境界線上の死神   作:オウル

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普段酔っ払いを警戒している人が酔うとどうなるのか・・・


三話 弐

あれ?酔ってる?

 

本当に酔ってるのあれ?

 

配点(酔ってます)

――――――――――――

 

まさか康景が酔ってしまい、先行きが不安になる正純だったが、今のところ康景からの被害はないので良しとしておく。

だが、それにしても義経と差し向かって飲んでいる康景の雰囲気が確かに変わってきてはいるが、大騒ぎするようなこともないし、何かをしでかす様子はない。

 

寧ろ大人しいくらいだ。

 

酔っては周囲に害をまき散らす義経も比較的大人しくなり、つまみに手を出しては"ハゲ僧侶"と罵られていた"要らずの三番・三好晴海"も、今では落ち着いてつまみを食べることが出来ている。

果てには苦痛から解放してくれた康景に対し手を合わせるほどに感謝している。

酒によるパワハラは本当に質が悪いな、うん。

 

康景と義経の会話に耳を傾けてみる(決して二人の会話が気になるとかそういうことでは断じてない)。

 

「しかしあれじゃなぁ・・・さっきの戦闘、お主結構強いのぉ・・・かっかっか」

「・・・なんだ急に?」

「いやぁなに、昔のことを少し思い出しての・・・」

「・・・?」

 

"昔のこと"

 

その言葉に康景は反応する。

 

「そういえば俺とどこかで会ったことがあるとかなんとか言ってたけど、それの事か?」

「いや、お主のことは依然として思い出せんのじゃが・・・」

「・・・あっそ」

「んじゃあ冷たい奴じゃの・・・昔にの、とんでもない阿保がいての」

「いや、聞いてねぇよ」

「その阿呆がのぅ・・・」

「いや、だから聞いてねえって・・・」

 

正純は二人のやり取りを遠くから聞いていた。

周りがうるさくて義経の昔語りは聞き取れなかったが、康景に対しかなりフランクに接している辺り、康景のことを相当気に入っていると見える。

康景も酔っ払いの相手に慣れていることもあり、酔っぱらって義経相手に「馬鹿」だの「老害」だのと口がいささか悪くなっているがうまく相手をしている。

 

喜美がヤバいことになるなどと言っていたが、それほど酷い事にはなっておらず、むしろいい感じの雰囲気に見える(※正純視点で見た場合です)。

正純は心の奥底で少しだけムッとして、

 

・・・あれ?なんだこれ。

 

ただの会話のはずなのに、ただの酔っ払いの会話のはずなのに、

 

「正純?なんだか無償にあの二人の間に割って入りたくなったんだけど・・・」

「お、なんだナルゼ、奇遇だな・・・私もだ」

 

あの雰囲気が凄い羨ましい!

 

ナルゼも同じ気持ちだったようで、二人で遠目で康景たちを見ていた。

 

なんだか思っていた展開と違う。

 

ここはなんか康景が酔って(ラッキースケベ的な)問題を起こしてややこしくなるような流れじゃなかったのか。

いや、別にそういう展開を期待していたわけではないのだが、まるで長年の友人の如く普通に接しているあの雰囲気が少し羨ましかった。

 

副会長『葵姉、なんだか康景が思ったより普通なんだが・・・?』

賢姉様『おかしいわね。普段なら度数の高い酒は言った時点で賢姉の賢尻触ったり撫でたりしてくるんだけどねぇ』

●画『何それうらやま・・・ゲフンゲフン』

副会長『多少言葉に遠慮がなくなっているが、源九郎義経とのやり取りを見ている限りではまだまともだぞ?』

賢姉様『あー・・・年上が相手なのね』

副会長『なにかあるのか?』

賢姉様『康景は普段から先生(酔っ払い)の相手をしているのよ?酒の席での年上への対応はお茶の子さいさい、酔っていてもそれくらい余裕でこなすわ』

副会長『つまり・・・?』

賢姉様『年上が相手ならそこまでひどいことにはならないわ。むしろ気を付けないといけないのはアンタ達よ』

●画『どういうこと?』

賢姉様『年上の酔っ払いにはセクハラしないかもしれないけど、気心(笑)の知れた間柄だとナニをするか解らないから・・・』

●画『ハンッ・・・むしろ望むところですが?』

約全員『・・えっ?』

●画『望むところですが何か?』

約全員『な、何故二回言った・・・!?』

 

