境界線上の死神   作:オウル

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酔っ払い・・・反応に困るオヤジギャグ・・・うっ、頭が・・・(悲痛な叫び)


三話 壱

フラグを立てるのも

 

フラグが成立してたのも

 

わざとじゃない

 

わざとじゃない・・・よ?

 

配点(錯綜)

――――――――――――

 

正純が今解っている範囲で、今起きている事象を推察するのをミトツダイラは表示枠で見た。

 

副会長『M.H.R.R.が武蔵の航行に対して不許可を出した大義名分は明瞭だ』

銀狼『自国の歴史再現のいざこざに武蔵の影響を与えないためですわね?』

副会長『ああ、歴史再現って名目があれば聖連は基本承諾せざるを得ないからな』

貧従士『じゃあこのM.H.R.R.の艦群は武蔵をM.H.R.R.領内に入れないようにするための艦群なんですよね?だったら・・・』

銀狼『あれらの艦群はM.H.R.R.旧派所属、ならばM.H.R.R.のマティアス生徒会長と羽柴の手の者だというのは明白ですわね・・・ですがそれなら六護式仏蘭西側はいったい・・・?』

 

それが解らなかった。

いや、薄々だがなんとなく察しはついている。

しかしここは政治的な専門家である正純の意見を仰ぎたかった。

 

銀狼『彼らの包囲の理由はいったいどういうことなのでしょう正純』

副会長『ここからが厄介な話でな―――六護式仏蘭西の目的はおそらく・・・()()だ』

 

*********

 

正純は状況がややこしくなってきたことに嘆息しつつ、話をつづけた。

 

副会長『いいか?六護式仏蘭西は聖連所属の大国だ。かつて三征西班牙と英国が聖連への忠誠を示すために武蔵の航行中にちょっかい出してきたのを思い出せ。聖連所属の大国家である六護式仏蘭西はそれを踏襲しなければならない流れがある』

 

非常に厄介なことだ。

だからこそM.H.R.R.改派側のルートを通る算段だったのだが、先手を取られてしまった。

さらに面倒なことに、ここで三十年戦争で戦力を整えているであろう六護式仏蘭西とまともに戦えば、艦の補修が済んでいない武蔵が大ダメージを負うのは必須だ。

 

横のナイトも頷きながら、

 

「多分向こう・・・羽柴の計算だろうね。武蔵が六護式仏蘭西側を通過するように仕向けて面倒な両者を消耗させるって感じ?」

「おそらくな。回りくどいやり方だが、理にかなっている」

 

実況通神の方ではナルゼが吐息交じりの返答を返す。

 

●画『随分回りくどいやりかたよね。武蔵を理由に六護式仏蘭西が出てきたことで、それを理由にM.H.R.R.は前線を一気に西に押し出せるものね』

副会長『武蔵はダシに使われたわけだな・・・』

 

ここから先どうなるか、思うべきことは多くある。

だがまず最初に警戒すべきなのは、先程飛んできた武神のことだ。

康景達の戦闘はどうやら武神の介入で終わったようだが、彼からの連絡がない。

 

●画『そういえば康景は・・・?』

副会長『連絡がないんだ。さっきの戦闘を見るに無事だとは思うが』

 

一対四で何とかなる康景も大概ヤバい奴な気もするが、返信がないことを不安に思っていると、

 

弟子男『なぁ、なんかさっきから清武田の総長兼生徒会長に「お主絶対どっかであったことあるじゃろ!」とか言われて絡まれてるんだけどどうしたらいい・・・?』

約全員『!?』

 

**********

 

なんか変なのに絡まれてる現状を、康景は面倒だと思った。

長寿族である義経が自分のことを知っているのは彼女の年齢を考えれば可能性があるかもしれないが、如何せん未だに記憶が欠落ある。

「知らねぇよ貧乳」と言って突っぱねるのは簡単だが、この女に敵対する意思は今のところ感じられない。

いや、先程の忍者を思うと敵意がないとは一概に言えないが、ここで下手に怒らせて六護式仏蘭西、M.H.R.R.、清武田の三国と敵対するのは避けたい。

 

迷った末に康景は、

 

