする基準が曖昧になってしまった。

 

今回のはどうだろうか。

 

完全に宥めるのが目的だと思うが・・・。

 

康景の考えが完全に読み切れる訳ではないので何とも言い難いが、ただ酔っているだけかもしれない。

正純は事の成り行きを見守った。

 

康景が義経を宥めていると、トーリが、

 

「おいおい、ヤスはオメェのこと解るなんて一言も言ってねえぞ?」

 

笑って、義経に対しそう言った。

 

「俺たちは、オメェのこと解らなくても全然困らねぇ」

 

言われた義経の顔は、何もかもを失ったような、そういう顔をしていた。

 

「・・・おい」

 

流石の正純も、止めようと思った。

だが馬鹿は康景にハグされた義経を自分の方に向かせて、続ける。

 

「ヤスの言う通り、オメェはガキで決まり。だって俺たちが何かする度にすぐ怒るからよ、可愛いったらありゃしねえ・・・ヤスが言いてぇのはそういうことだよな?」

「義経が可愛いのは否定しないが、ちょっと言いたいことがまとまらないから、お前先に言ってくれ」

「オメェ相当()()()()()()()な・・・だったら先に言わせてもらうぜ?」

「貴様ら何を勝手に・・・!」

 

康景とトーリが勝手に話を進める中、義経が抗議する。

しかしトーリは全く無視して進める。

 

「オメェのことなんて解らなくたって、俺たちは困らねぇ・・・だから、オメェは可愛い、俺にとっちゃそれで十分だ」

「・・・」

「なぁ義経、笑ったり怒ったりできねぇっていうなら、うちのがっこ来いよ。そんでもってホライゾンと一緒に悩んでやってくれね?」

「貴様っ・・・わしをなんだと・・・!」

「オメェは義経だろ?人に確認されねぇと解らねぇくらい忘れちまったのかよ」

 

いいか?と馬鹿は自分を指さし、

 

「俺は、そうだな・・・流しの"湿った手の男(ウェットマン)"とでも呼んでくれ・・・さっきからオメェにスケベ連発してるそこの馬鹿は、"女誑し"とでも呼んでやってくれ」

「誰が女誑しだ!?・・・人誑しのお前に言われたくないね!」

 

お前が言うな、と心の中で康景にツッコむ正純。

 

自覚してないから質が悪いんだよお前の場合・・・!

 

否、自覚してたらそれこそ質が悪いのかもしれない。

 

「義経」

「なんじゃ!」

「よしつねー」

「だからなんじゃと言うておろう!?」

「義経ェ」

「だから――――」

「憶えたか?」

 

義経は何を、という反応ではなく、顔を真っ赤にして、

 

「当たり前じゃ!この名を忘れたことなぞないわ!――――()()()()と競い合って得た名じゃぞ!」

 

と叫んだ。

トーリはそれに対し笑って、

 

「そっかぁ・・・忘れようとしたことも、捨てようとしたこともねぇんだな?だったら―――」

 

康景が見守る中、告げた。

 

「やっぱこいつ偉いわヤス。ヤス(オメェ)が殴り倒した(馬鹿)みたいにするようなことはなかったんだってよ」

 

*******

 

康景は不意に言われたので、思わず面食らってしまった。

 

こいつ、俺がさっき泣いたの気にしてたのか・・・?

 

なんというか、律儀な奴だなぁと内心苦笑した。

 

自分が泣いたのは、おそらくトーリの事ではない。

悲しかったし、トーリが塞ぎ込んでしまった時期とも重ねてしまったのもあったが、トーリのことは三河の一件を経て赦したのだ。

 

()()()ではない。

 

康景は微笑んで、

 

「お前はお前でホント馬鹿だよなぁ・・・気を遣い過ぎだ」

「だって馬鹿だもんよ、俺は」

「・・・今は義経の話だろ?俺の話は引き合いに出すなよ」

「おっといけねぇいけねぇ・・・」

 

トーリと康景が二人で話を繋げる中、義経は眉を立てて、

 

「貴様ら何を勝手に・・・!」

 

二人の間から怒鳴るようにして抜け出した。

その様子に、康景は苦笑いして、

 