心なしかナルゼが嬉しそうだった。

いや、嬉しそうというよりはそわそわしているといった方が正しいかもしれない。

 

まさかとは思うが、もしかするとラッキースケベを狙っているのだろうか。

しかし、ラッキースケベを狙うということはつまり不意のセクハラを望んでいるということ。

それが何を意味するのか、

 

ナルゼはマz・・・いや、やめておこう。

 

変なことを言って自分に飛び火しそうだからとか、そういうわけではない。

ナルゼが横で康景の同人誌を描いてるのを眺めながら、今度新刊出たら格安で売ってもらおうなどと邪なことを考えていると、

 

「うん・・・思ったほどではないが、盛況だな」

 

男の声が背後からした。

不意に聞こえた声にハッとして振り向くと、そこには中背の、清武田の制服を改造して極東の制服を着こんだ青年が居た。

腰に青の一刀を下げた青年の背後には、装甲に多くの傷を付けた武神がある。

 

いくら戦闘に疎い正純でも、その武神が修羅場を潜ってきた猛者であることは容易に想像できた。

しかし、それよりも重要なのは、

 

・・・いつ路地に降り立った?

 

それが解らなかった。

武神でそれほどのことができるということがどれほど凄いことか正純にでも解ったのだ。

ナルゼはすでに行動を起こしており、正純の周囲に防護用の魔術陣が展開されている。

そして、実況通神の方では、

 

弟子男『安心しろ正純、その男には俺たちに危害を加える意思はない』

副会長『何故そう言い切れる?』

弟子男『里見の武神は確かに脅威だが、里見に武蔵を攻撃するなんて余裕はないはずだ』

 

あれ、お前酔ってたんじゃないのか?

 

どうやらこちらの杞憂だったのかもしれない。

ヤッパリヤスカゲハタヨリニナルナー。

 

ナルゼの方は、

 

●画『偉そうなこと言ってるけど、ちゃんと護衛としての役割も果たしてほしいわね』

 

そんな皮肉を言いながら残念そうにしていた。

 

え、あれ、なんでお前ちょっと残念そうなの?

 

正純は小声で、

 

「な、なんでお前少し残念そうなんだ?」

「だってそれだと酔った康景の同人誌ネタにできないじゃない」

「お前、それで毎回康景に殴られたりしてるのに懲りないな・・・」

「むしろ望むところです」

「・・・なんだって?」

「むしろ望むところです」

 

正純は思った。

 

あ、こいつドМだわ・・・。

 

と。

 

正純も最近自分の性癖について疑問に思う部分は無きにしも非ずだったが、ここまでは行っていないと思う。

少し(?)だけ引いた正純だったが、ナルゼはその様子に気づくことなく、新たに来た男に、

 

「江戸の夏イベントでの際、沿岸警備の任を北条と争っている里見家の総長―――」

「―――里見義頼か」

 

*********

 

正純の視界の中、細めの青年は笑みを返し、

 

「武蔵勢に知って頂けていたのなら有難い。里見は何と言っても小国だからな・・・今後とも宜しくお願いしたい。毎年総長連合及び生徒会が刷新される武蔵とは上手く付き合いたくともできない時が多いから、この様な機会を持てたことは幸いだ」

「jud.こちらも色々思案しなければならない時に、色々と選択肢を増やしてくれたことは幸いだ」

「いやいや・・・こちらとてやはり安定が欲しいのからな。色々と頼ることになると思う」

 

その言動、武神の傷つき具合からして、苦労人なのだろうなと、素直にそう思う。

彼は辺りを見渡し、

 

「・・・それにしても、意外だったな」

「・・・?」

「三河での"彼"の活躍を耳にしていたから、あのように和やかな様子を見ると少し面喰ってしまったよ」

 

"彼"・・・?