「記憶がないのでその辺のことは何とも言えん」

 

はっきりそう言った。

曖昧に答えて長引かせるよりもはっきり言ってこの話を終わらせて話を進めたかった。

もちろん、自分のことを知っているのであれば聞きたかったが、今はそれどころじゃない。

 

優先すべきことを優先しなければ。

 

だが、義経は、

 

「そうなのか?・・・でもどこかで会った気がするんじゃがのう・・・」

 

進める気がないようだ。

唸って必死に思い出そうとしてこちらの思うようにことが進まない。

 

なので相談したのだが、肝心の仲間の反応は、

 

●画『アンタって奴は・・・私はもうアンタが誰と知り合いでも驚かないわ』

あさま『康景君・・・またですか?英国に続いてこの調子ならこれから行く先々で知り合いがいてもおかしくないですね』

俺『なんか隠し子とかいそうじゃね?』

弟子男『おいやめろ馬鹿、シャレにならんぞ』

賢姉様『・・・』

弟子男『その無言やめてくれない?俺が何かやらかしたこと前提みたいになるからやめてくれないマジで』

約全員『・・・』

弟子男『そもそも俺の記憶がないのは子供の頃だぞ?』

金マル『でもやっすんの事だから、子供のころからナニが会っても不思議はないよね』

約全員『確かに・・・』

弟子男『お前ら・・・俺に対して信用なさすぎないかな?信用なさすぎないかな?』

 

大事なことなので二回言いました。

 

くそっ・・・俺の味方はいないのか!?

 

何故か自陣なのにアウェーだった。

 

解せぬ。

 

副会長『まぁお前がそういう奴なのは皆知ってるから、今更な感じもするが』

弟子男『・・・正純よ、お前もか』

副会長『それよりも康景、先程来た武神は?』

弟子男『どうやら里見の武神の様だ。他に北条も居る』

副会長『・・・連中の目論見に関してお前の意見を聞きたい』

弟子男『歴史再現的には北条、里見は松平の歴史に関わるからな。敵対する意思があって来たとは思わん。だが武田は解らんな・・・真田の忍者を使ってまで俺たちを襲撃する意図としては、俺たちのことを試したとみるのが妥当だろうが・・・』

未熟者『味方だと思う方が妥当じゃないかな?なんて言っても里見、北条、武田は対羽柴の歴史再現を持ち、聖連所属でもM.H.R.R.や六護式仏蘭西とは系列的に違うからね』

弟子男『だといいんだがな・・・とりあえず出方を探ってみる』

 

これ以上面倒くさい展開にならないことを祈りつつ、康景は関東の三人に向き直った。

 

***********

 

「まさかIZUMОに関東の英傑が勢ぞろいとは・・・戦争でもするのか?」

 

さりげなく新たに出てきた三人を視界にいれられる位置に移動しながら答えを求めた。

 

・・・犬型の武神、か。

 

北条の総長もそうだが、こちらも相当な技術はあるだろうと推測できる。

高高度からの降下でこちらの戦闘に介入したのに、起こった影響が大風程度。

 

技術はあるんだろうなぁ・・・。

 

武神に乗ったことも乗る気もないので解らないが。

 

すると武神が背を曲げ、小柄な少女が出てくる。

構えた腕の上に乗った、ショートカットの長寿族の少女だ。

 

「私は別に英傑ではない。ただの・・・生徒会長だ」

 

そう言いながら出てきた少女、里見義康は怪訝そうだった。

 

「"武蔵の死神"とまで言われた男にそう言われても嫌味にしか取れぬぞ」

「関東、江戸湾の制海権を争う里見の生徒会長を英傑と呼ぶのは不服だったか?関東の情勢はおおよそだが把握している。猛者揃いの関東勢、その一校のうちの生徒会長であれば英傑と言っても相違ない実力者だと思ったんだが・・・」

 

戦闘経験があるかどうかは別として、先程の着地の技術は見事だった。

それは心からそう思ったのでとりあえず妥当な評価だと思うが、

 

「・・・」

 

睨まれた。

 

なにか気に障ることでも言っただろうか。

 

