境界線上の死神   作:オウル

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年度末、年度始めは苦痛ですね・・・。
年度始めでワクワクしていた時期が懐かしいです。


三話 肆

昔の知り合いに姿を重ねるのは

 

昔の事を思い出してしまうのは

 

この男に何かを感じているからか

 

それとも――――

 

配点(感情)

――――――――――――

 

義経はこちらに向き直っている康景を見た。

 

どこかでこの男を見たことがある。

 

今まではそう思っていた。

真田十勇士四人を同時に相手して無傷だった"強さ"を、古い知り合いに重ねていただけだったが、いま改めて対峙してみると、

 

そうか、()()()に雰囲気が似とるからかのぅ・・・。

 

だからこそ、自分は天野康景(この男)を気に入っていたのかもしれない。

だからこそ、自分はこの男の名前をすぐに憶えられたのかもしれない。

 

かつての記憶だ。一番古い記憶。

 

兄が居て、あの男が居た、思い出せる範囲で、一番懐かしい記憶だ。

 

自分が天野康景に姿を重ねた、()()()との記憶。

 

自分がかつて憧れ、認め合い、本気で求めた男。

共にあの激動の時代を歩んでくれた男。

自分を最初から最後まで肯定し続けてくれた、最初で最後の男。

 

姿形こそ違うが、何かあの男に通ずるものがあった。

 

だが、あの男は何百年も前に死んでいる。

自分が最期を看取ったのだ。

 

多くのことを忘れてしまったが、あの男の最期の顔だけは今でも覚えている。

 

・・・まぁ今更そんなことを考えてもどうしようもないんじゃがなぁ。

 

義経は諦めたようにして口を開いた。

 

「佐藤兄弟、あまり他所の国なんぞ気にしては駄目じゃぞ?・・・いいか?愚衆共、聖連がなんじゃ、P.A.Odaがなんじゃ・・・それでいて武田が滅亡?だからどうした?」

 

カカッ、と笑い酒を飲む。

 

「国も人も、いずれは滅んでいくもの、それがわしにとっての定まりじゃ」

「ならば」

 

と天野康景に抱きつかれてる武蔵副会長が顔を真っ赤にしながら、今まで幾度となく問われてきた言葉の前置きを言われた。

この発言に対し、「ならば」と来るなら、本文は限られている。

そしてその通りの言葉が来た。

 

「なぜ貴女は清武田という国を治めている?」

「清武田?わしにとってはついこの間まで明という国じゃったぞ?まぁ実際は佐藤兄弟に任せてわしゃ騎馬民族の方にいたからの、ありゃわしと相性がいい。子供さえ生んで移動し続ければ滅びる事なんて稀じゃったからな。武蔵も大体そんな感じじゃろ、わしと相性良いぞ多分」

 

大体、

 

「国なんぞいつかは滅ぶ・・・そんな簡単なことが解っていれば、下らん政争や諍いなんぞ起きんぞ?ストレスフリーじゃ」

「ならば貴女はどうして国を持つのだ?」

 

これは珍しい。

昨今、ここまで詰問するように問いを投げかけてくる奴は珍しい。

だが、

 

「知るか」

 

正直に、無責任に突き放す。

 

「長生きすりゃ、大体のことは経験で知っておる。そしてわしゃ自分で何かするのが面倒でな・・・人を使ってたら自然に国が出来た、としか言えんの」

 

だから、

 

「わし自身が国みたいなもんじゃ。わしが生きてる限り、勝手に帝国が出来上がる。だが国なんぞの形をとっても、わしより短命の連中は死んでしまうからの・・・じゃがそれでもわしが居る限りそこに国が生まれる」

 

つまり、

 

「わしは居るだけで勝手に国が生む。わしの国に居る連中は勝手に集まり、勝手に生き、勝手に死んでいく。そうすればその命は少なくともわしが作った帝国全国民の喜びとなる――――――文句があるか?」

 

言うと、武蔵副会長が表情を消した。

だがその反面、背後の天野康景は悲しそうな顔をしている。

 

・・・なんでお主がそんな顔をするんじゃ?