 

三河で活躍した"彼"という言葉に、正純はまず、康景のことを思い浮かべた。

三河で康景がどれほど活躍したかは、今までの各国の反応を見る限り、里見家などの関東勢も知っているだろう。

 

身内からすると最近は丸くなったイメージしかないが、外から見ると多分イメージは"容赦ないマジギレマシーン"あたりだと思う。

雰囲気も凛としているところがある(※凛として見えるのは正純フィルターによる補正)が、こうやって他国の学生と酒を飲んでいる姿は和やかに見えるのかもしれない。

 

「まさか()()義経公を膝の上に乗せて酒を飲むなんて、意外と面倒見がいいのだな」

 

うん?なんだって?

膝の上?

はい?

 

正純は意味が解らず、ナルゼと顔を合わせてから康景たちの方を見る。

 

「かっかっか、いやぁ意外に座り心地いいのぅ!」

「あ、ウオルシンガムさんや。野菜炒め注文追加でオナシャス。お代は清武田の覚羅教導院生徒会で」

「「・・・」」

 

な、なんだあれ!?

 

本当に康景の膝の上で義経が酒を飲んでいる。

座られている康景にいたっては器用に片手で表示枠を弄りながら、もう片方の手でつまみを食べている。

 

「「(´・ω・)!?!?」」(←※正純、ナルゼの顔)

 

何とも表現しづらい顔をしていると思うが、こんな顔もしたくなる。

 

●画『康景?アンタ・・・酔って感覚が鈍ってるのよ』

弟子男『ん?なに?俺は酔ってないぞ?』

●画『じゃあその膝の上に乗ってるのは何よ?』

弟子男『はぁ?』

 

康景は言われ、膝の上を見た。

そしてしばらく沈黙し、

 

弟子男『うぉ!?なんでこいつ膝の上に乗ってんだ!?』

●画『うわぁ・・・酔っ払いだわ』

副会長『お前、それは流石にないわぁ』

 

自分の膝の上に乗ってて気づかないなんてことがあり得るのか?

いや、うん康景だからな。この様子なら確実に酔っていると判断せざるをえない。

 

●画『アンタ普段より見境なくなってない?』

弟子男『待て、普段よりってなんぞや』

あさま『あれ?なんだかそっち盛り上がってますね』

弟子男『大丈夫だ、特に(何も起こってないので問題)ない』

賢姉様『フフフ、早速何かやらかしたの?』

弟子男『何もやってねぇよ!うん。何もないよ、なぁナルゼさんや』

●画『ククク、そうねぇ、膝の上に源九郎義経が座っている以外特に異変はないものね』

約全員『なん・・・だと・・・!?』

銀狼『ちょっとそのことについてkwsk!?』

 

ミトツダイラよ、なんでお前が一番必死なんだ・・・?

 

弟子男『ナルゼ・・・お前、いったい何が望みだ?』

●画『そうねぇ・・・アンタ、自制が出来てないみたいだから忠告しておくけど、このままだととんでもない展開(R‐18)になるかもしれないのよ?』

弟子男『な、なんだって・・・!?』

●画『アンタが更に酔って、もし()()()()()()になって喜美と気まずいことになったら困るわよね?そうならないために私が一つ取引してあげる』

弟子男『・・・なんだ?』

●画『武蔵での"アンタの膝の上に座る権利"を私に永久譲渡し、この会議中、"セクハラするときは私にしてくれる"契約してくれれば、アンタがナニをしようとも私は証言台で黙秘し続けるわ』

弟子男『なにその取引?そんなもんでいいならいくらでも構わんが・・・』

 

待て康景、お前判断力低下しすぎじゃないか?

