境界線上の死神   作:オウル

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あけましておめでとうございます(今更感)

書き始めて一年とちょっと、ようやくルビ振りのやり方を覚えたのでこれから先は使っていきたいと思います(今更感)
投稿ペースがバラバラなのは勘弁してください(今更感)




二話 後編

武蔵、英国、M.H.R.R.、六護式仏蘭西・・・

 

各国の思惑が交錯し

 

事態は動き出す

 

配点(動向)

――――――――――――

 

M.H.R.R.上の航行禁止・・・?

 

言われた言葉に、正純は反応することが出来なかった。

何故だ、とそう言葉をつなげようとするも、ジョンソンは言葉を重ねる気はないようで、ウオルシンガムに次の品を用意させていた。

 

これ以上続けるなら等価がいる。

情報交換という等価が。

 

そういうことか。

 

正純は考えを短くまとめ、先程用意された湯呑みを一気に煽る。

だが

 

「ぶっは!」

 

吐き出した。

 

「なんだこれ!?甘いぞ!?」

「当たり前だ、英国に麦茶の文化は浸透してないからね・・・それは―――」

 

ジョンソンが告げる。

 

「カラメルだ」

 

なんて嫌がらせだ!

 

************

 

「ナイちゃん途中で気づいちゃったんだけど、これ言わなくて正解だったよね。面白かったし、多分今度やっすんに教えたらものまね芸のネタにされるよ」

「おい馬鹿やめろ!」

 

そんなのでネタにされたら一生の恥だ!

 

ネタにされるならもっと良いやつがあると思う。

例えば、

 

「私の一発ギャグとかの方が絶対面白いってマジで」

 

絶対面白いと思う、のだが、

 

「「・・・は?」」

 

ナイトとジョンソンがそろって同じ顔をした。

 

なんだなんだその反応は・・・!?

 

これではまるで自分のギャグがつまらないみたいではないか。

納得はいかないが、とりあえず情報取引のカードを何するか考えた。

 

「そちらの情報を受ける形で言う―――武蔵は今後、M.H.R.R.改派領邦を回るつもりだ」

「それは何故かね?」

 

なるほど、自分たちは情報を一度しか言わないが、こちらの話は掘り下げてくる。

良いやり方だ。

 

だが

 

「何か面白い話を聞かせてもらいたいものだ」

 

こちらが一方的に情報を公開するのはなるべく避けたい。

だから、こちらも一言情報を提供するが見返りの情報は欲しいことをアピールする。

 

「ふむ・・・」

 

ジョンソンが手を組み、表示枠を靴に仕込まれた活版鍵盤で操作している。

おそらく本国と情報交換における公開可能の確認などを行っているのだろう。

 

************

 

薬詩人「聞いたかMateども!武蔵副会長が面白い話をご所望だ!」

琴人魚「そんなことより天野さんのサインお願いします!」

薬詩人「そんなことより!?」

御鞠「なんだお前、ああいうのが好みなのか?」

琴人魚「え、あ、違います!と、友達に頼まれてですね!?」

眼鏡「彼、無駄に英国では人気だよね。"女王の盾符"内でも基本好感度高めだし」

御鞠「直接絡んだ奴は少ないだろうけど、武蔵がメアリ救うのに色々噛んでたしな」

眼鏡「英国と揉めた後にアルマダでも戦ったしね。彼の行動は結果として英国救ったわけだし、女王も振られてしまったけれど実の姉を処刑する選択をせずに済んだわけだから」

水泳男「あ、あの、メアリ様を告白して救ったのは別にいたのではないかと・・・」

役全員「だれだっけ・・・?」

薬詩人「Oh・・・あの忍者も実に不便だね」

 

まぁ実際、女王が自ら「康景はいいが、あの忍者だけは赦さん」と公言しているのもあるだろう。

ぶっちゃけて言うと、自分も忍者の名前を憶えていないのだが。

 

とにかく、自陣の実況通神は当てにならなかったのでジョンソンは実況通神を消した。

 

***********

 