 

哀れみではない。

ただ本当に悲しそうに、顔を歪ませていた。

 

そういう訳のわからん雰囲気はそっくりじゃのう・・・。

 

なんだか不意に懐かしい気分になる。

しかし、武蔵副会長は鋭い視線を向けて、

 

「では、人の命は、国よりも軽いと?」

「当たり前じゃ」

「ならば・・・」

 

更に問いを投げかけてきた。

面白い小娘だと思う。

こちらを知ろうとする者など、ここ最近はいなかった。

 

まるでこちらを教師か何かだと思って学んでいるようだ。

 

悪くはない。

 

「なんでも聞いてやろう」

「では問いたい」

 

それは、

 

「貴女の命は、どれくらい重いのだ?」

 

******

 

面白い、面白い問いだ。

 

命の重さ。

 

自分の中で自問し、笑みを得た。

 

「面白い、小娘・・・名は?」

「正純」

 

な、名前を問われて名前だけ答える馬鹿が居おったわ!

 

正純の隣、黒いのが肩を震わせて笑っている。

多分自分と同じセンス持ちだ。

 

「先に一つ問おう。貴様、わしにここで殺されることは考えんのか?まさかわしの度量が広いとか、王らしからぬとか考えているのではあるまいな?」

 

この問いに答えたのは、正純ではなく、

 

「やってみろよ。アンタが正純を殺す前に、俺がここにいる全員を皆殺しにしてやる」

 

康景が、こともなげにそう言った。

だが、

 

「でも俺はアンタを殺したくない。だから、そう言った発言は控えてもらおうか?酒がまずくなる」

 

本気でそんなことも言った。

それを聞いた義経は、

 

「かっかっか・・・わしを殺すか。まぁ・・・お主に殺されるのもそれはそれでありかもしれんのぅ」

「義経様!」

 

佐藤兄弟が叫ぶが、義経は気にしなかった。

 

「カカ、こいつらは良い素性を持ってるぞ佐藤兄弟」

 

自身の口の端が上がっているのが解る。

夜気が冷たいと感じのは身が熱を持っているせいか、それとも、

 

・・・いや、どうでもいい事じゃ。

 

あるのはこちらと敵対する意思を持つものが現れた。それだけだ。

 

殺し合い。

最後にこの身をもってそんなことをしたのはいつだったか。

 

最初に殺し合ったのは、あの男とだった。

歴史再現でもなんでもなく、ただ互いに興が乗ったからという理由で三日三晩殺り合った。

ただ実際殺し合ったのは最初の一時間くらいで残りの時間は閨でのイチャイチャ生活だった。

 

じゃああれはノーカンじゃの。

 

だったら源平合戦の歴史再現だろう。

源平合戦の勝者であった源氏が、兄の頼朝と弟の義経の二派になって争うことになる。

 

その際、義経は兄に敗れ死亡する。

しかしその再現には諸説あり、死亡説も生存説もあった。

義経が行ったのは、後者。生存説の方だ。

 

「わしゃ、生存説を取り元を興す過程で、何故か生きとったそこの佐藤兄弟と、破損状態にあった弁慶を回収。そのついでに実朝を襲名していた兄を暗殺してやった」

「義経様・・・」

 

言い終えた後で、佐藤兄弟が反応する。

 

「よい、気にするな・・・昔語りのいつもの事じゃ」

 

言って、自分の頬に涙が伝うのに気付いた。

 

ああ。懐かしいのう・・・。

 

四、五百年前のことだ。

思い出せる範囲だけでも、そこには殺し合いの時代があった。

毎日が命がけの、今ではひどく懐かしい過去だ。

 

長命故に、どこかに隠れてもいずれ頼られる。

長命故に、自分が居なくなると国が消えるからという理由で守ってくれるようになった。

 

何処にいても逃げられないなら、立ち向かうしかないが、自分が帝国を作ってしまえば敵はない。

 

「馬鹿みたいな話じゃのう」

 

深く息を吸って空を見る。

そこには六護式仏蘭西とM.H.R.R.の艦群が見えるが、それを見て、

 

「聖連がなんじゃまったく・・・どうせ今の教皇総長も五十年もせずに代が代わる。織田も羽柴も、いずれは松平にとって代わられる」

 