 

貧従士『康景さん、酔うと馬鹿になりますね』

〇べ屋『ヤス君の弱み握れるチャンス!?チャンスじゃないこれ!?』

賢姉様『ククク、ナルゼ・・・アンタ意外にやるじゃない』

あさま『いや、喜美の反応もどうかと思いますが・・・』

銀狼『くぁwせdrftgyふじこlp』

金マル『ミトっつぁんミトっつぁん!焼肉のたれ口から垂れてる垂れてるwwwww』

 

悪い意味での天然馬鹿が加速した康景はともかく、武蔵における()()()()()()は魅力的だ。

更にセクハラ目標をナルゼ自身に向けさせることで、康景からのセクハラの流れをより容易にした(そうなるとは限らないが)。

結局のところセクハラされた場合に一番得をするのはナルゼだ。

自身の欲望を満たし、更にナルゼの同人誌の内容が充実するのだから。

 

「くそっ・・・その手があったか・・・!」

 

正純は思わず小声で悔しがった。

 

・・・酔った康景、いいじゃあないか!

 

正純は自分を出し抜いたナルゼを横目に、拳を握り、本当に心底悔しがった。

もっとも、もし同人誌が作成された場合、正常に戻った康景がナルゼに何をするのかは想像に難くないのだが、もしかしたらナルゼはそれすらも計算に入れているのかもしれない。

恐るべき武蔵第四特務。

 

武蔵の実況通神が無駄に盛り上がりを見せてる中、里見義頼の背後から、

 

「清武田覚羅教導院副会長、佐藤兄弟で御座います」

 

二つの影が、大刀を杖代わりにして入ってきた。

二人とも長い白髭の老人で、一概に見分けがつかない。

双子であるのは明確、これは情報で知っている通りだ。

 

だが、

 

「副長である弁慶様は流石にこの場には来られませんでしたので、私たちで失礼をば」

「佐藤兄弟、貴方たちが二人で副会長を為しているという話は聞いている。だが・・・」

 

正直言うと、見分けがつかない。

英国でエリザベスとメアリという、非常に立場的に偉い双子と知り合いになったばかりであるが、彼女たちは雰囲気というか、性格が違ったから見分けはついた。

もっとも互いにエリザベスがメアリを、メアリがエリザベスを演じたりするとさすがに解らないが、康景曰く「感覚でわかる」とのこと。

 

康景の判断基準は解らないんだよなぁ・・・。

 

点蔵は胸のサイズで判断していたが、人を胸で判断する奴は、天罰が下ればいいと思う。

 

だが、この二人は全く違いが解らない。

身体的に差があるわけでもないし、ましてや会ったばかりでこの二人を語れるほど人となりを知っているわけでもない。

 

それを察してか、兄弟の方が、

 

「あ、私の方が兄で・・・」

「あぁん?若い子の前だからって粋がってますなぁ弟」

「はぁ?兄は私でしょうが、母の言を忘れましたかぁ?」

 

絶対母も適当なこと言ったぞ。

 

「あの、どうやって見分けを・・・?」

 

二人は口を揃えて、

 

「「私が兄で、弟の方は挙動が馬鹿でわかりや・・・」」

 

そこまで言って口を噤んだ。

これは、どっちがどっちと決めるのはまずい展開になりそうだ。

正純はとりあえず諦めて、

 

「あの・・・どういった御用で・・・?」

 

本題に入った。

 

「え?ああ、義経様が酒で"こうなる"だろうということは予想できたので―――私どもの方で会議をと思いまして」

「え?あなた方は義経公が"ああなる"ことが予想出来ていたのか?」

「へ?」

 

二人は義経を見た。

 

「かっかっかっか!次は甘味じゃ、はよ口に運べ!」

「これくらい自分で食えよ~まったく・・・ほら」

 

康景に座っている義経が、甘いものを要求。

康景も文句を言いつつも食べさせている。

 

甘やかしすぎだろ!?