正純はジョンソンが眉間を押さえて小さく唸ったのを見た。

余程重要な話をしていたのだろうか。

 

「コンセンサスを確認しようじゃないか・・・武蔵がIZUMOに来てから、世界はどう動いているように見える?」

「M.H.R.R.の話からでいいか?」

 

これから行われるのは、コンセンサスを確認するという目的でM.H.R.R.の情報と武蔵の情報を交換しようということなのだろう。

正純はそう理解した。

 

これから話すことは周知の事実の羅列、そしてその確認。

もし自国で知らない情報が出てくればここで確保するつもりだろう。

これはそういう腹の探り合いだ。

 

ここ最近ではM.H.R.R.と六護式仏蘭西の話が主だったため、事実確認だけなら問題ないだろう。

 

「ローマ帝国が滅亡した後にカール大帝が国をまとめるが、これもやがて三つに分裂する。それが今のM.H.R.R.、六護式仏蘭西、K.P.A.Italiaだ」

「Tes.」

 

ジョンソンが頷く。

出だしに間違いはないようだ。

 

「三国で優位だったのはK.P.A.Italiaだ。なんせ皇帝位を得るには、王権神授のための教皇の認知を必要としたからだ。だが―――」

「時代が進んで国力を得ていくと、神聖ローマ皇帝は教皇の権限が邪魔になってくるんだよね。それでも領邦を抑え込むのに皇帝の地位が必要だったから、逆に利用されちゃうんだよね」

 

正純の言葉に、ナイトが言葉をつなげてくれた。

ナイトはそのままつなげる。

 

「そのせいかM.H.R.R.は領邦の方が力をつけちゃうんだよね。こうした国内いざこざで結局神聖ローマ皇帝の選出は選挙で選ばれることになったんだけど、戦争するだけ、領邦に援助するだけの皇帝は疲弊して、結局ハプスブルク家が世襲することになっちゃったのが現状」

 

M.H.R.R.は名ばかりで、皇帝位すら駆け引きで使われる国だ。

そんな国に追い打ちをできごとが、

 

「宗教改革、旧派と改派に分かれて争い、国は疲弊の一途だ・・・羽柴はこの状況にうまく食い込んできたものだ」

 

M.H.R.R.旧派と羽柴が組み、K.P.A.Italiaに進行を開始、国内旧派に関してはまとまりつつある。

問題なのが、

 

「現状、M.H.R.R.は羽柴と現皇帝の弟である生徒会長マティアスによって支配されている」

 

********

 

薬詩人「おお・・・!ここまで順調に会議が進んでいるぞ!これぞ書記の仕事!さぁ賞賛を頂こうかMates!」

女王「さっきからうるさいぞ諸兄ら、もっと静かにしろ」

約全員「・・・」

女王「よし・・・で?ジョンソン、康景への婚約祝いの文章は出来上がったか?ん?」

薬詩人「えっーとぉ、そのぅ」

 

********

 

正純はジョンソンが苦い顔をしてうなだれたのを見た。

ここから先はコンセンサス以上の会話になる。そういうことだろうか。

 

「羽柴がM.H.R.R.に取り入ったのは事実だ・・・だが、M.H.R.R.と羽柴の協同が成立したことには裏があると、私は踏んでいる」

「それは何かねLady?」

「jud.・・・極東側の事情だ」

 

P.A.Oda、羽柴、六護式仏蘭西、M.H.R.R.の位置を確認すると、浮かび上がる事実がある。

それは、

 

「羽柴が毛利を攻める際に、織田からの位置だとどうしてもM.H.R.R.を通ることになる。目的は西国平定だ。これは羽柴とM.H.R.R.両者にとって避けられないことであるため、羽柴が尼子残党を支援し始めたころを契機にM.H.R.R.マティアス生徒会長は一計を案じた」

 

それは、

 

「羽柴に対してムラサイ教譜から旧派に改めるのであれば、同盟を結び、M.H.R.R.の構成に加える、と」

 

羽柴を味方として皇帝側に加えることで、弱体化しつつあったM.H.R.R.に、P.A.Odaという大きな後ろ盾が出来た。

欧州側にオスマン勢力が乗り込み、場合によっては羽柴がM.H.R.R.を支配するような事態にもなりかねない。

 