「なぁ義経・・・お前、武蔵に来ないか?御覧の通り、うちの大将は人の頭にチンコ乗せるような馬鹿で・・・」

「オメェも共犯だろ!?」

「それを支える俺も、人の心が解らない鈍感な間抜けだから、アンタみたいに()()()()な奴がいてくれると嬉しい」

 

武蔵を支え、自分たちの王である葵トーリという馬鹿を支えていく人間は、多い方がいい。

それが有能な経験者なら言うまでもなく、無能であっても意思があるなら大歓迎だ。

 

そして目の前にいる義経という女は、間違いなく有能な人材である。

 

なにせ一国の王なのだから、清武田という国を仲間にすることは武蔵にとって大きなメリットになる。

 

しかし、今の康景には損得を抜きにしてでも義経を味方につけたい思いがあった。

だが何故そう感じたのか、その思いの正体をよく解っていなかった。

 

康景がそう言ったのに対し、義経は、

 

「な、何故わしがお主らを手伝わなきゃいかんのじゃ!?わしにそのような道理も義理はないぞ!」

「確かにそうだ・・・アンタのさっきの言葉じゃ、アンタが生き続ける限りアンタの国も生き続ける。つまり生き続けるアンタは、()()()()みたいなものなんだろう?」

「そうじゃ・・・お主らみたいなのが死んでも、わしは生き続けるからの」

「だったらトーリ(こいつ)が俺たちの王やってる間だけだけでも、世界貸してくれ」

 

康景は一息つき、馬鹿を見て、

 

「俺が信じてるそこの全裸は、王様になって、『皆の夢が叶う国を作る』ってそう言ったんだぜ?」

 

随分昔の事だ。

小等部の作文の授業で、『わたしの夢』という題材で書かされた時、ホライゾンが自分の夢について書けなかったときに言った大演説。

 

「ガキの頃のセリフだけど、そんなこと言う奴が今じゃ本当に俺たちの長なんだ」

「だ、だから・・・だからなんだというんじゃ!?」

「そんな奴に世界を任せてみろ・・・面白いことになるとは思わないか?」

 

********

 

正純は康景がかなり穏やかな口調で続けているのを聞いた。

 

・・・いつになく饒舌だな。

 

饒舌で、楽し気で、懐かしそうだった。

そう聞こえるのは、康景が酔っているせいなのか、それとも別のなにかか、正純には判断が付かなかった。

康景は義経の目線まで屈んで、

 

「俺達やその次世代が世界を動かしてる間は、お前を飽きさせることはない・・・だから、トーリが世界征服するのを俺と手伝え」

 

そう言った。

だが、

 

「・・・お主らが世界を征服した後はどうするのじゃ?お主らの次世代が世界を放棄したらどうするのじゃ?お主らの国がなくなってしまえば・・・それじゃわしは結局・・・」

 

同じじゃ、と義経が俯きがちに返した。

これではまた問答が逆戻りしてしまう。

 

義経という存在が大きすぎる故の問題だ。

 

ここで協力が得られないのであれば、もう手出しができない。

 

正純はそう思ったが、康景は義経の手を握り、

 

「ああ、アンタは結局、歩んできた道を一人で歩むことになるんだろう・・・だけど」

 

だけど、

 

「俺がアンタを一人にしない」

「ふぇ?」

 

康景の不意の言葉に対し素っ頓狂な声を出した義経に構わず、馬鹿(康景)は続ける。

 

「アンタが歩んできた道がどうだったのかは、俺みたいな馬鹿が解ったような口を利いていい事ではない。でも、俺はアンタを一人にしたくない」

「なら・・・どうするというんじゃ?・・・お主はわしより先に死ぬじゃろうて」

「確かに俺はアンタより先に死ぬ。それでもアンタが俺たちの先を歩むであろう道を、アンタと対等に俺は歩みたい」

 

その言葉は力強く、

 

「俺たちの先駆けであるアンタと同じ道を対等に歩むなんてこと、俺みたいな小僧(ガキ)が言うのはおこがましい事だろうけれど、俺がそれに相応しい奴になる」

 

頼もしく聞こえる。

酔っているせいだろうがどんどんセリフに勢いが付く康景とは対照的に、どんどん顔を真っ赤に染めていく義経は消え入りそうな声で、

 

「ぐ、具体的にはどうするというのじゃ・・・?」

「そうだなぁ・・・トーリが世界取ったら、俺が清武田の外交官にでもなろう。『葵・トーリと愉快な仲間たち』の清武田代表に俺がなるわけだからな、外交官になった後で、()()()()()()()()()()()()()()()()になるなり、考えうる限りの事は()()()()しよう」

 

なんだか外交問題になりそうな話を進める康景に、お前何勝手に話進めてるんだ、と言いたくなったが、それよりも、

 

アイツ今()()()()って言ったよな?