 

あの甘やかしは酷いことには含まれないんだろうか?

だとしたらあの甘やかしは標準で、普段先生が酔ったらそうしてることにならないだろうか?

 

思わずそう突っ込みたくなるほどに康景は義経を全力で甘やかしていた。

 

その様子を見た佐藤兄弟は、

 

「おお、義経様・・・!」

「まさか・・・!」

 

自分たちの王が見る影もなく甘やかされているのを見れば、そりゃ戸惑うだろう。

だが、

 

「まさか酒に酔った義経様を相手できる方がいようとは・・・!」

「これなら今回は義経様が酔った勢いで物を壊したりして被害が出ることもなさそうですぞ!」

 

そこなのか!?ツッコむべきところそこなのか!?

 

佐藤兄弟もそれなりに苦労してるのは何となくわかったが、あの惨状(甘やかし)を見てその反応は予想外だった。

 

「あ、あの・・・あの存分に甘やかされてる姿には何かないのだろうか?」

「こちらとしては酔った義経様の相手をして頂けるのは有難いので・・・」

 

酔っ払いには苦労してるんだな、どこの国も。

義頼も酔って寝かされている義康を見て、

 

「ああ、うちのも酒は駄目なんだ。失礼した」

「あ、ああ・・・まぁ、会合の場に老酒持ってくる方もどうかとは思うが・・・」

 

と話している合間に、佐藤兄弟が表に竹ベンチを用意し始めた。

おそらく、中で酔ってる連中とは分けて会議をしようと、そういうことだろう。

こちらの動きに気づいたのか、北条氏直も席を立った。

奥に残っているのは酔っ払い共(康景、義経、義康、忍者たち、あとジョンソンくらい)だけだ。

 

最悪ウオルシンガムに頼めばなんとかなるだろう・・・多分。

 

店に来てから大分時間が経った気もするが、これでようやく会議が始まる。

そう思った時、横からナルゼが魔術陣に手書きの文字を寄こしてきた。

 

そのタイトルは"里見義頼について"だった。

 

********

 

正純の目の前に、痕跡を残さないように読んだ文字ごとに消えていく文章が寄越された。

それは、そうまでしなければならない事柄ということだろう。

 

『いい?さっきオタク眼鏡から情報が来たわ』

 

『関東の連中ってのは、そこの佐藤兄弟を初め荒武者揃いよ。里見義頼が腰に差しているのは霊刀・村雨丸・・・私と康景が護衛についているけど、いつでも臨戦態勢ってことは忘れないで』

 

臨戦態勢、その言葉に正純は気を引き締める。

 

『知ってるとは思うけど、今の里見義頼は二代目。元は正木憲時っていう武将だったのが、初代の里見義頼を殺して今の地位にいるわ』

 

その話は知っている。

毎年発行される総長連合・生徒会年鑑にその事実は記載されているからだ。

 

『それで付けられた字名が"家臣殺し"。しかも初代里見義頼は、そこで寝ている里見義康の実の姉が襲名してたの・・・』

 

ナルゼが言いたいことは解る。

先程康景は里見という国を考えて攻撃の意思はないと発言していたが、

 

『いくら康景が問題ないって判断したとしても、気を抜かないで』

 

******

 

正純たちが会議を始めている一方で、浅間は七穀炒飯を炒めていた。

今、自分たちの席には自分の他に鈴、アデーレ、そして喜美が居る。

 

なんだか実況通神を見る限り、康景がなにか酔って膝の上がどうこうという話だが、どんなことが起こっているのか逆に見てみたい気もする。

 