だが、

 

「現状、M.H.R.R.マティアス生徒会長は賭けに勝っていると言える。"協同"が続いているわけだからな・・・羽柴も羽柴で、ハプスブルク家の襲名や姫路城の無血開城したしな」

 

武蔵のM.H.R.R.航行禁止の理由も今なら理解できる。

これ以上、M.H.R.R.に余計な火種を持ち込みたくないということだろう。

 

英国とは友好関係を築けた。

英国は改派であるため、その協力を得たのであれば当然M.H.R.R.改派を中心に回る予定だった。

だが、自分たちがM.H.R.R.改派と結べば、K.P.A.Italiaを攻める羽柴の背後が危うくなる。

だからこその航行禁止だ。

 

正純は情報を口には出さず、しかし正確にするために、

 

副会長「ネシンバラ、M.H.R.R.の昨今の情勢に絞った情報を送れるか?」

 

仲間に言葉を送る、が返信がない。

 

・・・?

 

十数秒待っても返信がない。

 

これはおかしい事態だ。

話好きかつ話の長いあの中二病が絡んでこない。

 

何かが起きているという事実をナイトに確認する前に、ナイトが箒を握りしめる。

しかし、今となりにいるナイトは武蔵でも有数の実力者であり、世界でも稀有レベルの魔女だ。

ならばここで自分が取り乱すような真似はしてはいけない。

 

正純は浮きかけた腰を元に戻した。

 

「ジョンソン」

 

正純はジョンソンを見た。

こちらに相対している存在は、微かに口の端を上げているように思えた。

 

「どうしたのかねLady?」

 

その反応に若干苛立ちを覚えつつ、問いかける。

 

「M.H.R.R.が全面航行禁止なのは理解した。だが・・・英国はこの情報をどこで知り得た?」

「ようやくだなMate、ようやく本当の意味でのコンセンサスを確認することができるな」

 

なに?

 

「どういう意味だ?」

「なに、すぐにわかるさ」

 

その言葉と共に、通りで音がした。

戦闘音だ。

 

「!?」

 

そこにはいつもの白いコートを翻し、態勢を立て直している康景だった。

 

************

 

軽食屋からナイトと共に飛び出した正純は康景を見た。

ここは中立地帯、戦闘行為は禁止であるためIZUMOの人々も彼を見ている。

 

しかし、康景はそれらの目を一切気にせず、一点を見据えていた。

 

「・・・敵か?」

 

康景の視線の先、三階建ての料理屋の屋上に、一組の男女がいる。

髪と肌が白い女と、逆に浅黒い肌の男。

 

二人は高所から康景を見下ろしていた。

 

「ゼロ距離からの不意打ちを普通躱すかねぇ・・・!?」

 

男の方が引き笑いの顔で言う。

女の方も、

 

「流石は武蔵の死神と言ったところかねぇ・・・」

 

康景の実力を垣間見て引いているようだ。

正純もたまに康景の人外染みた身体能力を発揮するときは引くこともあるので気持ちは解らなくもなかった。

 

「御託は言い、お前ら何者だ?」

 

拳をポキポキと鳴らして、

 

「せっかくの家族の団欒を邪魔した罪は重いぞこの馬鹿が・・・!」

 

どうやら喜美やホライゾンとの団欒を邪魔されたことに御立腹だった。

 

「・・・俺ぁ"要らずの一番"、こいつは二番」

 

男がそう短く言う。

答えになっていない気もするが、直後、正純はあり得ないものを見た。

遠くに居たはずの男が、自分の眼前に迫っていたのだ。

 

「・・・!?」

 

とっさのことで反応するのが遅れる。

腰元から放たれる分厚い一刀に身動きが出来ず、思わず目を閉じてしまった。

 

来る・・・!?

