境界線上の死神   作:オウル

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前回のあらすじ

ナルゼ「ヒャッハー!」


三話 参 後編

大国の利益

 

小国の利益

 

見る側によって

 

状況が違ってくる

 

配点(視点)

――――――――――――

 

副会長『松平対武田戦、松平が窮地に陥る三方ヶ原の戦い・・・それを談合によって無事に済ませることは可能だろうか?』

 

正純の言葉に、ミトツダイラは息を飲んだ。

 

もし三方ヶ原を談合で済ませられるのであれば、それは武蔵にとってのとてつもない益になる。

それは皆も解っているのか、皆もそれぞれ動きを止めていた。

 

いや、

 

「あら?愚弟は?」

「先程足に括り付けたペット用チェーンを外そうともがいておられましたが・・・おや、下にチェーンと衣服が・・・?」

「た、大変だ!総長が脱走したぞ!?」

 

別のことで騒いでいた。

皆が大丈夫なのかとがやがやしているが、彼は無軌道なので大事にならないように祈るしかない。

すると、ナイトが横で、

 

「まぁソーチョーはともかく、確かにそうなったら生徒会も総長連合も株が上がるね」

「でも、それって危険じゃありませんの?」

「ククク、貧乳政治家が一人奮闘してるのに、何か心配事があるわけ?」

「よく考えてみてくださいまし・・・与えるだけの大国。その意味を考えると危険ですわ・・・大国が何故に大国なのか」

 

本来なら康景がちゃんと解説なり何かしらの反応を入れてくれると思っていたのだが、今日は本当に駄目らしい。

実況通神のログを辿ると、真面目にまともなことを言っていないのが解る。

 

尻が好きなのは前々から知ってはいたが、あそこまで拘りがあったとは・・・!

 

先程、康景が熱弁した項目に、自分の名前が出なかったのは大変ショックだった。

持たざる者に救いはないのかと康景に問いたくなったが、今の康景に聞いたらどんな答えが返ってくるか予想がつかないので、敢えて聞かないでおく。

決して康景の選ぶいい尻項目のトップに智、喜美、直政が名前に挙がったので自信がなくなったとか、そういう訳では断じてない。

 

断じてないんですのよ!

 

あと前話(三話 参 前編)で一番おいしい思いをした同人作家には、後で天罰が下ればいいと思う。

これは単なる嫉妬による羨望だった。

しかしあの流れで喜美が怒らなかったのが意外だったのだが、担任の酔っ払いを直に見る機会が増えたことを思うと多分慣れてしまうだろう。

 

慣れって怖い。

 

そんなことを思っていると、IZUMО側、ツキノワが佐藤兄弟の言動を追記する。

 

さと右『そうですなぁ・・・三方ヶ原の戦いについては』

さと左『別に、そちらがやりたくないのであれば・・・こちらはしなくとも構いませんぞ』

 

**********

 

更に、

 

「聖連との経済関係で衝突がある場合、大罪武装があると厄介ですからなぁ。大罪武装確保、バックアップも手伝いましょう」

「随分と親切だな・・・これも義経公の威光という奴か?」

 

義経を見る。

彼女は、

 

「ウフフフフ」

「アハハハハ」

 

康景の膝の上で子供のようにはしゃいでいる姿に、威光もなにもないような気もするが、言葉の綾だ。

気にしない気にしない。

康景もキャラが変わってる気もするがあれはただの酔っ払いだ。気にしない気にしない。

 

歴史再現の談合をした場合、持ち掛けた方が聖連においては罪になる。

しかし、関東、江戸にまで行ければK.P.A.Italiaを始めとした欧州主体の聖連は、織田や武田が聳えるために迂闊に攻めては来られない。

江戸に居れば、そこ中心に国力を発展させることも可能だし、大罪武装関連の交渉も有利に進めていくことが可能でもある。

全てが安泰、全てが上手くいっている。

 

だが、

 

「なるほど・・・ではこちらも仮定の回答をさせていただく」

 

それは、

 