一息。

 

「そんな哀れみを寄こすなよ佐藤兄弟。お主らとて、純系の長寿族でないが故にわしより早く死ぬ・・・わしと同じ思いを共有できる兄は四百年も前に斬ってやったし、わしと共に道を歩んでくれると抜かした()()()も、兄を斬るよりも随分前に死んでしまったしの」

 

ならば、

 

「わしにとってあらゆるものは、わしと共に歩むことのできない失せものよ。わしが生き残るなら戦国の世の覇者になる。しかし、わし一人が生き残っても、わしの帝国は残り続ける」

「では貴女の命の重さとは・・・」

「わしもお主もそう変わるところはないじゃろう、正純」

 

酒を煽る。

 

「わしには長年かけて得てきた知恵がある。しかし、そんなものはわし個人で見ればわしのものでしかない。兄者がそうであったように、()()()がそうであったように、わしも死ぬときは死ぬ。それこそ、天野康景の手に掛かって殺されることも可能性的にはありじゃの」

 

だが、

 

「だが、わし自身としては面白いかもしれんが、望まぬ。わしの帝国臣民の命と、わし個人は等価じゃ。しかし、わしが死ねばわしのような命の路頭迷いがたくさん出るじゃろうよ」

 

自惚れじゃな、と義経は自嘲気味に続ける。

だが近くにあった椅子を引き寄せてから座り、思ってしまった。

 

天野康景(あっち)の方が座り心地がよかったの・・・。

 

「・・・まぁわしの自惚れじゃがの、わしはなるべくそういうの出したくないんじゃわなぁ。わし、我儘じゃしの」

 

それが、

 

「わしのような長生きが、主をやって臣民に"この国は消えない"と錯覚させる・・・まぁそんなしょうもないのが、わしが他人に出来る唯一の功徳だろうよ」

 

*********

 

正純は未だに康景が抱きついている状況に困惑しつつも、この相手を厄介な相手だと悟った。

いつもの"厄介"とは違う。

つまり、教皇総長や妖精女王の時とはタイプが全く違うのだ。

 

タイプなどそれぞれ違っていて当然なのだが、まず違う点として彼女が生き続ければ、そこから権力が出るということだ。

 

この相手に、康景はどう思ったのだろうか。

気になりそちらに意識を向けると、不意にナルゼが、

 

●画『康景、アンタなんで泣いてんの?』

 

実況通神にそう書きこんだ。

どういうことだと思い背後の康景に振り向くと、

 

「・・・え?」

 

確かに、康景の目から涙がこぼれていた。

 

***********

 

康景は自分が泣いていることに、ナルゼからの指摘があるまで解っていなかった。

 

あれ?

 

目をこすると、確かに目から涙がこぼれていた。

右の方はもう"目"として機能がなく、常に閉じたままだが、涙は出る。

 

弟子男『あれ?なんで俺泣いてるんだ?』

●画『いや、私が知るわけないでしょう』

〇べ屋『え?ヤス君泣いてるの!?写真写真!一部の女生徒(ミトとかミトとかミト)に高く売れるよ!』

銀狼『待ちなさいそれ私しか含まれてませんのよ!?・・・買いますけど』

約全員『買うんだw』

あさま『ハイディ、不謹慎ですよ?あの康景君だって泣くときは泣くんですよ?普段から朴念仁でたまに何考えてるか解らなくなることありますけど』

賢姉様『私と二人きりの時の康景はもっと表情豊かよ。あーんな顔やこーんな顔までするもの』

銀狼『喜美、"あーんな顔"や"こーんな顔"ついてKws・・・ゴホンゴホン、康景?大丈夫ですの?』

弟子男『いや、うん大丈夫だけど・・・なんでだろうな?』

 

康景は自分の心情を理解できていなかった。

義経の話を聞いて、悲しかったのは確かだ。

 

なぜ彼女の生い立ちに関してここまで感情移入してしまうのかはわからない。

ただ彼女が一人でその道を歩んできたと思うと、無性に悲しかった。

そして今感じている感情は、

 

・・・罪悪感?