「ふふっ・・・」

「何がおかしい北条氏直!」

「いえ、別に貴女に対して笑った訳ではありませんよ里見義康。こちらの方が思ったより天然だったので笑ってしまっただけです」

 

一方の北条はこの様子を見て笑っていた。

しかも軽く馬鹿にされた感がある。

 

解せぬ。

 

まぁよくわからないが、多分関東勢にしか解らない事情があるのだろう。

康景はそう思いこの件は深く追求しないことにした。

 

「まぁ・・・いいや・・・で?」

「「?」」

「アンタらが来た理由は?忍を使って俺たちの実力を測った理由を、そろそろ聞かせてくれないだろうか?」

 

康景は長寿族の(見た目は)ちっこい少女の義経を見て、他の二人もそれにつられて義経を見る。

義経は康景を見て、北条を見て、里見を見てから自分を指さし、

 

「わし?」

 

すっとぼけた声と表情でそんなことを抜かしたので、流石の康景も若干イラっときて額に青筋を立てた。

 

**********

 

義経は自分に対して言われたことに対して、内心疑問を得た。

 

・・・なんでじゃったっけ?

 

副会長の佐藤兄弟の兄の方だったか、いや、弟の方だったか(どっちでもいいが)、「こう言われたらこう返すんですぞ」と言われていた気がするが、どっちが言ったかも、どんな内容だったのかも忘れてしまった。

もっと優しく、かつ丁寧に簡潔に教えてくれねば覚えられんというに、女心の解らない連中だ。

義経は迷った末、嘘はよくない、正直が一番だと思い、

 

「まぁぶっちゃけ他人が戦ってるとこって楽しいっていうかぁ―――」

 

言うなり、氏直が伏せ目の笑顔で、天野康景が額に青筋を立てた無表情で武器に手を掛けた。

 

・・・やべぇこいつら、冗談が通じんぞ。

 

発言の裏とかも特にはないが、この二人は怒らせると面倒そうなので、

 

「"要らず"の一番、猿飛佐助・・・わしの代わりに答えてやれ」

 

呼ぶが、返答がない。

どういうことだと振り返ると、"要らず"達が消えていた。

 

「連中なら行ったよ」

「・・・」

 

義経は康景に向かって笑顔で、

 

「お主、わしの代わりに答えてみろ」

「俺が聞いてんだよ・・・!」

 

怒りっぽい奴じゃなぁ・・・。

 

ほんとこいつどこかで会ったことあると思うのだが、どこで会ったのだろうか。

絶対会っているはずだが、思い出せなかった。

 

まぁとりあえず、(答えはないのだが)それらしい答えを待った。

なにやら怒っているようなので答えないかもしれないと思ったが、

 

「・・・建前上、聖連に盾突くわけにはいかないからな。俺たちに攻撃して恭順の意思を見せて、俺たちが使えるような連中であれば交渉次第でどうにでも展開できる。里見、北条、武田は松平とは何かと聖譜記述上、縁があるからなぁ。真田の連中を使ったのは・・・そうだな、連中の立場も踏まえての事だろう。連中はいずれ松平と対立する羽柴たち西軍に着く。実力の見せ場としては武蔵はうってつけなわけだし」

「・・・おおそうじゃそうじゃ、大体そんな感じじゃ」

「こ、この女・・・!」

 

なんだか憤っているようだが気のせいだろう、うん。

 

康景が剣を構えようか迷っている中、氏直は構えを解き、

 

「よかったですね、義経公。この方結構人間的にいい人ですよ」

「お前らは逆に器が小さい、もっと大らかであれ」

 

義康が何か言いたげだったが無視した。

それはさておき、義経は胸を張って顎で東の空をしゃくって見せる。

 

「さて、じゃあ話し合いといこうか。いずれ世界を統べる松平が、今後関東勢とどう向き合っていくのか・・・この危険な時間帯で話し合おうではないか?」

 

***************

 

夕刻、五時二十分。

IZUMО周囲をM.H.R.R.、六護式仏蘭西がそれぞれの理由を掲げて布陣した。

 

M.H.R.R.は三十年戦争の敵である六護式仏蘭西の領土侵犯を防ぐという名目で。

六護式仏蘭西は聖連の敵である武蔵を撃沈するためという名目で。

 