 

だが、刃が来ることはなかった。

何故なら、

 

「大丈夫か正純?」

 

敵と自分との間に、康景が居たからだ。

その後ろ姿は何とも頼りになるが、康景愛用の剣は背負ったままだった。

ならば今康景は何で攻撃を防いでいるのか、その答えは、

 

「飲食店の箸って意外に頑丈だな・・・びっくりしたよ」

 

箸で敵の刃を挟んで止めていた。

 

*********

 

ナイトは一応防御術を展開する準備はしていたが、康景が自分よりも早く動いたために、正純の背後を護るようにしている。

 

うわぁ・・・箸ってやっすんェ・・・。

 

ナイトは軽く引いた。

だがそれでも康景の実力はこういう時頼りになる。

 

康景が反射的に剣を抜いて振り下ろす。

康景が振り下ろした剣圧によって風が生じ、敵が一瞬で後方の屋根に移動してこれを躱す。

 

どっちも素早くて身軽だなぁと思う反面、康景は、

 

「マルゴット、正純を頼む。俺は団欒を邪魔された報復をしなければ・・・」

「あーそーだね・・・ほどほどにねー」

 

激おこだった。

康景にとって家族や仲間と過ごす時間を邪魔されるのは我慢できないことだ。

それがオフモードの時ならなおさらだろう。

 

「ってか喜美ちゃんとホライゾンは?」

「さっき二代と合流してな、食堂で四人で食ってたところを襲われてこうなった。二代が二人を見てるからそっちは大丈夫だろう」

 

家族大好き康景の逆鱗に触れたのは向こうの不運とでもいうべきだろうか。

その辺は少し同情する。

そしてその康景が大事にしている二人を、武蔵の副長が護っているのだから心配事が一つ減る。

 

怒らせた彼を止める要因がないのだ。

 

喜美とホライゾンを二代が護衛している。

なら今は正純を護衛するのは自分しかいない。

 

「おっけー。任された」

 

ナイトは頷き、正純を護る態勢に入った。

 

「とりあえず、ぶん殴るのは確定な。斬るかどうかは気分次第だな」

 

発言が危険な人のそれだが意外と康景はこんな感じなのでナイトは気にしなかった。

 

箸を捨てた康景が敵を睨み、屋上に居る二人が身構える。

その瞬間、今度は康景が自分たちの目の前から消えた。

 

・・・は?

 

気が付けば敵二人の目の前にまで迫っていた。

二代や点蔵がいるため、康景の凄さとして技術に目が行きがちだが、速さにおいてもその凄さは一級品なのだ。

 

康景が向こうで戦う反面で、その瞬間もう一つ影が動き、頭上を横切る。

姿勢制御で身を翻したその正体は、

 

「バラやん・・・!」

 

ネシンバラだ。

 

**********

 

ネシンバラは戦闘中だった。

本を買って読み歩きしてたら急に殴り掛かられたのである。

 

世の中物騒だ・・・!

 

と内心叫んだが、武蔵でも登校中に全裸が降ってきたりする珍事が多発しているので、そう考えればこれもそれの一種と考えればそう物騒でもないかもしれない。

慣れって怖い。

 

自分を襲ってきたのは二人。

厚化粧の女と鬼型長寿族の中年で、今こちらに向かってきているのは前者の方。

今視界に入っている情報で判断できることは康景が通りで別の二人と戦い、正純をナイトが護衛している。

ならばこの二人は自分がなんとかしなければ。

 

こちらに来ている踊り子姿の厚化粧は、

 

「"要らずの七番"・・・行くよ!」

 

そう名乗り、鉄扇を広げ襲い掛かる。

一枚一枚が刃で、それが花開くようにして迫りくるのに対し、

 

《風が不意に乱れ、その身は足元をすくわれるようにして下に落ちる》

 

自分の軌道を一段下に下げることで事なきを得る。

だが、その安心も束の間。

向かいの屋根の方からこちらに向かってくる巨躯がいた。

 

「最初に殴り掛かってきた方か!?」

 

極東制服を僧侶型に着込んだ四メートルほどの巨体が、跳躍と同時に右腕をこちらに突き出してきた。

 

「"要らずの三番"に御座います・・・いざ!」

 