 

義経に対して、何故かとても罪悪感を覚えていた。

よく自分の現状を理解していないがとりあえず、正純の頭を撫でつつ、

 

弟子男『まぁ・・・うん、今は義経の話に集中しよう』

 

*******

 

正純は康景の様子がおかしいことに、密着しているのにも関わらず気づけなかった(康景が密着しているので緊張して気づけなかったのだが)。

本人が大丈夫だと言っているなら大丈夫だろう。

だが、

 

「康景、無茶するなよ?」

「おう、すまん・・・ありがとうな」

 

と言われ、正純は康景がずっと自分の頭を撫でていることに気づいた。

 

「おま、な、撫でるなぁ・・・///」

「え、いいじゃん?撫で応えがあるから面白いんだぞお前の頭」

「このっ・・・!っていうかお前いい加減に離れろっ、よぅ・・・もう///」

 

くっ、こいつ本当に力強いな!

 

正純はハグから逃れようと必死になっていたが、康景の力の前に為すすべもなかった。

というか実際は結構満足しているのだが、会議の場なのでとりあえず抵抗の意思だけ見せておく。

 

康景は正純を抱くような姿勢を崩さず、

 

「なぁ・・・義経公。アンタは・・・極東を欲するのか?」

 

義経にそう問いかけた。

 

********

 

康景が泣いたのを、義経は見ていた。

 

なんでこやつ泣いてるのじゃろうなぁ・・・。

 

自分の話を聞いて泣いたのか?

あの話で?

 

本当になんじゃろうなこいつは、そういうところもあの阿呆にそっくりじゃなぁ・・・。

 

「まぁ気分次第じゃろう」

 

妙に親近感がわく康景の問いに、そう答えた。

 

「三方ヶ原の戦いなんぞ、わしより先に死ぬ奴らが死ぬだけじゃから、興味はない。でもまぁ、わしらが三方ヶ原で勝つことでわしの民が喜ぶのなら、やってやらんこともないぞ佐藤兄弟」

 

*********

 

康景はただ悲しかった。

 

・・・すべては気分次第か。

 

武蔵としてはそういう方面に話が進むのは出来る限り勘弁してもらいたいところだ。

個人的にも、こういう話は今は勘弁してほしかった。

 

なんでだろうなぁ・・・。

 

何かが引っかかっている感じだ。

エリザベスの時みたいな焦燥感があるわけではない。

なにか懐かしいような、寂しいような、申し訳ないような、罪悪感はある。

 

「わしにとってお主らの趨勢なぞどうでもいい事じゃ、なにせ一時のことじゃからな・・・ここで感情に流される意味はわしにはない」

「アンタは気分で聖譜記述を動かすのか?」

聖譜記述(そこ)にそういう記述があるんじゃろ?ならばなんの問題がある?まぁ判断は気分じゃ・・・だから、機会をやろう」

 

それは、

 

「わしになにか、面白いだの怒りだのなんでもいいから想起させてみろ。わしにとって目の前で入れ替わるくらいしか起きないこの世界に、お主か、もしくは他の誰でもいい、"何か"を思わせることができたのならば、お主らに少しの価値も見いだせよう」

 

そして、

 

「もしそれが出来たのなら、三方ヶ原の件、考えてやらんでもない」

 

***********

 

「義経公の腹を立たせるにはどうするか?」

 

IZUMO側で起きている問答に浅間は首を傾げた。

 

「喜美だったらどうします?」

「フフフ、心がビューティフォーな私に聞かないでよエロ尻巫女」

「凄い!即座に腹立ちました!」

 

まぁまぁとミトツダイラが宥めてくる。

 

「つまり、康景たちが相手しているのは数百年単位での不感症ってことですのね?」

「・・・ミトもたまに口走りますよね?」

「くっ・・・!き、厳しいですわね・・・」

「でもまぁ・・・あれは私みたいな人間が"余裕"じゃくて、"諦観"で感情を知らずになったって言ってるようなもんでしょう?」

 

喜美がそう言うと、皆が気を遣うようにこちらを窺ってきた。

それに対し喜美は苦笑いで、

 