更に悪いことに、六護式仏蘭西は、後に通達する撤退勧告の期限を過ぎた場合は武蔵に対して攻撃を開始するという宣言付きである。

 

この撤退期限については、正純やネシンバラ、康景らの話し合いで午後であると判断。

この予測を基に武蔵の補修は別の場所で行われることが決定され、急ピッチで燃料などの搬送が行われた。

その一方で、シルクロード貿易を理由とした関東諸国の"貿易団"はM.H.R.R.、六護式仏蘭西の目も気にせず貿易を開始。

 

IZUMОの町が外からの来客でちょっとした賑わいを見せている中、正純は護衛としての康景とナルゼを連れその場に乗り込む。

後の松平の歴史再現について関東諸国と話し合うための会談が、軽食屋にて開かれようとしていた。

 

**********

 

「――――で、ヤスはセージュンと一緒に会議ってやつかぁ・・・何気にセージュンってヤスと一緒にいる率高くね?」

「総長、その話題は英国で既に上がりましたので二番煎じですのよ」

 

多摩の外舷側、外交艦の発着を主とするその場所に展望型の食事処がある。

わずかにIZUMОの明かりが見える食事処の一角に、ミトツダイラ、トーリ、ナイト、ホライゾンがいる。

ミトツダイラは荷物搬入後、総長に誘われるがままについてきた。

 

事態が事態なのでなるべく総長兼生徒会長であるトーリと副王であるホライゾンといるべきだと判断。

ナイトも居るので、もし昼間の忍者の襲撃があっても布陣的には問題ないはずだ。

 

一方で正純には康景とナルゼが付いている。

護衛として問題はないし、康景なら政治的な考えも出来る。

だから心配することはないだろう。

 

だが、それよりも気になるのは、

 

「まさか清武田の総長兼生徒会長とまで因縁があるかもしれないなんて、思ってもみませんでしたわ」

「ホントにまさかだよねぇ・・・この調子ならこれから行く先々でも知り合い居ても不思議じゃないよねw」

「スキル"フラグ建築EX"なのも考え物ですわね」

「本人は否定するだろうけどねw」

 

清武田の総長兼生徒会長であるヌルハチ、武田信玄の二重襲名をした源九郎義経のことだ。

康景の話だと、どうやら向こうが『会ったことがあるかもしれない』と思っているらしく、そのうえ、それが"何処"であったか、"何時"出会ったかということを忘れているとのことで、どうも曖昧な感じらしい。

英国で妖精女王が康景を好いていたという話だけでも気になってしょうがなかったのに、ここで他にも知り合いがいるとか聞かされれば尚更だ。

 

武蔵副王ホライゾンの親族で武蔵総長兼生徒会長葵トーリの親友。

英国の総長兼生徒会長である妖精女王、エリザベスから信頼と好意を一身に受け、その双子の姉であるメアリからは兄のように慕われている。

更に文武両道を地で行く秀才で、他国からは『死神』とまで畏れられる圧倒的な技量を持ちながら政治的な思考も可能。

仲間や身内、武蔵の住民なら基本誰でも助ける、トーリとは別の、ある種のカリスマ的な資質を持ち合わせる英雄のような存在。

 

と、彼の良いところだけ述べれば聞こえはいいが、その実、

 

人の好意に気づかない鈍感でラッキースケベ率が常人より高い。

人がどれだけアプローチを仕掛けても軽く受け流すフラグブレイカー。

他人の嫁まで無意識に篭絡する天然ボケ。

色んな意味で結構鬼畜。

 

というバッドステータスの保持者でもある(しかもバッド数値が高すぎる)。

更に彼には武蔵以前の記憶がないため、彼がそれ以前に何処にいたか、誰と知り合いだったか、果ては彼の年齢などの個人情報すらも曖昧になっている。

経歴不詳の彼であるからこそ、彼のことを知っている人がいるのは驚きである。

まぁそこで彼が誰かと恋愛系フラグを立てていた場合のことについては「あぁ、またですか」と納得してしまう自分がいるのだが。

 

そんなことを考えていると、

 