「成瀬の襲名者、三方ヶ原の談合、大罪武装についての諸々のフォローも――――――すべて、なかったことにしていただきたい」

 

*********

 

「フフフ、いい女よ正純。そういう風に誘ってくる男には突き放してやんなきゃね」

「・・・?―――どういうことなんです?」

「簡単よ、康景が構ってくれない時に一歩引いて見せると面白いように食いついてくる・・・それと同じ原理よ」

「・・・それ単に拗ねた喜美に対して面倒くさくなっただけでは・・・?」

「違うわ、康景が私に対して欲情したのよ」

「康景君、喜美に拗ねられるの本当に嫌がりますからねぇ・・・」

 

浅間は若干面倒臭くなったが、どうせ酔っぱらった康景が喜美とよろしくするだろうと予測できるので、あえて適当に対応した。

 

喜美の反応はおいといて、浅間の疑問に答えたのは、

 

ウキ―『大国の思惑・・・ということか』

弟子男『そうだな、清武田・・・当時最大国家であった清が考えそうな思惑だ』

賢姉様『あらあら、妻帯者でありながら見た目は幼女を膝に乗せて酒に溺れてる駄旦那が出てきましたよ』

弟子男『酒に溺れてるって表現やめね?俺は介護してるだけなんだが・・・』

礼賛者『ロリババアは小生の守備範囲外ですが・・・康景君、君も生命礼賛の素質があるようですね』

弟子男『お前と一緒にすんじゃねえ・・・お前昔小等部の女の子追い回して隠し撮りしてたの知ってるんだからな。皆にバラすぞ?』

約全員『もう言ってるよ!?』

 

御広敷が一蹴された。

ていうか何故捕まらないのだろうか?

そこが解らない。

 

まぁ実際、彼のエロゲの話を聞けば教師ものや年上系のネタが多いので、ロリコンとは対照的である。

しかし春に、先生が授業で品川のヤクザ事務所に殴り込みに行った際、トーリが買っていた"ぬるはちっ"というエロゲを見た後で「俺・・・ロリババアなら行けるかも・・・しれん」などと呟いていたのを聞いたことがあるので、ひょっとしたらなんて考えたが、問題になって会議の内容が入ってこなさそうなのでこの事実は伏せておこう。

 

ふぅ・・・一つ貸しですよ康景君。

 

浅間は自分の中で勝手に貸しを作って満足していた。

 

弟子男『まぁ結局のところ、()()()()の、清武田副会長の目的としては武蔵を、関東における属国扱いにしたいってところだろうな』

 

********

 

正純は康景がちゃんと状況を解っていたので驚いていた。

 

だって婚約者がいるのに他の女を膝の上に乗せて甘やかしてたら、まともな判断力を有しているとは思えなかったからだ。

フラッペを食べながらそんなことを思いつつ、話を続ける。

 

「発想のスケールが違いすぎて考えるのに難儀したが、ようやく思いついた」

 

圧倒的国力を誇る清武田からすれば、武蔵の問題など些事である。

 

「清武田の国力は大きい・・・そして仮に聖連と争い被害を受けたとしても、極東の主となる武蔵を取り込んでしまえば、御釣りが出るほどには得をする」

「我々がそんなことをすると?」

「私たちが併合を望まない場合、三方ヶ原の戦いを手違いで起こし、私たちを滅ぼす。そして新たな傀儡としての代理を江戸に用意してしまえば、あとは聖連が別の松平を立てようが文句を言おうが、先に歴史再現の流れとして成立していれば、実質的にも形式的にも極東を統べるのは清武田の総長兼生徒会長、義経公になる」

 

更に元、清と続いて統べることになるから、実質的に世界を統べることになる。

まさに大国だ。

歴史、人材、国土の桁が違いすぎる。武蔵とは考え方からして違う。

 

だが、

 

「これは皇帝思考だな・・・自分たちの国が世界に所属していないという発想。自分たちの国こそが世界であり、他国が自分たちの土地を間借りしている」

 