「昔の愚弟の自分傷つけないバージョンよね・・・以前の・・・ある程度立ち直る前の康景だったら定食屋の外に引っ張り出してぼこぼこにぶん殴ってたかもね」

「喜美・・・ちょっと笑えませんって」

「もしかして・・・康景が泣いたのって、総長の昔と重ねてしまったからではありませんの・・・?」

 

ミトツダイラが心配そうに言った。

確かにその可能性ある。

ホライゾンを失ったあの時期は誰にとっても辛い時期で、特にトーリと康景は自分達よりもキツかったと思う。

もしミトツダイラが言うように、あの頃を思い出して泣いたのであれば、

 

・・・康景君にはキツい内容かもしれませんね。

 

ただ、それでも浅間には納得いかない部分があった。

確かに康景は鬼畜だが()()()一面はある。更に言えばその優しさが彼自身を苦しめている部分もある気がする。

その康景が、親友と公言しているトーリとのことを重ねて苦しんでる可能性だってあり得る。先程、康景だって泣くときは泣くと言ったのは自分ではあるが、それでも、今()()という事があまり浅間には考えられなかった。

 

何かが引っ掛かるような感覚だ。

 

義経公の何かに、思う所があったんでしょうか・・・?

 

浅間は少し気になり、今の義経の話を見返した。

そしてそれとは別に喜美に、

 

「喜美?康景君って泣き上戸だったりします?」

「それはないわ。H☆E☆N☆T☆A☆Iにはなるけどね」

 

別の可能性として、彼がただの泣き上戸だという可能性を問うてみたが、結果は変態になるとのことだった。

実際今正純が被害に遭っているようなので、変態なのに変わりはないだろう。

 

だが、

 

「・・・今の康景君なら、義経公を何とかできますかね?」

「最近、毎晩私を()()()ような男よ?・・・なんとかするでしょ」

「「毎・・・晩・・・!?(;゚д゚)ゴクリ」」

 

皆が()()という単語で喉を鳴らした。

特にミトツダイラが鼻息を荒くしているが、がっつきすぎだと思う。

 

喜美が大丈夫だという以上、自分たちはそれを信じるしかない。

 

「それにあの約束のきっかけを作った本人と、約束をした本人。私が愛した二人がいるんだもの・・・必ず四百年越しの不感症なんて壊して見せるわ」

 

良い感じで喜美が締めたのだが、ここでアデーレが、

 

「いや、でも副会長が居ますから、場が凍り付くような展開にならないといいですねぇ・・・」

 

瞬間、皆が一斉に書き込んだ。

 

********

 

あさま『正純?空気は読めますよね?その辺は大丈夫ですよね?』

副会長『なんだ?今渾身の一発ギャグ考えてるんだから邪魔するなよ?』

約全員『おい馬鹿やめろ!』

弟子男『大丈夫だ皆、今正純を背後から拘束してるから何かあったら揉めば黙るだろう』

約全員『どういう状況だ!?』

副会長『揉む!?な、何をする気だお前!?』

●画『・・・アンタちょっと期待してない?』

約全員『そもそも正純を・・・()()?』

副会長『おい、そこ何故疑問形を作る?わ、私だっても、揉もうと思えば揉めるんだぞ』

約全員『審議中(´・ω(´・ω・)(・ω・`)ω・`)』

副会長『お前ら・・・!』

 

********

 

康景は実況通神が盛り上がってるのを無視した(←盛り上がる原因を作った本人)。

 

どうすべきだろう。

 

中世から生き続けている彼女にとって、ほとんどのことは経験済みだ

何しろあの頃の戦闘は一騎打ちが主流で、ありとあらゆる挑発行為が行われていた。

 

だから並大抵の挑発では意味がない。

 

例えば「貧乳」などという身体的特徴を言うだけでは効果は薄いだろう。

戦闘でもそうだが、基本相手に効く攻撃は初手の初見の技が一番効きやすい。

つまり義経にとっての初見を探すというのが最善手だ。

 

康景は正純を開放し、義経に近寄った。

 

「なんじゃ、お主が相手してくれるのか」

「・・・」

 

義経が座る椅子の正面に、康景も椅子を引いて座った。

真正面、康景と義経が向かい合うように座っている。

 

「?」

「・・・」

「おい、どうしたんじゃ?」

 