「でもさぁ、ヤスが本当にフラグを構築済みなら、妖女(妖精女王)ん時みたいになんのかな?」

 

総長がそんなことを呟いた。

総長も総長で、それなりに考えてはいるようだ。

 

康景が英国で見て感じたことは康景しか解らない。

それでも彼が、自身が不安に思っていることを相談したり、考えていることを話してくれるようになったので英国での出来事は良い方面に作用したと言っていいかもしれない。

 

だが一方で、彼自身のことに関しては謎が深まるばかりだ。

 

妹を名乗る、彼の師と似た顔を持つ存在。

時折見る悪夢。

そして彼が覚えていないことを知っている、または彼が武蔵に来る以前のことを知っている人物がいるということ。

 

義経が何を知っているのかで解ることも増えてくるとは思うが、

 

「いえ、そうとは限りませんわ」

「なんで?」

「妖精女王の場合は、康景への・・・()()が明確で、かつ康景と密会を重ねていたからこそ、ああいう結果になったわけですが、今回、源九郎義経が康景に対してどう思っているかは現在不明ですし、仮に好意があったとしてもそれがプラスに作用するかマイナスに作用するかはわかりませんのよ?」

「流石ミトッつぁん、やっすんのことになるといつも以上に冴えるねぇ」

 

そこ、うるさいですのよ。

 

「そっかぁ・・・アイツが正月の御御籤で三年連続"凶"出してた時点で"こいつ運ねぇな"って思ってたけど、女絡みになると殊更運ねぇなぁ」

「やっすんってステータス的に"幸運D"くらいしかなさそうだもんねぇ」

「以前、康景様ご自身は自分の評価を"幸運E"だとしていましたが・・・」

「「自己評価低っ!」」

 

彼が嫁を作ったとかそういうことは別に考えて、確かに康景は女性が絡むと面倒ごとに巻き込まれていることが多い気がする。

康景自身に問題がある気もするが、"幸運E"は康景の武蔵での半生を思えば妥当な方だと思う。

 

康景の半生を"幸運E"の一言で片付けてしまっていいとは思わないけれども。

 

とにかく、源九郎義経が康景のことをどう思っているかも不明だし、英国の時みたいな展開にはならないだろうとミトツダイラは推測した。

 

「まぁやっすん検定一級のミトっつぁんが言うんだから、多分この後の会合も無事乗り切るんじゃないかな」

「なんですのその検定!?」

「そうですね、康景様に関してはプロであるミトツダイラ様の御意見なのですから、今回の関東勢との会合では康景様の女性問題に発展することはないでしょう・・・はい」

「そうやって『この後何か起こるかもしれない』っていうフラグ立てるのやめません!?」

 

これではまるでこの後本当に問題が起こるというフリではないか。

実を言うとミトツダイラ自身なにか(主に女性関係で)問題が起きそうな気がしないでもなかったので、やめろと言える立場でもないのだけれども。

 

すると、不意に入口の方が騒がしいことに気づいた。

そちらに目を向けると、なぜか神道加護付きの鉄板を抱えた浅間とアデーレ、その後ろに鈴や点蔵、メアリ、立花夫妻などの名だたるメンツが勢ぞろいしている。

浅間が辺りを見回してからこちらに気づき、

 

「あ、いましたいました!」

 

*********

 

ミトツダイラは鉄板を抱えて近づいてくる巨乳(浅間)を見た。

抱えている鉄板が浅間の胸を圧迫して凶悪なものが更に凶悪に見えるのは、多分気のせいだろう。

 

「智たちもここで食事を?」

「はい、IZUMОで夜景を見ながら食事なんて多分今日で最後でしょうし、この位置ならもし下で正純たちに何かあった場合でも安心してズドンでき・・・援護に行けますからね」

 

今、"援護"よりも"ズドン"という言葉が先に聞こえた気がするが、多分気のせいだろう

何はともあれ、皆もそれぞれ考えているようで、ミトツダイラは少し安心する。

 

「まぁ康景君がなにかに対してキレたりしない限りは問題は起きないと思いますし、起きたとしても康景君ならうまく立ち回ってくれると思いますけどね」

「・・・」

 