佐藤兄弟は何も言わなかった。

ただこちらを静かに見据える兄弟に正純は続ける。

 

「これは清武田の長が長寿族である義経公が治めていることが大きいだろう。直径長寿族である彼女が居る限り、彼女の帝国は続いていく・・・つまり、今現在いざこざが起こったとしても、いずれは世界の王である義経の国に吸収される」

 

だから、清武田からすれば子供がおいたをするようなものだ。

武蔵がどれだけ清武田に苦労を掛けようと、それは義経公の帝国の、大きな歴史の中での一つの出来事でしかない。

武蔵がここで大きな貸しを作ったとすれば、それがどんどん積み重なりいずれは返せない程の負債になる。

そうなった時こそ、武蔵は清武田に吸収される。

 

だから、正純は告げる。

 

「武蔵は、三河君主松平元信の傀儡や属国になる選択を否定し拒絶する」

 

今までの先人達が耐えてきた歴史があり、三河で服従を払う覚悟でホライゾンを救ったのだ。

服従が待っている安寧の言葉に乗るわけにはいかない。

 

「だから、そちらの申し出はお断りさせていただこう」

「ならば―――三方ヶ原の戦いを手加減抜きで行いますか?」

「先に言っておくが・・・」

 

正純はナルゼを見た。

さっきから二、三枚同時にネームを切っているのがどうしても不安だが、言った。

 

「ここにいるナルゼは三方ヶ原で戦死する成瀬正義ではない。次代の成瀬正成だ。三方ヶ原における松平の殉死者に関して、他国にどうこう言われる筋合いはない」

 

**********

 

「ま、正純・・・アンタ・・・!」

「な、なんだ・・・?」

「アンタ・・・なにかっこいいこと言ってんのよ」

「別に気にするなよ」

「そんなこと言われたら・・・ネーム切り直してでもそのネタ使いたくなっちゃうじゃない!」

「やめろっ!?」

 

悪い予感はしたが、思った通り悪い方向だった。

というか会議中に何やってるんだお前は。

 

「くっ・・・アンタが清武田相手に頑張る"清☆交☆Show!"と康景がわたs、他の女と居酒屋で酔って愛人を作る"酒と酔っ払いの鈍感野郎"が最後の方までいったのに・・・!」

「やめろよ!・・・ん、お前、二つ目のタイトルで康景と誰って言った?"康景が私と"って言いかけなかったか?」

「キノセイダヨー」

 

明らかな棒読みだった。

こいつなんだろうなホント。

ここ最近(康景への)遠慮は完全に消えたというのは、もう康景×トーリ以外の同人誌を作成している時点で明白だ。

確信できると言っていい。

午後のナイトとの会話でもそうだったが、ナルゼの中での康景への想いは、そういう方面に素人である正純にも解る。

元々仲は良さげに見えたが、二人の話を聞くにやっぱり悪友のような印象を受ける。

そして、康景は葵姉を選び、ナルゼにはナイトが居る。

 

ナルゼがもし本当に康景のことを思っているのであれば、

 

・・・ナルゼ自身、複雑な思いなんだろうなぁ。

 

人間関係って難しいとしみじみ実感していると、目の前、里見義頼が身を前に折って笑いをこらえていた。

その様子を佐藤兄弟が揃って見て、

 

「里見の若造・・・笑う時は笑え、我ら清武田はその程度では侮辱とは思わぬ」

「いや、失敬。まさか佐藤の御二方がこうもフラれるとは・・・それに」

 

義頼は康景と義経を見た。

そしてそれにつられて佐藤兄弟、氏直、ナルゼ、正純もそちらを見る。

 

「Zzz・・・」

「よーしよしよし・・・お、どうやら寝たようだな。まったくこれだから酔っ払いは・・・」

 

義経が康景に向かい合うようにして寄りかかり、眠っている。

横でナルゼが「これなんて対面〇位?」とか口走っていたが、それは全員で無視した。

確かに、あれを見たら威光も何もないが、義頼は敢えて具体的なことは言わなかった。

 