 

そういう"なんでも"とかいう曖昧な言葉はあとで付け込まれそうな気もするが、義経はそれに食いつくことなく、

 

「ほ、本当か?」

「指切りしたっていいぞ?」

 

そう言って康景が小指を出した。

義経は康景を警戒して指を出すか思案したが、最後は顔を茹蛸のように真っ赤にして、

 

「嘘ついたら針千本×十回じゃ」

「万本・・・?そりゃ怖いな」

 

約束した。

 

*******

 

康景は勢いでとんでもないことをダラダラと喋ったと自身でも感じたが、後悔はなかった。

 

普段は身内にしかこういうことは思わないのだが、何故か義経を見ているとそう感じてしまう。

 

未だに恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている義経の頭を撫でる。

わしゃわしゃと撫でるその動きに、義経は口では抗議するが表情ではまんざらでもないようで、

 

「わし、結構本気にするからの」

「ああ、構わん」

「嘘とか、そういうの許さんからのマジで」

「そこの裸芸人と違って俺、物真似くらいしかできないからつまらないかもしれないが・・・それでもいいなら」

 

康景の言葉に期待感を滲ませる義経。

 

彼女は佐藤兄弟に向かって、

 

「佐藤兄弟・・・わしはどうじゃった?」

 

と尋ねた。

判定を尋ねられた佐藤兄弟は、

 

「いぇ、その・・・」

 

兄弟共に顔を見合わせて、

 

()()()とのやり取りの様であらせられたかた・・・」

 

そう判断した。

 

「(旦那様・・・?義経には旦那が居たのか?)」

 

旦那という言葉がどうにも引っかかる。

だがそれよりも、

 

「「・・・」」

「な、なんだよ・・・?」

 

身内からの視線が、なんだかとても痛かった。

 

********

 

ナルゼは、康景は馬鹿なんだなと改めて思った。

 

・・・酔ってると本当にロクなこと言わないわねぇ。

 

今回のは康景の良いところが出たという意味で馬鹿ととるべきなのか、康景の悪いところが出たという意味で馬鹿ととるべきなのか。

少なくともナルゼはどっちにしろ馬鹿なので変わりはないだろうとも思った。

 

康景がなんで義経のことを気にしているのかはわからないが、康景が彼女を一人にしたくないと思ったのはおそらく本心。

身内以外の誰かをそこまで気に掛けるのは珍しいと思ったが、妖精女王の時みたいに感じたこともあるのだろう。

状況が状況だし、妖精女王の時とは展開も思ってることも違うはずだが。

 

それが武蔵の問題解決につながるのであればいうことはない。

 

しかし、唯一問題があるとすれば、彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

家族、友人などの身内、仲間を心配する時は心の底から心配するので、ああいった恥ずかしい台詞をスラスラ言えてしまう。

言われた側がどんなにそれで救われても、康景にとってはそれが当たり前であり、本当にそう思ったからでしかない。

だからこそ康景が思う康景自身と、彼を思う人の彼への評価が食い違い、意識に差が生じる。

 

だからこそ康景は鈍感になってしまうのではないだろうか。

ナルゼはそんなことを考えた。

 

何が言いたいのかと言うと、今ので義経がどう感じたのか。

それは多分、顔を真っ赤にして俯いたり恥ずかしがったりしたところを見ると、

 

・・・確実に感情は動いたわね、あれ。

 

ならば、義経との賭けには勝ったことになる。

賭けには勝ったが、どう感情を動かしたかはまた、別問題だろう。

 

まぁあの様子では確実にプラス方面に動いていると思われるので、『三方ヶ原の件をどうにか考える』というのは期待していいだろうが。

 

ナルゼは康景に手招きして呼び寄せてから、小声で、

 