浅間の言葉に、康景への信頼が窺える。

その康景へのナチュラルな信頼感を少し羨ましく思った。

 

他の誰が言うよりも浅間の康景への信頼の言葉は、なぜか説得力があるように感じられる。

 

「・・・」

「どうしたんですか?ミト?」

 

前々から思っていたのだが、浅間は康景に対してどう思っているのだろうか。

神道術式に関しては浅間が専門なので康景の術式の事なども知っている。

 

総長や喜美同様、相当な信頼関係にあるのは明白ですけど・・・。

 

個人として康景をどう思っているのかは、三年梅組の中でもよくわからなかった。

ただの興味で聞いてみたくなったがミトツダイラは、

 

「・・・いえ、なんでもありません」

「・・・?」

 

結局聞くのを諦めた。

 

康景関連のことになると最近グダグダが止まらない。

自分が彼のことで悩んでもどうしようもないというのに、答えの出ない思考を巡らせる。

 

昼間もそうだったが、今は悩んでいる状況ではないのだ。

 

しっかりと武蔵の第五特務としての責務を全うしなければ・・・。

 

ミトツダイラは口にしそうになった問いを自身の奥底に追いやった。

気持ちを切り替え、肉を食べようとするとあることに気づく、

 

「「・・・」」

「な、なんですの?」

 

その場にいる全員がこちらを見ていた。

こちらが怪訝そうに尋ねると馬鹿どもは声を揃えて、

 

「「ゴチになります」」

「はぁ!?」

 

そんな狂ったことを言ってきた。

 

「え?ちょっ・・・はぁ?」

「あれ?今日はミトが奢ってくれるって聞いたんですけど・・・」

「だ、誰がいったいそんなことを・・・」

「トーリ君ですよ」

 

ミトツダイラが半目でトーリを睨んだ。

 

落ち着きましょうネイト・ミトツダイラ。

王殺しは反逆だ。うん、我慢我慢。でも担任や康景がやってるみたいに器用に0・5回分(半殺し)くらいなら大丈夫かもしれない。

これから王の弁明を聞いてから判断しよう。

そうしよう。

 

「あの・・・総長?この件に対して何かコメントはありますか?」

「ステイステイネイト!?なんか俺がやった体になってるけど、いったん落ち着こうかネイト!」

「・・・では自分は無実だと胸を張って言えるんですのね?」

「・・・」

 

最後の最後で目を逸らされた。

この男は有罪、王0・5殺しの二回分なら死なないだろう。

死ななければ王殺しは成立しない。よって自分は無罪。

 

だがまぁ、今は焼肉の方が大事だ。

焼肉に免じて即時処刑はやめておこう。

 

わいわいがやがやと賑わってきた店内を見渡し、ため息をついて思う。

 

こちらは自分の財布が大変なことになってしまいそうだが、今は正純たちの方も会議に入るのだ。

正純に康景、ナルゼがいるので乗り切れる会議だとは思うが、忙しくなるのだろうなとは容易に予想できた。

 

********

 

正純は状況に困惑していた。

 

その理由。

 

正純たちの会議、ジョンソン達英国勢がいた軽食屋における"偶然の会合"――――――。

 

あくまで偶然の、故意によるものではない会合を演出するために遅れてやってきた正純達だったが、正純たちが入った時にはすでに大半の連中が酒で出来上がっていた。

中でも義経の酒癖が悪く、持ち込んだ麦老酒を素焼きピッチャーで仰ぎながら空瓶で周囲の頭を叩いたりしていた。

 

「カカカっ!今日は無礼講じゃ無礼講!たまにはこうやって騒ぐのも悪くないのぅ!あ、わしのつまみ勝手に食うなよ、ぶっ飛ばすぞハゲ僧侶」

 

もはや老害の域だが、そんなことを言っては会議が拗れそうなので黙っておく。

この乱痴気騒ぎの最大の被害者は里見義康で、最初は酒に興味がなかったのか義経の煽りを無視していたが義康の隣に座った北条氏直が"飲める"側で、無言だったが明らかに「え?飲めないんですか?」みたいな顔で挑発したのがいけなかった。

 

「ぅうううぅぅう・・・」

 

完全に酔いつぶれて眠っている。

それを好機と言わんばかりに女衆が囲んで脱がす脱がさない談議に入り、結果として脱がすことになったのだが、シャツまで脱がし始めたところで、

 

「・・・あっ・・・うん、ごめん」

 

憐れむような、悲しむような反応になったので脱がし企画は没になった。

 

・・・というか、里見義康が酔いつぶれたら会議にならないのではないだろうか?