そこで氏直が嘆息しつつ、

 

「結局森林系長寿族とは荒武者などと名乗っていてもその程度なのですね。やはり力押しが出来る私たち鬼型の方が有利なわけですね」

 

挑発にも似たような言葉を発した。

それに対し、流石の佐藤兄弟も頬に力を入れ、杖にしていた太刀に力を入れる。

 

他国の争いなら別に構わないが、彼らの攻撃の余波がこちらに向かないとも限らない。

勘弁してくれよと思うも、義頼が一息ついて、

 

「・・・まぁ、そちらの結論もそろそろ出そうだから、里見家の()()を端的に、裏表なく話しておきたい」

 

交渉、ではなく要求。

だがその要求は、どうやら里見家単体のものというわけではないようだ。

何故なら、

 

「・・・」

 

北条氏直もまた、同じように頷いているからだ。

これはつまり、

 

「・・・二国同時の要求、そう捉えてもいいのだな?」

 

正純の問いに、二人は首を縦に振った。

 

「里見、北条の関東の二国が、武蔵に何を要求する?」

 

それに対し、義頼は淡々と、

 

「武蔵には、私たちが認められるような力をつけて頂きたい」

 

***********

 

・・・やはりそう来たか。

 

康景は義経を座敷の方に寝かし、毛布がなかったのでとりあえず自分の上着を掛けて放置、改めてつまみを食べながら会議を聞いていた。

 

「ハァッ!・・・やっと解放されたぜ☆」

「いやいやいや、義経様相手にしつつ片手で表示枠弄りながら飯食う奴のセリフじゃねえって」

 

横に居た猿飛佐助が何やらとんでもないようなものを見るような目でこちらを見たが、気にしたら負けなので気にしないでおく。

とりあえず、酒を片手に今の義頼の言葉を整理する。

 

里見家は、八犬武神を初めとした武神中心の戦時力を持つ小国だ。

だが小国と言えど、武神中心の防衛力は優秀なものがある。

里見家の、"犬の八加護"と村雨丸という霊刀にまつわる()()を無理やり史実だと神格化したものが、八玉駆動器の高出力武神"八房"と統御機器である霊砲"村雨丸"。

 

その所有者である里見義頼が、「武蔵に力をつけろ」という理由は、自分たち武蔵の実力が足りないって、暗に言ってるのと同じだ。

 

武蔵はアルマダ海戦で三征西班牙との戦闘に勝利し、戦争しても勝てることを証明できた。

だが、証明の代償として武蔵は損壊が激しく補修状態になった。

 

彼らの要求は、清武田のような大国が相手になった場合でも、休まずに戦い続けるようになれと、そういうことだ。

 

無論、それは不可能に近い。

武蔵はアルマダ海戦で三征西班牙を破ったが、アルマダと同じことを続けてやるのは難しい。

なにせ武蔵は本来が"輸送艦"である。

地上側に拠点を持てる他国と違い、そうでない武蔵は、連戦になれば必ず疲弊はする。

故に、今後の武蔵の展開の理想像としては関東勢、そして東北勢を味方につけ、最低でも極東東側とは協力体制に入っておきたいというのが自分の本音だった。

 

・・・特に清武田のように欧州の聖連に対抗できるような国と友好関係を結べればいいとは思うが。

 

どうなるのかはまだわからないが、そろそろ自分も飲んだくれてないで参加しようと思い、席を立った。

しかし、康景は里見が言うことがどういうことなのか、なんとなくだが察した。

 

後は確かめてみるか・・・。

 

*******

 

・・・無理だ。

 

と正純は反射的に思った。

生産的な土地を持つ国ではない以上、長期戦は望めない。

 

アルマダ直後に康景が言っていたことを思い出す。

 

「武蔵は長期戦になった場合持たない」

 

その言葉の意味を、改めて痛感する。

すると、自分たちの背後から不意に、

 