「・・・アンタちょっとやり過ぎじゃない?」

「何が?」

「まるで告白みたいに聞こえたから、変に相手を期待させること言わない方が・・・」

「・・・俺はそうしたいって思ったから言っただけなんだが・・・それに、俺が本気で惚れて告白したのは"葵喜美"だけだ」

「・・・」

 

解っていたことだが、改めて現実を言われると少し凹む。

 

「まぁ・・・アンタが喜美に惚れてるのは知ってるわ(イラつくけど)。でも・・・それでも、なんでそこまで義経公を気に掛けるの?」

 

その問いに対し、康景は唸って、

 

「そう言われると・・・なんでだろうな」

「・・・妖精女王の時みたいな感じ?」

 

あの時とは違うというのは解ってはいるが、そう尋ねると、

 

「英国の時は、妖精女王(リザ)が友達だったからなぁ、あいつらがああいう風に苦しむのが見たくなかった。でも今回は、どうなんだろう。俺は義経と会ったことなどないはずなんだけどなぁ・・・なんか引っかかるんだよ」

「引っかかる?」

「なんか義経(アイツ)のことは()()()()()()()()()()()って、そう思っちゃうんだよなぁ・・・なんでだろう?」

「いや、だから私が知るわけ・・・はぁ」

 

まぁ康景がそういう奴なのは周知の事実だし、今更の事である。

でも、

 

「それでもアンタには喜美()が居るんだから、もうちょっと控えないと・・・ね?」

 

隣、正純がお前が言うなと言わんばかりの顔を向けてきているが、無視。

康景はナルゼに言われて腕を組みながら、

 

「控える?」

「まぁ私たちはアンタがそういう奴だって解ってるからいいけど、勘違いする人(被害者)だっているわけだし」

「ああ・・・そうだ・・・な?被害者?被害者って一体・・・?」

 

酔ってる康景も悪くないが、後で喜美(誰かさん)の手で痛い目に遭うのも可哀想なので、ちゃんと忠告しておく。

被害者の件はよく解っていないのは大問題だと思うが、頷いて「わかった」と言ったので考えはするだろう(結果が出るとは言ってない)。

 

康景が自分を省みて過去とか性格とか考えているようだが、この調子では先が思いやられる。

しかし、確かに康景の天然っぷりには頭を悩ませることも多いがそれを含めて康景なので、何とも言い難いのだが。

 

ナルゼが気になったこととしては最後、佐藤兄弟が『旦那様』と言っていたのも気になるが、今は、

 

「・・・やっとここでの会合の意味が見えてきた感じね」

「ああ、後は武蔵を補修するための関東行きをどうするか、そして六護式仏蘭西とM.H.R.R.の挟撃をどうするか、そのためのギブ&テイクの交渉を考えよう」

 

それが今回の会合の肝である。

 

康景は酔っていても機能できることはわかった。だが、酔っていると何をしでかすか解らない男だ。

それは正純への対応と、自分への発言、義経への言葉で証明されている。

康景のラッキースケベによる被害者をこれ以上出さないためにも(私に対してはむしろ一向に構わないが)、ナルゼは、

 

「そうね、会議の入り口は見えたんだから、アンタはこの後私たちに任せて少しだけ眠ったら?」

「いや、護衛が寝てたら意味が・・・」

「アンタさっき皆に"尻"の話したの覚えてる?」

「え?」

「え?」

「・・・」

「・・・」

 

あ、こいつ今本格的に駄目だわ。

 

セクハラを自分にしてくれるならまだしも、今はただの酔っ払いで記憶が曖昧だ。

流石のナルゼも心配して、

 

「いや、アンタ本当に一回眠った方がいいわ」

「うーん・・・まぁ言われてみれば確かに眠いっちゃ眠いが・・・」

「なら休んだ方がいいわよ?なんなら私の膝枕使う?」

「いや、その申し出は魅力的だけど、膝枕は喜美の以外は借りないって決めてるからな・・・」

 

膝枕の使用を提案してみたが、断られた。

酔っていてもこの男にとっての優先順位の頂点には喜美が居る。

ナルゼには少し残念そうに、

 

「・・・そう」

 

とだけ呟く。

 

別に悔しくはない。

膝枕を断られたからって悔しくはない。

 

悔しくないんだからねっ!