 

どうしたものかと思っていると今度は、

 

「お、そうじゃ!お主、今度はお主がわしの酒に付き合え」

「・・・俺?」

 

酔っ払いに絡まれないよう、目立たないようにしていた康景がついに絡まれた。

康景は心底嫌そうに深いため息をつき、しかし諦めた口調で、

 

「なんで俺なんだ・・・」

「おい康景・・・大丈夫か?」

「・・・酔っ払いの相手は慣れてるからな、多分大丈夫だろ・・・うん」

「そんな目を逸らして言われても説得力が・・・」

 

重い足取りで義経の方に向かった。

 

*********

 

問題が起こったのはその三十分後だった。

 

康景が義経の酒の相手をして、初めの十分はなんの問題もなかった。

むしろ酒の入った義経の相手が出来ていることに周囲は感嘆の声を上げるほどだったのだが、その五分後、康景に変化が生じた。

 

「俺ぁね、ラッキースケベ魔とかニブチンとか言われてるけど、別に好きでやってるわけじゃないんですよ・・・」

「そっかそっかぁ・・・まぁ飲め飲め!今宵は無礼講じゃカっカっカっw」

「そもそもラッキースケベって偶然じゃないっすか、狙ってやってたらただのスケベじゃないっすか・・・」

「いやぁそれにしてもお主、どっかで会ったはずなんじゃがぁのぅ」

 

互いの話が全く噛み合っていない。

そしてなんだか様子がおかしい。

 

変に思った正純はナルゼと顔を合わせて一つの結論に達した。

 

「「(康景(馬鹿)が・・・酔ってる?)」」

 

顔が若干赤らんでおり、さっきから愚痴しか言ってない。

なんだか雲行きが怪しくなってきたので酒巫女こと浅間に連絡してみた。

 

副会長『浅間、酒に対してはめっぽう強いお前に聞きたいんだが』

あさま『なんですか?』

副会長『康景は酒には強い方なのか?』

あさま『弱くはないと思いますよ・・・ですが"なら強いのか?"と聞かれるとなんとも言えないです。プライベートのことは相方に聞いた方が速いんじゃないでしょうか?喜美?』

賢姉様『何?また()()()()()がなんかした?』

 

喜美が康景を旦那と呼んだことに内心少しイラっとしつつ、本題に入る。

 

副会長『・・・康景は酒は強いのか?』

賢姉様『フフフ、いい質問ね。アンタはどう思う?』

副会長『わからないから聞いてるんだが・・・』

賢姉様『浅間みたいな蟒蛇と比べると雑魚よ雑魚、普段は酔わないように度数の低い酒で誤魔化してるけどね』

あさま『私を引き合いに出すのやめてもらえません?』

●画『老酒みたいな酒だとどうなるの?』

賢姉様『くぁwせdrftgyふじこlp』

●画『な、なにその反応!?薄い本が映えそうね!』

あさま『え?老酒程度なら水ですよね?』

約全員『・・・え?』

 

浅間の反応はともかく、康景は酔っ払うらしい。

康景の弱点が知れたのは何となく嬉しいが、今思うことは、

 

ロクなことにならなそうな気がする・・!

 

賢姉様『まぁ酔ったら酔ったであっち方面に本気になったりこっち方面で弱気になったりそっち方面で阿保になったりとランダム効果発動よ!』

副会長『今暴れられると困るんだよ!』

 

酔い始めた康景。

飲みつぶれた里見生徒会長。

飲んでは辺りに被害を及ぼす老害(義経)

そして出来上がったその他大勢。

 

正純はこの会議の行く先が不安になった。

 

 

 




酔っ払いの相手って本当に面倒ですよね・・・

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