いくら巨躯とはいえ、その腕が届くには距離がある。

だが、

 

「説教砲!」

 

腕を捻り、巨大な腕に掘られた入れ墨が配列を変え、護摩壇型の紋章陣を展開し、

 

「喝!」

 

掌に形成された"喝"の流体字弾が、こちらに向かって放たれた。

 

**********

 

"七番"の女が、眼前で起こった一連の流れを見ていた。

武蔵の書記を倒すのに、まず自分が攻めて、浮足立ったところを"三番"が撃つ。

 

そういう手筈だった。

だから"三番"が放った護摩壇型砲弾が屋根を消し飛ばしたのを見て、

 

「やった!?」

 

そう言った。

威力を考えれば、木っ端微塵か、最低でも動けなくなるくらいのダメージは負わせているはず。

そのはずだった。

 

だが、そこに自分たちの標的はいなかった。

 

どこだ、と辺りを探ると、

 

「ちょ、ちょっと天野君!?これ僕に刺さったりしたらどうするつもりだったんだい!?」

 

隣の家屋の壁に、器用に剣が上着だけを貫き、ハンガーに掛かった服のようにプラプラ揺られた標的が居た。

 

**********

 

「大丈夫だ、俺がお前を殺すわけないだろう?」

「顔が怖いから説得力ないよ天野君・・・」

 

"七番"は不意にこちらの戦闘に介入してきた男を見た。

当たり前のように介入してきているが、それはおかしい出来事だ。

"一番"、"二番"コンビの両方と相対しながら、こちらに武器を放ってきたのだ。

武器だけをこちらに放ったということは、今彼に武器はない。

 

"七番"が見たのは、ありえない光景だった。

 

それは、

 

・・・あの二人を素手で相手しているのかい!?

 

徒手格闘で"一番"、"二番"の攻撃を防いでいるのだ。

二人が背後を取るのに合わせて動き、"二番"は敢えて放置し、"一番"に専念している。

"二番"のナイフ攻撃を避けつつ"一番"の攻撃を捌く。

 

剣がなければ素手で戦う。

 

自分も"三番"もその対応力の異様さに唖然としていた。

そして、

 

「・・・っ!?」

 

"一番"が死神の蹴りによって吹っ飛ばされた。

 

***********

 

康景は"一番"を名乗った猿みたいな顔した男を蹴り飛ばした。

蹴りに手応え、いや足応えがなかったのでクリティカルヒットではなかったようだ。

"一番"とは一旦距離を取り、"二番"からの執拗なナイフ攻撃を避けつつ、剣が服に刺さってブラブラ揺れているネシンバラの方に向かう。

 

「待ちなっ!」

 

こちらが走るのと同時に、厚化粧の女が鉄扇を振りかざして迫ってきた。

康景はそれを身を捩ることで躱し、ネシンバラの方に向かう。

 

連中の動きはサムライというよりは忍のそれに近い。

武蔵にも忍者が居るので特に驚きはない。

 

どちらかというと英国で戦った"女王の盾符"のウォルター・ローリーの方が忍者らしかった気がする。

喋らないし、陰に徹する辺り本職忍者の点蔵より忍者らしい。

 

点蔵ってそもそも忍者だっけ?

 

忍ではないので忍の定義は解らないが、忍ばない忍とは忍といえるのだろうか。

いや未だに二代から名前を憶えられていない辺り忍んでるのだろう。

 

忍ぶことを目的とするなら、今相対しているこいつら四人は忍といえるのだろうか。

目立ちすぎている気がする。

武蔵の要人暗殺なら最初の失敗の時点で諦めるべきだ。

そもそも自分が武蔵の要人ではないので要人の暗殺という線はない。

 

ならば今回の目的は何だろう。

想定しうる可能性を考える。

 

俺たちのことを試しているのか・・・?

 

その理由はなんだ・・・?