「なるほど、清武田を含めた聖連諸国、もしくは聖連大連合と十分に渡り合えなければ、武蔵は"国"としてではなく、"戦力"としてしか他国から見られない―――そういうことか、里見義頼」

 

上着を脱いだ康景が会議の方に参加してきた。

 

「jud.特に関東は歴史再現の動きが世界側より激しい。我らは清武田のように明確に聖連に対応できるわけでもないからな」

「・・・清武田のような大国にのみ込まれる可能性がある。そのために俺たちに大国と正面からやって負けない程の力をつけろと?」

 

義頼と会話しながら、自分の隣に座る。

さっきまで酔った義経とよろしくやっていた人物とは思えない、普段の康景の姿がそこにはあった。

だが、

 

ち、近くないかこれ?

 

何故か自分の隣、肩と肩が触れ合うくらいには近くに座っていた。

一瞬いつもの康景だと思ったが、この座る距離感から考えるとやはり酔っ払いだ。

 

「・・・なんでお前顔赤くなってんの?風邪か?」

「・・・酒で顔を赤くしているお前に言われたくない、というかほっといてくれ」

「・・・はぁ?」

 

なんでこいつはこんななんだろう。

自分が何故顔を赤くしているか、そこを理解してもらえないことに少し憤りを感じたが、諦めた。

 

康景の会議参加に、里見、北条、清武田はそれぞれ動きを固くするが、それに構わず康景は態度を大きくして座っている。

 

・・・堂々としてるな。

 

酔った影響もあるだろうが、それでも彼の存在は今の会議の場では助かる。

 

「・・・左様。それだけの力を得ていただきたい」

 

康景の問いを、義頼は肯定する。

しかし、

 

「何故そこまでして武蔵の迅速な強化を要求する?」

 

何故にそこまで迅速な強化を必要とするのか、正純はすぐには答えが出なかった。

だが康景は、一瞬だけ考えるそぶりをして、

 

「・・・三方ヶ原の戦い故か」

 

と答えた。

康景の言葉に、義頼は肯定として無言で首を縦に振った。

だが佐藤兄弟の方が顔から表情を消して、

 

「・・・貴様っ!」

 

歯軋りをして声を荒げた。だが康景はそれを冷ややかな目で一瞥した後、無視して、

 

「正純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。里見が言いたいのは"そこ"だよ」

 

それは、

 

「三方ヶ原の戦いで武田信玄が病死するからだ」

 

******

 

里見義頼は、目の前の男が関東諸国の意図をいち早く察したことに驚きを得ていた。

先程の武蔵勢の様子から酔って普段の調子ではないのだろうと思っていたのだが、ここに来て普通に会議に参加してきた。

 

なるほど、これが・・・。

 

酔っていてこの男は()()なのだ。

正直、敵に回したくない存在だというのは認めざるを得ない。

 

しかしこちらの意図を察してくれたのは有難い。

だから意図を汲み取ってくれた康景の言葉に続く。

 

「武田信玄の死後、滅亡の一途を辿り、その子である勝頼が継ぐことになるが、彼の信頼は薄く、織田との戦いである長篠の戦いで敗北する」

 

すると今度はさらに康景が続ける。

 

「―――長篠の戦いを契機に武田は滅亡、織田は武田領や関東を半ば放置する。そこを得るのは松平や北条だが・・・」

 

そして康景が、ああ、そうか、と納得するように頷く。

彼は横に居る武蔵副会長に、

 

「正純、俺たちは清武田が大国であることを警戒してたけど、実際は違ったらしい。俺たちは歴史再現のその後を軽視していた。武田が滅びた後なら清に吸収されればいい。だが、空いた土地にP.A.Odaが進出してくればどうだ?」

 

そう問うた。そしてその上で、

 

「正純、確かに三方ヶ原を警戒するのは現状の流れからだと自然な流れだ。だが、ここにいる連中はその先も見ている。つまり、里見と北条が見据えているのは清武田ではない―――織田だ」

 

そう告げた。

その言葉に、氏直と義頼は暗黙をもって肯定する。

 