「喜美?なんだかあっちで康景君が何か酔ってやらかしてるみたいですけど・・・大丈夫ですか?」

「ククク、何この乳巫女!人の事煽って来たわ!?」

「いや、別に煽ってるわけじゃないんですけど・・・」

「じゃあ何よ」

「ほら、普段からラッキースケベとかフラグ立てとか意識的にも無意識的にもしまくる康景君ですから、その康景君が酔ったら心配ではないかと・・・」

 

喜美は顎に手を当てて、

 

「まぁさっきも実況通神の方で言ったけど、年上が相手ならそこまで問題は起きないと思うわ。心配なのはむしろ正純たちの方だけれど」

「・・・どれだけ先生で鍛えられたんですか康景君」

「先生が康景邸(ウチ)に来た時なんてすごいのよ?英国での焼肉時なんて比じゃないくらい甘々ね。目も当てられない程で"あれ?私が康景の嫁なのよね?"って思いたくなる時が多々あるわ」

「前々から思ってましたけど、先生も大概康景君のこと好きですよね。嫉妬したりしないんですか?」

「あらあらこの乳巫女煽りおる・・・イラっとする時ももちろんあるけど、康景と先生がイチャつくのなんて毎度のことだし、そこは慣れたわ。それに、指輪(これ)見るたびに私が()()()って実感するから、問題ないわ」

 

そう言って喜美は左手を掲げ、明かりに指輪をかざす。

 

これが勝者(正妻)の余裕って奴ですか・・・!

 

色々と大変そうだが、仲睦まじいようで何よりだ。

 

「まぁなにかあったら後で絞めればいいだけだし」

「さらっと怖いこと言いますね」

 

康景は絶対尻に敷かれてる。

間違いない、はっきりとわかります。

 

「大変なのは会議もそうだけど、今の武蔵の現状も結構面倒よね」

「げ、ん・・・じょう?」

 

喜美が焼けた鳥串を自分と鈴の皿に分けながら話す。

 

「やっぱり戦争が続いたりすると人々の中で不安や恐れとかでるじゃない?」

「浅間神社各契約所での祈り抽出とか見る限りでも、今日の包囲とかにも不安を感じている人は多いですね」

「アルマダで勝ったから今回の人々の不安は厭戦気分ではないって正純は言ってるけどね」

「えんせ、ん・・・?」

 

聞き慣れない言葉に、鈴が反応する。

喜美は鳥串を食べながら、

 

「戦争に対する嫌気、ですね。さっきも話題に出ましたけど今は勝ってるからまだ大丈夫ですが、不安要素があると戦争に対する嫌気も強くなりますもんね」

「それを防ぐためには最低限勝ち続けないときついわよね」

「それっ、て、やっ、ぱりむ、ずか、しいよ、ね?」

 

確かに、勝ち続けるということは難しい。

でも、それをなんとかしていかなければならないのもまた、現状である。

勝ち続ける必要がある武蔵に対し、各国は構えているだけで良いのだから猶更だ。

正純や康景がそのあたりのことを危惧していたが、康景は康景で後輩の代表委員などと連絡を取り合い、一般生徒の厭戦気分は和らげられるように動いている。

 

相変わらず(嫁とイチャイチャしたり先生とイチャイチャしたり同級生にフラグ立てたり他国の人にフラグ立てたり、あとついでに働いたりで)忙しい人だ。

 

「康景は三河とか英国とかで一人無双やったわけだけど、"妹"とかいう変なのに片目やられちゃったから、"天野康景だって無敵ではない"ことが証明されちゃったわけだしねぇ・・・」

 

そうつぶやく喜美は少し寂しそうだった。

おそらく康景の事で知らないことがあるのが寂しいのだろう。

知らない事の内、喜美には康景の術式についてこの間話しておいた。

 

もちろん、その時は憤ったりしていたが、康景が術式を使わざるを得ない状況は今後出てくる可能性も否定できない。

そのことを康景に諭された結果渋々了承はしたが、納得はしていないと思う。

そもそも康景が喜美と交際を通り越して婚約するような仲になるなんて解っていれば、康景に無茶な術式契約なんてさせなかったはずだ。

トーリの術式の件といい、康景の術式の件といい、二人にお願いされると断れない自分が居る。

 