 

誰に向けたか解らないツンデレを心の中で叫ぶ。

康景はそれに気づくことなく、横になれそうなところを探して、

 

「・・・」

「ん?どうかした?」

 

康景が横になって酔いつぶれている里見義康を見た。

 

「・・・ああ、そういえば会議中見ないと思ったら、酔いつぶれてたのか」

「里見義康のこと?さっきまで女性陣の間で服を剥ぐかどうかで騒いでたの覚えてないの?」

「んー・・・そんな酷い事してたの?」

「いやいや、私はしてないわよ」

 

そもそも結局剥ぐと残念な結果が見えそうだったから断念してたのだが、まぁ康景も自分も当事者ないので詳しくは知らないが。

 

「今度は彼女が気になるの?」

「変な言い方するなエロ同人先生・・・ただ先生用に準備してた"酔い止めの符"、あと数枚余ってたから彼女に処置してから寝るよ」

「アンタなんで自分に使わないの?」

「は?いや・・・なんとなく?」

 

なんとなく、と疑問形を作った康景はそのまま里見義康の寝ている長椅子の隣にもう一つ長椅子を用意し、処置に入った。

 

その様子を見たナルゼは、やっぱり康景は馬鹿なんだなぁと再確認して、少しだけ微笑ましく思った。

 

********

 

会議が進行していく中で、一人酔って倒れていた里見義康はまどろみの中で己の未熟さを感じていた。

姉が居なくなった後、未熟な自分は"八房"を動かすことが出来ず、村雨丸も抜けなかった。

 

それに対し、その姉を殺した男が村雨丸を抜いた。

 

それも"八房"の下にある八犬武神の内、"忠"を操っている。

"忠"とは君主に仕え忠義を尽くす意味だ。

自分が先代副会長から譲り受けた"義"に乗るのに対し、姉を殺した男が"忠"に乗る。

 

その意味が義康には解らなかった。

 

"八房"の初陣で勝利して帰ってきた君主を謀殺し、里見の名と総長の座を得る。

歴史再現であったし、その上であの男が"忠"を動かせるのだから―――、

 

だから・・・?

 

だからどうなのだろう。

自分は納得できているのだろうか。

納得できていないからこそ、自分はこうやって燻り、苛立っている。

何も解らない事ばかりだ。

 

意味が解らないのも、意味が解りたくないのか、それとも何も知らない未熟な自分が悪いのか。

 

姉のように強くなれればと思い毎日の鍛錬は欠かさないが、それでもまだまだ未熟だと思う。

 

そして今日、天野康景という男を見た。

今となっては誰もが知る()()()で、その名を聞けば誰もが警戒する。

なにせ三征西班牙・K.P.A.Italiaの連合数百人、西国無双"立花宗茂"及びその妻である立花誾、"女王の盾符"であるウォルター・ローリーを無傷で倒しているのだから、警戒は至極当然だ。

その男を実際に自分の目で見て、思った。

 

この男は雲の上の存在だ、と。

 

自分より上であると、直感的に認めてしまったのだ。

それがまた悔しくてならなかった。

自分がしてきたことを自分で否定してしまったようで、悔しかった。

 

このように燻り、悔しがるのはおそらく熱のせいだろう。

しかし何故こうして芯に熱を感じてしまうのだろうか。

 

風邪でも引いてしまったか?

 

ああ、情けないと、心の中で自分を罵り、ゆっくりと目を覚ます。

 

すると、

 

「zzz」

「ぬおおおおおお!?」

 

隣で天野康景が寝ていた。

不意に心臓が跳ね上がるように爆音を奏で、飛び起きる。

 

「ななななななんで天野康景が隣で寝ているっ!?」

 

目覚めたら武蔵の死神とまで言われた男が隣で寝ている。

事態が呑み込めず辺りを見渡すと、自身は()()()()()()()()二つの長椅子の内の一つに居たようで、他の皆は奥の机を繋げ会議中だった。

その中の一人、里見義頼がこちらに気づき、

 

「義康、天野康景に礼を言っておけよ。今までお前に酔い止めの符など処置してくれていた」

 

それがなんで隣の長椅子で寝ている?と内心抗議するが、

 

・・・そこまで悪い奴じゃないのか?