だが、

 

「貴様ら・・・!」

 

佐藤兄弟が北条と里見、そして事実だけを述べる康景を睨み、杖にしていた大刀を握りしめる。

それに対し、天野康景は淡々とした様子で、

 

「否定するのか?今の俺の発言を?ならば問うが、何故会談を持って武蔵を取り込むような流れを作った?―――武蔵を手中に収めていれば、P.A.Odaとの調整に使えると、そう思ったからではないのか?」

 

容赦なく言った。

 

**********

 

正純は康景が入ってから急に事態が動いたことを素直に凄いと感じた。

 

否、凄いというか、先程まで酔っ払いの相手をして即座に会議に参加し、相手の感情を動かした。これは凄いというよりは不思議な感じだ。

何故それがスムーズに、行えてしまうのかとう疑問だ。

 

この男は酔っている。

酒の匂いがするから、それは言わずもがなだ。

だが酔い状態でもこの男は必要なことはこなす。

 

そういう男だ。

 

何度目か解らないが、康景が味方でよかったと改めて思う。

 

だが同時に、この酔った康景は少し危険だとも思う。

康景の今の煽るような口調は、下手したら戦争に即突入しかねないからだ。

 

酔った彼に容赦の二文字は見られない。

彼の発言が、佐藤兄弟を刺激するような言い方だったのは否定できないが、彼の発言は関東の二国、里見と北条の立場を代弁した。

清武田への威圧と他二国への助け舟である。

 

里見、北条としては康景の発言が関東諸国の中を悪化させて敵対関係にしたとしても康景の発言が自分たちの意図とは違うと言い張ればその場しのぎにはなる。

 

そして、

 

「・・・くっ!」

「・・・」

 

気が付けば佐藤兄弟が大刀を抜刀する前に、康景がすでに剣を抜いていた。

そして佐藤兄弟の片方の喉元に切先を向けている。

 

正直な話、正純は康景が隣に居たのに、いつ動いたのかすらわからなかった。

場の空気が硬直する。

 

しかし、

 

「・・・?」

 

その硬直はまた別の形で硬直することになる。

康景はその原因にいち早く気づき、

 

「・・・なんだよ、酔って眠ったと思ったのに」

 

そう言って剣を納めた。

康景が問いかけたのは、

 

「なんじゃあ・・・やはり短気な奴じゃなぁお主」

 

康景の上着を着こんだ義経だった。

彼女は酒瓶を片手に、

 

「わしの考えとそのジジイ共の考えは違うからのぅ?・・・その辺勘違いするでないぞ」

 

***********

 

康景は剣を鞘に戻し、正純の隣に座りなおした。

 

ようやく出てきたか・・・。

 

否、ようやく()()()()という言葉は正しくない。

さっきまで自分が介護してたので一緒に居たのだ。

 

正しくはようやく()()()()()()と言ったところか。

 

「だかっ、だからおま・・・ち、近いって・・・!」

「どうした?お前さっきから変だぞ?」

「だから距離がだな・・・!(か、顔が近いんだよ馬鹿///)」

 

正純の顔を覗き込むようにして心配する康景だったが、そもそも康景が鼻と鼻が触れそうになるくらい顔を近づけなければ正純も慌てずに済んだのである。

この男、完全に酔って人との距離感を忘れてしまっているが、元々こういうところで変な才能を発揮する朴念仁なのは言うまでもない。

それが酔っているのだから、何をしでかすのかは未知数である。

 

「風邪でも引いてるのかな?」

「」

 

そう言って今度は、正純の額に自分の額をくっつけた。

すると、

 

「熱はないようだが・・・あれ、正純さーん?」

「・・・き」

「き?」

「きゃああ↑あ↓あ↓あ↑あ↑あ↑あアアあ!?」

 

正純がらしくない悲鳴を上げた。

 

********

 

正純がベンチから崩れ落ちたのを見ながら、ナルゼが「い、良いネタゲット!」みたいな顔をしてたので康景は無視。

とりあえず義経のことを考えていた。

 