・・・二人のことになると甘いですよね、私。

 

特に康景に「内密にしてくれ」と頼まれると、なぜか断れない。

なぜそこまでするのかと聞かれると、家族みたいなものだからで片付いてしまうのだが、自分から彼に相談に乗ってもらうことも多々あった。

だからこその負い目みたいなものを感じてしまっているのかもしれない。

 

「・・・まぁ、その辺の事を含めて、なんとかしていかなければなりませんね」

 

出来る事なら、彼にこれ以上不幸がないように祈った。

 

**********

 

正純は店の中と外で分けられた状況を見て、改めて状況を整理した。

 

現在、二つのベンチがあり、店側に氏直、ナルゼ、自分。

通り側に佐藤兄弟、里見義頼がいる。

 

中にいる連中、真田十勇士は義経の護衛のようなもので、真田の上位権限を武田が握っているために会議には参加してこない。

もっともその護衛対象が物凄い甘やかされてる状況に困惑しているようだが。

 

この店のオーナーである英国勢、ウオルシンガム、ジョンソンはカウンターの方に下がっていた。

 

つまり、会議のメンツは武田、里見、北条、武蔵の四国で行うということだ。

 

(やっと)会議が始まる前に口を開く。

 

「会議を始める前に聞きたい」

 

"偶然"集まったこの会議でまず聞いておきたいこと。

それはここに何故集まったかである。

 

将来的に関東を治めることになる松平と友好関係を築いておくことは重要かもしれない。

しかし、それは今でなくともいいはずだ。

 

現状は武蔵が六護式仏蘭西、M.H.R.R.に囲まれていて、客観的には危機的状況だ。

他国が武蔵に安全に接触することを思えば武蔵が関東を統治してからの方が確実である。

ではなぜ今来たのか。

武蔵の危機を救うために参上したなどという美談で片付けるのは早計だし、信じることはできない。

 

「将来的に安寧を得られるとしても、今ここに来ることと引き換えにはならないはずだ・・・何故来た?」

 

団子を片手に、佐藤兄弟と里見義頼を見る。

 

「それはまぁ・・・貿易のためでしょう、なぁ弟よ」

「貿易のためでしょうねぇ・・・弟よ」

 

兄弟が互いに頬をこれでもかと言わんばかりにひねっているのを他所に、義頼が肩をすくめる。

 

あくまで"貿易"の体裁は崩さないか・・・。

 

「こういう捻りのある会議が不慣れですまん。よければ仲間と表示枠で意見交換してもいいだろうか?」

「こちらとしては構わないが、生の声や映像が向こうに行かないようにしてくれ」

 

義頼が言って、佐藤兄弟、氏直が頷いてくれたので、早速表示枠で意見交換をしようと思う。

できれば康景の意見が欲しかったのだが、

 

「あっひゃっひゃひゃ!お、おま、それ、あっ、あぴゅでゃっは!」

「なんて言ってるか解らないんだが・・・猿飛さんや、解説してくれんかね?」

「いや、俺も解んねぇよ・・・ってかアンタ、その状態で普通にしてられるのスゲェな・・・」

「鍛え方が違うからな、酔っ払いなら任せとけ」

「「スゲェ・・・」」

 

康景が"要らず"達から尊敬の念を集めていた。

相変わらず義経は康景の膝の上である。

 

・・・羨ましいぃなぁああ!