 

歴史再現で活躍するような忍者を想定し忍者共の正体をある程度まで絞り込む。

康景はネシンバラの服に刺さった剣を引き抜きながら、

 

「理由は知らんが、俺たちの実力を測るなんて舐めた真似したことを後悔させてやる」

 

剣を敵の方に向けながら告げる。

すると背後でネシンバラが、

 

「敵の正体がわかったのかい?」

「ある程度はな・・・ネシンバラ、正純と合流して周囲の状況の確認を。悪い予感がする」

「わかった・・・でも君は?」

「気になったこともあるしな。団欒を邪魔された恨みは深い・・・」

「あーそだねー・・・ほどほどにねー」

「?」

 

どうしてネシンバラもナイトも同じ反応をするのだろう。

 

まぁいいか。

 

康景は敵の方に跳んだ。

 

***********

 

"一番"はこちらに単騎で挑んでくる男を、先程蹴られて鼻から出た血を拭きながら見た。

 

不意打ちを狙い奴らが甘味処でくつろいでいる時を狙ったが、この男は箸でそれを凌いだ。

自分と"二番"を同時に相手しながら武蔵書記を戦線離脱させ、素手で戦闘する。

確信はないがおそらく"二番"の正体に気づいているからこそ彼女には敢えて攻撃しない。

 

スピードや技量、判断力において実力は副長クラスの一級品。

 

そんな男の行動を、ありえないとはもう思わない。

 

今思うのはただ、

 

・・・面白い!

 

強い相手を前にした歓喜なのだろうか。

こういうのはよく"二番"に「男って馬鹿だねぇ」と言われるがしょうがない、男だもの。

 

向こうが四対一で戦うことを望むなら、こちらは連帯攻撃で畳み込む。

"一番"は心を熱くし、頭を冷静に向かってくる相手を迎えた。

 

***********

 

四対一の戦いは、一の方が押していた。

四人の"要らず"が連携して白の男を攻める。

その連携は確実に相手を仕留めるための連携だ。

だが、"死神"と呼ばれた白の男も相手の行動を読み、状況全てを利用して攻撃を防いでいる。

 

建物の壁や屋根、更には"二番"を名乗る女のナイフをも利用して四対一の数的不利をものともしていない。

 

もはや離れ業ともいえるような剣技に、観衆も武蔵勢も忍者勢も皆が釘付けにされる。

 

"一番"、"七番"の攻撃を剣と"二番"が投げたナイフで対処。

"二番"の大量のナイフ投擲と"三番"の護摩壇型腕砲弾は音や行動パターンを読んで回避。

 

"要らず"達の攻撃、周りの状況を把握しながら的確に最善手を攻める。

 

莫大とまではいかないが、それなりに多い情報量から適切な判断を下すのは康景の十八番だ。

それ以上の情報量処理となるとさすがに自動人形には劣るが、戦闘における判断では康景の方が上である。

だがその判断力の高さ故に康景は今戦っている忍者達の行動を疑問視した。

 

"七番"の鉄扇を避け、蹴り飛ばして"一番"に肉薄する。

 

康景の剣を"一番"は短剣で受け止める。

が、短剣で康景の攻撃を受けきるのは無理があった。

鍔迫り合いにおいて康景が"一番"を押す。

 

「お前ら、真田の忍者か?」

「・・・」

 

"一番"は何も答えなかった。

だが康景はその沈黙を肯定と捉える。

 

「ならば今回の襲撃は武田が指示したのか?」

「おいそれと教えると思うか・・・!?」

「・・・ふむ、言われてみればそうだな。ならばお前たちが自発的に話してくれるのを祈ろう」

 

康景が剣に力を込め、"一番"が更に押される。

しかし、

 

「くっ・・・!」

 

その時不意に、"一番"が自分から見て左側を見た。

つまり、自分にとって死角となる右側だ。

 

「喝ッ!」

 

死角側から近距離での砲撃。

 

敵の連携を甘く見ていたようだな・・・。

 

バックステップで"三番"の攻撃を避けつつ、"一番"から距離を取る。

"三番"の砲撃が空振りし、屋根を抉る。

そしてつかさず"七番"が鉄扇で康景の背後から攻めた。

 

だが、

 

「!?」

「・・・」

 