源九郎義経。

 

純系長寿族の彼女は、今世界に存在しうる誰よりも人の生き死にや損得を見てきた。

学長の話によれば、彼女は兄である源頼朝が三代あとの実朝を襲名した際、暗殺の歴史再現を慣行したらしい。

その歴史再現が解釈で済まされるはずだったのに、だ。

 

自分が生き続ければ、他人は自分よりも先に死ぬ。

自分が生き続ければ、そこに国が出来る。

 

そんな生き方を、ずっと続けて、幾多の国の趨勢を見てきた彼女が、何を思っているのか。

 

それをここで見定める価値はあるし、清武田との今後の関係性を思うなら必要なことかもしれない。

案外、何も考えてないのかもしれないし、もしかしたら何も思ってないのかもしれない。

 

それでも、なぜか彼女の心情には興味があった。

 

「(・・・どうしてだろう?)」

 

彼女が自分を知っているかもしれないからか?

 

本当にそれだけ?

 

彼女が俺を知っているんじゃない。

 

 

 

 

怪物(お前)が彼女を知っているんだろう?』

 

 

 

 

「!?」

 

不意にどこからか、そんな声が聞こえた気がした。

辺りを見渡し声の主を探すが、そんな存在はいなかった。

 

幻聴だ。

 

いかん、本当に酔っているのかもしれない。

だからこんな幻聴を聞いてしまうのだろう。

 

まぁ実際酔っているのだが、今の康景には自身の状態を正確に判断できるだけの余力はなかった。

 

康景は目元をつまんで気を取り直す。

その様子を見ていた正純が、

 

「お、おい大丈夫か?」

 

そう心配そうに尋ねてきた。

だが今の康景には自身の状態よりも、

 

「いや・・・それよりいつまでそうしてる?」

「あ、いや、その・・・腰が」

「は?」

 

どうやら腰が抜けて、ベンチから崩れ落ちてそのまま動けなくなってるらしい。

 

そもそもどうして腰が抜けるんだ?

 

そんな疑問を、原因を作った本人が思う。

康景は正純に手を貸し、

 

「しっかりしてくれよ」

「え?おまっ・・・!お前のせいだろう!?」

 

最近の子はすぐ人のせいにしたがる。

お兄さんこういう世間の流れよくないと思う。

冤罪で捕まったりする人って、こうやって生まれるんだろうなぁと考えつつ、とりあえず康景は正純を引っ張って、

 

「ひぁっ!」

「よし、これでいい」

 

膝の上に正純を乗せた。

 

「な、何が良いんだぁあああ!?」

 

義経を膝の上に乗せたと思ったら、今度は正純である。

正純が羞恥に悶える中、康景は特に気にせず、そのまま義経の話を聞こうとしている。

 

さすがの正純もこの状態はいかんと思い、康景に抗議する。

 

「お前、流石にこれはない・・・!」

「んだよ五月蠅いなぁ・・・じゃあどうしろってんだ?言ってみろよ」

「まずこの体勢を何とかしろ・・・!」

 

ああ、そういえばさっきナルゼが膝の上に座る権利とかなんとか言っていたから(覚えてない)、多分それを気にして膝の上は開けておけと、そういうことだろう。

こいつ良い奴だなぁと的外れかつ思考がぐるぐるになってきた康景は適当に、

 

「じゃあこれでいいかっ!?」

「ふぇっ!?」

 

膝を開けたことで、膝の上に居た正純が、康景の膝分下に落ちる。

そして康景の空いた足の間に、正純の尻が着地したことで、

 

「どうしてこうなったっ!?」

 

康景が後ろから正純に抱きつくかのように座る形になった。

正純は英国の焼肉会の時にホライゾンに対してやっているのを見たが、まさか自分でやられるとは思ってなかったのか凄いいい感じで赤面している。

一方で康景は、もう完全に正純を無視し、義経の話を聞くことに専念していた。

 

 

 




今回のまとめ

正純「ヒャッハー!」

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