義経の問いにも答えず、康景はただ考えていた。

 

人の感情を動かすことにかけては右に出る者はいない全裸の馬鹿がいる。

あの馬鹿と同じネタをする手もなくはないが、その場合自分は例のモザイク処理がかからないのでモロ出しになる。

流石にそれはまずいかもしれない。

 

他に自分が出来そうなことと言えばなんだろうか。

得意の物真似で攻めるとしても、義経が好きそうなネタがあるだろうか。

 

康景は考えた。

 

「おい、無視するな」

「・・・」

「お、おい」

「・・・」

「・・・近いんじゃが///」

 

義経の顔を間近で見つめていることに気づかない程に、康景は考えた。

 

と、そこで不意に、

 

「・・・あ」

「な、なんじゃ・・・?」

 

トーリが義経の背後に居ることに気づいた。

 

**********

 

康景はトーリを見た。

 

何故全裸・・・?

 

飲食店で全裸、しかも店側から出てきたから衛生的に大丈夫なんだろうか。

いやそれでも全裸はいつものネタなので、いつもの事なのだろう。

じゃあ問題ない。

 

「どうしたんじゃ?」

「いや、うん・・・これからアンタに、とんでもないサプライズが訪れる」

「ほう、それは楽しみじゃの・・・」

「ただそれがアンタのお気に召すかどうか・・・」

「安心せい」

 

義経は足を組み替えて、

 

「わしゃ心が広いからの・・・大抵のことなら許すぞ」

「そうかそうか・・!ならよかった・・・よし」

 

一息、

 

「やってやれ!」

 

そう言って康景は義経の背後のトーリにゴーサインを出した。

するとトーリが、

 

「ちょんまげぇ~」

 

義経の頭に、自分の股間を乗せた。

 

*******

 

時が止まった。

 

時間は午後八時半。

 

義経の頭に股間を乗せたトーリも、それにゴーサインを出した康景も、股間を乗せられた義経も、それを見ていた連中も、動きを一瞬止めた。

 

「あれ?反応ねぇぞヤス」

 

トーリが()()を乗せたまま、反応しない義経を見て康景に問いかける。

 

「んー・・・頭にチンコ乗っけられるなんて中世でもなかったと思うんだがなぁ・・・お?」

 

康景が義経の顔を窺うようにして覗き込んだ。

すると、

 

「き・・・」

「「き?」」

「貴様らァアアアア!?」

 

義経が吠えた。

そして反射的に義経が前に飛び出し、

 

「「ギャアアアアアア!?」」

 

目の前にいた康景にぶつかった。

 

*******

 

一同は、目の前で起こった一連の流れを見た。

 

股間を乗せられた義経が叫んだと思ったら、前に座っていた康景にぶつかり、気が付いたら、

 

「ふぐぁ!ふががっが」

「あひゃぃぁあ///」

 

康景が押し倒され、康景の顔の上に義経が跨る形になっていた。

康景が下で苦しみもがく度に義経が恥ずかしそうに声を上げる。

 

武蔵勢以外は、

 

「「(どうしてこうなった・・・!?)」」

 

と思っているのだが、肝心の武蔵勢は、

 

「「(あ、これ久しぶりのラッキースケベパターンですわ)」」

 

と、半ば呆れ気味に眺めていた。

 

**********

 

副会長『あーうん、なんか久々だなラッキースケベ』

ナルゼ『そう?ちょくちょくやらかしてた気もするけど』

あさま『遂に康景君が伝家の宝刀ラッキースケベをやらかしたんですか?』

約全員『伝家の宝刀!?』

賢姉様『フフフ、今度は何?パイタッチ?キス?』

ナルゼ『うーん、強いて言うなら・・・顔面○乗?』

約全員『・・・えっ?』

賢姉様『ククク、上じゃなくて下ね!下の口なのね!?流石の私も予想外だったわ!?』

あさま『き、喜美!落ち着いてください!康景君のラッキースケベの被害者なんて数えきれない程いるんですから、多分私たちの預かり知れないところでもっと酷い事された被害者だっているはずです!』

約全員『なんのフォローにもなってないよ!』

 

**********

 