その攻撃を、康景は後ろを見ずに防ぐ。

忍者の連携攻撃で背後からの急襲は一番想定し得ることだ。

一撃を防ぎ驚いている間が好機。

 

康景は一撃を弾かれて仰け反る"七番"を今度は思い切り蹴り飛ばし、追い打ちを掛ける。

 

このままの勢いで行けば確実に一人仕留めることができる。

だから康景は行った。

 

剣を振りかざしながら"七番"に接近する。

 

一人目をまず沈黙させる。

 

だが、

 

『―――待て!』

 

不意に自分と"七番"との間に割って入ってくる影があった。

 

武神だ。

 

青の、犬型の頭部装甲を持つ女性型武神。

右で持つ一刀がこちらに静止を求めるように向いている。

犬型の武神に心当たりはあるが康景は敢えて止まらず、武神に斬りかかる。

だが、

 

「・・・」

 

康景の剣が武神の刀に当たる直前に動きを止めた。

 

自分を挟むように、背後に立った者がいたからだ。

 

「その判断は賢明ですね」

 

四本刀を持つ牛角黒髪の鬼女。

既に抜刀しており、こちらと自分から見て背後、鬼女の更に向こうは三人の"要らず"が居る。

この戦闘を諫めるために仲介してきたのは明らかだ。

どうやら事態は相当に緊迫しているらしい。

 

康景は右で剣を構えつつ、左手は懐の短刀をすぐに投げられるようにして、

 

「賢明も何も、事態が思ったより非常事態なのは察したからな」

 

そう言うと、タイミングよくネシンバラから連絡が来た。

表示枠に映るネシンバラの表情で、事態が自分が思っていたものより相当だというのが解る。

 

『君が思った通り、事態は相当緊迫した状況になってるみたいだね』

「どういうことだ?」

『周りの空を見てくれ、六護式仏蘭西とM.H.R.R.の艦群に囲まれてる・・・!』

 

********

 

正純はナイトとネシンバラと共に軽食屋の屋根の上から周囲の空を見ていた。

康景と四人の襲撃者の立ち合いを見ていた観衆たちも空を見て怯えた様子だ。

 

「なんなんだこれは・・・」

 

正純も観衆たちと似たような反応しかできなかった。

何故なら、

 

銀狼『どうして敵対しているはずの六護式仏蘭西とM.H.R.R.が協同して包囲を・・・!?』

 

百を優に超える艦群が、しかも現在歴史再現で敵対している国同士がIZUMОを包囲しているからだ。

ミトツダイラの反応からして、武蔵側では現状を把握できていないらしい。

 

それはそうだろう。

自分とてM.H.R.R.の情報はさっき聞いたばかりなのだから。

正純は艦群を見て気圧されたが、すぐに冷静になり言葉を作った。

 

副会長『皆よく聞いてくれ、これから現状がどうなっているのかを話す』

 

それは、

 

副会長『M.H.R.R.と六護式仏蘭西がIZUMОを包囲するのは―――M.H.R.R.が武蔵の航行を全域に渡って禁止したからだ』

 

正純はジョンソンから聞いた情報、そして自分の考えを語り始めた。

 

*******

 

康景は現状を警戒した。

特務級と総長、武神を相手にするのは何かと骨が折れそうだ。

正純が今状況を説明しているだろうが、こちらとしては今新たに出てきた二人を警戒を置きたい。

 

「里見と北条が何の用だ」

「おや、まだ名乗ってもいませんが・・・?」

「アンタは有名人だからな。北条印度諸国連合の総長兼生徒会長、北条氏直」

 

未だ正体の解らない織田信長などを除けば本来総長兼生徒会長は有名人。

うちの総長兼生徒会長もある意味では有名人だろうけれども。

 

康景は背後ででかい刀を構える鬼女に皮肉めいた口調で告げた。

 

「それに犬顔の武神は里見の特徴だからな。武神に関しては詳しくないから何も言えないが音声素子の声が女性のものだった。里見は総長があの()()()()だからな。北条のトップが出張って来て、里見もそれなりの役職者が来ていると考えると、この武神に乗っているのは生徒会長である里見義康あたりか?」