 

初めて見たときは冷たい印象を抱いたものだが、わざわざそんなことをするということは面倒見が良いのだろうか。

処置をしてくれるというのは感謝すべきなのだろうが、義康は天野康景という男に苦手意識を感じていた。

 

すると奥から湯呑みが運ばれてきて、

 

「ヤス眠るの早っ!?・・・湯呑みもう一個追加かな。あ、姐ちゃんこれ酔い覚まし」

「ああ、かたじけn」

 

と、湯呑みを寄こす相手を見たら全裸だった。

義康は反射的にゴキブリを見た時と同じ「き」で始まる悲鳴を上げた。

 

********

 

武蔵右舷三番艦・高尾のビアガーデンで度数の高い酒を一気飲みするオリオトライは、会議の様子を三年梅組らに向けられた正純の表示枠を通して見ていた。

その様子を見て、オリオトライは上機嫌に笑いながら酒を飲み干す。

 

「ま、真喜子先輩、飲みすぎですよ・・・!?」

 

三要が諫めるが、オリオトライは気にせず、

 

「いいのよ、今日は康景がいないから酒の量を気にせず飲めるもの」

「い、いや、天野君いてもいなくても飲んでるじゃないですか・・・!?」

 

光紀は細かいわねぇ・・・。

 

そんなことだから未だに彼氏が出来ないないのではないだろうか。

 

「真喜子先輩、今失礼なこと考えてませんか?」

「気のせい気のせい」

 

多分光紀は神経質なんだろう。

オリオトライは気にしないことにした。

 

それはともかく、酔った康景のことは一緒に過ごしてきた年月がそれなりに長いので知ってはいたし、こうなることは予想出来ていた。

皆がどう思ったかは知らないが、あの康景も彼の側面なので問題に思うことはなかった。

それがプラスに働けば猶更だ。

 

康景は容赦はないし、何事もやり過ぎるきらいがあるが、()()()

 

自慢ではないが、自分が康景の世話に一番なっている自信があるからわかるのだ。

康景が義経を気に掛けるのはおそらくアレが理由だろう。

 

今の康景は知らないだろうが、自分だけは知っていることだ。

 

自分が知る康景が変わっていないことに満足する。

すると、

 

「天野君ってちょっと凄いですよね、一国の総長兼生徒会長相手に・・・昔からああなんですか?」

「大体あんなだったわねぇ・・・私が来てからも、多分私が()()()()

「真喜子先輩が武蔵に来る前もですか?」

「ううん、ごめん、なんでもない」

 

そんな会話を続けていると、不意に、

 

「まぁそうですよねぇ・・・貴女は康景の事、誰よりも知っていて当然ですよね?オリオトライ先生?」

 

ここにいるはずのない者の声が聞こえた。

 

「!?・・・え?え、えっと」

「・・・」

 

三要は驚くが、オリオトライは視線を鋭くして何事もなく乱入してきた女性を見る。

造られた感じのある無駄に美人なその女性は、

 

()M().()H().()R().()R().()()()、五大頂六天魔軍、羽柴藤吉郎様付き護衛兼補佐、茶々で御座います」

 

丁寧な声で挨拶する。

本来ここにいるはずのない女性は何もごともないように、

 

「この度、M().()H().()R().()R().()()()()()()()()()()()()()()M().()H().()R().()R().()()A().()H().()R().()R().()S().()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう告げた。

本来であればM.H.R.R.の制服を着ているはずであろう彼女は極東制服に身を包んでいる。

 

今、IZUMОは六護式仏蘭西とM.H.R.R.に囲まれ、そこにいる武蔵は身動きが取れない。

欧州の二大国が睨み合う状況になってしまったからこそ微妙な状況になったのだが、その状況の中で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そう言った疑問が湧いてくる中、女が悠々と茶を飲んでいるのがオリオトライには気に食わなかった。

 

三要はいきなりのことで目をぱちくりさせて驚いているが、茶々はそれに構わず、

 

「本来であれば、先に武蔵生徒会副会長、本多正純さんに会うのが妥当なのでしょうが、今は忙しいみたいなので、先に野暮用を済ませたいと思いまして・・・」

「・・・」

 

野暮用、それは、

 

「オリオトライ・真喜子さん。康景のことでお話があります。――――――少々お時間頂けますか?」

 

 




茶々はアルマダ海戦編、英国会議で前田利家と一緒に出したオリキャラです。
憶えてない人も多いと思いますが、これから順次活躍していくと思いますので、大目に見てください。

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