 

甘やかされたい願望が強く出たが、正純はグッと堪えた。

とりあえず衝動に耐えながら、

 

副会長『そういう訳で、現在康景が義経を甘やかしまてくっそ羨ましいんだが、皆どう思う?』

約全員『・・・え?』

副会長『いかん、ミスった。現在偶然関東勢と出会ってしまったんだが、どう思う?』

あさま『・・・正純も最近変なところで本音出しますよね』

銀狼『くっ・・・甘やかし・・・妬ましいですの!』

金マル『ミトっつぁんw』

 

なんだか会議の内容より例の膝の上の話題が凄い事になっている。

そんなことよりも会議の話題に食いついてきてほしいんだが、どうしたものか。

 

正純は誰のせいでこうなったのかを棚に上げて内心ため息をつく。

 

副会長『いや、皆・・・会議の話題についてだな』

あさま『正純的にはどうなんですか?』

副会長『いずれ松平に吸収されたりする歴史の流れを持つ国だからな。M.H.R.R.が航行禁止を打ち出すことで関東行きが阻まれる問題が出てきたから、それに対する対策だとは思う』

礼賛者『そこまで解っているなら問題なのでは?』

未熟者『それが多分そうでもないんだなこれが』

約全員『うわぁ出たぁ・・・』

未熟者『なんで!?なんで僕が書き込むだけでそういう反応になるかな!?』

約全員『おう、あくしろよ』

未熟者『くっ・・・わかったよ!関東勢の本当の理由、僕の推測としては、・現状打開、・武蔵に引導を渡す、・武蔵の対応を探るの三択だと思うね』

約全員『おう、やればできんじゃねぇか』

未熟者『前々から思ってたけどなんで僕の扱いってこうなの?』

眼鏡『・・・なるほど、トゥーサンはMの気があると・・・メモしなきゃ』

約全員『ひぃ!?』

 

あれ?なんか混じってなかったか?

 

多分気のせいだろう。

英国勢は奥に引っ込んでいるので、今回の会議には非参加のはず。

今のシェイクスp・・・どこかの誰かさんの乱入は、おそらくネシンバラのストーカーだから心配はないだろう。

一応、あとで浅間にちゃんと環境設定してもらおうか。

 

とにかく、おおまかな感じだとネシンバラの三つ目の案、こちらの動向を探るというのが妥当だろう。

その上でこちらを救援するか、もしくは手を切るかを判断するつもりだ。

その方が行き違いもなく会議は進行できる。

 

その一方で、実況通神の方では、立花夫妻とメアリが新規で武蔵の実況通神に参加し、

 

俺『立花夫って"たち・はなお"って読めね?なんかネタ的に卑怯だと思ったの俺だけ?』

立花嫁『―――宗茂様。今武蔵総長が私のことを"たち・はなよめ"と読める解釈をされましたが』

立花夫『―――そうですね。誾さんだと赤椿がぴったりだと思います』

賢姉様『うっわ熱!熱気すっご!公の場でこの熱気やっば!浅間、冷却冷却』

 

などと関係ないことで盛り上がっていたので、

 

副会長『立花だけに立ち話で凄い威力なんだな』

 

と自分渾身のギャグを入れたのだが、

 

約全員『びゃあ"あ"ぁあ"ざむいぃいい!』

 

などとよく解らない反応がきた。解せん。

まぁ仲間たちの反応はともかく、正純は本題に入ることにした。

 

向こうがこちらの動向について探りを入れるのならば、こちらが言うべきことは、

 

「武蔵の今後の予定としては、とりあえず明日の明朝には南進するつもりだ」

 

こちらの言動に、各校の代表が反応する。

出だしはこれでいいだろう。

 

視線が集まる中、武蔵は行き先を告げる。

 

「南進―――行き先は三河、そして関東だ」

 

 




康景の酔っ払い状態の補足

康景は酔うと判断力低下に伴い発言、行動が著しく残念になると思ってくださって大丈夫です。
ただ、年上相手の酔っ払いに長年苦しめられてきたので、酔った康景の行動原理は、年上介護(甘やかし)>セクハラになります。
つまり、年上の酔っ払いが居ない状況で康景と喜美が二人きりで酒を飲んだ場合・・・後はどうなるか、わかりますよね?

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