正純が康景にされた義経を羨ましそうに、その光景を眺めていると、恥ずかしいそうな顔を晒した義経はすぐに立ち上がり、

 

「な、なんてことするんじゃお主ら!?」

 

そしてさっきまで下敷きになっていた康景が頭を押さえながら、

 

「まぁ初手でチンコって中々ないだろうからやってもらったけど、効いたのか?あれ?あれれ?なんか長い演説で『わし心広いし?怒らんし?』みたいなこと言ってなかったっけ?」

 

康景が煽るように言う。

更に馬鹿が追い討ちをかける。

 

「あるぇ?もぉしぃかぁしぃてぇ?怒っちゃったぁ?怒っちゃったんでちゅかぁ?」

 

義経は股の間を押さえもじもじしており、歯軋りしながら、

 

「べ、別に怒ってなんかおらんわい!ま、ま、股の間に顔なぞツッコまれたらその・・・///」

 

その様子を見たトーリがにんまり笑って、

 

「あれぇ・・・ひょっとしてぇ、乙女なの?経験があるとか偉そうなこと言っちゃってたりしてぇ、ホントはぁ超純粋()()だったりすんでちゅか?」

「ばばばばばばば馬鹿言うでない!経験豊富じゃ阿保!」

「まぁまぁ落ち着けって義経公、そんなカリカリしてたら可愛さが台無しだぞ・・・ひとまず座って、落ち着こう?」

「そ、そうじゃな」

 

そう言って康景は義経を席に座らせる。

そして義経の背後でトーリに親指を立てサインを出し、

 

「俺、結構有名人とか好きだからさぁ、写真撮って良い?義経公って絵になるよね、威厳があるっていうか・・・」

「お、おおそうじゃの!まぁお主がそこまで言うなら撮ってやらんこともない」

 

あれ?もしかしてこの人、チョロくないか?

 

なんだか某友人(ミトツダイラ)を見ている気分になってきた。

 

副会長『よかったなミトツダイラ、お前と同様のチョロインかどうかは知らんがチョロいかもしれんぞ義経公』

銀狼『ちょっ!?私はチョロくないですわよ!いい加減にしてくださいまし!』

〇べ屋『この流れもパターン化してきたよね』

あさま『そうですね、恒例化されたネタは面白みには欠けるかもしれません』

銀狼『ネタ扱いですの!?』

 

やっぱりミトツダイラはそういう扱いなんだなぁ・・・。

 

銀狼『大体、ここ最近は夜に康景のことを思い返しても鼻血を出すことは少なくなりましたのよ!ほら、チョロくないですわ!』

約全員『えっ?あっ・・・うん、ごめん。手遅れだったね』

 

うん、手遅れだ。

 

というか基準が解らん。

なんかミトツダイラはかなり来てるようだが、大丈夫だろうか。

 

自分もたまに夜康景を想像することはあるが、鼻血を出したことはない。

 

ならば、自分は正常だ。

 

こちらのやり取りを尻目に、康景は続ける。

 

「お?あ、じゃあ最初はトーリ撮ってやるよ。ホラホラ、義経公が椅子に座って、はい、良い感じ良い感じ・・・じゃあ撮るぞぉ?三、二、一・・・」

「「ちょんまげぇ」」

「貴様らァアアアア!?」

 

二度ネタで、また同じ展開が来た。

そしてこの後の展開も、

 

「「ギャアアアアア!?」」

 

同じだった。

そして、トーリの()()から逃れようとした義経が前に居た康景にぶつかり、

 

「ひゃぁ・・・///」

「ふごっふががっががごが」

 

康景に覆いかぶさるように義経がこけた。

今、康景の顔には、義経の胸が乗っている。

そして先程と同じように下敷きになっている康景がもがく度に、

 

「ひっ・・・ひゃ、や、やめ///」

 

義経がらしくない、甲高い声を上げる。

 

「ぷはぁ!」

 

やっとボディプレスから解放された康景が一言。

 

「誰だ!俺の顔面にまな板置いたの!?」

「貴様ァアアア!」

 

いつまで続くんだこの流れ。

 

 




???「ラッキー(?)スケベ不可能は・・・ないっ(キリッ」

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