 

康景は気を抜かずに、淡々と事実からわかるであろうことを述べた。

 

「アンタらと真田の忍者がどう繋がってるかは知らんが、俺は六対一でも構わないぞ?」

 

食事処で頼んだ料理がパーになった件で少し不機嫌だったので挑発してみる。

実際何とかなるとは思うが、本気でやるなら少し面倒くさいことになりそうだ。

 

こちらの挑発に、武神の方がピクリと肩を動かした。

対照的に北条の総長は動かなかった。

 

・・・なるほど。

 

康景は武神の方は戦い慣れしていないと見た。

傷一つないその機体がその証拠である。

 

おそらく生徒会長としてこうして前線に出てくるだけの実力はあるのだろう。

それでもおそらく実践経験は少ない。

そんな感じだろうか。

 

すると氏直が小さく笑って、

 

「貴方と本気でやり合えば双方無事では済まされないでしょう。今ここで貴方とぶつかって消耗するのは下策ですし、こちらにはやりあう意図はありませんよ」

「ならこの忍者共はなんだ?止める気があったのならもっと早く止めて欲しかったんだがね」

「襲われても貴方なら余裕でしょうに・・・そこの忍者達のことでしたら大元締めに聞くのが一番いいのでは?」

「大元締め?」

 

氏直が指さす方、三人の忍者が居る方を見る。

そこには清武田の制服を着ているちんちくりんの少女が居た。

 

忍者の元締めの元締め、今現在の真田の元締めは武田だ。

 

つまり・・・あれが武田の総長兼生徒会長か。

 

ちんちくりん少女はどうやら武田の総長兼生徒会長である源九郎義経の様だ。

情報は知ってはいたが、改めてみるとちんちくりん少女だ。

彼女は忍び達に、

 

「喧嘩はその程度にしておけ、少しおとなしくしておれよ?」

 

と、命令している。

忍達も膝を付いて平伏している辺り、どうやら本物らしい。

 

「源九郎義経総長とお見受けする。武蔵の生徒に対する攻撃に関して、その理由をお聞きしたい」

 

剣先を相手に向けて理由を問いただす。

相手は目上だが、向こうが先に攻撃してきたのだから礼を尽くす義理もない。

今回はエリザベスの時とは状況が違うのだ。

 

だが、

 

「ん?なんじゃあお主、怒りっぽい奴じゃのう・・・」

 

気が付いたら切先の前に義経が居た。

 

・・・おお、速いな御広敷が食いつきそうな体型の総長。

 

流石は清の太祖ヌルハチと武田信玄を二重襲名した英雄といったところか。

康景は一戦交える覚悟だったが、不意に、

 

「ん?・・・んんん??」

 

こちらの顔を覗き込むように義経が凝視してくる。

 

「俺の顔なんて凝視しても面白いもんじゃないと思うが・・・?」

 

義経は顎に手を当てながら、

 

「・・・お主、どこぞで会ったか?」

「・・・はい?」

 

そんなことを尋ねてきた。

康景は状況が状況だけに急いで皆と合流したいのだが、悪い予感を拭えなかった。

 

もしかしたら自分が覚えていない記憶の中に、この女と会ったことがあるかもしれないからだ。

 

そうだとしたら、英国に続いて二例目になる。

『会ったことはない』と否定したい気持ちもあったが、一概に否定も出来ない現状に頭を抱えた。

 

 

 




三年梅組インタビュー

Q.天野康景さんについてどう思われますか?(第二弾)

正純「ゆ、友人だ・・・おい、なんだそのニヤニヤは・・・!友人!ホントに友人だって!」
直政「さぁ、良い奴なんだろうさね。馬鹿だけど」
二代「有体に言えば、セックスしたいで御座るな」(←意味を間違えて覚えていると思われる)
メアリ「頼りになる兄のような方だと思っています」
マルゴット「鈍感なのもほどほどにしないと後ろから刺されると思うよ?誰にとは言わないけど」
誾「死ね」
ホライゾン「全編を通してホライゾンとの絡みが少ないような(ry」


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